前回に引き続き、赤坂・アークヒルズにある「ANAインターコンチネンタルホテル東京(ANA InterContinental Tokyo)」36階、「ピエール・ガニェール(PIERRE GAGNAIRE TOKYO)」でのディナーの話。フレンチ・ガストロノミーの巨匠ピエール・ガニェールシェフ御本人も来日中とありダイニングもひときわと賑やか。私達はメインダイニングの一歩手前、窓に向かったロマンテッィクな落ち着いた席で、ディナー楽しんでいる。さぁ後半と行こう。
「ブルーノ・パイヤール ル・メニル ブラン・ド・ブラン 1990」を開けて、料理は「岩牡蠣/ホタテ貝」「毛蟹」「黒鮑」と来て、グラスのワインは「アラン・ビュルゲ ジュヴレ・シャンベルタン シンフォニー 2013」を合わせた。そんな中次に運ばれた魚料理は「アイナメのポワレ アオリ烏賊 チョリソー 枝豆 サフランを効かせたムール貝のクリーム」。

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ガニェールお馴染みの穴が沢山開いた不思議なプレートで登場する。アイボリーにサフランの黄色ソースが映える。皮目の内側のしっとり感を残しながら表面はパリッと焼かれてる。それでも皮目と身が味わい的に分離せず全体のつややかさと一体となって食せる加減が何とも絶妙。微かな皮目の香ばしさが脂の多い旬のアイナメの身を引き立てる。「美味しいね」という言葉が自然に漏れてくる。
そんなアイナメの上には細かなアオリイカやムール貝。更にチョリソー、枝豆が乗せられて変化を加える。サフランを効かせたムール貝のソースは、軽やかながら食べ応えある味わいで後を引く美味しさだった。そこで慌てて「これにも何か合わせられる?」とソムリエに相談する。グラスワインリストに入手困難な「ゴビー(Gauby)」があったので尋ねてみると

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「ゴビーですと白もあるのでお出しできます」との事。手際よくサッとデカンタして出してくれるのも嬉しい。既に料理を食している段階で頼んだが、段取り良くスマートに素早く提供する様に感心する。「ゴビー ヴァン・ド・ペイ コート・カタラン クーム・ジネスト ブラン(Gauby Vdp Cotes Catalanes Coume Gineste Blanc)2010年」。
南仏ラングドックルーション地方のワインのイメージを変えたと言っても過言でない作り手「ゴビー」。自然派だが透き通るような、しかし飲みごたえある酒質が好みだ。ヴィンテージによってセパージュは違うが、「2010年」はグルナッシュ・ブランが中心。グラスに注がれると、独特のスモーキーな香りに塩味、レモンの皮のコンフィなど引き締まった香り。

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味わいもキリッとした美しい酸にアジアンなスパイス。ピタリと余韻で料理と同調してくれた。ワインの特徴が料理を下支えして味わいをぐっと際立たせてくれるようで満足する。そんな中気配を感じてふと顔を上げると、私達の顔を覗き込むピエール・ガニェールシェフ御本人!
現在世界9ヶ国23店舗を展開している多忙のガニェールシェフも、年に2回は来日されてこちらの厨房に立つと言う。今年69歳になったが、う~ん相変わらず恰幅も良く迫力がある。喜ぶ妻に優しく話してくれたり、メニューにサインしてくれたり、優しい紳士だ。そこへフランス人マネージャーがにこやかに「オーストラリア産黒トリュフ」を持って来る。

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合わせて運ばれる料理は「オーストラリア産黒トリュフの香る名古屋コーチンのポーチドエッグ アルブッフェラソースを絡めた名古屋コーチン胸肉 玉葱のフォンデュとレンズ豆のニョッキ」。黒く丸い名古屋コーチンに、マネージャーがガシガシと黒トリュフを削ると、テーブルがかなり香り立つ。南半球で旬を迎えつつえる黒トリュフ、その抜群の豊かな香りに妻も「ゴージャスね♪」と嬉しそうだ。
まぁいわゆる「玉子×トリュフ」の黄金律で美味しくない訳がない(笑) 下に敷かれた玉ねぎのフォンデュやレンズ豆のニョッキのねっとりした食感。そしてフォワグラを使ったねっとりとした旨味溢れるアルブフェラソースが、鶏肉と黒トリュフの香りを同調させ、フレンチらしい味わいを醸し出す。前半から比べると味わいもぐっと強くなりメリハリが効いてるが、各プレート量も緻密に計算されており妻も無理なく食していた。

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さてここで赤ワインも選んでいこう。メインの肉は「乳飲み仔牛(ヴォースーラメール)」と言う事でブルゴーニュ中心に探していたが、グラスワインリストに何と「シャトー・ムートン・ロートシルト(Chateau Mouton Rothschild)1989年」を見つけてしまう!こういうレベルのワインをグラスで用意してくれるのは流石だ。
言わずもがな5大シャトーの1つ。1855年格付けから118年経った1973年、メドック地格付け1級に昇格した。その時ラベルに記されたフィリップ・ド・ロチルド男爵(Philippe de Rothschild)の言葉が「我第1級なり、かつて第2級なりき、されどムートンは不変なり」に変更された事は余りにも有名だ(ちなみにその前は「第1級にはなれぬが、第2級の名には甘んじられぬ、我ムートンなり」)。

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我が家的には5大シャトーの中では一番外れが多いのであるが、良く開けている(笑)と言う訳で、昼過ぎからデカンタして準備していた「ムートン89」を頂くことにしよう。
ラベルは旧東ドイツの出身の画家ゲオルグ・バゼリッツ(Georg Baselitz)作の「Die Mauer(壁)」。1989年はベルリンの壁が崩壊した年だ。バゼリッツと言えばやはり「逆さ」、これも鮮やかにオレンジと緑で「逆さの羊」が描かれている。メッセージ「druben sein jetzt hier」はかなり意味深いだろう。
グラスに注がれると、まだ元気と思わせる華やかなフルーツ・腐葉土・ハーブ・綺麗に熟してるがパワーも感じる。タンニンはこなれてスムーズなタッチであるがまだ若干の硬さも感じられるくらいだ。まだエネルギーを感じるので早目に昼過ぎからデカンタしていたそうだ。

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余韻は長く美しい・・「ムートン」好きの妻も満足そうだった。さぁメインの「ヴァドゥヴァンの香るフランス産乳飲み仔牛 ヴォースーラメールのロースト サンネクテールとジロール茸 雲丹を添えて」が登場。テーブルでソースをかけて完成する。乳飲み仔牛のヒレ肉をローストした。その繊細な肉質の上には牛乳のチーズ「サン・ネクテール」や、蕩ける生ウニを足して食べ応えを出し、そのコントラストで仔牛を引き立てる。
「肉×ウニ」の組み合わせパターンは実は日本人シェフではなかなか見ないのだが、先日の「ヤニック・アレノ(Yannick Alléno)シェフ来日ディナー」に続いて、その不思議で濃厚な味わいを「ムートン」と食する。香り豊かなジロール茸もスパイスを効かせたソースと共に美味しく頂けた。ここからは、ガニェールお得意の多種盛り沢山のデセールだ。今夜は5種。

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ガニェールらしい華やかな風情で、まずは4品がまとめて提供される。右手前は米のムースの中に白桃のコンポート、上に乗せたキャラメルのソースを混ぜながら頂く。左の大きなカクテルグラスには、爽やかに香り立つ「スイカとルバーブのジュレ」。「フロマージュブランのアイスクリーム」にライムを削って、さっぱり夏らしく味わえる。
奥の氷の上にあるは、レモンの皮を少し凍らせて器に仕立て、中にはマンゴーとジュレを入れたもの。さぱり甘酸っぱく、残して置いたシャンパン「ブルーノ・パイヤール」と合わせて美味しく頂く。そして長細い皿には「ピスタチオのアイスクリーム」に「ライチのゼリー」。ピスタチオのクランブルの食感と共に楽しむ。全体に夏らしく、爽やかな甘みと酸味で構成されスムーズに食せる。

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次はチョコレートの温度差を楽しむデセール。温度を上げていたと一緒に楽しむ。テーブルで温かい「コニャックを効かせたフランボワーズのソース」が注がれると、プレートの中の冷たいチョコレートが溶けていく。レーズンとチョコレートの絡み合ったネットリした厚みのある食感を楽しむ。「これって別腹♪」と、もうお腹一杯と言っていたはずの妻もスルスル食べていた。
そうそうこちらのレストランでは、5月からシェフパティシエがルカ・デュマルスキ(Lucas DUMARSKI)に変わっていたんだった。彼はパリ「Pierre Gagnaire」でパティシェとしてキャリアをスタートし、以降フランスの2・3星レストランで経験を積んだ。そんな話もスタッフとしながら、最後は可愛い小菓子とハーブティーで、ディナーを締めくくった。

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ガニェールというと多皿のイメージも強いが、あまり多用せず、しっかりと一皿一皿を食べさせるものだった。流れや味わいのトーンの深まりも見事で、ちょうど良い塩梅の緻密に計算されたコース。久しぶりにフレンチらしいフレンチを堪能できた。担当ソムリエのワインのセンスや準備、サービススタッフのしっかりした説明や物腰は、グラン・メゾンの良さを改めて実感するようなディナーであった。
最後は赤坂洋介エグゼクティブ・シェフ達に見送って頂き、お土産(シトロンパウンドケーキとフルーツジャム)も頂いて満足のディナーを終えて、宿泊先の「アンダーズ東京」に戻った。部屋の窓には間近に赤く輝く東京タワーが浮かんでいた。また近いうちに再訪しようねと夫婦語り合った。