何故か好評の「男一人泊まり」シリーズ、そこで今回は大手町タワーの最上階部33~38階にある「アマン東京(Aman Tokyo)」に宿泊したので記しておこう。2014年末にオープンした「アマンリゾーツ」による世界初の都市型ホテル。妻とは一緒に何度も使わせてもらっているが、一人泊まりは初めて。
大手町タワー周りに造られた「大手町の森」は3600m2、開業時3年かけて育成した木々・草花(81種56000本)を移植した。大都会の高層ビルにわざわざ森を作ったのは、自然との調和や地域性をコンセプトに掲げる「アマンリゾーツ」ならではの発想だ。エイドリアン・ゼッカ(Adrian Zecha)が1988年にプライベート・リゾート・コレクションとして創業。

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プーケット「アマンプリ」を皮切りに、今や世界21か国に34のスモール・ラグジュアリーなリゾートやホテルを展開中。「アマン東京」がアマン27軒目のホテルにして初の都市型ホテル、その後伊勢志摩に出来た広大な「アマネム」はアマン初の温泉リゾートホテルとなった。そしていよいよ国内3軒目として、今年11月には「アマン京都(AMAN KYOTO)」がオープンする。
京都洛北の鷹峯三山の麓、金閣寺も近い好立地に敷地面積約24000m2・26室。アマンと言えばな巨匠建築家ケリー・ヒル(Kerry Hill)は昨年亡くなったが、引き続き彼のアーキテクツチームが手掛ける。壮大な自然と共存するアマンらしい、そして日本旅館風なモダンデザインで、アライバル棟・リビング棟・レストラン棟・スパ棟・4宿泊棟・ヴィラ2棟が点在する。是非伺ってみたいものだ。

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「アマン東京」は大通りに面したビル中程から入ったエントランスはまるで洞窟ような静かで暗めの禅なる世界。車の他に2台の人力車も並び、横には別棟「ザ・カフェ by アマン(The Cafe by Aman)」もある。ロビーには麻紙に描かれた菅原建彦氏の炭画、エレベーター前には左官技能士・挾土秀平氏の土壁アートが飾られる。
高速エレベーターで33階「ガーデンレセプション(中庭)」へ行くと、上がったところに土壁三部作の2つ目がある。そして見上げるのも圧巻な巨大なランタンが目をひく。広い空間に5フロア分と言う高い吹き抜けの障子天井は、長さ40m・幅11m・床から高さ30m。ゼッカワールドは都市型になっても開放的でダイナミック、そして安らか。

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黒い玄武岩の床や壁はずっと長く伸びていて、天に浮かぶ巨大和紙照明が緩やかに包む。レセプションデスクは樹齢250年の楠木、中央には流水の池に浮かぶ巨大生け花、方々に玉砂利と巨石の石庭、コンテンポラリーな和の景色が特徴的だ。向こうに見える青い空と皇居の緑、遠くに富士山・・フロアを囲むような段差は「縁側」をイメージして造られた。
その巨大縁側に沿って「ライブラリー」「ビジネスセンター」「シガー・バーラウンジ」、ぐるっと回って「イタリアンレストラン アルヴァ」「ザ・ラウンジ by アマン」が並んでいる。そしてそこから上がって行った34階に、去年10月出来たのが「武蔵 by アマン」である。この夜の食事として既に予約済みなので楽しみだ。ガーデンラウンジに座って見渡しつつ、そんな事を思いウェルカムドリンクの懐かしい瓶「ラムネ」を頂く。

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いつもながら何とも開放的で心地よい空間だ。・・さぁチェックイン手続きを終え宿泊者専用エレベーターへ。ファブリックに覆われた鍵はエレベーター内でもかざすタイプ。全84室、いつもは上から1~3番目のスイート「アマンスイート(157m2)」「コーナースイート(121m2)」「スイート(146m2)」に宿泊しているので、今回の「デラックスルーム(71m2)」は初めて。
入った広い石床の玄関、靴を脱いでスリッパを履く・・いつもの部屋の片側(寝室)だけと言った感じ、見慣れた部屋の様子で何の変りもなく良かった。外苑の森を望むプライベートな雰囲気もいつも通りだ。ハリギリ・クリ・楠などを多用したシンプルで無駄のない和モダンなインテリア。

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玄関側にクローゼット、布団の様なキングベッドに向かう壁には大型テレビ、その横に大きなデスク(ミニバーも)。窓際にカフェテーブルセット(ディベッド)となっている。部屋に沿うような細横長「バスルーム」は、さすがに「スイートルーム」よりは半分のサイズになっているが、花崗岩や玄武岩が使われていて床暖房、「障子風の引き戸」で寝室と仕切られている。
「雪見障子」や樹齢350年の檜で作られた「湯桶/洗い桶/風呂椅子」「檜の香オリジナル・バスアメニティ(シャンンプー・コンディショナー・シャワージェル・ボディーローション)」「今治タオル」「PLOHバスローブ」は同様。ちなみにテーブルに置かれたウェルカムスイーツ「季節のフルーツ」に、お馴染みの「おかき」「ポンポン菓子」。

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そんないつもながらの癒しの部屋でしばし落ち着いてから夕方、向かうのは「武蔵 by アマン」。鮨職人33年の経験を持つ武蔵宏幸氏が青山の人気店「鮨 武蔵」を閉じて、アマン東京34階にオープンした鮨店だ。アマンからの誘いを受け、中途半端には出来ないと言う決意からそうしたのだそうだ。ロビー階からは階段で上がって行くこともできる。
暖簾を潜りアプローチを抜けて左手、店内に足を踏み込むとホテルの雰囲気と調和した落ち着いた店内が広がる。無垢の檜カウンター・白漆喰・クスノキの無垢板の壁・奄治石・土壁・和紙・・「アマン東京」らしい天然素材に包まれる。江戸切子職人・堀口徹氏や陶芸家・タナカシゲオ氏などがこの店の為に手掛ける酒器なども必見。日本酒「武蔵 アマン」は、精米歩合7%まで磨き上げ新澤醸造店が特別に作ったものだ。

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まずは乾杯、グラス・シャンパンで喉を潤す。ソムリエなどはホテルのスタッフだから、正にアマン風情で違和感なく鮨を楽しめるのも良いところだろう。客は宿泊者と外からと半々くらいとの事。お任せメニューは外国人にも分かりやすいようにメニューが用意されている。
まず「ツマミ」は白海老・枝豆のすり流しにキャヴィアを乗せて。美しく柔らかなスタートだ。「先付」は真子鰈・赤身・赤ムツが綺麗に並べられる。マコガレイにはウニを巻いて贅沢に。赤ムツは柔らかな旨味が広がる。赤身はヅケにして。刺身は温度をやや上げてあり舌先に魚本来の味わいを感じやすい。大振りの鮑は贅沢に切られて。トロは軽く炙って一晩漬けにしたものだ。炙った風味とヅケのバランスが絶妙である。

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追加のグラス・シャンパン「ボランジェ スペシャル・キュヴェ(Bollinger Special Cuvee)」と共に頂く。先日までマグロは戸井産だったが、この日は余り良いのがなかったためカナダ産との事。国産のいまひとつの鮪よりも十分に美味しいと言う。食べるペースに合わせてテンポ良く提供される。続いて出されるは「甘鯛の西京焼き」。甘鯛の脂を引き出した西京焼きは美味、まだ脂がこれからと言う上に散らされたイクラも軽いアクセント。
続いて手渡しで渡されるのは「穴子と胡瓜」の巻物だ。さてここから握りに入っていき、11貫ほどが握られる。ベテラン武蔵氏の背筋の通った所作は美しい・・長い指で丁寧に握られていく鮨は見る過程も美味しい。まずは佐賀の「新子」。優しくもしっかりしたシャリと調和する。そして「新烏賊」はねっとりした食感と甘さの奥に、パキッとした新子烏賊らしい仄かな歯ごたえだ。

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「真子鰈」は歯応えの奥に真子らしい繊細ながら確かな旨味が、温かさの残るとシャリと渾然一体となる。他の客も「美味しい!」と思わず声を上げていた。ここでグラスワインの白(シャルドネ)を頂く。「中トロ」に続いて見るからに脂の乗った「秋刀魚」。鼻の奥に抜けるサンマらしい風味を楽しむ、これもしなやかで美味だ。
次の貝は「石垣貝」、鮨で頂くのは初めてかな。スルリとした食感に爽やかな歯応え、ゆっくり噛みしめるうちに穏やかな海を感じさせる旨味が残る。更に続いて「縞鰺」。事前に茹で上げられている「車海老」はシャリと美しいバランスを見せ、甲殻類の旨味を余すところなく伝えてくる。「トロ」に続くのはプリプリの北海道「はだての雲丹」の軍艦、そして「卵焼き」前までの一通りだ。美しくバランスの良い、穏やかな握りはスルスルと胃に収まっていく。

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ではいくつか追加で注文していこう。「キス」は程よい締め具合。「脂がのったイワシ」は口の中でシャリと一体になりながら消えていった。巻物は「トロたく」を所望し、コースに付いてるデザートの「マスカット」で締められた。アマンが引き抜いただけあり、ホテルの雰囲気にもあった鮨屋だ。饒舌ではないが寡黙でもない、心配りの感じられる武蔵氏。開店当初は昼をやってなかったが、今は昼営業も開始した。
今度は妻と共に昼を食べに来ようかと思いをめぐらせつつ、宿泊する部屋に戻った。戻ると早速お決まりのコレ、ルームサービスで赤ワインをお願いする。ワインリストに見つけた好みのブルゴーニュ「アミオ・セルヴェル シャンボール・ミュジニー プルミエ・クリュ レ・シャルム(Amiot Servelle Chambolle Musigny 1er Cru Les Charmes)2013年」だ。

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加えて「チーズの盛り合わせ」も注文しよう。シャンボール・ミュジニィの定評ある作り手「アミオ・セルヴェル」。繊細かつ上品で滋味深い味わいはアマンらしいとも言える。最近のホテルのワインリストはただ知られたブランドを並べるだけでなく、ホテルのコンセプトに合ったワインを選ぶところも多くなって来た。「武蔵 by アマン」の鮨を振り返りつつ妻と長電話し、モダンな滋味深い酒質を寝酒に深い眠りについた。