前夜からの雨も上がり緑の木々も艶やかに美しい京都。宿泊先の東山五条「フォーシーズンズホテル京都(Four Seasons Hotel Kyoto)」から向かったのは、我が家のお気に入り京都フレンチ「レストラン モトイ(Restaurant MOTOI)」。大阪「ハジメ」などで修行した前田元シェフの名前を冠したレストランだ。
町屋が並び情緒ある中京区富小路通、二条下ルと元々は呉服屋だった大きな屋敷(180坪)が見えてくる。「MOTOI」と描かれた白い暖簾が目印、一見するとレストランとは分からない。門から石畳のアプローチを進みガラスの引き戸を入ると、歴史ある日本家屋を再生したモダンで落ち着きある素敵な空間が広がる。

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玄関段差上がって木造りダークブラウンのダイニングは、天井をぶち抜いた吹き抜け状態。余裕ある配置で白いテーブルクロスと白壁が映える。中央の大きなフラワーアレンジメントも華やかに、モダンで開放的ながらも日本らしい侘び寂も感じる造りだ。この風情が「モトイに来た」という気持ちにさせてくれる。
そしてダイニング奥、ガラス越しに見えるのは美しい中庭。青苔に灯篭や手水鉢が京都らしい風情。その向こう側更に奥が蔵を再利用した個室となる。そんな中私達が案内されるのは、ワインセラー前の厨房寄りにあるいつもの半個室。他の客が余り目に入らない静かな場所で気に入っている。

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テーブルにはいつもの綺麗な鶯色「伊賀焼(土楽窯)」皿。ランチの時間は観光客・地元客などであっという間に満席近くなっていく。定番付け出しのマドラス風味の「ヘーゼルナッツのカラメリゼ」を口に運びつつ、まずはシャンパーニュをチョイスしよう。モトイの楽しみの一つは充実したワインリストを見る楽しみだ。この日も担当してくれたのは中野裕菓ソムリエール。
昨晩は軽めのフルーティなシャンパン「ジャクソン キュヴェ No741(Jacquesson Cuvee #741)」だったので少し重厚感あるシャンパンを探す。選んだのは「アンリ・ジロー アルゴンヌ(Henri Giraud Argonne)2004年」。その名の通りアルゴンヌ森のオーク新樽100%が特徴だ。ピノ・ノワール70%、シャルドネ30%。

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アンリ・ジローといえば「フュ・ド・シェーヌ アイ・グラン・クリュ(Henri Giraud Ay Grand Cru Fut de Chene)」がプレステージシャンパーニュだった。その「フュ・ド・シェーヌ」がマルチヴィンテージになり、2002年から「アルゴンヌ(Argonne)」が新プレステージシャンパーニュになった。その後「2004年」「2008年」そして「2011年」まで出ている。
木村硝子の田崎真也ソムリエデザイン「TASAKI SHINYA WINEGLASS COLLECTION」チューリップ型シャンパングラスに注がれると、深めのゴールドが店内に映える。クリーミーなテクスチャー、ブラッドオレンジ・黄桃・・そして熟成と木樽のニュアンスを感じるシェリーのニュアンスがいかにも「アンリ・ジロー」らしい味わい。ドライなミネラル感に苦味・塩気を伴った長い余韻だ。

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オークのニュアンスをぐっときかせながらもどこかフレッシュ。そんな味わいが印象に残るシャンパーニュだ。そんな中、にこやかに挨拶に来られたのは田中秀和支配人。実は福岡にかつてあったワインバー「シェ・モリタ」にいた方。東京・白金のレストランを経て「モトイ」に入った。「福岡に戻る事も検討しましたが、縁あってこちらに来ました」と言う事で、地元博多の話題にも花が咲く。
賑やかな厨房には、聞けば春から新しいスタッフも多数入ったと言う。きちんと週休2日をとり、長期休暇も取れるようにしている「モトイ」。スタッフが活き活きとしている事も良さだろう。そうそう2月には「モトイ」の姉妹店として「レクラ(L’eclat)」がオープンした。気軽なフレンチをアラカルトで楽しめ、21時以降はワインバーにもなるそう。以前こちらにいた中村尚一郎ソムリエなどワインの造詣深いスタッフが多いモトイらしい店舗展開である。

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では、ランチのお任せコース「旬のコレクション」(Collection DeSaison)を頂いていこう。まず運ばれたのはガラス器にピンクが映える「甘海老と白アスパラ」。テーブルで白いソースが流される。この時期らしくさっぱりと頂ける前菜だ。甘エビのネットリした海の甘味、それにフランボワーズの爽やかさも加えて。白アスパラガスのブルーテが全体を柔らかくまとめ上げつつ、最後に木の芽の風味が微かに漂うのがモトイらしい。
海藻を練り込んだフランス産発酵バターにバゲット&チャバタも頂く。続く「フォアグラと青梅のジュレ」は、「夏の京」らしく水無月の形に成形した前菜だ。上にはチョコレートのクランベリーやコリアンダーの新芽を飾った。チェリーの一種「ユスラウメ」の甘酸っぱいソースも点描されている。甘酸っぱさを感じながらも、ふくよかでリッチな鴨フォワグラを楽しめる一品だ。

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そしてこちらが楽しみにしていた「麻婆豆腐」!フレンチとは思えないネーミングに妻も興味津々である。「お客様にも大変好評でして、最近のスペシャリテなんです」とは日焼け顔も爽やかな前田元シェフ。豆腐に塩、オリーブオイルをいれて細かなムースに仕上げた。自家製ラー油を流して京都産ひき肉を添えた。
「麻婆豆腐と分かっていたのに見て驚いちゃった♪ お代わりしたい」と喜ぶ妻。ピリッと辛くまさに麻婆豆腐様のニュアンスを漂わせつつも、きっちりとフレンチ前菜に着地しているから不思議だ。10年余り中華も修行したシェフでしか作れない、正にスペシャリテだろう。完成度の高い味わいであった。

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次に運ばれたのは「アジアコショウダイのポワレ 京賀茂茄子と新玉葱のナージュ」。目の前で注がれる生姜の余韻の残るスープが、これまた芳醇で美味。熱々の賀茂茄子の食感もアクセントだ。パリリと仕上た皮目のアジアコショウダイを、スープの優しく滋味深い味わいがまとめてくれた。
赤ワインはソムリエールお勧めのこちら「メゾン・カミーユ・ジルー クロ・ド・ヴージョ グラン・クリュ(Maison Camille Giroud Clos de Vougeot Grand Cru)2006年」をチョイスする。1865年ボーヌに創設したネゴシアン、年6万本程と小規模。1550年の古樹で有機栽培かビオディナミの17農家。2001年からはダヴィット・クロワが醸造責任者となり、評価を上げた(2005年にはドメーヌ・クロワも立ち上げた)。

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赤黒果実の甘味と旨味、そしてきめ細やかなスパイシー感が料理に寄り添う。軽いながらも丁寧な抽出を感じさせる。レッドチェリー・薔薇・スミレの華やかな香り、余韻は優しく程よく収斂する。穏やかな樽使いで溶け込んでいる。青っぽいニュアンスは全房発酵由来だろう。
そんな中に運ばれて来たのは「ヴァンデ産クロワゼ鴨のロティ」。カリッと焼いた皮目部分から脂の旨味が滲み出る。クロワゼ鴨らしい血液の凝縮したような赤身肉の風味を活かした火入れだ。そこにフロマージュブランのソースが味わいを和らげ、木の芽のオイルが余韻に変化を加える。更に木皿に乗って供せられる付け合わせは皮つきのコーン。優しく香ばしい香りに甘い風味のコーンは、髭まで甘く食べられる。これがまた料理に寄り添ってくれ良かった。

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さぁワインで一息ついて登場するデセールは3種類。フレンチレストランの醍醐味で甘いものもたっぷりと味わって欲しいと、バランス良く出てくる。まずは「西瓜とヴェルヴンヌ」で、クロワゼ鴨で一杯になったお腹をさっぱり爽やかに。2品目の「濃茶のクレームブリュレ」は、白餡とホワイトチョコレートが潜み、絶妙でその優しい甘みに包まれる。
最後は「マスカルポーネのムースとマンゴーのコンディアン」で締めくくられる。オリーブのソルベにパイナップルのチュイルも飾った。マスカルポーネのまろやかさと、甘く香るマンゴーの組み合わせは初夏らしく、妻も満足そうに微笑んでいた。ミニャルディーズはいつもの様にトレイに並んだ「生キャラメル」「州浜」「大徳寺納豆入りマカロン」「カヌレ」「キンモクセイのゼリー」「コーヒーのクランベリー」。

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それらを紅茶と共にじっくり味わう。梅雨も緑が美しい庭園を愛でつつ頂く京フレンチのランチはまた格別だった。「旬のコレクション」というネーミングらしく「京の初夏」を感じる爽やかなコース料理。フレンチらしい美味しさと前田シェフのオリジナルなセンスを今回も満喫することができた。
前田シェフ・田中支配人が見送ってくれる中、車に乗り込みつつ手を振り、今回も満足の気持ちで店を後にする。今日から7月、京都ではいよいよ日本三大祭りの一つ、千百年余の歴史誇る「京都祇園祭」が始まった。ただでさえ観光客であふれる京都、更に更に世界中から人が集まって大賑わいの1ヶ月になるだろう。

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