福岡の数少ない上質なイタリアン、浄水にあった今井正三シェフの「リストランテ サーラカリーナ 福岡(Sala Carina)」が惜しまれつつ閉店してもう1年近くなる。シェフの体調不良から突然の閉店だったためスタッフ達も大変だったろう。その中で、ソムリエ・マネージャーだった原田勲氏が満を持して独立。オーナーとして「リストランテ 鶴ノ荘(ristorante Tsurunosou)」を2018年4月18日、西中洲にオープンした。
西中洲に長年根付いていたイタリアン「グラーツィア(GRAZIA)」を買い取って改装。1階がリストランテ、2階がバーと言う構成(内装)は以前のままだ。ただ1階は「グラーツィア」時よりもゆっくりと空間を利用しているという。半個室2つにカウンター、全部で14席程度になる。

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「鶴ノ荘」という和風の店名は、原田氏の祖母が1952年まで薬院で営業していた料亭の名前だ。家族の思い出深い名前を付けるところにも意気込みを感じる。と言う訳で夏の暑い夕方、我が家お馴染み「ルイ・ヴィトン福岡店」で買い物をした後に初訪問した。歓楽街・中洲の中心となる那珂川、水面にはネオン街ならではの夜景が映り、キラキラと光を放ちながら屋形船や水上バスが行き交っている・・
その天神側・春吉の交差点を小道に入っていく。入りくねった西中洲らしい裏道を歩くと、「鶴ノ荘」の付近には「ローブランシュ(L’eau Blanch)」「割烹 しらに田」など博多の人気店も軒を連ねる。歩きながらふと路地先を見やると、新店外のアプローチでオーナーソムリエの原田勲氏が暑い中待っていてくれた。妻は「おめでと~~~♪」と久しぶりの再会に駆け寄り嬉しそうだ。

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店内に入ると木と白い石造りのナチュラルな風情。カウンター内には、旧「グラーツィア」田原聖凡シェフ、そして「カンチーナ・ガシーヨ」系列の福津「ガシーヨ・デルマーレ」(2017年で閉店)の料理長を務めていた品川功シェフがいて驚く。サービスは原田オーナーに加え、若手イケメン枠?として「サーラカリーナ」の廣澤祐人ソムリエが頑張っている。
原田オーナー曰く「メンバーは人柄重視で人選しました」との事だが、ベテランの経験値の高いチームだから料理・サービスのいずれにも安定感がありそうだ。私達は洞窟風のテーブル席へ着く。隣部屋と合わせて使う事も出来るそう。まずはオープン祝いも兼ねて、ワインリストから「ルイ・ロデレール クリスタル ブリュット(Louis Roederer Cristal Brut)2009年」をチョイスする。

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クリアボトルに揺れるキラキラゴールドの泡で、スタッフ皆さんの門出を乾杯する。1776年ロシア皇帝アレクサンドル2世専用シャンパーニュとして創業の「ルイ・ロデレール」。優良年にのみ造るプレステージ・キュヴェ「クリスタル」は、この「2009年」で6年連続の発売になる。クリスタル専用畑は約60ha強で生産量は30万本程度。
2003年に匹敵するほどの暑い年であった「2009年」が、冷涼な「2008年」より先の発売となる。そう言えば「2009年」が「2008年」に先行するのは「ドン・ペリニヨン(Dom Perignon) 」も同様だ。グラスに注がれるとイエローゴールドのクリーミーな泡が盛り上がる様も実に美しい。ピノ・ノワール60%、シャルドネ40%。柑橘系の爽やかな甘い香りに、シナモンや白コショウ様の細やかなスパイス、

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さらにローストしたナッツなどのトースト香、白い花・白いキノコ・・高くも洗練された酸がいつも変わらないエレガンスを表現する。間断なく立ち上る泡の刺激とともに最初はフレッシュさに包まれる飲み口であったが、時間と共に落ち着いたミネラルに覆われた果実のエネルギーを感じてくる。実はこの「2009年」を開けるのは3本目だが、発売当初より味わいが落ち着いてきた印象だ。
「ルイ・ロデレール」はどこよりも早くリリースするため、その変化していく様もある意味楽しみの一つと言える。では、料理の話に行こう。オープン当初は1コースのみであったが、3ヶ月経ち徐々に増やして今では3コース(6800円/9800円/15000円)。アラカルトも対応可能で、イタリアの伝統料理を中心に毎日20プレート前後と充実している。私達はもちろん「お任せコース」を頂く事にした。

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スタートは涼し気なガラス器に入った「オクラのすり流し」。上には京都の湯葉とウニを乗せた。いかにも夏らしい一品を飲むように頂くと、ほっと日本食的な落ち着いた気分になる。続いて「鮎」。モナカの上に薫製した鮎と鮎のペーストを乗せたもの。浅漬けのキュウリも添えている。一口で頂くや香ばしい薫香に包まれる・・キュウリの青さも何とも良いアクセント。
これも日本の夏らしい嬉しい一品だ。更に出されるのは、重厚なスガハラガラス(sghr)の器に鎮座した「ホタテのベニエ」。一見アメリカンドッグか串揚げの様なそれは、上には西京味噌と黒ビールのソースを流していて和の風情。プリプリ熱々の帆立の身が口中で弾け、帆立の柔らかな甘みと旨味が広がる。西京味噌と黒ビールのソースの柔らかくも深い味わいがイタリアンを思い出させる。そんな楽しくも美味しい味わいであった。

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続いて個性的な和器で出て来た「トウモロコシのスープ」。中には香ばしい焼きトウモロコシの身が浮かび、底にはフォワグラのパテも潜んでいる。ねっとりしたフォワグラを絡めながら頂くとさらに美味だ。「料理がフラフラしてなくてさすが安定してるね~♪」と妻。ちなみに次々に登場する印象的な陶器類は、旧「グラーツィア」時代に田原聖凡シェフが集めた多治見・美濃焼や、朝倉・小石原焼「森山實山窯」の物だったりしてこだわりを感じるラインナップとなっている。
ではここで赤ワインもボトルで頂こう。「サーラカリーナ」時代と同じく原田ソムリエお勧め数本の中から選ぶ。決めたのはトスカーナ「カサノヴァ・ディ・ネリ ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ チェッレタルト(Casanova di Neri Brunello di Montalcino Cerretalto)1997年」、モダンな黒にシルバー文字のラベルが印象的。

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ジョヴァンニ・ネリ(Giovanni Neri)が1971年設立した家族経営のドメーヌ「カサノヴァ・ディ・ネリ」。63haの7つの区画から複数のワインを生み出す。造っているブルネッロ・ディ・モンタルチーノの中でも「チェッレタルト(Cerretalto)」は1981年ファーストヴィンテージの最高キュヴェ。出来が良い年にのみ、ミネラル分豊富な土壌の単一畑(標高390m)から造られる。
イタリアワインのグレートヴィンテージと言われているこの「1997年」は2220ケースのみ。20年の熟成でどのような味わいになっているか楽しみだ。グラスに注がれると、干しぶどう・プラム・ブラックベリー・オリーブ・・香りは複雑であるがまだ控えめ。アタックはシルキーで緻密なタンニンの優しいタッチだ。どこかブラッドオレンジを感じる華やかさに「1997年」らしく太陽も感じ、バランスを取りつつ柔らかな余韻に包まれる。

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引き締まった凝縮感はあるが、酸がエレガントなワイン。長期熟成のブルネロらしい若さもあり、これからさらに良い塩梅に熟成していきそう。長年我が家的には「イタリアワインは原田ソムリエ」と言う定義があり「サーラカリーナ」で楽しんで来たが、新しいここ「鶴ノ荘」でも引き続き心置きなく極上イタリアワインを楽しめそうだ。
ワインリストもイタリアを中心に取り揃えてあって「今後さらに充実させていく予定です」と言うことで頼もしい限りだ。ではまた料理に戻ろう、次に登場したのは「鯵の薫製カルパッチョ」。香る焼きなすのソースに、5%塩水に1週間つけて発酵させたジャガイモと、赤オクラを添えている。発酵ジャガイモはまさにチーズような口当たりになっていて面白い。最近シェフが発酵にこだわっているんです」と原田オーナー。

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ノーマ(noma)」を始めとする北欧料理の流行りから「発酵」が日本の料理シーンにも浸透してきている。日本人らしい味に調整さえすれば、この発酵ジャガイモのように美味しく完成するなと改めて感じる。燻製アジを舌先に感じた後にナスが浮かび上がってくる。そんな立体的で美味な一品であった。続くパスタは、黒い筒上のすり鉢のような器に盛られた「ジェノベーゼ(バジリコのパスタ)」。
インゲンとじゃがいもに、たっぷり振られたパルメザンチーズも絡んでいる。シンプルながら塩気も効かせてイタリアンらしい味わいに満足する。次々と展開されてくる料理は、軸がしっかりしてブレておらず、安心して味わいを楽しめる。妻は「さすがベテランシェフ・コンビだわ~」と感心している。そんな中登場した「アラのソテー」はモロヘイヤのソースで頂く。

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アラ(クエ)の皮のカリッとした食感の後に広がる旨味。それを引き出す塩気の塩梅がなんとも良い。すだちの爽やかな風味も加えた。添えられた高麗人参の独特な漢方の風味が面白いアクセントだ。モロヘイヤのソースが最初の「オクラのすり流し」とイメージがかぶってしまったが、アラ自体はとても美味しく頂けた。メインの肉料理は、鳩やその他の食材もあったが「今日は宮崎産牛が一番上質です」と言うお勧めを頂くことにする。
「牛イチボのロースト」だ。皮ごとローストした淡路島産玉ねぎも添えている。大きな玉ねぎを一枚一枚剥がすように頂く・・甘くて美味。それをまとめるのはバルサミコソースだ。アボガドと塩麹のピューレや発酵ビーツも面白い。イチボらしい柔らかな赤身肉が綺麗に仕上げられており、様々な付け合わせやソースと最後まで美味しく頂けた。

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さぁお腹もいっぱいな所にデザートが運ばれる。グラスに入ったひんやり「桃のコンポート」、そして桃と共に香るのは「酒粕のジェラート」だ。スルスルさっぱり大人の味わいがまた嬉しい。普段は西中洲という場所柄、早い時間の「同伴」組が多い様であるが、この週末の夜はほぼ貸切状態だったため、ゆっくりと料理とワインを楽しむ事が出来た。
ベテランシェフの安定した美味しさ、そして洗練されたソムリエのサービス、加えてモダンな料理技法やこだわりの器類と、箱は一緒でも旧「グラーツィア」から大きく進化した「リストランテ 鶴ノ荘」は、今後も注目の大人リストランテだろう。また来るねと皆に手を振りながら満足の気分で店を後にする。心地よい気分でゆっくりと夫婦で歩く蒸し暑い博多・中洲の夏夜は、観光客で大層賑わっていた。