すっかり秋らしくなった夜、妻と軽く平日ディナーに訪れたのはJR博多駅シティ。飲食店街「シティダイニング くうてん」の9階中央部に位置する我が家お馴染み「オーグードゥジュール・メルヴェイユ 博多(Augout du jour merveille HAKATA)」だ。色んな意味での立地の難しさに関わらず小岸明寛シェフが上質の九州素材をふんだんに使って、モダンかつ基礎のしっかりしたフレンチを提供している。
この日は嬉しい事に貸切状態、いつかの9月もホテル日航福岡「レ・セレブリテ(Les Celebrites)」でそういった日があったが、個室好きの我が家からするとベスト。妻もこの贅沢さに上機嫌だ。いつものように「小岸シェフお任せ2万円コース」をお願いする。静かで穏やかな光が包むダイニング・・奥の席を広々使い、幸せな気分でシャンパーニュをチョイスしていく。

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ソムリエールからは「アンリオ キュヴェ・デ・アンシャンテルール(Henriot Cuvée des Enchanteleurs Brut)2000年」と「ピエール・パイヤール ラ・グラン・レコルト ブージィ グラン・クリュ(Pierre Paillard La Grande Recolte Bouzy Grand Cru Extra Brut)2006年」を勧められる。「アンシャンテルール」は自宅で良く開けている馴染の1本なので
妻が「え~つまんない」と言う。よって「ピエール・パイヤール」の方をチョイスした。ちなみに「アンシャンテルール」はこの「2000年」が最後のヴィンテージ。新たなプレステージシャンパンとして「キュヴェ・エメラ(Henriot Cuvée Hemera Brut Millésime)2005年」がリリースされている。「ピエール・パイヤール」は、昨年こちらで行われた「アンヌ・グロ メーカーズディナー」時に

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グラスで「レ・パルセル ブージィ グラン・クリュ」を提供された以来か。かつて世界の「ジョエル・ロブション」のハウスワインだった「ブルーノ・パイヤール(Bruno Paillard)」は、この「ピエール・パイヤール」から独立して設立されたメゾンだ。1946年からシャンパーニュ製造を開始。所有畑11haはすべてモンターニュ・ド・ランスのブジー村にある。
このピノ・ノワールの代表的な村でありながらシャルドネ栽培にもこだわるところが特徴。「ラ・グラン・レコルト ブージィ グラン・クリュ」もピノ・ノワール50%とシャルドネ50%だ。ドサージュ2.7g/l、アルコール12.5%。グラスに注がれるとイエローゴールドの中に美しい泡が立ち上がっていく。青リンゴ・すりおろした梨・白桃のコンポート・甘露なミツを少し纏った凛としたミネラル・・上品なナッティさが印象に残る。

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切れ上がる酸味が中盤の骨格をなしつつ、自然に、そして穏やかに余韻へと流れる。シャルドネとブジー村らしい力強いピノ・ノワールが実に塩梅良く配置されている。フレッシュでいて適度な酸化熟成感も心地よいバランス。全体として小さいながらもチャーミングな飲み口であった。そこにいつもの創作懐石風の様々なアミューズが次々と運ばれてくる。お楽しみの小岸ワールドがスタートだ。
「まず最初に食べて下さい」と小岸シェフが言うのは「オマールブルトン・唐津カサゴのコンソメジュレ」。カクテルグラスの底にはオシェトラキャビアが沈み、上にはカリフラワーのクリームとオーストラリア産トリュフが飾られる。コンソメ風味がシャンパンに良く合う。そして花の様な「ミニ黒トリュフタルト」、オイリーで香ばしいパイ生地もシャンパンのイースト香と調和する。さすがロブション出身でもある小岸シェフ、

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「これらはロブションオマージュね・・」と妻も感慨深げにしみじみ味わう。大きな蓮の葉には「フォワグラのトルセ」、佐賀の白石レンコンで包んだ。佐賀らしくイカ型の砂糖菓子も乗せるなど遊び心もある。烏賊の塩辛・北海道産ほおづき、晩白柚に塩レモンやカボスが効いてる。更に38度で20分火を入れた「鯖のマリネ」。リボン状のりんごも添えられ、熊本産ヨーグルトやアップルビネガーと爽やかに頂く。
その他にもほくほく「リゾットのコロッケ」など。さて前菜の始まりは「初秋のガルグイユ」、このプレートだけは予めリクエストしておいた。運ばれてくるとハーブのアロマが流れ出し、癒し的でありながら食欲をそそる。野菜の種類は春がやはり一番多いだろう。それでもこの秋夜もムカゴ・銀杏・ユリ根など100種類の野菜で構成される。仏「ブラス(旧ミシェル・ブラス)」本店は冬には出さない「ガルグイユ」だが、ブラス弟子・小岸シェフと

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北海道「ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン」は1年通して出すと言う。パレットの様に多種多色の「梶谷農園」野菜達が華やかながらも、赤シソも入り落ち着いた秋の色調。ほうれん草・パプリカ・オリーブ・ビーツのソースも美しく描かれる。見た目より食べ応えもあり、余韻には葱油オイルの風味が香り高く残る。いつもながら満足の一皿であった。続いて、木の断面をモチーフに小岸シェフがデザインしたという白皿が登場だ。
こちらや「ル・マルシャン・ド・ボヌール」「鮨 木島」ですっかりお馴染み、小岸シェフの高校同級生・辻愉(与山窯7代目)氏の作品、肥前吉田焼「224 porcelain」。「カマチ陶舗」の有田焼を基本としつつ肥前吉田焼もすっかり見慣れた。「この料理のテーマは熟成です」と笑顔の小岸シェフ。唐津産「黒アワビ」はニガヨモギと焼酎につけて火を入れ、エゴマのピクルスで覆っている?!

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なんとも斬新だ。中には自家製の野草油のマヨネーズ、黄ビーツ・黄しょうが・枝豆なども潜んでいる。嬉野の紅茶と魚粉を混ぜたパウダーも印象的な香りを醸し出す。佐賀・嬉野でのイベントでは鳩肉と合わせたそうだ。最後には自家製の香草バターで仕上げ、ちゃんとフレンチに着地した創造的な一品だった。さてシャンパンに続き赤ワインもボトルで開けよう、
「コント・ジョルジュ・ド・ヴォギュエ ミジュニー・ヴィエイユ・ヴィーニュ(Comte Georges de Vogue Musigny Cuvee Vieilles Vignes Grand Cru)2001年」をチョイスする。ヴォギュエはシャンボール・ミュジニの特級畑「ミュジニー(Musigny)」10.85ha中7.2haを所有する(ちなみにルロワは0.27ha、ジョルジュ・ルーミエは0.1ha)。硬質なミネラル感から飲み頃が難しいヴォギュエのミュジニー。少し若いかなと思ったが、

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数年前に「2000年」はミッシェル・トロワグロと父ピエール・トロワグロ両氏来日時に「キュイジーヌ[s] ミッシェル・トロワグロ」で、「2002」年は「リストランテASO」で、「1988年」は寿司屋で開けていたのでヴィンテージの差も楽しみだ。グラスに注がれると落ち着いたルビーが揺れる。詰まった赤系果実が溶け始めたミネラルと絡んでいる。重心は軽いがチャーミング。
開ききれてないがヴォギュエにしては社交的。舌先に乗った旨味がほんの微かな苦味をアクセントにして細く続く。1時間もする頃には香りはかなり開く。アジアンスパイス・燻製赤身肉・・柔らかながらも濃い紅茶のような後味が美味い。さぁ料理を続けよう、「今夜は一部、ロブションさんの追悼メニューです。久しぶりに作りました」と小岸シェフ。なるほど見た事あるビジュアルのプレートがやって来た。

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ロブション定番メニュー「ラングスティーヌ ラヴィオリにし、ちりめんキャベツを添え、黒トリュフをあしらって」は私達も何度も頂いたが、今回は手長海老ではなく唐津の伊勢海老を使った。伊勢海老の殻で出汁をとりフォンドヴォー、トリュフと煮詰めて、フォワグラと発酵バターで作ったソース。ややトマトを多めに入れその野菜の甘みが全体の味わいを立体的に浮き立たせる。
やはり黒トリュフやちりめんキャベツも添えた。ロブションの定番とはまた違うが、口の中でプリプリの伊勢海老が弾け、濃厚な旨味が口の中一杯に広がった。次の魚は「ノドグロ」。脂の乗ったノドグロの皮目はパリッと仕上げ、身は溶かしたバターでじっくりと火を入れた。豪勢なアクセントとして、身と皮の間に唐津の赤ウニがたっぷり挟まれている。クリーミーなウニと一緒に蕩けるようなノドグロの食感も印象的だ。

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バターで揚げてアンチョビを加えたパン粉がその食感に変化を加える。梅トマトのバニラソースが添えられ、ミモザ風卵には柚子の果汁を絞り、そして青柚子や黄柚子もふる。その微かな爽やかな風味が、素材を重ねた重さを和らげ全体のバランスをとる。余韻には濃厚なバニラソースの甘い香りと柚子が口の周りに長く残った。小岸シェフらしい、変化に富んだ楽しい魚のプレートであった。
そうそうこの夜、小岸シェフに「今日の肉料理は?」と尋ねると、いたずらっぽく笑いながら「ジビエでもない赤身肉を使ってみたくて・・タスマニアペッパーもちょうど入ってベストです!」と何とも予想が着かない説明だ。登場してびっくり「オーストラリア産カンガルー」だった!さすがに初体験・・妻は「ど、動物愛護に反しないか」と拒否感ありありだが、こうなったら仕方ないと言いながら食している。オーストラリアでは当然ながらメジャーな食肉と言う。

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カンガルー肉は優しくローストし、タスマニアペッパーをふり、フランスの秋トリュフを飾って仕上げた。個体差もあり部位によって違いがあるそうだが、「これは少し筋肉質です」との事。恐る恐る頂く。いわゆる鹿肉に似た感じだろうか・・表面は炭火でほんの軽く炙りタスマニアペッパーの風味が美味しく完成していた。癖はないが噛みしめるごとに優しい旨味が滲み出てきて、付け合わせと自然に食べ進められる。
付け合わせは、秋らしくセップ・焼き栗に甘長唐辛子・じゃがいもピューレ・佐賀産アスパラガスなど。硬めに仕上げた焼き栗の凝縮感が秋到来を感じさせてくれた。妻は最後まで渋々、完食は出来なかった(笑) では一息ついてアバンデセールが運ばれる、ピンクでまとめた「ザクロのシャーベット」だ。パウダー状にしたメレンゲの白と艶やかなコントラストを描く。レーズンをホットワインと煮詰めて凝縮したソースを点描した。

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爽やかな味わいが赤ワインに繋がる。デセールは妻大好物の濃厚薫り高い「チョコレートのテリーヌ」。「抹茶のダックワース」も添えて秋らしい風情、ハスカップのソースの酸味がポイントだ。上質なバニラアイスクリームの、濃くも優しい甘みが美味。ハーブティーと合わせて、食後を穏やかな気持ちにしてくれた。この夜のコースは、味わいに強弱のトーン・メリハリをかなり付けた構成だった。
相変わらず向上心と発想力ある小岸シェフの、変幻自在なフレンチを今宵も堪能でき楽しかった。我が家が九州で季節毎に訪問したくなる数少ないフレンチレストランの1つ、独占貸切状態で満喫できる機会はそうそうないだろう。帰りは小岸シェフとスタッフの皆さんに見送られながら、騒がしいJR博多シティを後にする。そうだ、今週末は数万個の灯明が揺れる「博多灯明ウォッチング」がある、ここ駅前広場はラグビーワールドカップ「レンジー」くんが浮かび上がるらしいので、ますます賑やかだろう。