初夏を感じる連休明け、いつもの福岡~東京日帰り出張のこの日。仕事を終え羽田空港に向かう前の夕方、急いで向かったのは新橋から虎ノ門の間の西新橋。賑やかな外堀通りから一本裏に入ったビル群の路地に、風情ある数寄屋造りの一軒家が見えて来た。二本の柳が揺れている・・「しまだ鮨」だ。アンリ・マティスに師事し昭和に活躍した洋画家・佐野繁次郎氏が手掛けた手書きの看板が目を惹く。
歴史を感じる暖簾を潜るとタイムスリップしたような懐かしい空間が広がる。カウンター内から優しく笑う御主人は、我が家お馴染みの博多寿司「鮨割烹 やま中 本店」御主人・山中琢生氏の甥で、彼の右腕を務めていた山中強司氏。客だけでなく職人達からも信頼厚く人気もあった。いずれは「やま中」の跡を継ぐのだろうとてっきり思い込んでいた。

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ところが十数年前、昭和初期から70年以上続いていた新橋の「しまだ鮨」を買取り営業を開始した時は大層驚いたものである。現在では東京の常連客、九州・山口の政財界の客にも人気の寿司屋になっている。そういえば安倍晋三総理大臣や相撲協会・八角理事長も顔を出している。我が家も接待に使わせて貰っていて、先日も青薔薇の襖絵が素敵な2階個室にお連れした客人達も、お腹一杯美味しかったと大層喜んでくれた。一見客はほとんどいないと言うが、そう言った使い方が似合う隠れ家的鮨屋だ。
1階は12席のL字カウンターが左手に広がる。右手には階段があり、2階の5個室に繋がる。カウンター正面に付け台があり、左右に美しいネタケースが鎮座している。時代を感じさせる店内内装も佐野繁次郎氏が手掛けたという。時間もなく挨拶だけで失礼するつもりが、やはりカウンター中央に座って、軽くつまみから握りまで頂く事になる(笑)

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ちなみに店内の写真撮影は禁止だが(個室は除く)、早い時間で他のお客さんが来る前だったので特別に撮らせて頂いた。相変わらず会話上手な御主人、妻も昔から「つよしく~ん♪」と懐くくらい楽しい人だ。冷酒を頂きながら少しツマミを頂こう。京都の老舗酒造「澤屋まつもと」の純米酒を選ぶ。口当たりよく上品で端正な味わい。高い酸とコメの旨味が鮨を引き立ててくれそうだ。
ちなみに日本酒は「鍋島」「東一」「浦霞」「開運」など、焼酎は鹿児島・大分などから計15種類以上の充実したラインナップとなっている。まず出されたのは「アコウ」の造り、そして生きた「とり貝」は目の前で叩いて。更に「子持ちシャコ」や鹿児島産の大きな「ソラマメ」と続く。「しまだ鮨」の魚は毎日朝に福岡・長浜に注文して空輸されてくる。足りない分を築地で補うと言うから面白い。

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「鯛」の刺身はオリーブオイルでマリネして、上に宮崎のキャビアを乗せた。オリーブのネットリした触感と風味にキャヴィアが塩気を補う。これがとても良かったので、時間があればシャンパンを開けたかったと悔しい気分になった(笑)その他にも「フグのから揚げ」「ふかひれの茶碗蒸し」「焼魚」など色々美味しいのだが、この日は時間がなくゆっくり楽しめない。そして2階個室に客が次々と入り始めたので、早速握りをお願いする。
まず「鯛」はシャリの旨味とバランスが良い。続いて「半生の車海老」は博多前出身らしい。シャリは黒酢をベースに強司氏がオリジナルに仕上げたもの。握りの形も美しくネタとバランスが良い。和歌山那智勝浦の「マグロ」は、この時期らしい淡くもしっとりした脂がそのシャリと混じる。「コハダ」は絶妙な塩梅のしめ具合がかなり好みだ。

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ここで2種類目のお酒もお願いする、山口・旭酒造「獺祭 純米大吟醸 磨き三割九分」だ。皆で一緒に乾杯するのが楽しい。ちなみに横に並ぶ職人さんも福岡・糸島出身。九州ネタの話題も含めて強司氏と阿吽の呼吸の接客でこぎみよい。ほろ酔いで寛いでいるうちに新橋にいる事を忘れ博多で食している気分になってくる。そう言えば強司氏は福岡に帰省する度に「鮨 木島」「鮨 副島康広」など「やま中」を独立した後輩の鮨店を、時間を見つけては回っているそう。後輩の面倒見も良く人気があった強司氏らしい話だ。
さて続くは長崎の「さより」、塩と梅肉を乗せて華やかな出で立ち。今朝空輸された新鮮なコリッとする食感に続いて仄かな甘味が残る。瀬戸内の「平貝」は細かく刻んだ松の葉昆布を乗せた。更に熱々でトロリとして蕩けていくような「穴子」を頂き、最後に更に「コハダ」を所望する。

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カウンターにも次々とお客さんが来られ、気が付けば飛行機の時間も近づいていた。名残惜しいがこの辺りで締めて貰おう。「今度は奥様と来られて下さいね」と店外まで見送ってくれた強司氏。またの再会を約して羽田空港に向かった。次回は妻共々シャンパンでも開けてゆっくり過ごしたいと今から楽しみだ。