この日は歴史的建築「九段ハウス(旧山口萬吉邸)」で行われたルイ・ヴィトンの特別顧客イベント「LOUIS VUITTON 2018 Exotic Leather Bag」を贅沢に満喫した後、待たせた車に乗り込み急いで日本橋兜町に向かった。東京証券取引所の裏側の通りのM-SQUAREビル1階。やや暗い石畳の通りに光が漏れる様に浮かび上がる。ちょうど3カ月前、フレンチの巨匠ジョエル・ロブション(Joel Robuchon)シェフの訃報には誰もが驚いた。
8月17日にはロブションの生まれ故郷ポワティエ・聖ペテロ大聖堂で、追悼セレモニーが行われ、アラン・デュカス(Alain Ducasse)、ギィ・サボア(GuySavoy)など著名シェフと共に、アラン・ヴェルゼロリ(Alain Verzeroli)や渡辺雄一郎(Nabeno-Ism) など愛弟子達の顔も数多く見えた。我が家にとってもロブションシェフは、ガラパーティーの度に笑顔でたくさん話をして思い出も多い。

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そんなまだ哀しみも癒えない先月、ロブションのDNAを色濃く引き継ぐ新しいレストランが日本橋兜町に誕生した。それが「アサヒナガストロノーム(ASAHINA Gastronome)」だ。恵比寿の城「シャトーレストラン ジョエル・ロブション(Chateau Restaurant Joel Robuchon)」の1階にあるミシュラン2ツ星「ラ ターブル ドゥ ジョエル・ロブション(LA TABLE de Joel Robuchon)」で、昨年まで料理長だった朝比奈悟シェフが料理長に就任し、その名を冠したレストランになる。
シェフだけでなく料理人・サービスもロブションから大挙移動。我が家がいつも使うのは城2階にあるミシュラン3ツ星の「ガストロノミー ジョエル・ロブション(Gastronomie Joel Robuchon)」、そこからの移籍は何と妻のお気に入りだった村林篤メートル・ド・テル!よって彼に逢いにオープン早々に訪れる事にした。「アサヒナガストロノーム」を運営するのは株式会社スーリール・ド・シュシュ。

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西麻布「ランベリー(L’EMBELLIR)」や奥沢「ラ・レガラード(La Regalade)」、銀座「すし佐竹」も手掛けるなど、飲食部門に積極的に力を注いでいるようだ。ドアを開けるとガラスに囲まれた小さなエントランスで、そこを抜けると一気に明るいダイニングが広がる(35席)。シルバーやベージュを基本とした柔らかく美しい上品なフロアを見上げれば、ネット状に組まれた球状のLED照明「レイモンド」。
これは数学者レイモンド・プッツ(Raimond Puts)が30年研究して作り上げたオランダ「モーイ(moooi)」を代表するシャンデリアだ。正面奥にはガラス越しに厨房も見え、5名のシェフが意気揚々と作業している。そこへ我が家担当の村林篤メートル・ド・テルがやって来て奥の席に案内してくれた。久しぶりの再会に「素敵な門出ね♪」と妻も嬉しそうだ。テーブルの上にはクリストフル「ジャルダン・エデン コレクション」の新作キャンドルホルダーがある。

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これは「モーイ(moooi)」創業者でオランダの著名インテリアデザイナーであるマルセル・ワンダース(Marcel Wanders)デザインによる物。並んでいる細工が美しいカトラリーも同「ジャルダン・エデン コレクション」だ。聞けば案の定、プレザンタッションなどもマルセル・ワンダースによるプロデュースとの事で、デザイン好きの妻は興味津々。グラス類は「MORIYAMA(森山硝子)」だ。
サービススタッフは大半がロブション出身の総勢11名だが、それでも「もう少し人手が欲しいです」との事。とはいえ開店1週間のレストランでこれだけの陣容はなかなかないだろう。村林メートル・ド・テル曰く、「最初ですから Menu Degusation をご用意しています」。not too modern, not too classic フランス料理の技法を駆使し、伝統的なフランス料理に現代のエスプリを融合させたという12皿からなる渾身のコースをじっくり頂くとしよう。

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ワインリストは運営会社が持っていた古酒と新店舗のために集めたワインで構成される。妻の機嫌が良い時の定番台詞「やっぱりロゼよね~♪」で、リストから「ジャック・セロス ロゼ・ブリュット(Jacques Sellose Brut Rose)」を選ぶ。言わずと知れたコート・デ・ブランのレコルタン・マニピュラン「ジャック・セロス」。スモーキーなボトルに淡いオレンジピンクが透ける印象的なフォルム。
生産本数がかなり少なくなかなか手に入りにくい1本だ。細やかでふっくらした泡は、ムースのようにグラスの上部に盛り上がる。ロゼというよりブランドノワールっぽいのだが、実はシャルドネ比率が90%を超える。ピノ・ノワール分は「エグリ・ウーリエ」から仕入れている。ローストしたコーヒー豆・シナモン・エキゾチックなスパイス・・・カスタードクリームのような豊かな香りだ。高い酸味が骨格をなし、葡萄の皮も感じるドライな赤い果実が滲み出てくる。

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余韻には高い酸の中にセロスらしいシェリーのニュアンスと凝縮した果実の旨味がふくよかに残る。そんなロゼを楽しんでいるところに、美しいデザインのトレイ(元はキャンドルホルダーか)が運ばれて来た。乗っているのはアミューズ・ブッシュ「グルヌイユのクルスティアン/エスカルゴのタルト/フォアグラのリエット」。コーヒー風味の木の葉や羽ばたきそうな蝶など、美しい細工のチップスも正にアートだ。
カリカリのカダイフの中に柔らかいグルヌイユ。エスカルゴのタルトも柔らかなタッチながら、敷かれた茸ペーストが濃くフレンチらしい味わい。鴨フォワグラのリエットも美味だ。続いては「毛ガニ エフィロシェにしコック貝と共にラルム仕立て」が運ばれる。シルバーの縁が印象的な瀬戸の陶磁器「NAGAE」の平皿だ。ほぐした毛ガニを美しく組み立てた料理はロブションを彷彿とさせる。小さくくり抜いたトリュフや細かく点描されたマヨネーズソースもそうだ。

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毛ガニの海の甘みと貝の海の苦味が繊細に混じり合い、ビネガーの酸味と共に余韻に残る。続いてやって来たのは我らが村林メートル・ド・テルによる「パテアンクルート ワゴンサービス」。鹿肉をベースにして豚肉・砂肝・鴨フォワグラ・イチジク・スパイスで仕上げた クグロフ型のパテ・アン・クルートを目の前で切り分けるという趣向だ。こういうサービスが拝見出来るのもロブション譲りと言った感じ。
付け合わせは「ルビーポートとフォワグラ」「ホワイトポートのゼリー」。クラシックなパテエンクルートの味わいだけでなく、ポートワインの味わいが重なりモダンに調和する。ちなみにプレートには黄色い「ASAHINA」ロゴがびっしり。さぁ次の料理はいかにもロブションビジュアルな「ナガス鯨 尾の身 厚岸の真牡蠣と合わせカルパッチョに エピスをきかせたそのタルタルを添えて」。鯨の尾の身はカルパッチョ仕立てで、薄く円形に形成されている。

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その赤ベースに黒いキャビアと黄金のオリーブオイルキャビア粒が並んで美しいコントラスト。前の「毛ガニ」に続きこれも大変な作業だ。食すと見た目よりもかなりオイリーな食感と豊かな風味がある。更に添えられた尾の身のタルタルの上にはムース状にした牡蠣。牡蠣の風味がせり上がる様に口中で広がりを見せる。「これも美味しいね」と妻の機嫌もよい。さて、「セロス ロゼ」に続いて
赤ワインもワインリストの中からボトルでチョイスしていこう。担当してくれるシェフ・ソムリエは「銀座レカン」出身の吉田康祐氏。穏やかながら的確なコメントや所作が優秀さを物語る。ワインリストの中で目についたのは「シャトー・ラトゥール(Chateau Latour)1982年」、グループ会社が持っていた1本との事。言うまでもなく「シャトー・ラトゥール」はボルドーの北西メドック地区ポイヤックに位置し、1331年からの長い歴史を誇る。

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ラベルには14世紀中頃に建てられてた円形の要塞「サン・ランベールの塔」が描かれている。中でも1982はボルドー世紀のヴィンテージ。ロバート・パーカーがその将来性を見抜き、名声を高め地位を築いたヴィンテージとしても知られる。「ラトゥール」好きの我が家は「1982年」は数年前に開けているが、その他の5大シャトー「ラフィット(Chateau Lafite Rothschild)」
「マルゴー(Chateau Margaux)」「ムートン(Chateau Mouton Rothschild)」も、そうそう「オー・ブリオン(Chateau Haut Brion)」は「ガストロノミー ジョエル・ロブション」で開けたが、いずれも素晴らしい味わいであった。さて久しぶりの「ラトゥール1982」はどうだろう。早速吉田ソムリエが抜栓し、美しい細工のバカラ・デカンタに注いでいく。大好きラトゥールにテンションのアガル妻と、笑顔で会話しながらもスムーズに作業してく。

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グラスの縁に鼻を近づけるやラトゥールらしい甘い土のニュアンスがどっと流れ出す。腐葉土・杉の古木・枯葉・熟成したボルドーらしいシガー・・一方でまだしっかりとした果実味も残り、すべらかながらタンニンのエッジもある素晴らしい味わいだ。まろやかな味わいから長く優雅な余韻につながる、余韻の中からまた広がって来る熟成のニュアンスが何ともいえない。最近古酒に飽きていた妻は「もう少し若い方が好きかな~」と贅沢な事を言っていたが、久しぶりにヒットしたボルドーであった。
そこに運ばれて来たのは空泡が美しいガラスのクローシュをかぶせた「鴨のフォワグラ ポワレにし シャンピニオンのエッセンス 詰め物をした百合根のフリット、トリュフの香る卵黄のアンフィゼ」。添えられた「トリュフを注入した地鶏の卵黄」を見て妻が「目玉??ハロウィーンね♪」と勝手な解釈をしている(笑) 鴨フォワグラはしっとりとした火入れで滑らかでリッチな味わい。付け合わせはユリ根のペーストと鳥ミンチ合わせて軽く揚げたコロッケ。

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下には軽いあんのソースを敷いている。トリュフの香りやあんのソースで変化を付けながら、秋らしいセップ茸と共に頂く。前半の優しい味わいからぐっとギアが這入って来た。熟成したラトゥールも甘さを引き出してくる。まだ開店して間もないこの日のディナーであるが、「ロブション」や「レカン」由来の客が次々と入って店内も活況を呈してきた。厨房隣にあたるダイニング奥は個室になっているが、この夜はオープンにしていた。
少し席間が狭いので他客の声が気になる向きは個室が良いかもしれない。間が長くなって来た事もありだいぶんお腹もいっぱいに感じる中、運ばれて来たのは「長崎黒鮑 セップ茸と合わせ、香り高いボルディエの海藻バター」。ふんわり立ち上がる茸とバターの香りが食欲をそそってくれる。覆うのはセップ茸のペーストとペシャメルを合わせたチップス。その中にはボルディエバターで風味豊かに火入れした長崎産黒鮑とセップ茸が潜んでいる。

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海藻バターをしっかり纏ったアワビには、細かく包丁が入れられ小気味良い食感を奏でてくれる。シンプルに見えてフレンチらしい美味しさが詰まった前菜に満足する。妻はシルバーに輝くプレート「ベルナルド(Bernardaud)エキュム」も気に入っていた。続いてこれも少し待ったが「活オマールブルー ロティとそのダルオルにキャビアを添えて ソース・ア・ラメリケーヌを現代的解釈で」がやって来た。
これは「ベルナルド」150周年プレートで金継ぎ風のサルキス(SARKIS)作「KINTSUGI」だ。それに艶やかな赤のブルターニュ産オマールブルーが印象的。ズッキーニと人参で形成された円柱の中にはオマールのムースをたっぷりと詰め、上にはキャビアをたっぷりと乗せた。その横には贅沢にも、毛ガニを包み込んだビーツとトマトのラビオリも添えられるなど、食べ進めるのが何とも嬉しい。ソースはクラシックなアメリケーヌと、

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ロブションでもお馴染みの「シャトー・シャロン」のソースの2種類が流されて、フレンチらしい複雑な旨味を引き立てる。次はメインの肉だったが、甘い腐葉土のエレガントな熟成感を見せる「ラトゥール」を飲み進めつつも、味わいの強さ的には今日の「鴨」には負けそうだなと思い、吉田ソムリエに「鴨肉に合わせて何かグラスワインを・・」とお願いする。すると「ラトゥール82の後ですか!」と
さすがに躊躇した様子だったが、少し考えてさっとグラスワインを出してくれた。それはフランス南西地方カオールの「シャトー・ラグレゼット(Chateau LAGRAZETTE Malbec)1991年」だった。マルベックの古酒とは珍しい。吉田ソムリエも「これは空けるタイミングを図って寝かせていたものです。今日の鴨にはぴったりだと思います」と言う事だ。ラグルゼットの美しい城館は15世紀に建立された。多くの貴族の館になってきたが時代と共に荒廃していた。

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1980年に当時の「カルティエ(Cartier)」会長だったアラン・ドミニク・ペラン(Alain Dominique Perrin)が買収し再興を図り、1988年からはミシェル・ロラン(Michel Rolland)のコンサルトも受けている。熟した葡萄の風味に鉄分のニュアンスやスパイス感が「クロワゼ鴨」に合いそうだ。クールなタンニンとぐっと凝縮した黒果実の甘さが、何とも面白いバランスを見せてくれる。
と言う訳でそこに運ばれた「シャラン産クロワゼ鴨胸肉 オリジナルスパイスでロティとそのソースサルミ 黒トリュフの香るポムクルスティアンを添えて」。テーブルで「ソースサルミ」が注がれ出来上がりだ。鴨ガラの出汁にミルポワ・酒・豚の血を加えた何ともフレンチらしいソースだ。腿肉はカリカリに火を入れた。一方胸肉は骨付きのままロティし、表面に自家製スパイスをまぶしササミも乗せた。ロブションスペシャリテな「マッシュポテト」は花形になって

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トリュフとポテトチップスも飾られている。周りには鴨の心臓・砂肝・スパイスなどで炒め、トリュフも加えたそぼろが敷かれ、これも食感の変化が印象に残る。更に運ばれたのは熱々のセップ茸ブイヨンの「スープ」だ。中にはシメジなど茸やタピオカも潜んでいる。濃厚ながらクリアな旨味のスープが何とも美味で、これが何とも癒しの1杯になった。長時間になったしもうすっかりお腹一杯、アートなアヴァンデセール
「ポムダムール マルカルポーネのムース、エピス風味のリンゴのキャラメリゼ バニラとカルバドスのアイスと共に」もどうかなと言ったところだ。本当はビジュアルにインパクトある「ブルガリア産アカシア巣蜜」もチーズと頂くつもりだったが断念する。開店から1週間とは思えないほどサービス陣は安定している(大半がロブション出身だから当たり前ではあるが)。料理も「こんなに細かいと後が続かないんじゃないの??」と妻が心配するほど(笑)

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精緻で完成度が高く、朝比奈シェフの面目躍如といった感じだった。後半プレート間隔が30分以上になって、食べるスピードの速い我が家は少し疲れたが、まだ開店月の夜だ。この辺りは今後の客の反応を見ながら問題なく微調整されていくと思われる。完璧主義者だった巨匠ジョエル・ロブションの料理がもう食べられないのは、至極悲しくて残念だが、こうやって全世界で「ロブションDNA」は引き継がれ、
また新たな料理シーンへと発展していくのだろう。まだダイニングが賑わい忙しい中、朝比奈シェフと村林メートル・ド・テルが外まで見送ってくれる。焼き菓子のお土産を頂き、再訪を約束し手を振りながら車に乗り込み、宿泊先の丸の内「パレスホテル東京(Palace Hotel Tokyo)」へ向かう。そうこうするうちに年末の声が聞こえてくる、さぞ初めてのクリスマスは大忙し大変だろう。

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