気温も徐々に落ちていよいよ秋らしい風が吹いて来た。いよいよワインやフレンチが美味しく感じられる季節の到来だ。そんな折、我が家お馴染みの「ルイ・ヴィトン」で買い物をした後、ホテル日航福岡「レ・セレブリテ(Les Celebrites)」へ向かう。妻は今シーズンズラリと登場した「イブニングドレス」から、一目ぼれした総レースの超ロングドレスをゲットしてすこぶる機嫌も良い。
日航福岡の大理石が美しいロビー中央階段から2階に上がって行くと、レストラン入り口にはホテルの総料理長中橋義幸氏やレストラン支配人の持光誠一郎氏・原部暢俊氏が並んで出迎えてくれ、何とも豪華。皆でワイワイ話しながら個室に入る。実はこの夜は東京・広尾から話題のフレンチレストラン「オード(Ode)」を招いたディナーイベントが行われる。我が家の行きたい店リストの上位にあった正に旬のレストランと言う事で楽しみにやって来た。

20180928vuittondre

生井祐介シェフが2017年9月にオープンした「Ode」。かつて生井シェフは、2012年に八丁堀「シック・プッテートル(CHIC peut-etre)」のシェフに就任し、2015年から「ミシュランガイド東京」1ツ星を獲得。日本だけでなく世界のシェフとの交流も積極的に行っている今乗りに乗っている話題のシェフだ。この夜のディナーイベント直後にも
「Asia’s 50 Best Restaurants 2018」の香港の人気ビストロ「BELON」やマニラの「Hey Handsome」を招いたコラボイベントを行っていた。今回のイベントにあたり「レ・セレブリテ」持光支配人と新就任した小田シェフも「Ode」を訪問したとの事。「Ode」からはスーシェフらパティシエも一緒に来店し、シグネイチャーや九州の夏の食材で組み立てて行くと言うから期待する。ちなみに「Ode」ではランチは「季節の食材をつかった7皿前後の料理」6000円と、

20180928nikkofk

ディナーの「季節の食材をつかった11皿前後の料理」14000円のみで構成される。今回のイベントではディナーは16000円、「Ode」松本ソムリエが考案したワインペアリングは9000円の設定。ペアリングも考えたが、やはり我が家はいつものようにワインリストから気分に合うもの、好きな物を選んでいこう。まずチョイスしたのは「サロン ブラン・ド・ブラン ル・メニル ブリュット(Salon Blanc de Blancs Le Mesnil Brut)2004年」。
1914年ウジェーヌ・エメ・サロン氏によりル・メニル・シュル・オジェ村に設立されたシャンパーニュ・メゾン。コート・デ・ブランのグラン・クリュ畑(19の契約農家)で、良年にのみ最上質のシャルドネ一番絞りだけを使用し10年以上熟成して造られるのが、このブラン・ド・ブラン「サロン」だ。初ヴィンテージ「1911年」から現在「2006年」までわずか40ヴィンテージのみリリース。


我が家も定番のシャンパーニュで、レストランでも「1988年」「1990年」「1996年」「1997年」「1999年」「2002年」など複数本ずつ開けている。今夜の我が家担当は久しぶりに原部ソムリエ、さすがベテランの安定感と穏やかな接客に妻も嬉しそうだ。グラスに注がれると、イエローゴールドの繊細な泡が立ち上り儚く消えていく・・上品な酸味がしみじみと染み渡る。
落ち着いたライム・クレームブリュレの一歩手前・コーティングされたような白い花・・アタックには旨味が顔を出して長い繊細で上品な余韻に続く。透き通るような透明感が満足度を高める。その完成度の高さを改めて感じるブラン・ド・ブランドである。そこへ料理トップバッターが運ばれて来た、一目でわかるその名も「ドラ○ン ボール」!妻は「かめはめ波~♪」とポーズをとって「一星球??」と聞いている(笑)

20180928odenamai3

オマール海老のビスクを、同じくオマール海老のエキスを溶け込ませたカカオバターで包んだ一品だ。カカオバターにオマール海老のジュを混ぜて冷やし固めて形成した。口に入れるとパッとオマールが飛び散って拡散するような驚き。オマール海老のジュにコアントローを加えたジュースだ。インパクト有る味わいだが、きちんとフレンチ。ちなみに下に敷かれているのはピスタチオ。台湾でイベントをした時は米を敷いたと言う。
続いて登場したのは美しく成形された「きゅうり/生カラスミ」。キュウリをスライスして花の形に。中には生カラスミにパセリマヨネーズ、下にはパセリオイルのソースを敷いた。器の縁にはライムとパセリを散りばめ更に香りを立たせた。見た目よりもクリーミーでコクを感じ口の中で存在感を見せる。これは正に「サロン」とぴったりで嬉しい一皿。

20180928odenamai2b

更に続いてこれも有名な作品「グレー2018」。生井シェフと言えば皆思い浮かぶ一皿だろう。広尾にある「Ode」の内装は全てグレーやシルバーに統一され、無機質さの中に石や木など自然素材で温かみある空間である事が知られている。妻も家をデザインするにあたり、徹底してグレーやシルバーを基本にした程のグレー好きなので、今回の「Ode」来店企画にかなり興味を持っていた。
正に店内の雰囲気とも同化することを狙った看板メニュー「グレー」の登場だ。「どうしてグレーなの」と妻のストレートな質問に、生井シェフは「グレーが好きなんです」と返す(笑) この料理のために佐賀・有田焼「カマチ陶舗」で特注したグレーのプレート。わざわざ今回のイベントのために「Ode」から送ったとの事だ。グレーのコンクリート片がアスファルトに重ねられているかの風情。イワシを丸ごと一匹使いたいとのシェフの思いから考案された。

20180928odenamai1b

ヒレはローズマリーでスモークをかけてシェリヴィネガーでマリネした。イワシの頭と骨はプレートを覆うメレンゲに。尾崎牛のタルタルがさらにその下に潜んでいる。「尾崎牛」は2年前有田で開催された世界料理学会で、生産者と知り合い仕入れる事になったそう。メレンゲを壊しつつ下からすくって一緒に頂くと食感と風味が変化してく。コクとクリーミーさがあり、まろやかに調和したフレンチらしい・・流石のシグネチャーメニューだ。
そんな中大きな焼きたての「フォカッチャ」が運ばれて来た。こちらも「Ode」で作られている物を再現した。ふんわりと仕上げられ、料理に軽やかにしっかりと寄り添ってくれそうだ。さて、赤ワインもボトルでお願いしよう。原部ソムリエと相談しつつブルゴーニュ「ポンソ シャルム・シャンベルタン(Ponsot Charmes-Chambertin) 2004年」をチョイスした。サン・ロマン村出身のポンソ家は1872年、現在の本拠モレ・サン・ドニ村に移り住んだ。

20180928odenamai3b

設立当初から一部元詰めしていたが、1934年から全てを元詰めするようになった。自然栽培で、コルドン・ド・ロワイヤ(剪定)、手摘み、畑による選果。4層構造のグラヴィティ・フロー。発酵時の古木桶を使用し、熟成用も古小樽、亜硫酸は極力抑える。「クロ・ド・ラ・ロッシュ」「クロ・サン・ドニ」「モレ・サン・ドニ プルミエ・クリュ クロ・デ・モン・リュイザン・ブラン」を中心に、
近年「シャルム・シャンベルタン」「クロ・ド・ヴージョ」「コルトン・シャルルマーニュ」「コルトン・ブレッサンド」「シャンベルタン・クロ・ド・ベーズ」など増やしてきた。今では11ha中7haをがグラン・クリュ7銘柄で「クロ・ド・ラ・ロッシュ」の最大生産者だ。父ジャン・マリー時代を経て、1981年から参画したローラン・ポンソが1990年からドメーヌを引き継ぎ評価を上げて来たが、2017年ジャンが亡くなり相続が発生。

20180928odenamai4

ローランが独立し息子と共にネゴシアン「ローラン・ポンソ」を立ち上げると言うニュースは、ブルゴーニュラヴァーにはかなり大きなニュースだった。その意味でも過去の「ポンソ」は貴重になる。ローランの感性による独特な作り方をするためだろうか、完成したワインの質もばらつきがある。それでも我が家では気に入ったドメーヌの1つで、今年は自宅で「シャペル シャンベルタン グラン・クリュ 1999年」や「グリオット・シャンベルタン グラン・クリュ 2001年」を開けた。
グラスに注がれると、薄い薔薇・ローズウォーター・細かく引いた黒胡椒・・最初はオリと獣的な香りも気になったが、時間と共に調和しむしろアクセントになってくる。香りの立ち方は控えめながら上品にまとまりエレガント。軽やかな羽毛のようなアタック。切れ上がるような酸味に続いて薄い旨味が余韻に優しく残る。

20180928odenamai2

ポンソをイメージする果実の妖艶さは余り感じない。「シャルム・シャンベルタン」と言う畑、そして「シャルム」は契約農家から葡萄を買っていることからかもしれない。とは言え料理には寄り添いディナーを彩ってくれた。さて次の料理が香り豊かに運ばれて来た「穴子/ガラムマサラ」だ。生井シェフが一緒に来福した若い2名のスタッフと目の前で「黄色いエスプーマ」を掛けて仕上げてくれる。
その間妻は「分子ガストロノミーだ」とか「イケメンスタッフ可愛い~♪」とか言うので、生井シェフが笑いながら面白く会話を盛り上げてくれる。料理の技術やセンスの良さだけでなく会話も上手なので、妻は「アーティスティックでエンターティナーね」と褒めていた。江戸前穴子はムースにして春巻き状に仕立てた。ソースサバイヨンにエシャロット・アサリのジュ、そしてガラムマサラを加えてエスニック調に仕上げたものだ。

20180928odenamai4b

艶やかな黄色のソースの下にはコーンやヘンネル風味の押し麦のリゾットも潜み、食感の変化と共に食べ応えがある。上に飾ったヘンネルの花がガラムマサラのトーンに時々甘いニュアンスを加え、全体の味わいを優しくまとめる。さりげない美味しさが緻密な計算から引き出されていた。更に続けて登場するのは、円形のグリーンが印象的なデザインの長崎五島産「スジアラ」。
目の前で生井シェフが、これまた鮮やかなグリーンの「スジアラとツルムラサキでとったスープ」をサーブして完成する。この「スジアラ」はトランプ大統領が訪中した際の晩餐会でも供せられたハタ科の高級魚。フレンチで食べるのは初めてかもしれない。モリで打って海中で神経締めすると言う珍しい技術で処理された特別な物だそうだ。「さすが生井シェフ、潜って刺したのね」と言う妻のジョークに「僕は潜りません」と間髪入れず生井シェフ(笑)

20180928odenamai5

円形の「ツルムラサキのチュイル」上には、スジアラのレバー、ツルムラサキ、そして昆布とヘベスのピューレが点々と美しく飾られている。チュイルをパリッと割ってスープと混ぜるうちに、昆布の香りが重なり柑橘のニュアンスもテーブルに流れる。ツルムラサキのねっとりした食感にふくよかなスジアラの旨味が広がって何とも美味だ。さらりと頂けるが良い塩梅に深みもあって良かった。
さて芸術的作品が続くが一息つくグラニテが運ばれる、「茄子/しそ」だ。これも目の前で生井シェフが液体窒素片手に仕上げてくれる。もくもくと白煙が上がって美味しいパフォーマンス。広尾「Ode」店舗内の中心であるカウンターの雰囲気を少しでも表現できないかと、この個室に持光支配人がわざわざカウンター代わりのテーブルを設置してくれた。有難い演出だ。赤シソのジュースと茄子を合わせたピンクのグラニテは、液体窒素を噴射して急速冷凍した。

20180928odenamai5b

その中にはオリーブオイルのアイスも隠れている。上に飾ったマイクロ紫蘇。全体を絡めながら頂くと一つの調和した味わいになっている秀逸なグラニテだ。「日本の味なのに日本じゃないところがすごいね」とまた感心する妻だった。ではいよいよメインの「天草ホロホロ鳥/車海老」がやって来た。しっとりと仕上げたホロホロ鳥のバロティーヌだ。中には車海老を詰めている。
柔らかい食感の中に少し感じる皮目や、付け合わせのミニコロッケもアクセント。香りとコク、そして旨味も濃いソースはセップ茸と幻といわれる大きな「オオモンダケ」。この日の為に長野のキノコハンターからわざわざ仕入れたと言う。柔らかい味わいながら、フレンチらしい奥深さも。ホロホロ鳥と車海老という一見遠い素材をまとめ上げ、生井シェフの目指す味に自然に到達していたのは素晴らしかった。

20180928odenamai6

お腹もすっかり満たされたところでアバンデセールの「スイカ/ゴーヤ」が運ばれた。塩メレンゲのアイスに、小さくカットされたゴーヤのピクルスとマリネしたスイカ、そこにジンでマリネした赤い「スイカのスープ」が注がれて完成だ。「ゴーヤが良い仕事をしていると思います」と生井シェフ。「ほんと!ゴーヤがかなり効いてる」と妻。さっぱりしかし立体的で得も言われぬ満足感に導いてくれる。
最後のデセールは「白桃/山羊乳」。これも目の前で液体窒素噴射のパフォーマンス。桃のコンポートに合わせたのは新生姜の甘酢漬け。新生姜に合わせて桃のコンポートは少し硬めに仕上げた。横に添えられたのが急速冷凍の「山羊乳のアイス」。白桃に敢えてあっさりした山羊乳を合わせたとの事。山羊乳好きの妻はここでも上機嫌に「お代わりしたいくらい」と珍しく最後までペロリと楽しんでいた。食感・味わいを狙い、余韻には生姜をまとった味わいでとても良かった。

20180928odenamai7

生井シェフのエンターテイメントも楽しいが、味わいもそれ以上に満足するものであった。一見すると両極にあるような意外な素材の組み合わせ。しかしそれが主素材を一段と引き立ててくる。緻密に計算しながらも自然体に1つの昇華した味わいを生み出す。まさに生井シェフのセンスだろう。帰りにはお土産も頂き「レ・セレブリテ」スタッフ達に見送られる中、「Odeにも来て下さいね」という生井シェフに「うんまたね」と名残惜しそうに手を振る妻。
「Ode」は季節毎と言うかメニュー変わる毎に伺いたくなるレストランと言えそう。最近はどんどん食すペースが早くなっている我が家であるが、3時間があっという間の素晴らしいディナーイベントであった。今年の秋も幸先の良いスタートを切ることができ、美味しい食事・ワインに出逢えそうだ・・そんな気分になってホテル「日航福岡」を後にした。

20180928odenamai6b