史上最大と言われた台風10号も無事過ぎ去り、涼しさから一転夏晴れとなった福岡。この数カ月はコロナ禍に加え、九州は災害も多く何とも修行僧思考になりがちだ。9月に入り漸く感染者数も減り始め、世間ではやっと新しいライフスタイルもマナーも馴染んで来た?と思われるところで、我が家も馴染のレストランへ食事に出向くことにする。
そこは「博多リバレインモール by TAKASHIMAYA」内にある「レストランひらまつ 博多・中洲川端(Restaurant Hiramatsu Hakata)」。到着した入口にまず目に入るのは「ひらまつグループ」が掲げるピクトグラム、飲食業やサービス業における独自の安全基準「Hiramatsuスタンダード」だ。

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「館内消毒」「テーブル・椅子の消毒」「健康管理」「マスクの着用」「手洗い・うがいの徹底」「関係者の手指消毒」などなど・・加えて別紙にはこう記してあった。
『今、私たちは新しい時代を迎えようとしています。
人々の価値は変わり、行動変容が求められる中でも、決して変わらないものがあると信じています。それは、“大切な人と豊かな時を過ごす幸せ”です。
その幸せを守り続けるため、新しい安全基準「Hiramatsuスタンダード」を制定しました。
「衛生管理」「ソーシャルディスタンス」「換気」の3つの視点から、お客様をお迎えする環境や、従業員の行動などを細かく定めた大切な指針です。
創業から積み上げてきた「安心・安全」を時代の変化に応じてさらに高め、これからも進化させてまいります。
全ては、お客様の笑顔のために。どうぞ安心して大切なひと時をお過ごしください。それが、私たちの願いであり、喜びです。』

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受付に置いてあるアルコールスプレーで「手指消毒」を済ませ「来店時の体温測定」をする。もちろん「マスク着用」「体調確認」も客側のマナーとして当然だ。
全員マスク着用のスタッフ達の姿にホッとしつつ、いつもの個室に案内してもらう。「来店人数の調整」と言う事で、予約人数の制限や入店時間の分散化を実施しているとあって他の客とすれ違う事もない。「館内換気」と言うことから、各個室の扉も開けられている。
部屋に入ると何となく違和感があった・・そうだ向かい合う席さえずらして配置してある。「配席・ディスタンス」「テーブル・ディスタンス」と言う訳だ、ここまで徹底してくれると、客としてはかなり安心だ。角には「オゾン除菌脱臭器エアバスターの設置」もしてあった。

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いつもはスタッフ達の挨拶でワイワイ騒がしい我が家の個室も、さすがにこの日は一人のみの出入りで間隔を取っての挨拶。テーブルには、店頭に掲げてあった「Hiramatsuスタンダード」の説明書と「マスクケース」が置かれている。
そんな訳でまずはひらまつブランドのシャンパン「ドゥラモット ブラン・ド・ブラン ひらまつ(Delamotte Brut Blanc de Blanc Hiramatsu)」からスタートしよう。そうそうこの日誕生日だった水迫さおり副支配人とも一緒に乾杯だ。白い花の蜜・甘くも爽やかな洋梨・・キレのあるエレガントな酸がミネラルと調和しつつ余韻を引き締める。

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そこへ運ばれたプレザオラはレモン風味のギモーブを包み込んで。イタリアフレッシュチーズはマンゴーとパッションのジュレを添えている。程よい甘味と酸味が滲み入る柔らかいアミューズとともに、長いつきあいになる長坂滋郎氏とソーシャルディスタンスを保ちつつ歓談。
次に運ばれて来たのは、白いプレートに美しくデザインされた「キャビアドヌーヴィック オシェトラ 毛蟹」。北海道毛蟹の上にオシェトラキャビアをたっぷりと乗せている。フロマージュブランのムースにはトマトの風味を纏わせ、トマトのパウダーも振った。ムースの溶けるような口溶けとともにトマトの自然な酸味が心地良く広がる。まだ蒸し暑いこの季節に体に優しい前菜だった。

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続く前菜は「活オマール海老 カルディナル フランボワーズ」。73度の低温で火を入れたオマールは柔らかくも甲殻類の生き生きとした存在感を引き出したテクスチャーだ。人肌の温度も風味を立ち上げてくる。微かにフランボワーズのパウダーのニュアンスも重ねて立体感を出す。添えられた木苺のチャーミングな食感と酸味もアクセント。爪はタルタルでサラダ仕立てにした。バランス良くうまい力加減で、食材にアプローチした美味しさであった。

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次は「名人森田武常さんの熟成クエ 松茸 ピルピル ソースセビーチェ風」。18キロのクエが主人公の一皿である。三大名人の一人と言われる森田氏が、福岡の玄界灘に浮かぶ玄界島で釣ったクエを、18日の熟成で旨みを引き出した上、低温でしっとりと熱を入れた。南フランスのピルピルソースはクエの出汁で仕上げた。それをテーブルで注いで完成する。
クエの骨にカボス・レモンで仕上げたソースが淡い深みを醸し出す。添えられたコンディマンの生姜の香りもアクセントだ。松茸の余韻ともに初秋らしい美味な一皿であった。

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メインは「仔牛」と聞いたので、ブルゴーニュを中心に探すも食指の動くものが見当たらない。「秋らしくボルドーでも楽しむか・・」とチョイスしたのは「シャトー・レオヴィル・ラス・カーズ(Chateau Leoville-Las Cases)2005年」。「あら久しぶりね♪」と妻。ラス・カーズ、まだ若いだろうがゆっくりと味わっていこう。
赤く熟したザクロ、表面の焦げた赤身肉。まだ舌先にやや残るタンニンは存在感を見せながらも、酒質に溶け込み始めており一体感が出ている。爽やかなハーブを纏わせつつ余韻は長い。30分経つと、ねっとりした果実の凝縮したまろやかさとともに、その奥には雨に濡れた腐葉土、杉などいかにも左岸らしい感じがちらほらと顔を見せつつバランスを取る。デキャンタしても数時間では開くことはなかったが、これからまだまだ進化していくであろう、ラスカーズのポテンシャルを楽しんだ。

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さぁここでメインの「ブルターニュ産仔牛 熊本県産日本蛤」が登場する。仔牛にはラルドを重ねて62度8分で熱を入れた。大ぶりな熊本産はまぐりは海の苦味が強く伸びる。唐津産アスパラの火入れも絶妙で、表面の食感と奥の野菜の甘味と旨味が調和している。アクセントにはスライスしたアーモンドを散らした。
土生将之シェフの話では、博多では和牛に慣れた客が多いため、仔牛はなかなか満足してもらえないとの事。滋味深い仔牛の味わいも活かしつつラルド重ね、付け合わせにも食べ応えと食感の変化を加えて、客の満足度を狙った。上品に仕上げつつ、土生シェフの工夫も感じたフレンチらしい満足の一品だった。

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デセールも上品ながらフレンチらしい満足度のある二品が続く。まず見た目も爽やかな「サングリア」は、白ワインジュレで赤肉メロン・シャインマスカットを包み込んだ。
続く「エクラン瑞穂菊酒造 ボンデクリック」は、飴のチュイルの中に日本酒を使ったエスプーマを詰めた。その日本酒は、宗像「瑞穂菊酒造」のリンゴ酸を多く造り出す酵母”福岡夢酵母”を使用した純米大吟醸「ボンデクリック」。豊富なリンゴ酸を生かした甘くもさっぱりした心地よいデセールとなった。最後はハーブティーとミニャルディーズで締められる。

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食材に真摯にアプローチし、火入れにこだわったプレート達。現代的なフレンチであるが軽さだけに流れず、フレンチらしい味わいの重ね方、テクスチャの変化、複雑な風味をあちこちに散りばめた。来るたびに自然な立体感とともに着地点も洗練され、満足度が高まってる。
「ウィズコロナ」の時代だからこそ、レストランも味はもちろんのこと、人材・理念・経営力がそろわないと生き残れないだろう。マスクを着けた馴染のスタッフ達に見送られ、手を振りつつマスクの中笑顔で「またね」とつぶやきながら店を後にした。

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