雪が散らつく寒い夜、「ルイ・ヴィトン福岡店」で時間を過ごし(後日妻から詳細)、いつものように同ビルの上階レストランへ向かう。先日フライング的に紹介した「リストランテ ASO 福岡・天神」改め「リストランテ Kubotsu」だ。2018年1月25日いよいよ窪津朋生シェフ率いる「リストランテ クボツ」として再スタートを切った。
店頭受付にはゴールドに「RISTORANTE Kubotsu」の文字が輝いている。ダイニングまでのアプローチには整然と並ぶ胡蝶蘭、お祝いムード満載だ。メインダイニング隣の、テーブル席だったエリアはウェイティングスペースに改造した。ダイニングも10テーブルのみの余裕ある造りだ。案内されたのは一面ミラーで輝くいつもの個室。窓の下には静かな警固公園が広がる。先日まで年末年始恒例のイルミネーション・トレインが走って賑やかだった。カーテンもオーガンザで新調されている。

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テーブルには400年以上の歴史を持つ佐賀の唐津焼、そして300年の歴史を持つ伝統工芸「大川組子」のナフキンリングが置いてある。三日月が2つ向かい合う中にKのロゴは窪津シェフの名前をデザインした。唐津焼と言えば名門・中里家、何と窪津シェフを気に入ったという中里隆(隆太窯)氏が「これも縁だから」と器を造ってくれたと言うから楽しみだ。丸皿の裏には中里家を顕す「三つ星紋」と窪津の「K」。
そんな皿の隣には娘・中里花子(monohanako)氏によるモダンな青い平皿もある。そうそう、ワインリストには幕府への献上品だった博多織「献上博多」の柄が施されるなど、随所に九州色を打ち出している。ちなみにカトラリーはイタリア「サンボネ(Sambonet)」のスキンシリーズに変わっていた。思えば「ASO」ブランドを確立した阿曽達治シェフが現場を離れてもう長い。その後は吉越謙二郎シェフ(現在「ひらまつグループ」イタリアン統括)が率いて来た。

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一時期はミシュラン2ツ星まで獲得した「ASO」を代官山1店舗のみ残して、その他のASO店舗は各シェフの名前を付けていく?と言う新たな戦略だろう。銀座「アルジェントASO」は来月から浅見淳料理長の名前を冠する予定だ。窪津シェフ曰く「九州の食材や人脈、九州の魅力を五感で味わい尽くせるレストランにしていきます」と意気込みを語っていた。千葉篤志支配人やサービススタッフも気合十分の張り切りようだ。
ではまずは乾杯といこう。博多織ワインリストの中身自体は変わっておらず、思わず前回同様の「サロン ブラン・ド・ブラン ル・メニル ブリュット(Salon Blanc de Blancs Le Mesnil Brut) 2002年」をお願いしようとして妻に止められる(笑)「ルイ・ヴィトンでドン・ペリニヨンをもう飲んだから、ここはロゼにしてよ~」と言うので、皆で新店のお祝い乾杯しようと「ボランジェ ラ・グランダネ ロゼ(Bollinger La Grande Annee Rose) 2005年」に決める。

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そう言えば1年前のホワイドデーに開けていた。1829年に創業の「ボランジェ」は1884年から英国王室御用達。160ha畑の約7割がグラン・クリュとプルミエ・クリュだ。中でも「ラ・グランダネ」は優れた葡萄が出来た年にのみ造られ、そしてこの「ラ・グランダネ・ロゼ」は、「ラ・グランダネ」のアッサンブラージュに、赤ワイン「コート・オーザンファン」(ピノ・ノワール)を5%加えて造られる。
ピノ・ノワール72%、シャルドネ28%、ドサージュ6g。グラスに注がれると、薄く美しいサーモンピンク色が煌めき、妻は「そろそろロゼの季節ね♪」と楽しそうだ。微細な泡は溶け込み程よい刺激を奏でる。ベリー・チェリーから優しい広がりからチャーミングなフローラルな香り。時間とともに洋梨やスパイス。味わいの中盤に和らかなミネラル感にそこはかとないタンニンを感じる。エレガントな余韻は軽やかながら長い。

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ボランジェらしい樽のニュアンスがありながらも繊細な柔らかさが印象に残る。グランダネやRDからくる「ボランジェ」のイメージとは少し異なる繊細・エレガント系に寄った味わいだろう。またセニエが好きな我が家の好みではないが、祝いの乾杯には良かった。そんな上品なロゼを楽しんでいるところに運ばれたのは「九州の和を ほろ苦い蕗味噌と」。ガラスの器に活けられた花の様に、辛味大根やビーツなど、
九州産の新鮮野菜が盛られている。それを「自ら収穫して食べる」という趣向だ。野菜には飽和食塩水をスプレーしてある。そして添えられたスプーンには、蕗が入った味噌のタップナードが乗せられた。面白いのはフルーツトマト、キャラメリゼしてピスタチオを絡めた物を表面に付けてあった。弾けるみずみずしい酸味と香ばしい甘さを楽しんだ。なるほど、そこはかとなくイタリアンを感じる和を前面に押し出したスタートだ。運ばれたパン、そしてバターは矢野直人(殿山窯)氏作の唐津焼に入っている。

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小皿になっている蓋には、山葵や粗塩、紫蘇の花も添えられた。次に運ばれたのは「安心院のスッポンと河豚の白子 桜島大根とトリュフのソースで」。こちらの新品らしい綺麗な唐津焼の皿と湯呑も中里氏の作品。イカ墨をアクセントにしたオリーブのソースが、皿の風情と一体になって墨絵の様だ。一番底には利尻昆布の出汁で炊いたリゾット。そこに薄く切った大きな桜島大根を敷き、その上にトラフグの白子を乗せた。
河豚白子は日本酒、唐津・小松酒造「万齢(まんれい)」で洗って炭火焼にしたもの。とろりと溶け出す白子と頂くリゾットは様々な風味が微かに漂う。リゾットを炊いた利尻昆布で作った塩昆布やトリュフのアクセントも一役買う味わいだ。更に湯呑には、味をつけて食感を残したインゲンが潜んでおり、テーブルで旨味たっぷりのスッポンスープが注がれると言う楽しさだった。シンプルな素材使いと見た目が和風情なので心配したが、ちゃんとASO的イタリアンらしい強さがありほっとする(笑)

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なるほど、これが新生「リストランテKubotsu」の目指すべきプレートなのだろうと話している所に、ひょっこり顔を出したのは窪津シェフと、何と吉越シェフではないか!久しぶりの再会に妻は思わず「きゃ~♪会いたかったわ~」と声をあげる。ASO代官山本店・銀座店、そして福岡・天神店初代料理長を務め、現在はひらまつグループのイタリアンを統括し、箱根「ザ・ひらまつ ホテルズ&リゾーツ 仙石原」の料理長も務める。
今回彼の弟子でもある窪津シェフの「リストランテKubotsu」の立ち上げにあたり、1週間程手伝いに来ていたのだった。このオープニング・メニューも、窪津シェフが箱根の吉越シェフを訪ねるなど、2人で1ヶ月程掛けて試行錯誤して作り上げた。まさに師弟饗宴と言うのだからこれは美味しいはずだ。ではここで、博多織ワインリストの中から赤ワインを選んで行こう。メインの肉は「博多和牛」なので、ボルドーあたりに目を走らせる。

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チョイスしたのは黒いラベルにゴールドの絵柄が印象的な「シャトー・パルメ(Chateau Palmer) 2000年」。1814年イギリス人少将チャールズ・パルメが買い取ったメドック地区マルゴー村の「シャトー・パルメ」。英国王ジョージ4世の愛飲ワインでもあった。1855年のメドック格付け第3級ながら時として1級に劣らないという評価を得ている。特に70年代は、マルゴー地区で最も優れていたシャトーと評価とされている。
マルゴー地区のある意味、リトマス試験紙的なワインとも言える。私達も若い頃には飲みやすさと派手なラベルからレストランでも良く開けた。近年では「1975年」「1995年」「1985年」「1998年」「2001年」、銀座「ベージュ アラン・デュカス 東京」では「1999年」、銀座「レストラン エスキス」では「1978年」を開けている。2000年は7月中旬から、乾燥した晴天のため葡萄がゆっくりと生育した。

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熟したタンニンと十分な酸のため長熟(2020~2070年)と予想されている。メルロー47%、カヴェルネ・ソービニヨン53%。担当の重松冬樹ソムリエが、最初の一杯は敢えて丸みのあるブルゴーニュ用グラスで用意してくれた。パルメの上品な酸や丸みが強調され、どこか斜めから青いノートが微かに差し込んでくる。程よく凝縮した黒い果実と赤果実が調和する。透き通るように鼻の奥に漂うハーブの香り。
デカンタージュから30分もすると唐辛子的なニュアンスも出てきたが、バランスは崩さずアクセントにとどまる。途中からはボルドー用グラスに切り替えてもらう。「2000年」と言うヴィンテージらしくタンニンの質感はまだあるが、口の中では滑らかに液体が流れていく。果実のボリューム感とスパイシーさが絡みあいながら、上品な長い余韻を見せる。ヴィンテージらしい強さもありながら、メルロー比率の多いパルメらしいしなやかでエレガントな飲み口。

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そのバランスの良さがどんどん杯を進めさせる。果実味・ハーブ・土っぽさなど、料理とも様々な接点があり最後まで楽しめた。では料理に戻って次は「唐津のカラスミと山菜のスパゲッティ ペコリーノロマーノと五島あおり烏賊と梅のアクセント」が運ばれて来た。まだまだ寒い冬に春の到来を意識した一品という。これも唐津焼、刷毛目が印象的だ。お祝いの花である黄色いオンシジュームも飾られている。
スパゲッティはアーリオオーリオでシンプルに仕上げてアオリイカとあえた。そこにウルイ・コゴミ・タラノメ・スナップインゲンなど山菜を沢山盛り付けた。手前に添えているのはミルクのムース。そしてテーブルで、パルミジャーノ・レッジャーノをざくざく削って仕上げる。塩気はかなりあり、メリハリのついた食べ応えのあるイタリアンらしい味わい。潜ませた梅のピューレの酸や唐墨も程よいアクセントだ。それがまた「パルメ」と相乗効果で楽しめた。

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続いて運ばれて来たのはなんと蒸篭(せいろ)? 遊び心たっぷりの料理にも妻も「今度は何?」と楽しそうだ。こちらは「鮮魚のアクアパッツァ 日本酒の香るザバイオーネ」。テーブルでサバイヨンソースをたっぷり掛けて完成する。長崎・五島のアオハタを程よく蒸しあげた一皿だ。上には菜の花のアクセントを飾った。アオハタの下は、くりぬいた蕪の中にバターとバジルを閉じ込めている。
添えられた鹿児島・紫山芋の真薯のネットリとした食感もアクセントに食べ勧めて行ける。濃厚なサバイヨンソースがアクアパッツアの旨味ある出汁と少しずつ溶け合い、混じり合っていく過程も絶妙な仕掛けだ。サバイヨンの酸味と軽い旨味を調和させつつ、食感の変化や香りの重なり合いも感じる美味な一皿だった。さぁ続くメインの「博多和牛ロース肉の炭火焼 阿久根の筍と太閤牛蒡、鹿児島県産空豆 リンゴとウイキョウ、バルサミコソースで」がやって来た。

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筍の皮も使った早春らしいプレゼンテーション。迫力の大きさの太閤牛蒡の上に和牛ロース肉を乗せた。ブランド牛としてはまだ無名の頃から窪津シェフが推していた「博多和牛」。そのレアながら的確な火入れが何とも活かされた一品だ。牛蒡をくりぬいた中にはポルチーニを詰めた。リンゴとウイキョウを加えてぐっと凝縮したバルサミコソースや、極太の太閤牛蒡と共にイタリアンらしい味わいであった。
デキャンタして2時間近く経ち、開いてきた「パルメ」の凝縮した果実と漂い始めたハーブのニュアンスとも楽しめた。一息付いて口直し、れんげに乗った「唐津の天然水、沖縄の黒糖と八女の抹茶」がやって来た。柔らかい天然水を口にふくむと、甘い黒糖と抹茶苦いのニュアンスが微かに感じられ、こちらも何とも面白い。そしてメインのデザート、さっぱりとした薔薇香る「苺のカルパッチョ マスカルポーネのジェラート 薔薇の香りと共に」が運ばれた。

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と加えてバースデーが近いと言う事で、今年もありがたい事にレストランからの「バースデーケーキ」もホールでやって来た!ふんわり生クリームたっぷりの苺のショートケーキだ。蝋燭も刺してある。実はこの日ここに来る前に、下階の「ルイ・ヴィトン福岡店」でもバースデーケーキを頂いたのだが(詳しくはこちら)、何とここ「リストランテKubotsu」に特注したチョコレートケーキだったのだ(笑)
よって2ホール目のバースデーケーキに「今日はKubotsu三昧ね♪」と妻も嬉しそう。更に聞けば、この日はちょうど担当の重松ソムリエが30歳の誕生日、数日前は千葉篤志支配人の誕生日だったと言う事で、「せっかくだから皆でお祝いしよう!」と「ラ・グランダネ ロゼ」で乾杯しつつケーキも一緒に頂く。そこでケーキ入刀は重松ソムリエに(笑)長坂滋郎ディレクターも含めて皆でわいわい楽しい時間を過ごした。そうそう、長坂ディレクターは今年夏、

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沖縄のクサテの森にオープンする「THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 宜野座」に転勤を命じられているそうだ。九州地区統括のサダメだろうか、妻は「大丈夫大丈夫逢いに行くからね~♪」とまた調子の良い事を言いながら沖縄の話でも盛り上がった。さてさて、食べ応えがありながらどこか上品さを感じる「リストランテKubotsu」の料理。最近窪津シェフの料理と言えば、
「和食」に寄り過ぎて味も盛り付けも簡素化し、イタリアンではないような感じに少々心配していたが、この夜は師匠・吉越シェフの手も加わった事もあり、ASOで培ったプレゼンテーションの妙にイタリアンならではの味わい、そして九州の上質な食材と工芸・器と、久しぶりに「リストランテ」の名にふさわしい満足さであった。老舗「サーラカリーナ福岡」もなくなり、家族や友人に接待とゆっくり贅沢な時間を過ごせる大人のイタリアンが福岡には少なくなった。

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その意味でも「リストランテKubotsu」のこれからに期待したいと思う。皆に見送られながら店を後にし外に出ると雪はまだ散らついていた。妻は1階「ルイ・ヴィトン」のショーウィンドウを見やりながら「まだまだ寒い日は続くらしいね、この犬欲しい~」と機嫌よくつぶやく。もう2月か、バレンタインの企画も考えなくてはならないな・・そう思いながら車に乗り込み帰路に就いた。