7月1日から15日は「博多祇園山笠(櫛田神社祇園例大祭)」で賑わう福岡・博多地区。777年前に施餓鬼棚に乗って祈祷水を撒き、疫病除去したことを起源とする大夏祭り。福岡人はこれと共に夏が始まると思うものだ。福岡市内中心部の天神・中洲・博多など14ヶ所では1日から、高さ10m超の博多人形師による豪華絢爛な「飾り山」が公開されている。その界隈では水法被に腹巻と締め込み姿の男衆を見掛け、
いかにも男の祭り風情となる。「博多祇園山笠」の神事も色々あるが、9日の安全祈願「全流お汐井取り」が行われてからが一気に盛り上がって来る。10日には舁山が動き出し、11日は「朝山」と「他流舁き」、12日はリハーサルの「追い山ならし」。そして商人の町「博多区」の祭である山笠が13日、福岡城下「中央区」にお披露目に来る「集団山見せ」。14日はいよいよ「流舁き」で最後練習、そのまま15日早朝にクライマックスの「追い山」になる。

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そんな街自体が緊張感と活気に包まれる博多の7月、一足先に夏の台風もやって来た。窪津朋生シェフの名前を冠したひらまつグループの新レストラン「リストランテKUBOTSU(旧リストランテASO 福岡・天神)」に、窪津シェフの師匠であり今やひらまつグループ・イタリアン統括の吉越謙二郎シェフを招いたガラディナー「Festa d’Estate 2018」が催された。福岡を皮切りに全国で展開されるため、
大阪「リストランテ ル・ミディ ひらまつ」・銀座「アルジェントASAMI(旧アルジェントASO)」・代官山「リストランテASO」の各シェフ達も引き連れて、ひらまつイタリアンシェフ勢揃いの豪華なディナーとなった。正にキッチンは戦場!?こちらも男祭のような喧噪だ。吉越シェフと言えば、かつてミシュラン2ツ星まで獲得した阿曽達治シェフの右腕。2016年にオープンした奈良「リストランテ オルケストラータ(Ristorante L’ Orchestrata)」でミシュラン1ツ星を取り、

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現在は「ザ・ひらまつ ホテルズ&リゾーツ 仙石原(THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 仙石原)」料理長の傍ら、イタリアン部門全体を取り仕切っているトップシェフだ。数年前「リストランテASO 福岡・天神」料理長だった時には、七夕時期に「織姫・彦星」を博多織で表現したり、夏バカンスの島釣りをデザートで表現したり・・アートやサプライズ溢れる演出に我が家的にも印象深い思い出が多い。
この夜警固公園前に車を付け、我が家お馴染み「ルイ・ヴィトン福岡店」も下階に入る「レソラ天神」に向かう。4階でエレベーターを降りるとスタッフが総出で客を迎えている。千葉篤志支配人や長坂滋郎ディレクターほか「レストランひらまつ博多」のスタッフも手伝いに来ていた。受付カウンターには、新たに「大川組子」が組み込まれている。この「大川組子」は300年の歴史を持つ伝統工芸。クルーズトレイン「ななつ星in九州」の内装を手掛けた

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「木下工芸」によるものだ。特別にASOのためにデザインしてくれたと言う。今回一夜限りのガラディナー「Festa d’Estate 2018 by 吉越謙二郎」は、メインダイニグで一斉スタートではあるが、我が家は特別にいつもの個室で楽しませて頂いた。一面ミラーで輝く個室の窓の下には整備された緑爽やかな警固公園が広がる。19時になろうと言うのにまだ明るい。まずは乾杯と行こう、「ガラディナー」ではプレートに合わせて
それぞれグラスワインが用意されているが、我が家はいつもの様にボトルでお願いする。心得たもので担当の重松冬樹ソムリエがシャンパンの充実したグループ内「六本木テラス フィリップ・ミル」に相談して飲み頃のシャンパンを用意してくれていた。それは「アンリオ キュヴェ・デ・アンシャンテルール(Henriot Cuvee Des Enchanteleurs) 2000年」。200年以上の歴史を誇る我が家定番シャンパーニュ・メゾンの一つ。実は前週に家で

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同じ物を開けていたし、先日も南仏サン・ポール・ド・ヴァンスに行った際に「レストラン アラン ロルカ(Alain Llorca Hôtels et Restaurants)」で、乾杯に「アンリオ ブラン・ド・ブラン(Henriot Blanc de Blancs Brut)」を選んだ。家族経営によるエレガントなワインには定評がある。そのプレステージシャンパンがこの「アンシャンテルール」なのだが実は「アンリオ」、7月中旬には
新プレステージとして「キュヴェ エメラ(Cuvée Hemera)2005年」を発売する。全てのパッケージデザインも7月末から順次変更される。更に9月1日には創業200周年記念の「ブリュット・ミレジメ(Brut Millesime)2008年」も発売する予定など「アンリオ」も変革時期を迎えている。さて、この夜開けた「キュヴェ・デ・アンシャンテルール 2000」はシャルドネ約50%、ピノ・ノワール50%。グラスに注がれると深いイエローから立ち上がるゴールドの泡が美しい。

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蜂蜜とブリオッシュが絡み合う甘さ・・ちょうど良い塩梅で所謂飲み頃だ。高い酸が解けて柔らかくなったミネラルと調和する。アンリオらしく上品な味わい、余韻はすっきりしていながら複雑・・そんな相反する旨みで締めくくられる。そこに運ばれて来たのは、活け花のような華やかさの「プチトマトとピスタチオ ラベンダーの香り」。ドライアイスの煙と共にラベンダーの香りがふんわりテーブルに流れ出す・・
さすが吉越シェフらしいプレゼンテーションからワクワクするスタートだ。トマトの底にはキャラメリゼしたピスタチオ、甘くザクザクの食感にプチっと弾けるみずみずしい酸味を楽しんだ。続いて登場したのは「アボガドの発酵 水牛のモッツアレラとラルド ソース・レムラード」、テーブルで京都の鰹節が削られ、それをふんわり振りかけて仕上げられる。吉越シェフからの指令を受け「半年程のぬか床」に9時間程度漬け込んだ「アボガド」を、鰹節の一番だしに溶かした葛でコーティングしている。

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ねっとりした食感と微かな風味が、まさにチーズの様なとても絶妙な美味さだ。添えられる「そば粉のチュイル」にピンクペッパーのニュアンスもアクセント。見事に和とイタリアンが調和して美味な味わいである。「これからじっくりと味を出していってほしい」と言うスタートしたばかりの窪津シェフへの吉越シェフの思いを乗せた一品との事だ。そして次にやって来たのは、この料理の為だけにバーナーで手造りした氷の器(再利用なし)。
涼し気なそれの下には「思い出の博多織」が惜しげもなく敷かれていて華やかだ。氷器の中には「柔らかく煮込んだ鮑」に、鮑の胆にじゅん菜、ニンニクの香りも漂うセミドライトマト、そしてわざわざ天草から作った「マッシュルームのところてん」も潜んでいる。それらに「魚介のソース」がテーブルで注がれると言う演出だ。ハマグリやワタリガニ、アサリの出汁の柔らかながら複雑な風味、そしてトマトの少しねっとりした食感もイタリアンらしい。主役の鮑はねっとりとした食感が美味。

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京都「レストランひらまつ 高台寺」藤原誠料理長から聞いた「和のやり方」も取り入れているそう。更には錫器に入った「香草のサルサベルディ」も添えられ、好みで足して楽しむ。滋味深い味わいながらサルサベルディがイタリアンにいざなう。妻は茸風味ある心太が大層気に入っていた。複雑ながら優しい旨味のソースが美味で、最後まで飽きさせない秀逸な一品であった。合わせる「アンリオ」も完成度が高い為、
繊細でいながら存在感のあるこれらの前菜や魚料理とぴったりだ。それでは赤ワインもボトルでチョイスしていこう。「熟成したものがお好きと聞いたので・・」と重松ソムリエが「レストランひらまつ広尾本店」から取り寄せていた「シャトー・ラ・ラギューヌ(Chateau La Lagune AC Haut-Medoc) 1982年」。ボルドー格付け3級、「ラ・ラギューヌ」はラテン語で「水の中央」を意味する。ひらまつ本店セラーで長期間熟成させていた1本と言うから期待大だ。

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メドックの中でも最もボルドー中心部に近く、シャトーの歴史は18世紀まで遡れる。若いうちは樽のロースト香も強くアメリカで人気のワインと言われていた。我が家は余り積極的にチョイスすることは少なく、若いヴィンテージをビストロのガッツリとした肉に合わせた記憶がある。その後2000年からジャン・ジャック・フレイの手に渡り(フレイ家はローヌ「ポール・ジャブレ・エネ」所有し、シャンパーニュ
「ビルカール・サルモン」大株主でもある)刷新が続いている。特に2004年から女性醸造家カロリーヌ・フレイが加わり、最先端の醸造設備が完成し品質が飛躍的に向上した。久しぶりに飲む「ラ・ラギューニュ」は1982年という世紀のヴィンテージ。香りは直線的だが芳香量は多い、さすが「1982年」なのだろう。枯葉・ピーマン的スパイス・炭パウダー・ジャコウ・・・ボディは強くはないがまだ芯はしっかりとしている。色調は1982年とは思えない程

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若さも残るがエッジは枯れている。タンニンは溶け込み保存状態も良かったため、味わいに透明感があり飲みやすいが余韻はかなり短い。しかし図らずも、出汁の旨味をちりばめた吉越シェフの秀逸なイタリアンにぴったりと寄り添い、ワイン単体としては今ひとつだがチェイサー的に楽しむ事になった。さて、続く料理はお楽しみのパスタ「ポルチーニのタリオリーニ コッパのシートと根セロリのアクセント」だ。
タリオリーニの下に敷かれているのが旨味コク深い「コッパのシート」。添えられた「フレッシュポルチーニのソテー」や「ポルチーニのデュクセル」なども味わいの複雑さを引き出す一方、「セロリのソース」や「セロリのピクルス」も添えて爽快さも忘れない。コースの前半からすると味わいもぐっと深くなってきてメリハリが感じられる。付け合わせもそれぞれに完成しており、総合的にもまとまっている。そんな食べ心地が食べ手を惹きつける。そうそう、これには元々コースに

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用意されていた「イタリアワイン」も合いそうだ。と言う事でお願いすると登場したのは「ひらまつグループ」秘蔵のダブルマグナムボトル(3000ml)の「ラ・マッサ ジョルジョ・プリモ キャンティ・クラッシコ(La Massa Chianti Classico Giorgio Primo Chianti Classico)2000年」。以前吉越シェフが「ASO福岡」料理長時代、「ひらまつ福岡」との合同クリスマス・ガラディナーで、
同Wマグナム「ラ・マッサ ジョルジョ・プリモ 1999年」が提供されたのを思い出す。合わせられたのは吉越シェフの「熟成和牛の炭火焼き」、プレートに赤いリボンが巻かれスモークが流れ出す仕掛けも印象的だった。そんな思い出話と共に味わうワインは、黒胡椒・コーヒー・甘いエスプレッソ・・熟したドライフラワーや黒オリーブのニュアンスも心地良い。しっとりとした触感の滑らかなアタック。それでも微かに感じるタンニンの後に、凝縮した果実味が開き余韻は長い。

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チャーミングながらまだどこかゴツゴツしたニュアンスも料理との接点になってくれた。お腹もいっぱいになって来た頃運ばれて来たのは「キハタを使ったパイ包み焼き 香草の香るスープ仕立て」。その出で立ちは正に「ポール・ボキューズのスズキのパイ包み焼き」を彷彿とさせる豪勢なパイ包みだ。しかも真ん中にズボッ!とハーブの束(ローズマリー・イタリアンパセリ・フィーヌなど5種類)が刺さっている。
その刺し口から熱々の「魚介のソース」が注がれて完成するという趣向だ。妻は「まるでプランターのハーブに水差し!?」と興奮してはしゃぐ(笑) ハーブの強い香りとしっとり艶やかなパイが食欲をそそる。パイ生地はかなり軽やかでサクサク、その繊細な食感が上品さを醸し出す。底には出汁で炊いたふんわりした身質のキハダが隠れている。スープはカツオの一番出汁を感じ、そこからハーブが効いてくるなどバランスの取れた味わいだ。香草の香りをまとったホクホク

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穏やかなパイ包みに、身も心もとても満足した。さぁいよいよメインの「フランス産鴨胸肉のロースト エピスのリコッタチーズとザクロのザバイオーネソース」が登場する。雌鴨肉をジュのソースと共にシンプルに楽しむ。絶妙な火入れで柔らかい鴨肉も純粋に美味なのであるが、添えられたザクロのムースの中には、自家製リコッタチーズとフォワグラが潜んでいる。それが立体的な味わいで何とも美味。適度な歯ごたえの太アスパラガスに
、粒マスタードとキャトルエピス、ザクロも散らされている。更に「ネギのリゾット」も敷くなど味わいの変化に富んでこれも大満足なプレートであった。「これなら赤ワインはブルゴーニュと合わせてみたかったなぁ」と思わずつぶやく(笑) そして最後は「もう満腹で無理~」と言っていた妻の前に現れた、ピンクで甘い香りのデザート「南風」。妻は「やだ~ピンクピンク可愛い♪」と嬉しそうだ。良く見ればトンボが飛んでいる?!素麺で飛んでいる様に見せているだ。

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ピンクの飴筒の中には桃のアイス、下にはピンクのグラニテ、周りには花が散りばめられたベリーのソース、スモモのフレッシュなど。桃のコンポートは「ラタフィア・ド・シャンパーニュ(Ratafia de Champagne)」で作られた。そんな爽やかながら滋味深いデザート「夏休みのトンボ」に、マシュマロなどの花が咲く「小菓子の枝」も加わって、食後酒「ドンナフガータ ベン・リエ パッシート・ディ・パンテッレリア 2006年」
と共に満喫してディナーを締めた。いつもながら吉越シェフの料理は、ユーモアと美味しさがせめぎ合うように巧妙にまとまっている。全国各店舗で活躍する弟子達への愛も感じる安定した料理を、この夜もバラエティ豊かに上品に楽しむ事ができた。帰りまだまだダイニングや厨房が忙しい中、スタッフ達が皆でエレベーターまで見送ってくれる。「吉越シェフまたすぐに飛んできてね♪」と手を振る妻に、吉越シェフはいつものガッツポーズで応えてくれた。