新緑美しき長いゴールデンウィークもようやく過ぎ去り、やっと落ち着いたここ数日。今日は桜咲き誇る先月に来日していた、フランスで唯一2つの「ミシュラン3ツ星レストラン」を持つヤニック・アレノ(Yannick Alléno)シェフの招喚フェアのご報告をして置こう。
ヤニック・アレノシェフと言えば、パリの「バヴィロン・ルドワイヤン(Alléno Paris au Pavillon Ledoyen)」、リゾート地クールシュヴェルの「ル・1947・オー・シュヴァル・ブラン(Le 1947 au Cheval Blanc)」でもミシュランガイド3ツ星を獲得した。2007年以降3ツ星を保持していることになる。また、フランス・モロッコ・ドバイ・中国・香港・韓国など、世界5ヵ国16のレストランに関わっているという。今回の来日は、4月から来年1月まで世界からスターシェフ約30名を招いて、日本の旬の素材を活かしたスペシャルメニューを提供する「クック ジャパン プロジェクト(COOK JAPAN PROJECT)」の第1弾筆頭企画だ。

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5月にはスペイン3ツ星のダニ・ガルシア (Dani Garcia)シェフ、6月にはペルーからは「世界ベストレストラン2016」4位のヴィルヒリオ・マルティネス(Virgilio Martinez)シェフ、7月にはシンガポール2ツ星のジュリアン・ロイヤー(Julien Royer)シェフなどなど10ヶ月に渡り多数の有名シェフ来日する。と言う訳で、宿泊先の「マンダリン オリエンタル 東京(Mandarin Oriental Tokyo)」からそれらの舞台となる「コレド日本橋アネックス(COREDO日本橋ANNEX)」へ向かう。
旧「スペイン料理 サンパウ」の跡地が「COOK JAPAN PROJECT」のダイニングだ。遠くからも1階のガラス張り厨房が明るく様子が見える・・ヤニック・アレノシェフもいる。妻は彼のパリ「ル・ムーリス(LE MEURICE)」時代のファンだったので「あれ?ヤニックだよね?!」と二度見している(笑)店内は「サンパウ」時代のまま、赤と黒のスパニッシュな世界だ。

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2階の広くはないメインダイングに案内される。既に満席、3つのエリアに区切られ料理も徐々に運ばれている様子だった。まずは乾杯をしよう。この日は「Yannick Alléno」コースに合わせてワインリストも用意されていたが、余り響くものがない。店のワインリストをもらって「ルイ・ロデレール クリスタル ブリュット(Louis Roederer Cristal Brut)2007年」をチョイスする。
数日前に家で同「2009年」を開けていたので飲み比べの意味もあった。ゴールドラベルのクリアボトルからグラスに注がれるキラキラの泡・・柑橘に少し熟成した土、甘さを感じるアジアンスパイス。「2007年」だが思ったより若すぎず調和してる。エレガントな酸が旨みと重なり、塩気を感じるキレのあるミネラルを経て長い余韻へとつながる。そこへヤニックシェフがテーブルに来て、ハグをしたりインタビュー撮影中の場所へ案内してくれたりと、妻は既に満喫している(笑)

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そんな中アミューズ3種が運ばれて来た。「かぼちゃのエクストラクションのタルテレッタ」はサクサクの軽いタルトの中にエクストラクションのゼリーが入っている、仄かに甘い味わいの一口サイズだ。上にもカボチャの実を飾っている。この「エクストラクション」とは2013年に彼が特許を取った独自の料理技法「エクストラクション」で、彼の十八番と言ったものになる。
「各食材を適切な温度で調理することにより、油や他の食材を使用せずに、素材の純粋な味とミネラルを引き出すことを可能にした。これによりフランス料理の真髄であるソースの新たな可能性が開かれた」と言う。そんな「かぼちゃの~」に対して2つ目「ラングドシャ、ウナギの燻製クリーム」はグッと強い味わい。筒状に形成したラングドシャに鰻の燻製ムースを入れた。3つ目「有明産の海苔を練り込んだパイ 蕎麦の実のリゾット」のパイ生地はカリリと固め。

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そこに濃厚なミルクの風味と蕎麦の実の食感が絡んだ。個性溢れる変化に富んだアミューズである。続いて前菜1皿目「セルリアックの モダンレムラード」が運ばれてきた。伝統的なセルリアックのサラダをヤニック流に再構築したサラダだ。セルリアックのエクストラクションのゼリーは、トコロテンのような不思議な食感。熟成卵黄のマヨネーズとトマト・バルサミコ・カレーで作ったソースと共に味わう。ソースの複雑ながら柔らかい味わいが加わって食べ進ませてくれる。それでも後半はやや食べ飽きるが、日本人シェフにはない面白い味わい。
そして2皿目、メニューには「スープ ド ポワソン」とだけどあるが、完全に予想を裏切られる楽しい仕立てであった。まずは皿に「赤ワインビネガー・バスク産エスプレット唐辛子と醤油でマリネしたイワシ」が乗っている。それに別皿の「オリーブオイルとスダチで作った氷上に盛られたイトヨリ鯛」が乗せられる。

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それを絡めて最初に一口楽しみ、更に「鶏冠海苔のエクストラクションと魚出汁で出来たミルク状のソース」をかけて二度楽しむと言う趣向だ。最後にはパスタ(カペレッティ)に加えて、お茶を点てるような演出の「82度で2時間かけたミルク状の舌ビラメのエクストラクション」、そして何と茶筅をひっくり返した筒から出てくる「乾燥舌平目の粉」とかなり斬新な食べ方と味わい。イワシの生のニュアンスに温度の低いミルクソースが絡む・・
正直美味しいとは言い難いが、これまた独特の感性と言うのだろうか。凝り過ぎた演出を含め、日本人は辛うじて付いて行けるが世界的にはどうなのだろう・・今回の日本フェア用に敢えて「生魚のニュアンス」を強調したのかもしれない。さて次は緑が鮮やかな「チーズスフレ 静岡県産フレッシュキャビアと秋田県白神山地のクレソンクーリー コロナータラルドをともに」。

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登場したのは熱々の「コロンナータラルド」、トスカーナ州コロンナータ村で作られる豚の背脂の塩漬けだ。それを100度で火を入れテーブルでサービスされる。濃厚な香りがテーブルに漂いコース中盤に食欲をそそってくる。プレートには白いチーズの軽いスフレとコンテチーズのエクストラクションが緑のクレソンクーリーに浮かんでいるよう。燻製うなぎバターを使っていて独特の味わいもある。
上には南アルプスの水で育った静岡産フレッシュキャビアをたっぷり乗せ、カットしたコロナータラルドを添える。チーズに加えてキャビアと濃厚背脂と、塩気を重ねた味わいにワインが進む。塩と風味の重ね方がかなり強い。骨格のある風味が豊かで大きさのあるプレートだった。さぁいつもはこの辺りで赤ワインをボトルでお願いするのであるが、リストには食指の動くものが見当たらなかった。

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食べ進める事が出来る気品あるやや若めのボルドー、例えば「ラフィット」あたりをイメージしていたが、フランスワインが余りオンリストされていない。考えてみれば営業しているレストランではなく、ワインに期待したのが間違いなのではあるが、ヤニックを招いたフェアにしてはちょっと寂しい。結局赤ワインを開けるのはやめた。
ちなみにサービス陣も一人一人は能力もありキチンとしているが、ほとんど目配りする余裕がない(予約人数を入れ過ぎの弊害か)。シャンパンもいちいち声をかけないと注いでくれないし、ミネラルウォーターはもうずっと自分で注ぐ羽目になった。とは言えソムリエに「グラスでブルゴーニュの白が欲しい」と伝えると、慌てつつも上と相談しセラーを探して「モレ・ブラン ムルソー(Morey Blanc Meursault)2000年」を開けてくれた。注がれたそれは、樽のゴム・レモンオイル・・洗練された酸味が美しい果実味と調和する。ピュアな果実香に滑らかなミネラル感が心地良かった。

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さぁそんな中、次のプレート「平目、グリーンピースのリゾット」が運ばれてくる。バターで軽くソテーした大ぶりな平目は、微かに感じるバターの風味と強めの塩気がフランス人シェフらしい。トマト・セロリ・パルミジャーノのエクストラッションで作った、新玉とねぎと新鮮なグリーンピースのリゾットが下に敷かれている。正に春を感じながら頂くと言った風情だ。別皿には温かい「ジャガイモのガレット」の上に「平目の縁側」と「エイの冷たいテリーヌ」を乗せて複雑さを引き出す(ただ少し魚臭さがポンと浮く感じがあり、縁側とエイは好みが分かれるかもしれない)。
もうかなりお腹一杯な所でいよいよメインの「A5ランク松坂牛と雲丹、燻製ウナギ、おにぎりのオマージュ 金箔コンソメをかけて」が登場する。添えられたおちょこには「金箔コンソメ」が注がれた。白味噌ペースや発酵胡椒も入った、牛脂と金箔の舞うコンソメスープのふくよかな味わいに何ともホッとする。

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A5ランクの松坂牛はグリルし、上には雲丹・スモークしたウナギ・海苔とアオサ風味の焼きリゾットを乗せた。日本人シェフならここまでトゥーマッチな組み合わせは避けるだろうが、意外と調和しているから不思議(笑) 合わせて提供される「牛タンとグリーンアスパラのサラダ」はさっぱりと口直し。昆布で巻いて72度で12時間火入れした牛タンとグリーンアスパラ。これをレモンゼリー、カブのエクストラクションとポン酢、シードルビネガーと言う3種類のソースと味わった。
最後デザートは3種。まずは「和歌山県産清見オレンジを使ったクレムブリュレ。真っ黒に焼いた清美オレンジが目を惹く。それを器にコンポート・松の実・クレームブリュレを入れて苦みのアクセントを味わうと言う趣向。加えて別皿で「甘いスパイスとシトラスのパイ」、パイ生地タルトにオレンジマーマレード、オレンジソルベを添えている。シナモンとクミンの香りが印象的。続く2種類目は「コーヒーソルベとチョコレートメレンゲのミルフィーユ仕立て」。

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コーヒーソルベとチョコレートメレンゲ、板チョコを重ねた。カルダモンの香りが特徴的だ。それに「ショコラのデザート」として温かいチョコレートムースと、冷たいチョコレートアイスのデザートが添えられる。3種目が「ボンボン キャビア チョコレート」、小さなボンボンショコラと国産フレッシュキャビアで締めくくられた。一人7万円のコースと言う強気の値段設定だけあり、プレート数は多い(ただウナギやキャビアなど食材が被る)。
全体を通じてヤニック・アレノの世界観と言うものは一応満喫できた。かつて「ガストロノミー ジョエル・ロブション(Gastronomie Joel Robuchon)」でロブション本人が陣頭指揮を取ったガラディナーなどと比べると、全体の完成度(サービス・プレート提供の間隔・用意されているワインなど)はかなり落ちてしまうが、それは当然として割り切ればそれなりに楽しめるイベント「COOK JAPAN PROJECT」であった。

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