雨続きで早くも秋の様な涼しさの博多。夏休み最後の週末に訪れたのは、開業30周年を迎えた「ホテル日航福岡」。車から降りると、いつも静かで落ち着いた風情の「アイボリーの大理石が美しいロビー」に人が沢山見える・・「ジャズ×焼酎」のイベントが行われているとの事だ。その雑踏を抜けて2階、我が家お馴染みフレンチレストラン「レ・セレブリテ(Les Celebrites)」へ向かう。
出迎えてくれるのは前支配人の持光誠一郎氏、新支配人の濱辺陽平氏、我が家旧知のソムリエ原部暢俊氏と勢揃い。この時点で妻は楽しそうにはしゃいでいる。ベージュ色に統一され、壁には建築家シャルル・ガルニエの設計図も飾られたシックなメインダイニングは既にざわめき、厨房からも勢いのある声が聞こえる。

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そんな中私達はいつもの、ミラーが囲む重厚で美しい個室に案内して頂く。落ち着いたダイニング、洗練された料理、紳士的なサービスが定評の日航福岡「レ・セレブリテ」では、度々海外や日本から話題のシェフを招聘してフェアイベントを企画している。我が家はいつも楽しみにして日程が合えばほとんど参加している。
昨年は「Ode」生井祐介シェフ、その前はパリ「レストラン ナカタニ」中谷慎祐シェフ、フランス・アヌシー「ル・クロ・デ・サンス」ローラン・プティシェフ、ジェローム・マメシェフなどなど、錚々たる面々を毎年のように呼ぶ努力には頭が下がる。そして2019年夏はついに和歌山市にあるレストラン「オテル・ド・ヨシノ(hotel de yoshino)」の手島純也シェフの登場だ。

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和歌山を一望出来、遠くには淡路島や四国も見渡せると言う絶好地にある「オテル・ド・ヨシノ」。我が家もいつか行きたいと思っていたので、話を聞いた時には即座に予約を入れた(笑) 昨日までの3日間のフェアだが予約も順調でこの夜も満席。
手島純也シェフは2002年から5年に渡り、パリで吉野建氏の「ステラマリス」、20年以上ミシュラン3ツ星獲得し続ける「ランブロワジー(L’Ambroisie)」、当時3ツ星だった「タイユヴァン」などで働き2007年2月に帰国。芝パークホテルの「タテルヨシノ芝」を経て、同年9月から和歌山の「オテル・ド・ヨシノ」の料理長を務める。紀州の地からクラシックなフレンチ料理を紡ぎだし人気を博している。そうそう今回はサプライズ?で、大阪ミシュラン1ツ星の「ディファランス(Restaurant Difference)」藤本義章シェフも来福。

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手島シェフの呼びかけで一緒に厨房に入ってると言うから素晴らしい。藤本シェフがホテル日航大阪「レ・セレブリテ」出身と言う事、そして以前日航福岡「レ・セレブリテ」でのイベント経験がある事も関係あるだろう。いずれにしろ客からすると贅沢で嬉しい。ちなみに「オテル・ド・ヨシノ」では、この週末7・8日には代官山「アビス(abysse)」目黒浩太郎シェフとのコラボも予定しているそうだ。
さぁ、まずは乾杯と行こう。「オテル・ド・ヨシノ」細川仁美ソムリエールがセレクトしたワインペアリングにも惹かれたが、結局いつものようにワインリストからチョイスしていく。原部ソムリエと話しながらチョイスしたのは「サロン ブラン・ド・ブラン ル・メニル ブリュット(Salon Blanc de Blancs Le Mesnil Brut)2004年」。1914年ウジェーヌ・エメ・サロン氏によりル・メニル・シュル・オジェ村に設立されたシャンパーニュ・メゾン。

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コート・デ・ブランのグラン・クリュ畑(19の契約農家)で、良年にのみ最上質のシャルドネ一番絞りだけを使用し10年以上熟成して造られるのが、このブラン・ド・ブラン「サロン」だ。初ヴィンテージ「1911年」から現在「2006年」までわずか40ヴィンテージのみリリース。我が家もレストランで定番のシャンパーニュの1本。「1988年」「1990年」「1996年」「1997年」「1999年」「2002年」「2004年」など複数本ずつ開けている。
薄いイエローゴールドの泡が照明に美しく煌めく・・ライム・オレンジの皮・オイリーなスパイス。メニル・シュル・オジェ村らしい際立った酸がピュアさをより強調する。まだ統合してきていないものの、上品ないつもの「サロン」の飲み口だ。やや硬さの残るミネラルの中に果実の旨味がとじ込まれている。ピュアな果実の静かなパワーを感じる味わいであった。

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この「サロン」と共に頂くのは「グジェール 太刀魚のリエット」。タチウオのリエットはカチョカバロを引いたタルト生地の上に。グジェールとともにコースの期待を高めてくる。
続いてグラスに入った「黄色ピーマンのムース」が供せられる。トマトのゼリーの上に艶やかな黄色ピーマンのムースを乗せた。ムースに飾られたチュイルもトマトだ。黄ピーマンの風味とトマトの酸味が口の中でゆっくり大きく立ち上がる。凝縮感を感じる旨味がありながら、余韻にはスマートの綺麗な味わい。これはシェフが修行したパリ「ランブロワジー」の料理をオマージュしたものだ。「ランブロワジー」と言えばちょうど今、木村拓哉主演ドラマ「グランメゾン東京」の料理のシーンを、その厨房で撮影させた事で話題にもなっている。

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次に運ばれたのは「透明なスープドポワソン」。透き通ったクリアなスープに上からはオリーブオイルを垂らした。一口で凝縮した味わいに引き込まれるようだ。クリアながら香り豊か・・確かにスープドポワソンの味わいが口いっぱいに広がる。微かに漂うトマトの酸味も効いており洗練された雰囲気も醸し出していた。
続いてやって来たのは「リ・ド・ヴォーと足赤エビのテリーヌ」。泡状のアメリケーヌソースを多めに流している。柔らかなテリーヌは、火を入れて表面にほんのりと焦げ目を付けて仕上げ、上にもポワレした足赤エビを乗せた。足赤海老という和歌山らしい食材を使った料理だ。足赤らしい鮮やかな色合いがアメリケーヌソースと共に白プレートに映える。付け合わせはジャガイモのエクラゼやウイキョウ。

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アーティチョークの軽い苦味もエッジとなりアクセント。予想よりも優しい仕上げにコースのメリハリを感じる。
そして次に登場したのが「アラのポワレ デュグレレソース」。卓上のメニューには「その日の魚のポワレ」とあるが、手島シェフの「九州のアラを是非使いたい」との希望でアラ(クエ)が供される。妻も嬉しそうだ。
ソースはクラシックなデュグレレソース。ヒュメ・ド・ポワソンにエシャロット、シャンピニオン、トマトのエキスを凝縮させたソースの仄かな厚みが、肉厚のアラの弾力ある歯応えと旨味を生かす。クラシックな仕立てであるが、酸味のニュアンスで軽やかに食べ進める。グッと火を入れた皮目と身のコントラストも良かった。カラフルにズッキーニやナス、ミニトマトなども添えて。

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温度を上げていた「サロン」と共に、クラシックな魚料理を堪能できた。さぁ前半の穏やかな味わいから少しずつギアが入って来たようだ。そこで赤ワインもボトルで選んで行こう。リストの中からボルドーのペサック・レオニャン「シャトー・ラミッション・オーブリオン(Chateau La Mission Haut Brion)2004年」に決める。
ちなみに用意されていたペアリングは「シャトー・ランシュバージュ(Chateau Lynch Bages)2013年」だった。ラ・ミッション修道会に由来する、かつては1級シャトー・オー・ブリオン」の一部だった畑(21ha)。1983年以降は「オー・ブリオン」と同じくディロン家が所有し、品質改善も軌道に乗りブレのない一貫した味わいには定評がある。

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グラスに注がれると、奥が見通せないガーネット色が揺れる。黒胡椒・焼いたピーマン・ブラックベリー・赤身肉・エスプレッソ・・アタックから凝縮した黒果実を感じる。スムーズなテクスチャであるが、まだ少しざらついたタンニンもアクセント。メルローからくるまろやかさが全体を包み込む。余韻は長く、微かに奥にハーブのニュアンス。まだ硬さも残り開ききれてはいないが、典型的な「ラ・ミッション・オーブリオン」らしい凝縮感ある力強い味わいであった。
そしてそんな中登場したのは、楽しみにしていた手島シェフのスペシャリテなパイ包み焼き、今夜は「フランス・ランド産小鳩のトゥルト」だ。綺麗に焼き上げられたドーム型のパイが、香ばしさと共にテーブルに運ばれるとテンションも上がる。これで丸々二人分と言う。取り分けられ、グリーン鮮やかな空豆のソルベも添えられて運ばれる。

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ササミと炭火焼きした腿肉が添えられ中心に半分に切られたパイ包みが鎮座する。香ばしい香りがグッと胃を掴みにくる。鳩ガラ、鳩の血と赤ワインのソースが敷かれる。胸肉とフォワグラ、そして鳩の様々な部位のミンチをパイで包み込んだ。サクッとしたパイに包まれたミンチの風味も味わいに調和する。ソースもクラシックながらどこか軽やか。期待通りの完成度の高いプレートであった。
一息付いて、デセールは「ミロワールショコラ」、ツヤツヤとまさに鏡のように輝く。ねっとりした食感の甘いショコラでゆっくりと癒される。最後は小菓子「カヌレとパート・ド・フリュイ」、そしてハーブティで締めくくる。そこへ、忙しい中、笑顔が素敵な手島シェフが挨拶に来てくれ、色々と話もさせて頂いた。

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クラシックながら現代に繋いだ、どこか軽やかさも感じる料理。メインの「トゥルト」に向けて自然となだらかに盛り上がってくるコースの組み立てであった。「クラシック料理の継承者」というイメージが強い手島シェフであるが、量も味わいも現代的に引き直している。クラシックの良さを改めて再認識するとともに、手島シェフから染み出る繊細なエレガントさも印象に残った。
帰りはキュートな「フラワーアレンジメント」をお土産に頂き、来た時同様ホテルロビーまでマネージャー達に見送られつつ車に乗り込む。手を振りまだまだ賑やかな「ホテル日航福岡」を後にし、「今度は和歌山にも行きたいね♪」とご機嫌な妻と話す楽しい夏夜だった。

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