ファッション界の帝王カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld 85歳)が2月19日パリで死去した。言わずと知れた「シャネル(CHANEL)」「フェンディ(FENDI)」「カール・ラガーフェルド」のデザイナー。体調不良で1月の「シャネル」クチュール・ショーには姿を現さなかったが、2月の「フェンディ」ミラノ2019-20年秋冬ウィメンズ・コレクションの準備には携わった。死去2日後に行われたショー後には、カールが自身の絵を描く追悼映像が流された。
3月5日はパリでカールが最後に手掛けた「シャネル」の2019-20年秋冬ウィメンズ・コレクション・ショーが行われた。グラン・パレには雪に覆われた山々が出現。1分間の黙祷後「まるで絵画の中を歩いているようだ」とカールの声が響き、彼の最後のコレクションが幕を上げた。ファーストルックはカーラ・デルヴィーニュ、アンナ・エワースやペネロペ・クロスも登場し華やかで幻想的なショーとなった。

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ラストはモデルたちが涙ぐんでいた。30年以上カールの右腕だったヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)が「シャネル」クリエイティブ・ディレクターに就任するとの事。また一つの歴史が終わりを告げた、ショーを眺めながらそんな寂しい気分になった。
と言う訳で先日伺ったのは銀座中央通り、松屋銀座のお向かいにある「シャネル銀座ビルディング」だ。ニューヨークの建築家・ピーター・マリーノ(Peter Marino)が設計したのは2004年。キルトレザーやツイードの様な波打つ黒のファサードは銀座の顔と言える。その最上階にあるのが、アラン・デュカス(Alain Ducasse)とのコラボレストラン「ベージュ アラン・デュカス 東京(BEIGE ALAIN DUCASSE TOKYO)」。マロニエ通り側の入り口、エレベーター内のシャネルマークボタンも健在だ。実は、昨年秋にレストランの内装がリニューアルされたんだった。

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楽しみに思って10階エレベーターを降りる。ジェローム・レオナール(JÉRÔME LÉONARD)総支配人が出迎えてくれる。今回のデザインもビル同様ピーター・マリノ。受付から長く続くラウンジエリア。前は照明でゴールドに輝くメッシュ・スクリーンだったが、明るいベージュの壁にベージュのソファ、濃淡2種のピンクのツイード柄のクラブチェアが並んでいる。妻は「あら♪ピンクのマカロンが並んでるみたい」と上品で優しい空間に嬉しそうだ。
定期的にアート作品が展示されるギャラリーにもなっているそうだ。そこを通って案内されるのは、窓に向かって広がる洗練のダイニング。落とした照明の中、銀座のネオンを映すガラスが天井まで届き、各テーブルが浮かび上がる。目の前には「ブルガリ」「カルティエ」のロゴが煌めく。歩くスタッフの制服はもちろんカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)が手掛けた。仕切りや壁、ソファーや椅子まで全て新調されたベージュ色のインテリア。

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以前より全体的に明るく軽やかな印象の“シンプル&エレガント”になっている。各所のシャネルマークや「ココ・シャネルの蛙」はそのままで、シャネルの世界観は相変わらずだ。段差上のいつものテーブル席、落ち着いてじっくり美食を楽しめる空間で気に入っている。見上げる壁にも新しいシャネル的モダンアートだ。まずは乾杯しよう、ワインリストも様々なワインが配置されている(約400種のセレクション)。
世界30店程あるデュカスグループ全てのワインを統括するジェラール・マルジョン(Gerard Margeon)ソムリエが監修している。相変わらず「ペリエ・ジュエ ベル・エポック(Perrier Jouët Belle Epoque)」が充実している。そして今宵のグラスシャンパーニュは「ドン・ペリニヨン ヴィンテージ 2008 レガシー エディション(Dom Pérignon Vintage 2008 Legacy Edition)」との事。当然ながら妻の一言でこちらを頂く事にする。

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28年間ドン ペリニヨン醸造最高責任者を務めたリシャール・ジェフロワの集大成となる輝く黄金の引退ボトルだ。通常ボトルも販売開始したが4月から値上がりする。「2008ヴィンテージ」はどのメゾンもなかなかの仕上がりを見せている。「2008年」のシャンパンはいつもより多く仕入れるというソムリエも多いと聞く。我が家も「ドンペリ2008」は例年より大目に注文済みだ。
黄金のラベルはまた一層のゴージャス感。グラスに注がれたそれは微細な泡とともに黄金に輝き、いつもながら魅惑のドンペリ香が漂う。硬いながらもどこか優しいミネラル感だ。高い酸が全体をまとめ上げる。「最初の頃の平板な感じから少し広がり始めた感じがします」と大塚信秀シェフ・ソムリエ。ここでアミューズ2種が運ばれた来た。米チップスの上にはアボガドのピューレにマリネしたヒラメを乗せて。チップスとひらめの食感のコントラストの後に、アボガドの微かなニュアンスが混ざり合う。

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もう一つは、自家製パスタの上に毛ガニを乗せて。こちらは滑らかな食感で、相変わらず上品なスタートだ。お馴染み小島景シェフは、アラン・デュカス曰く「世界で最も私の哲学を理解し実践する日本人シェフ」。続いて2品目のアミューズが運ばれてきた。印象的なフォルムのプレートにこんもりと盛られて美しく花も飾られている。なんと「キャベツのエスプーマ」と言うから面白い。
その中には白菜マリネとクルトンが潜んでいる。発酵させた漬物のようなニュアンスが「ベージュ東京」の料理としては斬新。美味しいと言うよりこれはまた興味を引く味わいだ。先日のポールボキューズ杯でも北欧勢が上位を独占したが、これも北欧を少し意識した一皿なのかもしれない。若々しくミネラリーで塩っぽさも感じる「ドン・ペリニヨン」との調和を楽しむ。次に運ばれたのは前菜の一皿目、「キャロットとブロッコリー、国産本マグロ赤身の炭火焼」だ。

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小島シェフからのサービースでペリゴール産の黒トリュフも削られており、妻のテンションも上がる(笑) 目の前でソースが流されて完成だ。やや緑っぽいマヨネーズソースには木の芽が効いている。一本釣りしたマグロの赤身は、炭火で軽く炙って旨味を引き出し、上にはやはり木の芽を飾った。小島シェフが長年毎朝仕入れて自ら銀座まで運ぶ鎌倉野菜。その中から数種類の人参、炙って歯応えと風味も乗せたブロッコリーが、このプレートの隠れた主役だ。
最初はマグロ目掛けてナイフを走らせるのだが、気がつくと人参とブロッコリーに集中している。愛媛産ミカンのピューレの微かな食感も感じる人参のソース。酸味を感じる人参のソースも美味である。中庸の甘みと酸味のバランスが、マグロと野菜を一つに包摂しつつ食べ進めさせてくれる。鮨で食べるマグロとはまた一味違う次元のマグロを食する、優しくも満足感の高い前菜だった。

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次にやって来たのは「北海道野付産帆立貝、アーティチョークとトレヴィーズ」。これには別途追加でお願いしていた黒トリュフがこんもりと削られている。このプレートもテーブルでソースが注がれて完成だ。アーティチョークやホタテのヒモ等から出汁のように時間をかけて取り、最後にレモンを加えたソースの深い旨みと酸味が何とも美味。主素材のホタテやアーティチョークを利用したソースが全体の風味を柔らかくまとめあげていく。
アーティチョークも「ピューレ」「ポシェ」「フリット」と食感の3変化が実に楽しい。更に青野菜、そしてローストして敷かれたラディッキオが微妙な苦味のトーンを醸し出す。味わいの中に複雑なコントラストが描かれ、プレートを引き立てる。大ぶりな帆立貝の芳醇かつナチュラルな甘みに、苦味と酸味が複雑に加わり、全体の味わいとして昇華する満足な一品であった。

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そこでこれに合わせてグラスの白ワインをお願いしたところ、大塚ソムリエが選んでくれたのは「シャトーヌフ・デュ・パプ シャトー・ド・ボーカステル・ブラン(CHATEAUNEUF DU PAPE CHATEAU DE BEAUCASTEL BLANC)2014年」。南部ローヌを代表するアペラシオン、シャトーヌフ・デュ・パプの生産者ドメーヌ・ペラン「シャトー・ド・ボーカステル・ブラン」。赤の印象が強いボーカステルの珍しい白ワインだ。
ルーサンヌ80%、柑橘系の若々しさの奥にたっぷりとした蜜を蓄えている。軽やかに感じるアタックから複雑な余韻が長く続く。妻も好みの白ということで楽しんでいる。そうそう「ペラン」といえば、ブラッド・ピット&アンジェリーナ・ジョリーとジョイントした「ロゼ・ミラヴァル」でも話題を呼んだ。夫婦は離婚したものの、6人の子供のために「ミラヴァル」は継続する。更に新たなロゼとして「ステュディオ・バイ・ミラヴァル(Studio by Miraval)」の発売も決まって話題を呼んでいる。

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では、赤ワインはリストの中からボトルで選んで行こう。話し合いながら結局選んだのは「シャトー・ラトゥール(Chateau Latour)1985年」。思えば前回もこちらで「シャトー・ラトゥール 1995」を開けていた。ボルドー5大シャトーの1つ、北西メドック地区ポイヤックで1331年からの長い歴史を誇る。ラベルには14世紀中頃に建てられてた円形の要塞「サン・ランベールの塔」が描かれている。
1855年に格付け第1級を獲得。1993年にフランソワ・ピノー(Francois Pinault)がオーナーになり大規模改革を行った。2012年からはプリムール商戦から撤退。自らのセラーで熟成させたヴィンテージのみを適宜リリースするという一大転換を行った。先日も2008がリリースされたばかりだ。グラスに注がれると、青ピーマンの苦味・細かい黒胡椒・・まだ若々しさも十分にあり中心部分の果実味は生きている。土の発展したニュアンスがいかにもポイヤック、そしてラトゥールらしい。

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「5がつくヴィンテージのラトゥールは1995年も1975年もこんなイメージですね」「昔ながらの栽培の昔ながらの作り方で興味深い味です」といつものように楽しげな大塚ソムリエの的確なコメントを聞きながら、妻もいつにも増して目を輝かせて楽しそうにグラスを傾けている。現代的な「ラトゥール」も楽しいが、クラシックな味わいが感じられる綺麗な酒質の今夜の「ラトゥール」は、最後まで料理と共にじっくり楽しめた。
さてメインの肉は「北海道オークリーフ牧場仔牛、リードヴォーとポワロー」だ。円形に流されたジュのソースの周りに並べられた仔牛達。美しい断面のロゼ色から予想される以上に、ミルキーで何とも滋味深い味わいである。やや歯ごたえもある食感から優しい風味を纏った旨みが滲み出る。ポワローのピューレ、そして火を入れられたポワローの甘さがさらに肉質を強調してくる。

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アクセントに漂うのが何とイワシの香り?!これがまた肉を食べ進めさせてくれる。郷土料理で肉とイワシを合わせる事があり、それをヒントに構成したと言う。万人に好まれるシンプルな美味しさにまとめつつ、フレンチらしい奥深さもこっそりと重ねる小島シェフらしい。着地点の調和と完成度がとても素晴らしかった。そうして一息付く頃、美しく管理されたチーズワゴンが運ばれてきた。ブリアサバラン、シャンパーニュ地方のラングル、コルシカ島のチーズなどが美しく並ぶ。
ワインも残っている事から、合わせていくつかチョイスしていこう。36か月のコンテとクロミエ、妻は羊を楽しむ。すっかり満足した所で「ベージュ東京」のお楽しみの1つであるはデセールがやって来た。ヤニック・アレノの下で長年腕を磨いたシルヴァン・コンスタンがシェフパティシエを務める。妻はもちろんシャネルのアイコン「カメリア(Camelia)」を模った「ル・ショコラ・アラン・デュカスのカメリア」。

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しかも出てきたのは、竹すみで黒く彩られたカメリア。正に「カール・ラガーフェルドの追悼」と言った美しくも悲しい喪に服した様なカメリアだった。添えられる「ショコラアイスクリーム」。一方私は春らしい華やかさの「柑橘類とフロマージュブランのコンポジション、ミカンとティムール胡椒」。レモンキャヴィアを載せたフロマージュブラン。パッションフルーツ、ピンクグレープフルーツなども美しくあしらっている。
マンゴーのソルベにオレンジの皮のニュアンスが食後をすっきりとさせてくれた。そして名物のラム酒た~っぷりの「ババ」はワゴンで登場。目の前で好きな分だけ切ってくれる。妻はニコニコ幸せそうに口に運んでいた。最後の小菓子は、黒い高さのあるトレイに乗った「マンゴーとライチのタルト」「木苺のムースを乗せたシュー」「パッションフルーツのチョコを挟んだマカロン」。

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そしてシルバートレイに乗った2種のショコラ。相変わらず可愛く美味しいそれらをハーブティーと楽しんでディナーを締めた。小島シェフらしい、バランスよく各素材の旨味を主人公に添えながら、シンプルのように見えて奥深い重ね方がとても伝わる満足の料理であった。銀座の雑踏や喧噪を忘れさせてくれる女性らしい風情の静かなレストラン。
帰りにはお土産に、アラン・デュカスが手がけるチョコレートショップ「ル・ショコラ・アラン・デュカス(Le Chocolat Alain Ducasse)」のカメリア型チョコレートを頂き、大塚ソムリエやスタッフの方々に手を振り、ご機嫌の妻と店を後にする。大人が優雅な時を過ごすに相応しい美しく落ち着いた「ベージュ アラン・デュカス 東京」はやはり我が家のお気に入りのひとつだ。

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