年末年始の様な賑わいの改元「平成~令和」。平成最後の晩餐と言う事で我が家は、先日もご紹介した桜坂に3月オープンしたばかりの隠れ家的博多寿司店「鮨 副島康広」を再訪する。我が家お馴染み薬院の「鮨割烹 やま中 本店」を独立した副島康広氏が夫人と営む新進気鋭の鮨屋だ。小雨降るなか店前で車を降りると、開業当初エントランス外にまで溢れていた胡蝶蘭もようやく落ち着きを見せている。
「長崎あぐりの丘高原ホテル ”Agri Chapel”」を設計した百枝優氏(隈研吾建築事務所出身)が手掛ける店内は、更に少しずつ手を入れているという。カウンター客席周りの壁が「洞窟の様な」趣あるグレーで塗り直され、一層落ち着いた空間になっていた。客席足元のタイルと木目の筋を合わせると言う細かいこだわりの微調整も素晴らしい。その他化粧室、グラデーションな朱漆塗りが輝くカウンター内も、付け台の距離の変更や「能作」錫製の金銀花器の追加など・・様々な進化が見えた。

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聞けば「やま中」時代の客だけでなく半分以上は新客となっており、既にリピーターも増えていると言うから喜ばしい。順調な船出と言ったところだろう。と言う訳で早速席に座り乾杯といこうか。そうそう進化していたのは内装だけではなく、ワインや日本酒の品揃え。シャンパンはプレステージを複数仕入れてワインリストも作成されていた。「ワインは予想より良く出ます」と言う事だ。
そんな手書きリストの中からチョイスしたのは「ルイ・ロデレール クリスタル ブリュット(Louis Roederer Cristal Brut)2008年」。評判の良いヴィンテージ「2008年」だから楽しみだ。ゴールドラベルのクリアボトルに揺れるキラキラの泡が、新元号へ移行する目出度い夜にピッタリ。1776年ロシア皇帝アレクサンドル2世専用シャンパーニュとして創業した「ルイ・ロデレール」。この「クリスタル」は優良年にのみ造るプレステージ・キュヴェ。

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クリスタル専用畑は約60ha強で生産量は30万本程度。この「2008年」はピノ・ノワール55%、シャルドネ45%。開けるやいなや、かぐわしい果実の香りがふんわり流れ出す。カウンター内の副島氏にまで届くくらいだ。熟した果実と高い酸味が調和している。余韻にかけてクリスタルらしい気品ある旨味が残る。ちなみにスマートで軽量なワインクーラーも新しく備えたもの。
前回訪問時はスチールの大型クーラーに氷を入れていた。今回は「鮨 副島康広」と言う文字も彫られた「サスギャラリー(SUSgallery)」のボトルキーパー。デザインが良いだけでなく、チタンを用いた真空二重構造になっているため保冷効果も高い。飲み終えるまで温度は保たれていた。付け出しの「アスパラ豆腐」の仄かな春野菜の甘さと共に頂く。そして華やかな有田焼で運ばれる「オコゼの造り」。敢えて直前に締め濃い塩水で洗ったと言う艶やかな身が美しい。

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淡泊ながら上品で締まった身を添えられたワサビとコブで頂く。皿の中央には、アンコウの肝とあえたオコゼの胃袋、内皮に外皮。変化もあって楽しく美味しい一皿だ。妻も大層気に入っていた。続くは長崎五島の「アジ」。軽く皮目を焼いている。やま中由来の「こだわりの柿酢」にポン酢なども加えた特製の出汁をかけて供せられる。
前回も素晴らしかった香り豊かな「ハマグリのスープ」は同じく薩摩焼「沈壽官窯」で。今回は千葉産の大ぶりなハマグリ。水と昆布でゆっくり15分ほどかけて海の滋味深い旨味を抽出したスープだ。プリンプリン肉厚の蛤の身は、噛みしめるとエキスが流れ出す。さぁ次は「春野菜の和え物」。セリや焼き椎茸といった春野菜を雲丹と和えているのだが、更にその上に乗せられた大間の雲丹がまた良かった、マルクニ水産「銀次郎」Premium SP。香り豊かなウニの中から春の季節が顔を出すような風情だ。

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「鮨 副島康広」の仕入れ先は、「やま中」時代に培った柳橋市場のルート、加えて別鮨店を営む双子の兄の長崎ルートがある。続いて運ばれたのは長崎ルートからの「ナガスクジラの尾の身」。ルイベ状で口の中で蕩ける様を楽しむ。更に「長崎産マナガツオの味噌漬け」。黒い陶器にふっくらとした白い身がなんとも映える。塩で1時間しめた後、あら味噌で3日間漬けた。旨味とコクの乗ったなんとも美味な味わいだ。
そして長崎・対馬産の「のどぐろ(アカムツ)」、ブランド名「紅瞳(べにひとみ)」として人気がある。ゆっくりと火を入れて香り豊かに仕上げた。福岡では必要以上に濃い味付けで煮つけてしまい、のどぐろの自然で豊かな脂と旨味が隠れる事もあるが、副島氏は適度な味付けでのどぐろの特質を生かしていた。次はいよいよ、10時間近くかけてゆっくり火を入れた「玄海産黒鮑」の登場だ。この日のアワビは400g。

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アワビを炊いた出汁にクズを入れてトロミを出し、更に隠し味(オイスターや赤ワイン)を加えた出汁をかけて完成だ。一口含むと海のミルクの甘みがとろけ出す・・なるほど手間暇かけてるだけの味わいだ。「ゼラチンのプリンとした柔らかさは手間暇のおかげです」と副島氏。では日本酒も頂いてこう。「平成最後、そして令和を迎えるにふさわしい1本があります」と楽しそうな副島氏。
出してくれたのは華やかながらも洗練されたラベル、大川の老舗若波酒造の「若波 純米大吟醸令 和記念酒」だ。女性杜氏が作り出すと言う純米大吟醸(山田錦100%、精米歩合35%、アルコール16度)は1000本限定。白地に日の丸をイメージしたが目をひく。日の丸の中には若波酒造のロゴマークが浮かび上がる。3年間という長期醸造した。「能作」の美しい錫製器で頂く。とろりとした飲み口から、コクのあるふくよかな甘さが広がる。

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そしてさわやかな清涼感が味わいを包み込むように余韻に続く。そこで「日本酒に合わせてふくよかなウニの食べ比べ」をしようと言う事で、まずは出てきたのは「雲丹リゾット」。ムラサキ雲丹の風味が口の中で弾けて妻は「美味しすぎるお代わりしたい」とにっこり。「雲丹は素材が全てですから」と仕入れにはこだわっている。続いて「雲丹の茶碗蒸し」。こちらは宮城のバフン雲丹だ。
熱々の小さな茶碗の中には、イカ・銀杏・オコゼの身・穴子など盛り沢山に入って何とも贅沢だ。さて、お腹に余裕を残して「握り」に移行する。このあたりの量・流れの塩梅も副島氏は上手い。皿は有田焼・源右衛門。まずは沖縄の延縄の「中トロ」から。予約の時間に合わせて完成させるシャリは人肌。丁寧に(しかしテンポ良く)握る握りは流線型でより美しくなっているように感じた。「サヨリ」は軽く2~3時間だけしめたもの。昆布の微かな香りがサヨリの繊細な脂と軽やかな甘さを引き立てる。

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「石鯛」の昆布締めは8時間しめた。それでも副島氏は「自分のしめ方はかなり軽い方です。昆布をそーっと上に乗せるくらい。素材の風味を殺さず生かしたいんです」との事。美しい「車海老」は甲殻類の落ち着いた旨味を存分に引き出している。輝くような熊本天草の「コハダ」は、しっかりと締めた重量感ある味わい。細工も美しい「イカ」。ダイダイと柚子を振った爽やかさに続きイカの甘さが染み出す。
銚子の「キンメ」は濃厚な脂に柚子ごしょうが爽やかさを加味する。ここから皿が唐津焼に変わり出てきたのは「アマダイ」の昆布締め。羅臼昆布を乗せている。このあたりで追加の日本酒と行こう、滋賀・松の司「純米大吟醸 AZOLLA 50」(山田錦50%)。アゾラとは田んぼに発生する浮草の事。無化学肥料で栽培された田に発生するという。ワインではいわゆる自然派が人気であるが、ついに日本酒にもその流れと言う事だろうか。吟醸らしい華やかながらくどくない品のある香り。

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そこから上品な味わいが広がる。華やかさ・甘さ・酸のバランスが調和しており美しい酒質だ。「イサキ」は2日間寝せて、焼きじめにした。醤油・ゴマと生姜と共に香ばしさを感じながら頂く。豊前の「赤貝」はヒモと一緒に握る(これは手渡し)。力強い芳醇な海の香りが贅沢に広がる。「赤身の漬け」は行者ニンニクと一緒に漬け込み、仄かに香りのアクセントを加えた。
「穴子」は自分なりに改良を加えているとの事。外側は「やま中」譲りのカリッとした香ばしさを残しつつ、中はどこまでもふんわりと柔らかくゆっくり蕩けていく。最後は「玉」、そしてデザート。柑橘類のアイスクリームは爽やかさだけでなく、生クリームも加えてコクを出している。そこでデザートワイン的にフルーティな「若波 令和記念酒」に戻って、副島氏・奥様と歓談するうちに夜も遅くなった。20年を超えるキャリア、誠実な仕事から広げてきた仕入先、

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そして「1日中、店の中にいます」と言う副島康広氏の向上心があふれた鮨であった。新しい時代「令和」も幸多かれ!そう話しつつ手を振り店を後にした。そうだ今日・明日は福岡市民の祭り「博多どんたく港まつり」だ、全国から多くの人が集まり賑やかだろう。