「博多祇園山笠(櫛田神社祇園例大祭)」が終わると福岡はいよいよ夏本番となる。そうそしてこれも・・今夏もやってきたひらまつ・イタリアン統括 吉越謙二郎シェフ、恒例の「吉越祭(Festa d’Estate 2018)」だ。警固公園前レソラ天神4階、我が家お馴染み「リストランテKUBOTSU(旧リストランテASO 福岡・天神)」でガラディナーが行われた。
300年の歴史を持つ伝統工芸「大川組子(木下工芸)」が美しいエントランスには、千葉篤志支配人や長坂滋郎ディレクターなどいつものメンバーが出迎えてくれる。我が家はいつもの個室に案内してもらい、スタッフ達と歓談する。一面ミラーで輝く個室の窓の下には緑爽やかな警固公園が広がる、先日は安倍総理が応援演説をしていた。19時になろうと言うのにまだ明るく、多くの人が夕涼みしている。

吉越謙二郎シェフ ひらまつ・イタリアン統括

かつてミシュラン2ツ星まで獲得した阿曽達治シェフの右腕だった吉越シェフ。今は阿曽達治シェフに変わりひらまつグループのイタリアン統括を務める。2016年にオープンした奈良「リストランテ オルケストラータ(Ristorante L’ Orchestrata)」でミシュラン1ツ星を取り、現在は「ザ・ひらまつ ホテルズ&リゾーツ 仙石原(THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 仙石原)」料理長だ。
数年前は「リストランテASO 福岡・天神」料理長だった。その吉越シェフが久しぶりに来福してのガラ。5日前から福岡入りして窪津朋生シェフらと試作を重ねたと言う。いつもながら吉越・窪津の師弟コンビの饗宴に期待が膨らむ。さぁまずは乾杯と行こう、グラスシャンパーニュ、「ドゥラモット ブラン・ド・ブラン ひらまつ(Delamotte Brut Blanc de Blanc Hiramatsu)」で爽やかに喉を潤しながらメニュー拝見。

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そこにもくもくとスモークと共に彩鮮やかな料理が運ばれてきた。「百合根とたんぽぽのスープリ 鬼灯に見立てて トマトのピスタチオ 夏野菜と鱧のコストレッタ カッペリーニと青竹」だ。自然豊かな箱根の森を早朝散歩するのが日課だと言う吉越シェフ。そんな時に目に入る雄大な「雲海」をイメージしたとの事。相変わらず意表を突くプレゼンテーションにテンションも上がる。
夏の朝露をイメージし漂う煙のなかにレモンの香りを含ませた。フレッシュトマトにはキャラメリゼしたピスタチオをまぶしている。ピスタチオのザクザクの食感と、シチリアンルージュの瑞々しい酸味と、キャラメリゼの甘みを楽しむ。艶やかなほおづきの中には蒸し上げた百合根・ベーコンを入れ、パプリカパウダーをまぶした。下には「京都しそ大根」も添えている。それぞれを収穫する様に味わうわけだ。

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手前の竹筒には夏らしくソーメンを彷彿とさせる「カッペリーニ」が竹箸に巻かれている。島根県産蜆のトマトソースに落としてつけ麺のように頂く。白海老の旨味も加えたソースも何とも美味。ゴーヤ・きゅうり・枝豆・叩きオクラなどの夏野菜を爽やかに入れた。
更に横に添えられるのが「愛媛産鱧のフリット」、これも良かった。上には京都の昆布、梅肉を合わせたアイオリソースを塗った。ASO時代から続く吉越シェフらしい楽しくも美味しい料理達に「妻はもう満足で帰ってもよいかも~」と早くもご機嫌だ。
「ガラディナー」ではプレートに合わせてグラスワインも用意されているが、我が家はいつもの様にボトルでお願いしよう。今回も心得たもので担当の重松冬樹ソムリエがグループ内「六本木テラス フィリップ・ミル」に相談し飲み頃のシャンパンを用意してくれていた。

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数本の中からチョイスしたのは、妻希望のピンクが夕日にキラキラ美しい「テタンジェ コント・ド・シャンパーニュ ブリュット・ロゼ(Taittinger Comtes de Champagne Brut Rosé)2006年」。シャンパーニュ侯爵チボー4世から冠したテタンジェのプレステージ・シャンパーニュだ。グラン・クリュのシャルドネ30%とピノ・ノワール70%。我が家が好きなロゼの1つだ。
シャルドネ用グラスで提供されるオレンジの色調を帯びた濃いピンクの中に、微細ながら溌剌した泡も輝いて美しい。チェリー・ストロベリー・仄かなシソのようなハーブ・白桃・蜜・・調和の取れたチャーミングで豊かな香りが流れ出す。クリミーなアタックから背筋の通ったミネラルと酸が骨格をなしつつ、バランスよく味わいを纏め上げる。ほろ苦い余韻も心地良くエレガントだ。

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次に運ばれた料理は梅雨の香り放つ「天然鮎とゴルゴンゾーラのリゾット 蓼のピューレ」。ラベンダーやディルなど複数のハーブの香りが流れ、部屋が一気に青々しくも瑞々しい空気に包まれる。器からはみ出るように大きな蓮の葉、その中心に香草のブーケが刺されている。そのブーケに沿って蓮の葉の中心から「マグロ節に焼いたアユ骨で取った出汁」をゆっくりと注いで行く・・何とも風情ある趣向だ。
妻は「なるほど!木々の湿った青々しい香りがすごい♪箱根の景色が見えるわ!」と感心している。蓮の蓋を外すと「大分日田産の天然鮎」、あさり出汁のフランやリゾットが潜んでいる。木の芽やピンクペッパーもアクセントに今年の鮎を堪能する。夏の香りと共にとても美味しく頂けた。
ちなみにコースに用意されたペアリングとしては、小麦を活かしたドイツホワイトビール「ロココ東京 ホワイト(ROCCO Tokyo WHITE)」を合わせていた。

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せっかくだから一口頂こう。ビールだがワイングラスに注がれる・・なるほど苦味同士をまろやかに同調させるピッタリのペアリングだろう。これはひらまつグループなど厳選されたレストランでのみ取り扱っており、一般販売はしていないのがウリらしい。ラベルもオシャレで、ロゴにも細かな意味が隠されているそう。
次の料理は、有田焼と唐津焼の器を使用した「長崎五島産アオリ烏賊をつかったイカ墨のスパゲッティーと茹で上げ毛蟹」だ。ズッキーニとパプリカなどをつかったソースプロヴァンサルソースにディルの香り。イカスミの黒・イカの白、ソースのカラフルな色が並べられる。横には毛ガニのスープが添えられる・・蟹味噌にアオサを合わせたものだ。これをパスタにかけて完成する。

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さまざまな旨味と甘さが調和した濃厚な味わいに昇華しワインも進む。一方妻は「料理として完成してるからワインいらないね」とモクモク食している。吉越シェフは今までは、客の食後ビジュアルを考慮して「イカスミのパスタ」を積極的に作ってこなかったらしいが、今回は満を持して登場との事。
では楽しく食べ応えのある料理に合わせて、赤ワインもボトルでチョイスしていこう。重松ソムリエお勧めの中から、サン・ジュリアン「シャトー ベイシュヴェル(Chateau Beychevelle)1982年」にする。いわずもがなボルドーのビックヴィンテージの1982年。そういえば去年の「吉越祭(Festa d’Estate 2018)」では「シャトー・ラ・ラギューヌ(Chateau La Lagune AC Haut-Medoc)1982年」を楽しんだ。

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その他も同ヴィンテージで「アサヒナガストロノーム(ASAHINA Gastronome)」にて「シャトー・ラトゥール(Chateau Latour)1982年」を、恵比寿「ガストロノミー・ジョエル・ロブション(Joel Robuchon)」にて「シャトー・オー・ブリオン(Chateau Haut-Brion) 1982年」などを楽しんでいる。
この夜「シャトー・ラ・ラギューヌ 1982」がグラスに注がれると、色調は綺麗な熟成を感じさせつつも「1982年」とは思えない若々しさも感じられるニュアンスだ。腐葉土・乾燥ハーブ・焼いたピーマンの粉末・杉の木の皮・・タンニンは溶け込みややきつめの酸が伸びる。その中にいかにもボルドー左岸らしい上品な涼やかさも感じられる。酒質は綺麗で保存状態の良かったことを物語る。

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ただ「ベイシュベル」のポテンシャルとしては下降気味で、飲み頃は過ぎつつあるかもしれない。それでも微かな果実の甘みと旨味が熟成したボルドーの楽しさを演出してくれた。
そして次に運ばれたのが「フカヒレのアクアパッツァ 麻婆豆腐とチンゲン菜とともに」。熱々グツグツが見て取れる・・運ぶのも慎重だ。まるで温泉宿の小鍋と言った風情。聞けば吉越シェフが特注した信楽焼の小鍋と、地層から直接切り出す「能登の小切り出し」と言うこだわりだ。
大ぶりな「気仙沼フカヒレ」が主人公、妻は「中華?」と驚いている。口中が火傷しそうな熱さの「カツオの一番出汁」にトマト・バジル・青梗菜、下には自家製の胡麻豆腐。トマトの酸味やバジルなどでイタリアンに着地して行くのがさすがだった。

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ふと気が付くと外はすっかり日も落ち、メインダイニングから漏れ聞こえてくる騒めきも大きくなり、ガラディナーの盛り上がる様子が伝わってくる。メインは「九州産牛ヒレ肉 セルバチコのサラダ こだわり卵とペコリーニ添え」。まずセルバチコのサラダが運ばれてくる。それからココット鍋に乗せられたヒレ肉が運ばれて卓上で添えられる。最近よくみかける「福岡産牛肉フォレ」だ。
熱海の生産者・谷口氏による「セルバチコ」の下には、京都産白味噌で包んで味を染みこませた「佐賀の卵の黄身」。赤ワインビネガーとオリーブオイルのソース、牛スジのソースも敷かれてる。ペコリーノチーズが掛かった山盛りのセルバチコは優しい味わい。食べてる後半に苦味が立ってきて沢山頂ける。その味わいが一層フィレ肉の良さを引き出してくれた。

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そう楽しんでいたが「これにはベイシュベルとは合わなくない??」と言う事になって、結局赤ワインを追加注文する。これもソムリエお勧めにあった「シャトー・オーブリオン(Chateau Haut Brion)1996年」のデミボトル。以前もこの同「1996年」はフルボトルで飲んでいるがさてどうだろうか。
グラスに注がれると甘い黒果実・・タンニンは溶け込みシルキーだか、余韻に若干のスパイシーさを残し、オーブリオンらしいニュアンスが感じられる。ハーフボトルなので「1996」というヴィンテージよりは熟成が進んでいたが、気分を変えて楽しめて結果良かった。そこへ主役の吉越シェフやスタッフ達が続々挨拶に来て、近況などワイワイ楽しく盛り上がりしばし歓談する。

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もうすっかり身も心もいっぱいと言う所で、コースの最後はデザートがやって来る。「リストランテASO 代官山」シェフパティシエが作る「ココナッツティラミス」だ。デザインも印象的。数年前マレーシアに行った時のイメージを膨らませたとの事。パッションフルーツと宮崎産マンゴーを、上のキャラメルのジェラートと楽しむ。
添えられたホワイトチョコレートの「テントウムシ」なども若細かい仕立てで可愛い。南国的だか爽やかさもあり美味しかった。冷やして置いた「コント・ド・シャンパーニュ ロゼ」も合わせ、今日のコースの最後にピタッリと来る夏らしく楽しい味わいであった。
吉越シェフの愛弟子である当レストランの窪津シェフの料理も年々着実に美味しくなっているが、吉越シェフのメニューは独創的でまた別格であった。

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師匠が毎年来福して刺激を与えてくれると言うのも窪津シェフには幸せなことだろう。「次はまた進化した窪津シェフの料理を食べに来なくてはね」と妻と話しながら今宵の余韻を楽しむ。
この秀逸なガラディナー「Festa d’Estate 2019 by 吉越謙二郎」は、福岡を皮切りに奈良「リストランテ オルケストラータ(Ristorante L’ Orchestrata)」・大阪「リストランテ ル・ミディ ひらまつ」・代官山「リストランテASO」で順次展開される。それぞれの地域のこだわりの食材による変化を加えつつ、吉越シェフが統括するというから大変だろう。「また来てね」と吉越シェフに手をふりながらまだまだ盛り上がるガラディナーを後にした。