早春の京都、もう梅の季節だ。この夜は宿泊先の東山五条「フォーシーズンズホテル京都(Four Seasons Hotel Kyoto)」から、我が家のお気に入り京都フレンチ「レストラン モトイ(Restaurant MOTOI)」に向かう。町屋が並び情緒ある中京区富小路通、二条下ルと元々は呉服屋だった大きな屋敷(180坪)が見えてくる。白い暖簾が揺れる門をくぐり石のアプローチを進みガラスの引き戸を入ると、
歴史ある日本家屋を再生したモダンで落ち着きある素敵な空間が広がる。玄関段差上がって木造りダークブラウンのダイニングは、天井をぶち抜いて2階をなくした吹き抜け状態。余裕ある配置で白いテーブルクロスと白壁が映える。中央の大きなフラワーアレンジメントも華やかに、モダンで開放的ながらも日本らしい侘び寂も感じる造りだ。ちなみにこの日のフラワーアレンジメントは、新しく就任した男性デザイナーの作品で15種類もの薔薇を使っていると言う、何とも豪華。

20180306motoi1

そしてダイニング奥、ガラス越しに見えるのはスタッフ達が地道に手入れしていると言う美しい中庭。青苔に灯篭や手水鉢がライトアップされて京都らしい風情だ。その向こう側更に奥が蔵を再利用した個室となる。そんな中私達が案内されるのは、ワインセラー前の厨房寄りにあるいつもの半個室。他の客が余り目に入らない静かな場所で気に入っている。テーブルにセッティングされているのはいつもの綺麗な鶯色の「伊賀焼(土楽窯)」皿、
イタリア「サンボネ(Sambonet)」のカトラリーはスキンシリーズ、木村硝子の田崎真也ソムリエデザイン「TASAKI SHINYA WINEGLASS COLLECTION」チューリップ型シャンパングラス、加えて今回目に付いたのは「MOTOI」オリジナル箸?!和紙箱に入ってそれにもロゴが入っている(中には箸置きも)。これは持ち帰りできる、つまりお土産との事だ。妻が横で「祇園一力亭×ルイ・ヴィトン箸と一緒ね!?並べよう♪」と喜んでいる(笑) ではまずはシャンパーニュで乾杯しよう。

20180306motoi3

セラーには300種500本以上、リストも工夫したラインナップとなっている。来る直前既に私はホテルで「ビルカール・サルモン キュヴェ ニコラ・フランソワ(Billecart Salmon Cuvee Nicolas Francois Billecart) 1999年」を飲んでいたので、ここでは妻希望の「春はピンク!」と言う事で「ユリス・コラン レ・マイヨン ロゼ・ド・セニエ エクストラ・ブリュット(Ulysse Collin les Maillons Rosé de Saignée Extra Brut)」をチョイスする。
赤が強いローズピンクが照明に映える。思えば前回訪問時もロゼ、珍しい「セドリック・ブシャール ローズ・ド・ジャンヌ ロゼ・ド・セニエ クリュ・ダンフェール(Cedric Bouchard Roses de Jeanne Rose de Saignee Creux d’Enfer)」を開けていた。ジャック・セロスの弟子として名前の挙がるオリヴィエ・コラン(Olivier Collin)氏が率いるドメーヌ・ユリス・コラン。

20180306motoi4

コラン家はコンジィ村で約200年前からブドウ栽培している。現当主オリヴィエ氏は2001年からアンセルム・セロス氏の元で学び、2003年に自身のドメーヌ「ユリス・コラン」を創設した。2004年が初ヴィンテージ(5400本)と言う新進気鋭ながら高い評価を揺るぎないものにしているレコルタン・マニピュラン。区画毎小樽発酵・熟成、アッサンブラージュする。畑面積8.7ha、平均生産量年42000本程。
畑名を冠したブラン・ド・ブラン「レ・ピエリエール(Les Pierrieres)」「レ・ロワーズ(Les Roises)」、ブラン・ド・ノワール「レ・マイヨン(Les Maillons)」と我が家での登場頻度も高い。今回の「レ・マイヨン ロゼ・ド・セニエ」は2011年からリリース。マイヨンの畑2.5ha、樹齢40年のピノ・ノワールを伝統的なセニエ方式で造られている。加えてマセラシオンを行いピノ・ノワールの旨味を引き出す。アルコール醗酵6ヶ月、自然酵母発酵、

20180306motoi3b

シュールリーでバリック11~23ヶ月熟成、瓶内20~30ヶ月熟成、年間生産3500~7000本。この夜担当してくれた中野裕菓ソムリエールがグラスに注いでくれる。ラズベリーなど甘くチャーミングな赤い果実に続き、スパイスや茎様の香りが奥行きを与える。豊かな酸がふくらみを与え余韻を押し広げて行く。まだ統合しきれていないがアタックに続いてチャーミングな余韻が印象に残る。
さて料理は、今宵も大阪「ハジメ」などで修行した前田元シェフおまかせの「創造(CREATION)」を頂こう。付け出しはいつもの、10年近く中華料理の経験がある前田元シェフらしいマドラス風味の「ヘーゼルナッツのカラメリゼ」、小さな枡に入っている。そして運ばれて来た一品目が「唐墨大根」。唐墨大根は熱々に仕上げ、逆にモロコは低温で提供する。中に詰められた八朔とミント・・その爽やかな苦味と温度差のコントラストがなんとも素敵なディナーのスタートだ。

20180306motoi5

続いてガラスの中に浮かんだような「松葉蟹と聖護院蕪のムース」が運ばれる。米のサラダの上には蟹味噌と和えた蟹肉。甲殻類のジュレに、香り立つ聖護院蕪のムースの柔らかさが特徴的だ。きちんと京都らしい味わいが存在感を見せつつも、的確なフレンチらしい着地点がいつもながら秀逸なバランス感覚で感心する。次は「フォアグラナチュール 日向夏のキャラメリゼ」がやって来た。
しっとりした艶かしい食感の鴨フォアグラには塩、そして振られた乾燥させた柚子皮が良い香りだ。上には生ハムと花ワサビも配置した。キャラメリゼした日向夏が爽やかながら奥深い味わいを醸し出しつつ、山椒や柚子の香りが複雑ながら軽やかな余韻を形作る。シンプルでいて各要素がやはりピタリとはまった味わい。妻も「相変わらず素晴らしいわね~」と機嫌が良い。ここでいつものパンが運ばれる。大山崎町の「サンク・パン」によるバゲットとチャバタ。

20180306motoi5b

添えられるのは、ギリシャのエキストラバージンオリーブオイル「カラマノリ ミルストーン」や、表面に「有明の岩海苔」粉末をまぶしたフランス産バター、イギリス・マルドンの岩塩。妻は柔らかいチャバタが気に入っている。ではそろそろ赤ワインもボトルで開けよう。ソムリエールと相談しつつリストの中から「コント・ジョルジュ・ド・ヴォギュエ ボンヌ・マール(Comte Georges de Vogue Bonnes Mares Grand Cru) 2004年」をチョイスする。
思い返せば、つい昨秋に自宅で同「2011年」を、年末に「オーグードゥジュール・メルヴェイユ 博多」で「1996年」を開けている。更にその前にも福岡「レストラン花の木」で「1996年」や「2001年」を、六本木「ピエール・ガニェール」では「1988年」、日航福岡「レ・セレブリテ」では「1999年」を、自宅で「1994年」「2006年」などを開けている。

20180306motoi2b

ヴォギュエは「ミュジニー」の7割である7.2haを所有し、「ボンヌ・マール」は2.7haと最大になる。硬質なミネラル感から飲み頃が難しいヴォギュエのミュジニーであるが、「ボンヌ・マール」はそのふくよかさから比較的飲み頃を捉えやすい。グラスに注がれると美しいルビー色が揺れる。フローラル・薔薇のドライフラワー・・黒い果実ではなく赤い果実が強い。
アロマの立ち上がり方はやや控えめではあるものの、フローラルで茎っぽい青さがアクセントになってエレガントさを醸し出す。予想より酸味が強くやや重心が偏っていたが、1時間もすると果実味が開き始め、全体のバランスが取れてくる。最初は「ボンヌ・マール」と言うより「シャンボール・ミュジニィ プルミエ・クリュ」??といった趣きであったのが、時間と共に土っぽい「ボンヌ・マール」らしさも加わってきた。そこへこの夜は個室を担当していた

20180306motoi6

中村尚一郎ソムリエが挨拶にやって来て、ワイン談義も更に盛り上がる。そんな中運ばれて来た料理は「白菜のプレゼ」。京都・静原の白菜を主人公にした意欲的な一皿だ。蒸した白菜を腐乳と絡め、青カビチーズ「ロックフォール」のピリッとクリーミーな泡のソースをかぶせた。これにテーブルで黒トリュフを削って完成する。熱々のプレートにかなり熱々の白菜を乗せて、その温度帯も味わいの印象に刻まれると共に、
ロックフォールや黒トリュフの香りを増長してく。「白菜でここまでの味わいになるのがスゴイ!」と妻。シェフ曰く「妻の作った家庭料理にインスパイアされた」との事。冬の京に包まれていくような優しくほっこりする満足な味わいであった。続いて、ガラスの器に真っ赤な薔薇の花が横たわる様な「平井牛とフルーツトマト」がやって来た。平井牛を焼きしゃぶ風に仕立てている。今朝積んだばかりのクレソンとフルーツトマトを添え、煎り酒のドレッシングを振った。

20180306motoi6b

口直し的にサッパリと頂ける。底の方に潜んだ小さなものを口に運ぶと独特の春の苦味が広がった。前田シェフが今朝大原の雪をかき分けて探してきたという早春の「つくし」だ。そんな細やかなアクセントもモトイらしい楽しさ。前田シェフは常に試行錯誤し味覚の細かい所まで微調整を繰り返している・・そういう研究熱心さが伝わるプレートだった。そして次のプレートは迫力の「伊勢海老のテルミドール」だ。
伊勢海老にオランデーズソースをかけて火を入れた、モトイでは珍しい迫力の一皿に妻が驚く。周りにはアメリケーヌソースが注がれている。ホクホクで、柔らかくも旨味に溢れたフレンチらしい味わいだ。トマトとウルイのバスマティライスが底に敷かれてその食感がアクセント。その後加えて、香ばしい「伊勢海老頭のグラチネ」も提供されて食欲を更にそそってくれる。見た目にも満足感を増幅してくれた。伊勢海老のテルミドールと言えば、いかにもクラシックな料理なのだが、

20180306motoi7

その味わいは深みがありながらモダンで洗練されている。「さすが前田シェフね」と妻も感心しきりだった。既に妻は「お腹一杯かもよ??」と満腹幸せな様子。そこへ運ばれたのが「マナガツオのポワレ ソースマリニエール」。しっとりした火入れの高知宿毛産マナガツオの下にはセリを敷いた。手前に添えたのはローストしたキンカン、その凝縮された甘さと酸味がまた良い塩梅だ。ソースはクラシックなマリニエールソース。
微かなバターの風味に軽やかな旨味を乗せてサラッとしかし美味しく頂けた。一息付いた所にお馴染み、トレイに並べられた上質のフォルジュ・ドゥ・ライヨール社「ラギュオール・ナイフ」がやって来た。カラフルに数種から好きな色を選ぶ。わざわざ砥ぎ屋に出すとあってすごい切れ味。と言う訳でメインは今季最後だろう「べキャスのロースト」が登場。スコットランド産べキャスを丸々味わう一皿だ。「何をお出ししようかと色々悩みました」と前田シェフ。

20180306motoi7b

まだべキャスを味わえるとは思わなかったのでかなり嬉しい。手前には腿肉、中央に胸肉、そしてお楽しみの脳味噌も。ソースはサルミソース、スライスした黒トリュフも乗っている。とても綺麗な味わいながら、べキャスらしい血の風味の濃厚な味わいに、グイグイ引き込まれて夢中になって完食した。ボルドー好きの妻は「やっぱりいつものようにボルドーで良かったんじゃない??」と残念そうだったが
(我が家はベキャスには少し鉄分の感じる右岸ボルドーを合わせることが多い)、少しタンニンの残った「ヴォギュエ ボンヌ・マール」ともそれなりに共鳴してくれ、結局満足したプレートとなった。さて、ワインも料理もしっかり楽しんだ後は別腹お楽しみのデセール。1皿目にやって来たのは「フレッシュミルクのアイスクリーム」。添えられた「ハワイの黒塩」が甘さを引き立てるポイントだ。2皿目は「柚子のタルト」、添えられているのはカカオだ。

20180306motoi8

とろけるような柚子クリームの香りが口いっぱいに広がるところに、カカオのビターな苦みが絶妙な一品。3皿目最後のデセールは「オリーブ、コーヒー、林檎」。林檎のジャムに小豆島産オリーブの塩漬けを合わせた。もう一種類はコーヒーのムースの上にはソルベを乗せ、カカオのチュイルの軽やかな食感と共に楽しむ趣向。オリーブの塩気、コーヒーの苦み、りんごの甘酸っぱさ、これらのバランスが良くなんとも言えない食後感に導いてくれた。
締めは、シルバーの可愛い台に飾られた様なミニャルディーズ。京都らしい良くできた「金木犀のゼリー」「トリュフチョコレート」「松風」「八ツ橋ガレット」「大徳寺納豆入りマカロン」「カヌレ」などこだわった多種。これらと共にこの夜頂くのは「ルイボスティー」。アカシア蜂蜜も添えられ、華やかでまろやかな香りに癒されて食事を終えた。いつ伺っても安定した着地を見せる前田シェフの料理達。京都の素材や風味を利用しつつ、クラシックの技法をモダンに昇華させた現代的なフレンチ。

20180306motoi8b

ワインリストも充実していて、いつも選ぶ楽しさを感じる。あっという間でもう7年目に突入したと言う事、これからも頑張って欲しい貴重な「京都フレンチレストラン」だろう。帰りは車に乗り込みシェフとスタッフ達に見送られ、手を振りつつ静かな富小路通を後にした。今月末からは桜も咲き始め、更に人が押し寄せるであろう世界的観光地・京都、次は静かになった頃また訪れるとしよう。