この夜は師走の込み合う車列の中、博多ふ頭旅客ターミナルがある複合商業施設「博多ベイサイドプレイス(Bay side place Hakata wharf)」に向かう。天神から博多湾沿いに走ると赤く光る「博多ポートタワー」が見えてきた。ここはアジアの海の玄関口、出来た当初はデートスポットとして賑わったが現在はやや寂れた印象もある。しかし近年福岡市がウォーターフロント(WF)地区の再整備構想を発表して以来、活性化に向けて官民一体となって大きく動き出している。
例えば、大相撲九州場所も開催される「福岡国際センター」横の「福岡サンパレス」は取り壊され周辺を整備し、ホテル誘致計画もある。更にクルーズ船が接岸する中央埠頭も埋立して拡大する。1日16万人の人出が予測される事から、博多駅からこの地区までの「ロープウェイ構想」も検討中だ。大博通りの中央分離帯に支柱を設置して博多中央埠頭付近までの2.5kmを結ぶという壮大な計画・・

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これらのWF構想が進むにつれて、ここは「博多駅周辺」「天神」に続く第三の観光拠点になっていくかもしれない。そんな未来に向かうベイサイドプレイスに到着し、閑散としたビル内を抜け奥に進みC館へ、8mのタワー水槽に約3000匹の魚が泳ぐアクアリウムを見ながら2階に上がる。案内カウンター左奥に進んで行くとガラス越しのキッチンが登場し、いきなり笑顔の吉武広樹シェフが登場してびっくり(笑)
こちらこそが12月15日にオープンしたばかりの Sola Factory.co「レストラン ソラ / バー ポルト(Restaurant Sola / Bar Porte」だ。博多にもいよいよこのレベルのレストランが開業されると言う待望の星だ。吉武シェフは「ラ・ロシェル」などを経て渡仏。仏パリ・ミシュラン3ツ星レストラン「アストランス(Astrance)」等で修行し、シンガポール「Hiroki88」を経て2010年11月にパリ5区に「レストラン ソラ パリ(Restaurant Sola Paris)」をオープンした。

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和を盛り込みつつ世界各国を旅した独自の感性で紡ぎ出す料理は、掘りごたつのような客席も含めてパリですぐに評判になる。2012年には早速ミシュランフランスで1ツ星を獲得した。ミシュランの星を維持したまま2016年に惜しまれつつパリ離れて帰国。この度満を持して、地元九州での出店を果たしたと言う訳だ。ちなみにニューヨーク「ミフネ・ニューヨーク(MIFUNE New York)」の監修や様々なシェフとのコラボでも活躍中である。
海辺に向かった大きな窓、100坪ほどある店内は木の香りがする様なナチュラルさで、天井高もあり余裕を感じる空間だ。12名がゆっくりと座れる長いL字型カウンターの前には、入店時に外から見た大きな厨房が陣取る。壁一面には薪が積み上げられ、薪がパチパチ燃える音と香りとその炎が、店内にロマンテッィさをも演出して壮観だ。カウンターから少し距離を置いて設けられたテーブル席は5台程。

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最大40~45人のキャパシティと言うが、現在は敢えて20名程度しか予約を入れず、余裕を持ってスタートしたそうだ。6名のスタッフはパリ時代のメンバーもおり、安定してそつのない接客を見せ好印象。吉武シェフを中心にまとまって正に「チーム吉武」の風情だろう。この日は落ち着いた席をお願いしておいたので、奥のテーブル席に案内される。ワインセラーの前には開業祝の胡蝶蘭が沢山並び、眺めていると総理夫妻からのもあった。
通常コースは「本日のコース料理(Menu du jour)」のみの設定(クリスマス時期はクリスマスコースを設定)。テーブルには素材を記したメニューだけが置かれている。ワインリストを見ながらシャンパーニュからチョイスして行くとしよう(ちなみにこの夜のグラス・シャンパンは「ドゥラモット」)。開店したばかりだが、ワインリストも色々と工夫が伺われて楽しい。芯の通ったリストとでも言おうか・・聞けばパリから持ってきたワインも少なくないとの事。

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その中からチョイスしたシャンパーニュは「ドント・グルレ リゥディ ル・バトー クラマン・ヴィエイユ・ヴィーニュ ブラン・ド・ブラン グラン・クリュ エクストラ・ブリュット ミレジム 2013年(Dhondt-Grellet Le Bateau Cramant Vieilles Vignes Blanc de Blancs Grand Cru Extra Brut Millesime 2013)」。「ドント・グルレ」は1986年創立のレコルタン・マニピュラン。
2013年からはビオディナミに転換するなど、息子が2011年に参画して以来、定評を得ている。「ル・バトー」はクラマンの単一区画。1951年に祖父が植えた樹齢70年近いシャルドネから作られるブラン・ド・ブランである。瓶詰は2014年5月、デゴルジュマンは2017年6月、ミレジムは2013年。裏ラベルに詳細な情報が印字されており、ドメーヌの姿勢が見て取れる。ミネラリーでアルコール感も感じる。そしてスパイシーでピュアな独特な香り。

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アタックに感じる葡萄本来の甘みも印象的だ。ドサージュ1.6gのドライな塩気さえ感じる飲み口が、清廉なブラン・ド・ブランの良さを引き出す。上品な料理にすっと寄り添ってくれそうな味わい。このドント・グルレと共に頂くのは、最初に運ばれて来た「いくら(Ikura)」。「Sola Factory.co」と印字された特注の木プレートの上に、キラキラと輝くイクラを纏った細長いシルエットが映える。
春巻きの皮で形を取って台座として、アボガドのムースを敷き詰めた。その上に更にいくらを乗せたものだ。中央部分をひょいと掴みあげて端から頂く。いくらのプチプチしたニュアンスに微かなパリっとした春巻きの食感が調和する。コースのスタートに相応しい楽しい美味しさ、妻もニッコリだ。続いて運ばれたのが「肴(Ate)」。その名の通りに3種類の料理が次々に登場する楽しい趣向だ。しっとりとした色調の「ハンガリー産マンガリッツァ豚の生ハム」。

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マンガリッツァ豚らしい上品な脂の甘みと旨味を、下に置いたトーストが受けとめる。「アコヤガイとカリフラワー」は、炭火したアコヤガイの下にカリフラワーのムースが敷かれている。カレー風味のスパイスと炭火のニュアンスが食欲をそそる。正に秀逸なアテ達なのだった。そう言えばリストには日本酒も数多くオンリストされていた。「茄子とアジ」は焼き茄子を鯵でクルリと巻いた。黒大根・白大根・ラディッシュのシャキシャキとした食感やビーツのソースと共に頂く。ピュアで綺麗なのだが余韻の長い味わいだ。
ふと見渡せば、18時・19時と時間を分けて予約を受けていたが、カウンターにも次々と客が訪れ店内も活況を見せて来た。適度な配置と音の反響具合、照明や流行りのナチュラルな演出も良い雰囲気に纏まっている。開放感があるため他の客がさほど気にならない、100坪もあるレストランならではだろう。

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カウンターで吉武シェフと会話しながら料理を頂くのも楽しいだろうし、テーブルで風情を感じながら頂くのも良し。バーも併設されているなど、シーンに応じて様々な使い方が出来そうである。さぁそこに運ばれて来たのは「河豚(Tetrodon)」。フグには軽く火を入れてカルパッチョにした。その下で目を惹くのはカッペリーニ状に仕立てたカブだ。その上にはとんぶりの「黒」を飾った。ヴィネグレットソースに柚子のソースやリンゴジュースも使われ、ある意味和食よりも爽やかな自然なフグを堪能できた。
ちなみに印象的な皿は、吉武シェフの出身地・佐賀伊万里「畑萬陶苑」の物。その他にも「宸山窯」「文祥窯」などの皿が用意されていた。運ばれたふんわり「自家製フォカッチャ」を頂く・・更にここからこそ、この夜印象に残った料理が続く事になる。その1つが「下仁田ネギ(Poireau)」だ。真空調理したネギは炭火でグリルした。

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軽い焦げ目から流れ出す甘い香りに引きつけられる。存在感のある葱の下にはアサリの身も潜み、アサリの出汁を泡立てた軽い白のソースも飾られる。流されたパプリカと柚子の黄のソースが何とも美味である。フレンチのジュの取り方とは少し違ってゆるく作っているとの事。ケッパーなどで酸味を加えてラビゴットソース的に仕上げつつ、ほんの少し加えたと言うバターの微かなコクも生きている。香り豊かで風味に溢れたソースが、ねっとりとやはり滋味深い葱を何とも昇華させる。パリ「Restaurant Sola」時代も定番だった人気の一皿だが、パリ時代にはバターを入れていなかったと言うのも面白い。
ではここで、赤ワインもボトルでチョイスしていこう。リストの中で目を引いたのは「ペロ・ミノ シャルム・シャンベルタン・ヴィエイユ・ヴィーニュ グラン・クリュ(Perrot-Minot Charmes-Chambertin Grand Cru Vieilles Vignes)2008年」。

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パリから持ってきた1本と言う事で保存状態も期待できそうだ。モレ・サン・ドニに本拠を構える「ペロ・ミノ」。1993年に後を継いだクリストフ・ペロ・ミノ(Cristophe Perrot-Minot)は当初、新樽の抽出の濃いワインを作っていたが、2005年頃から樽香を抑え抽出もソフトに変えた。「ペロ・ミノ シャルム・シャンベルタン」で言えば、抽出の強い時代の「1997年」を以前「オーグードゥジュール・メルヴェイユ 博多」で開けた。
それは20年近く経ち、酒質には十分溶け込んでいたがやや煮過ぎた鰹出汁・獣っぽさが、後半ややアンバランスに出て来た記憶がある。さて今夜の「2008年」はどんな感じであろうか・・グラスに注がれたそれは赤い果実のやや熟した感じが妖艶だ。控えめであるが、軽く燻した赤身肉・煙草・紅茶・やや茎っぽい青いニュアンス・・・アタックから中盤はかなり軽いが滋味深い。舵を切ったペロ・ミノの本領が発揮されつつある。

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1時間半ほどするとさらにフローラルな雰囲気と発展した土のニュアンスがせめぎ合う。まだ若々しくミネラリーさが解けきれなかったものの、最後まで楽しめた。そんなペロ・ミノを味わっているところに運ばれたのは「しいたけ(Shiitake)」。大きくぷりぷりの椎茸・ソース・チュイルと、円形を重ねた盛り付けも和食器に映える。厚みあるねっとりした食感のシイタケだけでも美味であるが、チュイルと椎茸の間にはフランス産フォワグラも挟んで贅沢感を加える。
茸とバターを使ったフォンドボーのソース、そしてジャガイモ・フォワグラ・生クリームのソースがまた何とも美味。玉ねぎのコンフィチュールも添えられる。敢えてグルテンが残るように作った面白い食感のソースが、シイタケを複雑な印象に仕上ている。軽やかな食べ口であるが、フレンチらしい濃厚さと複雑な旨味に溢れたプレートであった。「下仁田葱に続いてこれも素晴らしい作品ね♪」と妻も満足そうだ。

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この夜の「薪焼鮮魚(Poisson)」はマトウダイが運ばれる。フランスではサンピエールとしてお馴染みの魚だ。下には春菊・そら豆、上には菊の花なども飾った。塩気をグッと効かせて来た味わいはコースの中でのメリハリも感じる。皮の周りにラルド(豚の背脂)を重ねているのも秀逸なポイント。そのねっとりした味わいが薪焼きの風味と混じり合ってまた良い塩梅だ。サンピエールといえばムニエルが代表的だが、ラルドをもってきてムニエルのようなニュアンスを添えたところも面白い。少し温度を上げてもらっていたドライなシャンパンにも良く合った。
広いキッチンでは薪を使った火入れが常に行われている。このプレゼンテーションと味わいも、ここ新「Restaurant Sola」の特徴といえるだろう。キッチン横(カウンター正面)にはオシャレに薪が積み上げられているが、実はこれ、佐賀・鳥栖の水害にあった樹木を買い取り、自ら切り独自に乾燥させて利用しているのだ。

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建物屋上では今も乾燥中の物があると言う。料理の世界では「サスナビリティ(持続可能性)」を訴えるシェフが増え、キーワードになって来た。ただ食事を楽しみに来ただけの客にはピンと響かない事も多い。この点、地元の水害という身近な被害を通して客も共感でき、そして応援したくなる「実践的なサスナビリティ」の一つと言えるかもしれない。そんなことも考えさせる「薪焼鮮魚」であった。
続いてメインの肉は「氷冠熟成豚(Porc)」だ。九州産豚肉を3週間熟成させて薪焼きした。少し焦がした表面のニュアンスを噛みしめるうちに深みある旨味が出てくる。付け合わせの菊芋とゴボウのチップスは食感のコントラスト。牛蒡のピューレはとろけるような仕立てでほっと一息つける。金柑とマスタードのピューレはピリッとした刺激を感じさせるなど、細かい工夫も楽しく最後まで飽きさせずに食させてくれた。そうそう、切れ味鋭いフォークとナイフは佐賀「吉田刃物」。

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皿は唐津焼で、吉武シェフの奥様の御実家の作品との事。さぁ満足感の高いコースも、最後デザートを迎える。「柚子(Yuzu)」、パンナコッタの上には洋ナシに蜂蜜に付けた柚子も散らしている。心地よい柚子の香りに優しい蜂蜜のニュアンスが、食後の胃をほっと落ち着かせる。続く「苺(Fraise)」は福岡らしく「あまおう」をメレンゲで挟み込んだ。トンカ豆のアイスクリームにはパイ生地を練りこんで、微かな食感をアクセントに加えている。こちらも上品で美味であった。
〆は「Restaurant Sola」お馴染みの「もかロン(Mocaron)」が並んで登場だ。モナカの中はホワイトチョコレートのガナッシュ、それぞれフルーツを挟んでいるのが珍しい。「林檎と梅」「柿とジンジャー」「キウイとライム」と、食後を華やかにそして爽やかにまとめてくれた。開店したばかりとは思えないほどチームワーク良くスムーズに提供される料理達。それぞれの素材がきちんと表情を見せつつ、吉武シェフのセンスや現代的味わいが重なり合って満足度を高める。

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九州の客層に合わせた1万円と言う安いコース価格設定の為、食材を抑え目にしたのだろうが、それでもコストパフォーマンスに優れていた。妻も珍しく少しも残さず完食し、量的にもバランスが良かった。この価格でこの満足度の高さは素晴らしい。九州出身の実力派シェフは多いのだが、東京に留まり地元に戻る人は少なかった。ようやく地方に戻るシェフも出て来た中、パリで成功を収めた吉武シェフの福岡出店は頼もしい限りだ。
「飽きやすの好きやす」と言う独特の文化がある福岡でのレストラン経営は難しいとも言われるが、「Restaurant Sola」なら福岡だけでなく全国からも確実に客を呼べるだろう。更にウォーターフロントの再開発と共に、海外からのゲストも増えて行くに違いない。「あれ??福岡だってすっかり忘れてた。美味しいデートだったね♪」と満足でご機嫌な妻とあれこれ話しながら車に乗り込んだ。「博多ベイサイドプレイス」はクリスマスイルミネーションでキラキラに輝いていた。

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