黒田官兵衛(如水)の息子・黒田長政が1600年代に築城した「福岡城」。当時は隣の大濠公園まで達するほどの巨城だった。明治35年に床下にあった火薬が爆発して消失。今では城壁等の一部が残されるだけ。その福岡城跡「舞鶴公園」「鴻臚館跡」は福岡市の中心部ながら、緑豊かな市民の憩いの場になっている。枝垂れ桜・八重桜・染井吉野・山桜など約千本が咲き誇るこの時期は、毎年「福岡城さくらまつり」が開催され
今まさに桜満開だ。夜はライトアップされて石垣に桜が浮かぶ景色は幻想的。鴻臚館広場周辺と西広場には90店以上が並ぶ「さくらグルメ屋台」や「黒田二十四騎武者行列」が登場。今年は初のライブイベント「ハルナバル2018」も開催する。加えて「福岡城まるごとミュージアム」と称し、普段なかなか入る事の出来ない歴史的建造物「之橋御門・潮見櫓」「多聞櫓」「母里太兵衛長屋門」でインスタレーションなどアート展示も行われているから「舞鶴公園」は大騒ぎだ。

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注目は我が家お馴染み「ルイ・ヴィトン」とのコラボや「ギンザシックス」吹き抜けのインスタレーションでも有名な、草間彌生氏によるの巨大な黄色い「南瓜」のオブジェ(福岡市美術館所蔵)。そしてスーザン・ヴィクター(Suzann Victor)氏によるレンズシートを使ってキラキラな輝く巨大な「Rising Sun」。その他韓国のヤルー氏による映像インスタレーションと、
岡本光博氏による立体や映像も見る事が出来る。ちなみに有料特別ライトアップエリアでは、竹灯り・音楽・LEDのショーが行われているそうだ。そして「福岡城跡」から少し移動して繁華街・天神と歓楽街・中洲の境目に位置する「天神中央公園」。ここでは「福岡天神さくらまつり」が開催中。都会のど真ん中川沿いにソメイヨシノやサトザクラがズラッと並び咲き、飲食ブースもあって桜祭気分満載。どちらも4月8日までの桜ライトアップで、さぞ今週は多くの人が集まるだろう。

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さて、まだ桜が花開く前の3月平日の夜、夫婦2人散歩がてらに軽くフレンチを楽しもうと向かったのは、天神中央公園を越えた西中洲川沿い、フレンチレストラン「ローブランシュ(L’eau Blanche)」だ。福岡出身の白水鉄平シェフが、東京・神楽坂から移住した佐々木利雄オーナーソムリエと組んでオープンした。ちょうど今週4月6日で2周年になる。白水シェフは、東京・四谷「オテル・ドゥ・ミクニ(HOTEL DE MIKUNI)」、
日本橋「オーグードゥジュール メルヴェイユ」を経て渡仏し、帰国後「オーグードゥジュール メルヴェイユ博多(Au gout du jour merveille HAKATA)」シェフを4年間務めた後独立した。西中洲の川沿いと言ういかにも中洲らしい景色が楽しめる再開発ビルの2階。最上階にはミシュラン福岡1ツ星「しらに田」も入っている。エレベーターを降りて、シンプルナチュラルなアプローチを奥に進むと、ネオンが水面に映る那珂川沿いに広がったダイニングが現れる。

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コンクリート打ちっぱなしに木のインテリアのナチュラルな空間。案内された窓際のテーブル席、眼下には装飾煌めく屋形船やクルーズ船が行き交う。ダイニングと繋がる様に川に向かってバルコニーもあり、水上に浮いた船の中にいる様な感じだ。壁に掛けられた絵画は福岡の造形美術家・平松宇造氏の作品。テーブル数席に加えライブ感あるカウンター席もある。カウンター上のコンクリートは和紙て覆いつつ、
窓際はあえてコンクリートむき出しにするなど個性的な風情も醸し出す。長身の佐々木オーナーソムリエはイタリアンからの転進。最近は彼の様に全国から福岡に移住してくる鮨職人やシェフも増えてきて、福岡の美食シーンもようやく活性化しつつある。そう言えばフランス・パリでミシュラン1ツ星を長年獲得していた「レストラン ソラ(RESTAURANT SOLA)」吉武広樹シェフも、パリから撤退してここ福岡で大箱のレストランを探していると言う。これはかなり楽しみである。

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加えて数年後には「旧福岡市立大名小学校跡地」11800m2に、ホテル「ザ・リッツ・カールトン福岡(The Ritz-Carlton Fukuoka)」地上24階147室が造られるだろう。その名に恥ずかしくない上質レストラン(シェフ)をぜひ誘致して欲しいと願うが、こうなって来るとそろそろ「ミシュラン福岡 特別版」第2弾も現実味を帯びるかもしれない。では話を戻してこの夜の「ローブランシュ」のディナー。
オープン当初はお任せコース6800円のみであったが、現在は6800円・9000円・13000円と3コースになっている。よって13000円コースを頂く事にする。まずはシャンパーニュで乾杯といこう。ワインリストの中から「ドゥーツ キュヴェ・ウィリアム・ドゥーツ ブリュット ミレジム(Deutz Cuvee William Deutz Brut Millesime) 1999年」をチョイスする。妻は「あれ?アムール・ド・ドゥーツはないの?ロゼも?」と若干残念そう。

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アイ村1838年創業の「ドゥーツ」は我が家では定番シャンパーニュの1つだ。1993年に「ルイ・ロデレール」傘下に入って以来品質も向上している。ブラン・ド・ブランの「アムール・ド・ドゥーツ(Amour de Deutz Blanc de Blancs)」がやはりイチオシではあるが、ドイツ移民の創業者ウィリアム・ドゥーツの名を冠したこのキュベも平日飲みとして自宅で良く開ける。この「ウィリアム・ドゥーツ 1999」も
もう何本か自宅や日航福岡「レ・セレブリテ」等で開けている。那阿川と中洲の夜景を背景に美しいゴールドがキラキラ映える。微細な泡がグラスの底から勢いよく立ち上る。白い花・イースト・微かなミツの上品なアロマ・・その奥に微かに土っぽい熟成のヒントも潜む。厚みある果実味がまだフレッシュさを感じる酸と良くまとまっている。その酸が程よい旨味と共に持続し、美しい質感のエレガントな飲み口を印象付ける。

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時間が経つに連れ発展した雰囲気が前に出てきた。骨格をなしていた柔らかいミネラルの幕が破れ、微かな蜜を伴った果実味が溢れ出すようだ。以前飲んだ時よりも確かに熟成が進んでいる。ピノ・ノワールの比率の多さ(55%)から来る飲みごたえと、シャルドネ(35%)の気品さのバランスは相変わらず調和していた。そこへ運ばれて来たアミューズは「チョコボール」、赤ワインマリネした鶉の玉子の周りに
アマゾンカカオをまぶしチョコボールに見立てたもの。遊び心あるスタートに会話も弾む。また小さな「グジェール」の中には和牛テールのリエットが潜んでいる。続いて運ばれたのは「サザエ 黒皮南瓜 黒にんにく」。サザエの身はいったん取り出して昆布出汁とタイムでマリネ。にんにく成分の糖質とアミノ酸がメイラード反応を起こした自己発酵の「黒にんにく」。黒にんにくと言えばデンマーク「ノーマ(noma)」を想い出すがそこまで強い風味はなく、

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プルーンのような軽い酸味のニュアンスが赤ワインとも繋いでくれる。奥に潜んだ宮崎特産の黒皮南瓜の食感と優しい甘さ。それがサザエのほんのり感じる苦みとはコントラストを描く。と言う訳で、赤ワインをボトルでお願いしようとリストのブルゴーニュに目を走らせる。ヴィラージュとプルミエ・クリュのみで構成された控えめなラインナップ。う~ん・・と迷っていると「リスト以外でこれもあります」と
佐々木ソムリエが出してくれたのはブルゴーニュ「ジョルジュ・ミュニュレ ニュイ・サン・ジョルジュ プルミエ・クリュ レ・シェニョ(Georges Mugneret Gibourg Nuits Saint Georges 1er Cru Les Chaignots) 2003年」。「レ・シェニョ」は、ミュルジュとヴィニョロンドに隣接したヴォーヌ・ロマネの丘に位置する。ヴォーヌ・ロマネの丘とニュイ・サン・ジョルジュの丘の間から流れる冷涼な風によって、ふくよかな果実味と共にエレガントな酸味も併せ持つとされる。

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わずかに粘土を含んだ土壌のため、ワインは堅固なものとなりヴォーヌ側地区ではもっとも大柄なワインとなる。グラスに注がれると微かにレンガ色を帯びたルビー、熟した黒果実と赤果実の果実味がアタックから力強く広がる。「2003年」らしいまさに太陽の味わいだ。葡萄の皮や土のニュアスが複雑味を加える。「ブラインドだとイタリアワインと思うよね?」と妻。それだけ熟したヴィンテージということだろう。
弾けるような果実味とタンニンはまだ若々しい。ヴィンテージの特徴とそもそものレシェニョの個性が相まって、まだまだこれから熟成していくポテンシャルを感じる、そんなふくよかな強さのあるワインであった。続いて登場した温料理は美しいバイオレットやローズピンクの「ブーダンヴィオレ 林檎 ビーツ」。紫芋のパウダーを表面にふって鮮やかに仕上げた白水シェフのスペシャリテだ。濃厚なブーダンノワールをヴィオレ(紫)の色調にまとめつつ、

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モダンな味わいに昇華させた。当初は「ブーダンノワール」と言っていたが、来店した師匠・三國清三シェフが「ノワールじゃなくてヴィオレじゃないか?」と指摘したのを機会に「ブーダンヴィオレ」と命名したとの事。ビーツと林檎を合わせたピューレ、そして赤紫蘇風なカシスのパウダーが酸味のアクセントになって面白い。お菓子のような食感と仕立てでありつつ、口にふくんだ味わいは力強い。
そこへこの料理に合わせて佐々木ソムリエがグラスワインをペアリングしてくれる。「ピエール・フリック ピノ・ブラン アルザス(Pierre Frick Alsace Pinot Blanc) 2016年」だ。甘く香るりんごの蜜に米麹のニュアンスが料理と絡んで良く合った。続いてサラダ仕立ての「ホワイトアスパラガス 車海老 北寄貝」が運ばれて来た。春らしい彩りから晩白柚の香りが微かに立ち上がる。フランス産ホワイトアスパラガスの存在感を中心に添えたプレート。

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クレソン・スプラウト・わさび菜など野菜の心地よい苦みに、鹿児島の車海老の海の旨みが良い塩梅に寄り添う。ほっき貝のグリエなども潜ませ、グリンピースのパウダーをふるなど、味わい・香り・香りのアクセントもバランスが良い。そして食べ進めるうちに一つ一つの素材が立ち上がるように口の中で存在感を見せる。そんな満足度の高い前菜であった。更に続いて「白子 ほうれん草 トリュフ」が運ばれる。
ホワイトバルサミコと黒トリュフのビネグレットソースの強い香りがテーブルから漂う。酸味をかなり効かせた味わいだ。ソースにはほうれん草で緑の色合いと風味もまとわせている。白子のムニエルにはやや強めに火を入れた。上には削いだ黒トリュフを飾られる。その黒トリュフの香りとビネグレットの酸味に包まれながら上質な白子を味わう一皿であった。次は巾着袋状態の「のどぐろ 筍 黄柚子」がやって来た。セロファン包みは白水シェフ「メルヴェイユ博多」時代の定番だったので懐かしい。

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テーブルでハサミを入れると黄柚子の香りがふんわりと立ち上がる。顔を見せるのは220度で蒸し焼きにしたノドグロだ。アサリの出汁に浸した筍とアオサノリの風味と共に、脂の乗ったノドグロのしっとりした食感と滋味深い身を楽しむ。ちょっと和に寄った感もあるが美味しく頂けた。妻はもうかなりお腹一杯と言っていたが、次はいよいよメインの「本州鹿のロースト 紫人参 パースニップ」。
本州鹿は鳥取No.1と言われるベテラン猟師が仕留めたもの。年間通して送ってもらっていると言う。その鹿肉のローストのシンプルながら的確な火入れが素晴らしい。優しい噛み締めがいがあり、身質が口の中で立体的に膨らんでいくようだ。肉の周りには鹿肉定番の黒胡椒の風味を付けているが、本州鹿の肉質を考えて敢えてクミンもふった。それによってエキゾチックで優しい甘い香りをほんのりと加えた。蝦夷鹿よりもかなり小さい本州鹿の身質は柔らかくて繊細。

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その身質を考えた仕立てであった。ジュのソースを敷いてパースニップのピューレ、少し味噌も加えた無花果のピューレを添えた。さらに少し焦がした玉ねぎや新ジャガイモのコンフィ。シェリビネガーでコンフィにした紫人参の食感も楽しかった。満腹だったはずの妻も結局「全部食べちゃった~♪」と機嫌よかった。一息ついてデセールが運ばれて来た、美しく盛り付けられた「タルトタタン」だ。
流行りの再構築には向かわずあえてクラシックな作り方をした。鍋の中で林檎を煮て、パイ生地で蓋をして焼き上げた上、鍋の中でキャラメリゼした。横にはローズマリー風味のヨーグルトのアイスを鎮座させて口の中をさっぱりとさせつつ、シナモンを効かせたキャラメルのソースも敷いてコントラストを効かせた。丹波黒豆のコンポート、生姜をかなり効かせたクッキーもアクセントに。色々とメリハリの効いた美味な「タルトタタン」に妻も満足そうだった。

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最後は小菓子とエスプレッソで締める。白水シェフの素材に向き合ったプレートを楽しめるレストラン。今回は、ホワイトアスパラガスのサラダ仕立てのプレートのバランス感、鹿肉の火入れが特に印象に残った。「メルヴェイユ博多」時代よりも明らかに進化し、温度や香りを意識して完成度を高め、より素材に集中できる味わいになっている。「味わいの着地点」も1段1段と精度が上がっていると思う。
そしてオープン以来、厨房・サービスのスタッフがほぼ変わらず安定している事も好印象。最近は人手不足からか、レストラン間を回遊しているスタッフを見掛けるが、余りコロコロ変わると店のイメージ自体も変わるし、客としても疲れてしまう。これからの時代、いかに同じスタッフと一緒に継続的な運営を実現できるか、つまりは経営者やシェフの人間力・マネジメント力も店を選ぶ際の1つのポイントになりそう。そんなことも思い返させてくれるレストランであった。

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