気が付けば今日はクリスマスイヴ、今年もあと残すところわずかとなった。色々と立て込んで今年後半の更新が滞り、お蔵入りのレストランやワインも多く何とも残念ではある。今年1年に思い巡らすに、このレストランのガラディナーは外せないなと慌ててキーボードを叩く。
フレンチの巨匠ジョエル・ロブション(Joel Robuchon)シェフが73歳で亡くなって、早くも1年がた経ったこの日。ゆかりある人々を招待して「ジョエル・ロブション追悼ガラディナー」を開くとの案内が来た。加えて「シャトー・レストラン ジョエル・ロブション25周年ガラ」も兼ねると言う。最高峰「ガストロノミー ジョエル・ロブション(Gastronomie Joel Robuchon)」自体でのガラも久しぶりの開催になるので、もちろん参加させてもらう事にする。

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向かったのは恵比寿の城、エレベーターで2階に案内されるとダイニング前ポーチが賑やか。前総支配人の山地誠氏やロブションシェフのビジネスパートナーであった安田(Mitsugu Yasuda)氏がおり、思わず声を上げハグしつつ再会を喜ぶ。そしてそこで紹介されたのがこちらの3人。ロブションの「日本における権利」を引き継いだフランス在住の長女ソフィ氏と長男エリック氏、そして日本在住のルイ・安部氏だ。
お父上にはとてもお世話になった事、とても寂しい事などお互いしばしお話させて頂いた。「25周年記念ボード」にサインなどもさせて頂き、穏やかでアットホームな素敵な演出を楽しみつつダイニングに入る。案内された奥のテーブルには何と、世界1のメートル・ドテル宮崎辰氏が出迎えてくれる。妻は「出戻ったの?!」と喜んで聞いたが、相変わらずフリーで活躍している。

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「ロブション」だけでなく「レフェルヴェソンス(L’Effervescence)」など一流レストランの現場にも出つつ、将来的な学校創設などにも向けて準備を進めているとの事だ。バカラ・シャンデリアが輝くゴールドのダイニングには懐かしい面々が集いまさに追悼ガラといった風情。年に3回も来日していたロブションシェフ、実は他国の店舗は年1回程度であり、東京のこの店をこよなく愛していたと言う。だからこそ「日本での権利」は家族に残したかったのだろう。
さて現在の我が家の担当と言えばもちろん高丸智天シェフ・ソムリエ。ロブションのハウスワイン「ヴーヴ・クリコ」のプレステージ「ラ・グランダム(Veuve Clicquot La Grande Dame Brut)2008年」をまずはさっと注いでくれる。フレッシュながらピノ・ノワール92%という力強さのある飲み口で喉を潤しながら歓談する。

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高丸ソムリエはちょうど渡仏して「ヴーヴ・クリコ」「クリュッグ」で研修してきたと言う事で色々と現地の話題に花が咲く。シャトーに1週間缶詰で学ぶと言うのもさすがに大変だろう。
そんな中レストラン地下のベーカリーで焼き上げた品々が並ぶパンワゴンが運ばれてきた。今ではすっかりベテラン枠の水野敬介シェフ・ド・ランがサーブしてくれる。「松茸とナスとスパイス」「カボチャ」「チーズ」「ミルク」などなど定番から新作の一口サイズのそれらは相変わらず絶品。そこへ矢代愛美ソムリエールや神田敬市メートル・ド・テルもやって来る。ではここで「25周年」を振り返るため、ロブションの代表作を中心に組んだメニューを紹介していこう。

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今回のガラディナーは、日本国内全店の総料理長ミカエル・ミカエリディス(Michael Michaelidis)シェフに加え、世界全店の総料理長エリック・ブシュノワール(Eric Bouchenoire)シェフ。ロブションシェフの隣にはいつもエリックシェフと安田マネージャーがいたと言う印象である。MOFを持ちロブション御大と共に世界中のロブションレストランを回って30年に渡り支え続けたエリックシェフ。今やロブション王国の全てを任され、これからも変わりなく「ロブションの料理」を守っていくと言う事だ。
さぁまずは「ゴンドール 香り高い白トリュフとコンテチーズのソースで(La Gondole)」が運ばれる。ハーブとともに焼いた薄い生地を手に取り口に運ぶ。

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パリッという軽い音と共にコンテチーズと白トリュフのないまぜになった香りがどんどんと立ち上がる。シンプルなだけに逆に香りが引き立つスタートだ。そこへ高丸ソムリエがサッと出されたグラス・シャンパーニュが「サロン ブラン・ド・ブラン ル・メニル ブリュット(Salon Blanc de Blancs Le Mesnil Brut)1997年」。ロブションならではの贅沢なグラスワインに妻の機嫌も良い。
「サロン 1997年」の妖艶な香りが白トリュフと混じる。コンテと薄い皮の絶妙なバランス高い酸のミネラル。それでもかなり熟成が進んでおり蜜のニュアンス。超微細な泡は溶け込んでるが、余韻に口中を上品に刺激してくれる。続くは「ソローニュ産キャビア 甲殻類のジュレになめらかなカリフラワーのクレーム(Le Caviar Imperial de Sologne)」。

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美しく点描された定番中の定番の前菜を見るとロブションに戻ってきたなと言う気持ちにさせてくれる。「世界中に影響を与えた作品」と生前ロブション自身が述べていた料理の1つだ。その味わいは深く甲殻類のニュアンスにキャビアの塩気を感じるうちにカリフラワーのクリームに包まれる。ロブションスペシャリテの滑らかなクリームの底にはたっぷりのキャヴィア。濃厚ながらいつものロブションといった味わいだ。
続く前菜も大好きな定番の一つ「ラングスティーヌ トリュフとのリヴィオリ キャベツを添えて(La Langoustine)」。多くのスタッフ達も「個人的に外せない一品です」と言うプレートだ。ロブションらしいゴールドの「ベルナルド(Bernardaud)エキュム」に乗ってやって来た。プリプリの弾けるような身にトロミを感じる厚みあるソースが絡む・・流石の王道フレンチに頷く。

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そこへ高丸ソムリエが更に合わせてくれたグラスの白ワインは「コントラフォン ムルソー・プルミエ・クリュ ブシェール(Comtes Lafon Meursault Boucheres 1er Cru)2011年」。カンロ飴、レモンライムの皮、樽の利かせ方も優しい。やや低い重心のアタックから酸がじわじわと余韻を伸ばしてくる。軽やかさと飲みごたえが調和する。ミネラリーな旨味を伴った余韻は長い。繊細ながらエレガンスな印象だ。
本日はロブションと歩んできた世界全店統括ソムリエのアントワーヌ・エルナンデス(Antoine Hernandez)氏も来日した。ここの前身「タイユバン・ロブション」を立ち上げ時にワインリストを整備したのもアントワーヌソムリエだ。今回セラーをチェックして、「まだ東京にはこんなワインが残っているのか・・」と驚いたと言う。

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エリックシェフと共に私達のテーブルにもやって来てワイワイ賑やかに話してくれる。そこへ運ばれた「ホタテ貝 スパゲッティのテュルバン シャトーシャロンの香る軽やかなソースコライユで(La Noix de Saint-Jacques)」。エリックシェフ自らが白トリュフを選び手に取り、そのプレートにガシガシと削ってくれて完成する。
白トリュフの香りに包まれるこの料理は、スパゲッティの中にホタテのムースと身を詰めた。ロブションシェフが大好きだった「シャトー・シャロン」を香らせたソースが料理に奥行きを与える。フォークを入れるたびにその香りが沸き上がってくる。そう言えばロブション出身シェフ「ASAHINA」でも「シャトー・シャロンを使ったソース」が使われていた。

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ではここで、アントワーヌソムリエも感心するワインリストの中から、赤ワインをボトルでチョイスしていこう。高丸ソムリエとも色々と話し合いいつもの様に目移り必至であるが、結局は「最高の王道料理には最高の王道ワイン」と言う事で、お馴染みの「シャトー・ラトゥール(Chateau Latour)1989年」に決める。実は5年前「20周年ガラディナー」でも同じ「ラトゥール1989」を開けていたから変化も楽しみだ。
ボルドー5大シャトーの1つ、北西メドック地区ポイヤックで1331年からの長い歴史を誇る。ラベルには14世紀中頃に建てられてた円形の要塞「サン・ランベールの塔」が描かれている。1855年に格付け第1級を獲得。1993年にフランソワ・ピノー(Francois Pinault)氏がオーナーになり、2012年からはプリムール商戦から撤退。

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自らのセラーで熟成させたヴィンテージのみを適宜リリースするという一大転換を行った。「シャトー・ラトゥール」と言えば私達夫婦にとって、常に懐かしい思い出と共に存在するワインだ。つらつらとそんな話をしている間に、高丸ソムリエが美しい所作でデカンタしてくれる。
グラスに注がれると、黒果実の凝縮した香りとともに、若ささえ感じさせる。相変わらず保存状態がとても良い。時間と共に腐葉土・メントールを伴ったスパイス・・など繊細ながらラトゥールらしい土の香りがにじみ出てくる。ちょうどそこへ「オマール海老のヴァプール ハーブをきかせたソースシヴェ(Le Homard Bleu)」が運ばれて来た。

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ブイヨン・赤ワイン・スパイスで仕上げたソースシヴェがたっぷりとプレートに敷かれる。その上にオマール海老の身を包んだホウレンソウの「緑」と、オマールのツメの「朱」が浮かびあがる。身はヴァプールし爪は軽くソテーして紫蘇を飾った。ソースの濃厚な凝縮した旨味がなんとも美味。赤ワインにもきっちりと同調してくれた。
次にやって来たのは「北海道産牛フィレ肉 フォアグラと抱き合わせローストにし ロッシーニ風に仕上げて(Le Bouf dHokkaido)」。牛・フォワグラ・黒トリュフと言うクラシックな「ロッシーニ風」をロブションが再構成したプレートだ。火を入れた牛フィレ肉がまずは黒艶なボックスに入って登場。お披露目後にカットして、改めてプレートで提供される。

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宮崎メートル・ド・テルによる華麗な手さばきにより「ロブションのジャガイモのピューレ」や「ジャガイモのスフレ」が添えられ、ジュのソースも流して完成する。グリルして香り高いマツタケもプレートを彩る。牛肉断面のピンクとフォアグラ断面のオレンジのコントラストが何とも美しい。添えられたパフパフ「ポテトのフリット」の不思議な食感も楽しい。
ロブション定番肉料理のロッシーニ風を「ラトゥール」と共に味わう幸せ。そして替わる替わるやってくるスタッフ達に亡き巨匠ロブションシェフとの思い出話を伺いつつ、彼を懐かしみ頂く歴史に残った料理達は格別だった。
いよいよデセール。最後の最後まで時間をかけて仕上げたものと言うだけあってかなり凝ったものだ。それは「蜂の巣 ポワールのババロアとマヌカハニーのグラス イタクジャのクレームショコラとともに(Le Ruche)」。

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これも定番「蜂の巣に見立てたチュイル」の下には、洋ナシのババロアと蜂蜜のグラスが鎮座している。優しい甘さに癒される。続いて運ばれた「コーヒー豆のイメージで なめらかなベイリーズのクレームと合わせて(Le Grain de Cafe)」。アンヌ=ソフィ・ピック(Anne Sophie Pic)シェフデザイン「エクリプス(RAYNAUD eclipse)」には、巨大コーヒー豆が鎮座していて思わず笑う。それはくちどけの良い軽いムースで出来ていてなんともユニークなデザートだ。コーヒーのゼリーの上にコーヒーのジュレ・アイスも添えた。甘くもほろ苦い大人のデザートだった。
そこへエリックシェフと安田マネージャーが再びやって来て歓談する中、更に山地氏やミカエルシェフもやって来て大賑わい。在りし日のロブションシェフの様々な思い出話に花が咲く。

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こうやって今はここにいない懐かしいスタッフ達もヘルプで駆けつけてくれるのは、長年の客としても嬉しいことだ。最後「ローズのプティフール(Le Petit Four a la Rose)」は、金箔が揺れるピンクの薔薇がカクテルグラスに入って妻が「可愛い♪」と嬉しそう。加えて「Chateau Restaurant Joël Robuchon 25th」と城が描かれたホワイトチョコのプレートに雲形の焼菓子なども出される。
ハーブワゴンのレモンバームやローズマリーなどから数種ブレンドした「生ハーブティー」を頂いていると、厨房からひょっとロブションシェフが出てきて「また会えたね♪」とハグしてくれそうな気持ちになる。それを察したかの様にエリックシェフが妻に優しくハグして、またの再会を誓い合う。華やかなりし日々を思い出す感慨深い「ロブション追悼ガラディナー」であった。

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