新年を祝い年神様へのお供えである「おせち料理」、毎年愛を詰めた「我が家伝統のおせち」と、飲食店にお願いするプロのおせちを並べて楽しむ。前回は前菜的にお願いした「洋おせち」を紹介したので、今回は年明けの「正統派和おせち」とワインを挙げておくわ。そこで去る年末伺ったのは縁起が良く華やかで楽しいお店、我が家お馴染み博多寿司を代表する「鮨割烹 やま中 本店」。
「JR博多シティ」や「ニューオータニ博多」などに支店もあり、何より豪華寝台列車「ななつ星 in 九州」に出される最初の食事と言う事でも有名なので、毎年大手百貨店からも人気のお節として200個以上の注文が入るとの事。我が家は直接御主人・山中琢生氏に「2018年のおせち」をお願いしに来たと言う訳。特に薬院にある「やま中本店」には客層も福岡の財界人・著名人をはじめ、野球界や相撲界のご常連もお見かけする。

20180108yamanaka2b

そうそう騒ぎになった11月の「大相撲九州場所」直前には、某3横綱と某親方・某解説者が揃って訪れたそうよ。十数年前には、フレンチの巨匠ジョエル・ロブション氏も訪問している。いつぞやは九州国立博物館館長もお見かけしたが、「やま中 本店」の見どころのひとつはやはり美術、磯崎新氏の設計するモダンな建築ね。ここはさながら磯崎新プチミュージアム。
打ちっぱなしのコンクリートにガラス張りの外観は15年経った今も新鮮で迫力ある佇まい。その中に温かみある自然素材が融合している。天井高の贅沢な造りは会話も気にせずゆっくりと食事をすることができるわ。何より磯崎新氏設計のモダンな建物は素晴らしい。打ちっぱなしのコンクリートにガラス張りの外観は迫力がある。中に入ると、石を砕いて塗りこんた「朱塗りの壁」、5年毎に数日休業して特殊な和紙を張り替える「雲型和照明」、

20180108yamanaka3b

節目継目ひとつない樹齢800年「美州檜一枚板」カウンターと、温かみある自然素材が融合している。後ろにテーブル席が5台、「特注モンローチェア」も必見ね。すりガラスが美しい廊下を越えて2階に上がると、寿司カウンター付個室や大座敷、京都「中村外二工務店」による茶室もあったりする。大津塗りの壁やイサム・ノグチの照明、磯崎新氏の妻・宮脇愛子氏の軸や、
磯崎氏所有の「ガウディ作の把手」など、様々な美術品も拝見できる。さてこの夜もさすがの人気店満席、年末らしい賑やかな店内。もちろん私たちは1階カウンター席真ん中、威勢のよい掛け声と御主人の笑顔とおしゃべりが楽しいわ。まずはスタッフの皆さんとも乾杯。私はいつものようにチェイサー替わりの「モエ・エ・シャンドン ロゼ アンペリアル(MOET&CHANDON ROSE IMPERIAL)」。カウンターの赤壁にかざして艶やかなピンクの風合いを楽しむ。

20180108yamanaka1b

そうだ、つい先日行われた第75回ゴールデングローブ賞授賞式でもこの「モエロゼ」が振る舞われていたわね。では、以下からは主人のレポートで~。 いつものようにお任せの刺身からスタートする。表面を炙った博多らしい「アラ」は上質でふくやかな味わい。「中トロ」はなかなかの脂身。そしてやはり「鯖」は質が高い。有明の「赤貝」は塩で。ちなみ今年の築地「新年マグロ初競り」、マグロ専門仲卸業者「やま幸」が大間産クロマグロを最高値で競り落としたが、
ここ「やま中」が「久兵衛」と交流がある関係で「やま幸」との取引もあるそうだ。加えてこの時期ならでは、玄界灘「天然フグ刺し」も堪能する。身が適度にしまって淡い旨味を感じる。博多らしく橙を絞って頂く。続いて御主人が「やま中スペシャリテです!(笑)」と小さなスプーンに盛った北海道産ウニとキャビアを出してくれた。そういえば先日にも「サロン(Salon Blanc de Blancs Le Mesnil)」に合わせて頂いた。

20171227merose

わいわい楽しく賑やかなカウンター。鮨も高価になり蘊蓄を語る分野になったが、江戸時代その発祥当時は立ち食い・早食いのファースト・フードにすぎなかった。楽しくなければ博多寿司でないと言うポリシーが好ましい。更に運ばれたのは「戻り鰹」。炙った上、やま中秘伝のニンニク醤油をかけて頂く。唐辛子も入れてるのでピリッとした余韻もアクセント。こちらは日本酒が充実している。
特に福岡(喜多屋/三井の寿/田中六五/ジュン辛など)や佐賀(鍋島各種/東一)が多く、その他も熊本(れいざん各種)・山口(獺祭)・愛知(九平次)など地酒ラインナップが楽しく、いつも色々試している。よってこの日の私のチェイサーは赤ワイン。ワインリストはないが適宜酒屋に相談して仕入れているとの事で、数本の中から選んでみたのは珍しく「ケンゾーエステイト」。「リンド(KENZO ESTATE 紫鈴 rindo) 2014年」だ。

20180108yamanaka4

以前白の「あさつゆ(Kenzo Estate Sauvignon Blanc Asatsuyu) 2012年」を、京都フレンチ「モトイ(motoi)」で飲んだ。周知のとおり、ゲームソフトで財を成したカプコン創業者・辻本憲三氏の趣味が高じて、カリフォルニア州ナパ・ヴァレーに開設したドメーヌ。有り余った資産でワイン作りに手を出す経済人は世界的に少なくない。しかしワインと言う長い時間と巨額の投資が必要な「事業」で成功するのは並大抵ではない。
その意味でケンゾーエステイトはそれなりの成功例と言えるだろう。思えばその昔、ワイン好きの立花隆氏もフランスの小さなドメーヌを買い取っていたが、その後の音沙汰は聞かない。ケンゾーエステートのみならず日本ワイン(ないし日本人ワイナリー)も志のある初代はさておき、50年後・100年後も事業として継承できるかが、伝統ある旧世界ワインに真の意味で追いつくためには問われるのかもしれない。ちなみにケンゾーエステイトは、ナパ・ヴァレーに日本料理店「Kenzo」も出店し、

20180108yamanaka2

「ミシュランガイド サンフランシスコ・ベイエリア&ワインカントリー・レストラン 2018」で1ツ星を獲得した(料理長は「菊乃井 東京店」の元料理長・小野山英二氏)。さてその「リンドウ」をグラスに注ぐと揺れる濃厚なガーネット色。樽を感じるまろやかな香りだ。コーヒー・干し葡萄・ブラックベリー・プラム・少し湿気た黒胡椒・・アタックからどこか優しさも感じる味わいはバランスが取れている。
カベルネ・ソーヴィニヨン53%、メルロ25%、プティ・ヴェルド10%、カベルネ・フラン10%、マルベック2%。新樽50%。若干のタンニンの苦みとともに余韻が上品に広がる。アルコール度数15.2%もあるからか、妻は一口で断念笑。いかにもナパ、そして近づきやすい味わいは好きな人は好きであろう。我が家にはやはりアメリカワインはトゥーマッチかもしれない。寿司にはなかなか難しいと思うが、聞けば以前同じワインを数時間前にデキャンタして提供したと言う事であった。

20180108yamanaka4b

そんな訳で日本酒とともに料理に戻ろう。次に出てきたのは「ナマコ」。摩り下ろした山芋も乗せてスルスルと頂く。続くは御主人自ら盛ってくれる蟹のプレート。「香箱蟹」と「松前蟹の雄」の贅沢な食べ比べだ。添えられるのは「聖護院かぶの千枚漬け」。追うように小器で出てきたのは「鮑」、摩り下ろした自然薯に海苔を炊いたソースが乗り、更にウニも振ってある。日本酒に合うおつまみの多さにいつも感服する。
まだまだ有田焼に盛られた贅沢なつまみ達は続く・・ここで2日前に仕入れたと言う河豚の「白子」を、御主人自ら目の前の七輪でじんわり焼いてくれる。これは妻の外せない大好物、何も言わずとも上質で好きな物をどんどん出してくれるのはやま中ならではの至福だ(妻はにっこり上機嫌)。表面にきれいに焦げ目がついて香ばしさがまた良い。口の中でまくが弾けるようにしっとりとクリーミーさが蕩けていく・・旨味と共に味わう福井「黒龍」も定番だ。

20180108yamanaka3

次はふっくら大きな「松茸の天ぷら」が乗ってやってきた。口の中で香りが弾けて鼻から抜けて行く・・縁起が良い華やかさだ。「土瓶蒸しも良いけどやっぱり松茸の天ぷらよ」と妻。言わずもがな、もうかなり満腹至極ではあるが、この辺りで「握り」を頂く事に。久しぶりに御主人自ら握って下さる。「中トロのヅケ」は軽く漬けたトロの酸味と深みが赤酢のシャリに合う。「コハダ」はふっくらとした味わい。
「アコウ」そして「穴子」は、塩とタレで頂く。そして「玉」の甘さが博多寿司の最後を彩る。70代に入ってもなお「ななつ星」車内でも握る矍鑠とした御主人のこの日の「握り」は、年季を感じる冴えた味わいであった。「寿司とは握り手の人生を食するもの」という格言を久しぶりに思い出す鮨を堪能できた。デザートは「フルーツ」「黒豆」で甘く癒される。縁起良く2017年を締める事が出来た。帰りに「2018年三段おせち」をお願いして、

20180108yamanaka5

良いお年を~と御主人他スタッフの皆さんにも手を振りつつ車に乗り込み店を後にした。と言う訳で大晦日に若手料理人さんがわざわざ我が家に届けてくれたのが「鮨割烹 やま中 2018年三段おせち」になるわけだ。桐箱に入った美しい正統派和おせち料理(黒豆と生姜が瓶入りで)。何とも美しく「鯛」「煮鮑」「合鴨ロース煮」「車海老芝煮」「蛤春山焼」「栗金団」などなど目出度く美味しい品々が並んで満足。
一応和食にはお屠蘇や日本酒を合わせつつも、自然に好きなワインを開けて行く(笑)「ボランジェ ヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズ(Bollinger Vieilles Vignes Francaises) 2006年」「シャトー・マルゴー(Chateau Margaux)2003年」に続けるにあたり、妻が「今度はボルドーじゃなくって極上ブルゴーニュがいいなぁ」と言うので、セラー室から「DRC ラ・ターシュ(Domaine de la Romanee Conti La Tâche) 1999年」を選んだ。

20180108yamanaka5b

以前同「2009年」「1998年」「1989年」を開けた時の事を思い出しつつ抜栓・・コルクにはお馴染み、「ドメーヌ・ド・ラ・ロマネコンティ(DRC)社」の十字架が刻印されている。ブルゴーニュ地方ヴォーヌ・ロマネ村。名前は、ローマ時代からブドウ栽培が行われていた土地との事で「ロマネ」、そして1760年に所有者となったコンティ公ルイ・フランソワ・ド・ブルボン(ルイ15世の従兄弟)から「コンティ」との事。
2000年以上歴史に翻弄されながらも頑なに丁寧な伝統的ワイン造りを続けて来た。そんなDRC社が所有するグラン・クリュは「ロマネ・コンティ」「ラ・ターシュ」「リシュブール」「ロマネ・サン・ヴィヴァン」「エシェゾー」。ちなみに中世時は、「ロマネ・コンティ」「ロマネ・サンヴィヴァン」がサン・ヴィヴァン修道院所有で、「リシュブール」「ラ・ターシュ」の一部はシトー修道院所有だったとか。最高峰「ロマネ・コンティ」の南に位置する第二のワインがこの「ラ・ターシュ」。

20180108latache2

1933年に現経営者オベール・ド・ヴィレーヌの家系が買い取った。「ロマネ・コンティの腕白な弟」とも呼ばれ安定した飲み口には定評がある。ピノ・ノワールの6.06ha、年間1800ケースが造られている。まるで水槽の様に大きな丸いDRC専用ワイングラス「バカラ デギュスタシオン・ロマネコンティ(Baccarat Degustation Glass Romanee Conti)」に注ぐと、熟成し始めた赤茶色が優雅に大きく揺れる。
甘美なオリエンタルスパイス、麝香、淡いインク、深紅の薔薇の花束・・いわゆるDRC香がグラスの縁から自然に流れるが、スワリングするとさらに一段と溢れ出す。その様は、まるで香りが目に見えるようだ。ジャーミーで大きなアタックから、ブラックチェリー・ブラックベリーと言った果実の凝縮した甘みと旨味が広がる。タンニンはシルキーであるが、余韻に微かな苦みをアクセントに残す。その余韻はどこまでも長く、口中に残るねっとりとした甘みと酸味がバランス良い。

20180108latache1

エレガントでいて飲みごたえある、いかにもラターシュらしい明快な美味しさ。飲み頃にはまだ5年は早い感ではあったが、妻は「わ~♪これは当たり!正月早々縁起が良いわ」と明らかに「マルゴー 2003」よりもクイクイと杯が進んでいる。「オテルグレージュ」のフレンチおせち、そして妻の「フランス産鴨肉のポワレ」と共に、最後までゆっくりと時間をかけてその変化を楽しめた。2018年スタートの家ワインがどれも当たりで妻の機嫌も良い。
その昔ワイン飲み始めの頃はとにかく様々なワインを知りたくて試してきたが、最近はとにかく外れないように心掛けるようになった。購入するワインも20~30年熟成が必要なものはもはや避け、古酒は信頼できるレストラン(ソムリエ)に頼る傾向にある。とは言え我が家のパレットを形作ってきたフランスワインだけでなく、新世界や旧世界復権の新しい美味なワインにも目を配りつつ、2018年も「夫婦で幸福な時間を過ごせるワイン」を開けて行きたいなと思う穏やかな年末年始であった。

20171230kanou