先日の「前半」に続き、恵比寿ガーデンプレイスにあるミシュラン3ツ星、シャトーレストラン2階「ガストロノミー ジョエル・ロブション(Gastronomie Joel Robuchon)」にて。バカラ・シャンデリアが輝く黄金のダイニングで、退任したアラン・ヴェルゼロリ(Alain Verzeroli)シェフに変わり、11月からロブション城を始めとし
国内のロブショングループ全店の総料理長(ディレクトゥール・キュイジーヌ)に就任したミカエル・ミカエリディス(Michael Michaelidis)シェフの料理を堪能する。シンガポール「ジョエル・ロブション(3ツ星)/ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション(2ツ星)」のエグゼクティブ・シェフを勤め、ロブションの薫陶を受けた35歳のミカエルにお任せのスペシャルコースを組んでもらう。今夜のサービスはサハビィ・ムスタファ(Sahbi Mustapha)メートル・ド・テルを中心に、

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ベテランチームから原田聡メートル・ドテルや神田敬市メートル・ドテル、そして水野敬介シェフ・ド・ランなど。ロブションがレストランに求めるコンビビアリテ(懇親性)を体現するお馴染みのメンバーだ。そうそう実はここ「シャトーレストラン ジョエル・ロブション」は11月から平日のランチ営業を止めてる。毎日昼夜満席が続くダイニングでは、ともすれば休憩時間や準備時間もなくなってしまう。
こちらではランチと言えども16時過ぎまで楽しむ客がいるのだ。必然スタッフは激務になる。ランチ営業を止めてからハードワークも緩和され、体調管理や家族サービスに時間を使えると共に、ディナーに集中できるようになったそうだ。では前回の続きと行こう。この夜のワイン担当はフランスのワイン学校で学んだ事もあり向上心溢れる八代愛美ソムリエール。用意してくれたグラスのシャンパーニュは「ルイ・ロデレール クリスタル ブリュット 2009」

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。「ジャック・セロス リュー・ディ メニル・シュール・アイ スー・ル・モン エクストラ・ブリュット」と言う満足の2種。料理は「手長海老のゴーフル」「キャビア・甲殻類のジュレ×アルバ産白トリュフ」まで紹介した。続いて運ばれた前菜2品目は「インカのめざめ マリネしカルパッチョ仕立てに、フォアグラのコポーを削りかけ、白トリュフの香りでエスコート」。金箔も散らされ、新しいガラス皿に乗っての登場だ。
これはロブション氏「ジャマン」時代のスペシャリテをアレンジしたもので、もう何度か頂いている。インカの目覚めのスライスの上にはフォアグラのスライスを乗せた。酸味の香るビネガーのソースを敷いて、それにアルバ産白トリュフを削る事で更に香りが立ちあがる。フォアグラがスライスされる事によってくどくない味わい。フォワグラの食感と余韻をアクセントに用いると言う贅沢な仕掛けだ。ミカエルはこれにスパイスも散らし酸味の中にピリッとアクセントを効かせた。

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爽やかなアジアンスタイルで、正にシンガホールのエッセンスだろう。このプレートも「ジャック・セロス」と抜群の相性を見せてくれ美味しく頂いた。そして次のプレート「蝦夷あわび ソテーし、小蕪とフォアのクーリを添えて」が運ばれて来た。実は夏にも小皿で頂いているプレートだが見た目も食後感も全く違う。カリフラワーのピューレを添えてアワビの肝のクーリを中央に流した。白蕪のベニエは噛むとパリパリと音を立てアクセントも楽しい。
アワビを胆ソースと共に味わいの中核に添えつつ、様々な要素が交差してくる味わい。前任のアランシェフはターメリックやガラムマサラ風味が特徴的だったが、ミカエルシェフはガーリックやスパイスの濃いインパクトが印象的。変わらぬロブションの美味しさながらまた違った仕上りだ。そんな立体的な味わいがよりワインを欲する・・と言う訳でいつもの様に赤ワインはロブション垂涎のワインリストの中からチョイスして行こう。マイナスイオンが出る地下ワインセラーには25000本のワインが眠る。

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「白トリュフメニュー」なのでやはりボルドー古酒に目が行く。以前「ロブション来日特別ガラディナー 白トリュフ祭」の時に開けた「シャトー・ラトゥール(Château Latour) 1966年」がとても素晴らしい状態だったので、その流れを期待して同ヴィンテージの「シャトー・ラフィット・ロートシルト(Château Lafite-Rothschild) 1966年」に決める。
これも20年近く旧タイユヴァン・ロブション時代から保存されていた貴重な1本なのだ(タイユヴァンの当時オーナー、故ジャンクロード・ブリナ(Jean-Claude Vrinat)氏が残したセレクション)。そして昨年同「ラフィット 1966」を自宅で開けていたので飲み比べしたいと言う事もあった。ちなみに以前もこちらロブションで開けたラフィットは「1986年」「1978年」「1979年」。ボルドー最高峰ワイン「シャトー・ラフィット・ロートシルト」。

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中世から葡萄作りは行われていたが、17世紀セギュール家所有から本格的になったとされている。ヴェルサイユ宮殿の晩餐会でポンパドゥール夫人が愛飲していた事がきっかけとなり「王のワイン」と呼ばれていた。1868年からは御存じロスチャイルド家所有。カベルネ・ソーヴィニヨン70%、メルロ25%、カベルネ・フラン3%、プティ・ヴェルド2%。グラスに注ぐとクリアなレンガ色。
薄い炭焼コーヒー、枯葉の奥にアマローネのような熟した甘さも感じる。余韻にはボルドー左岸らしいハーブ、そしてスワリングすると状態の良い古酒にある「湿気た温かさ」。タンニンはすっかり溶け込み、透き通るような酸味が麗しい。15分程度で「もしや儚い命だった?」と妻・・確かに少し苦みやえぐみが出て来た。それでもしばらくすると更に変化して落ち着いた酸味が流れ出す。1時間30分を越えると細かく砕けて湿気った黒コショウの様なスパイシー感も微かに流れ出す。

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しかし口元でヒリヒリする訳でなく、穏やかな味わいのアクセント程度に留まる。刻々と変化を見せある意味まだ生命力のある古酒であった。さぁ次に登場した料理は「甘鯛 うろこ付きで香ばしく焼き、そしてアオリイカ」。テーブルでブイヤベース風ソースを注いで完成する。アマダイとイカに添えられるのはニンニクベースのピューレ。ブイヤベースを現代風に、そしてロブション的に再構築した一皿だ。
表面をパリパリに仕上げた甘鯛の楽しい食感に続いて、スパイスの効いた新鮮な海の幸香るブイヤベースの旨味が広がる。紫蘇の花も爽やかなアクセントだ。何とも余韻の長い深みのある料理に食欲も湧く。最近は流行りの「軽いフレンチ」ばかり食べていたので、久しぶりにフレンチの王道らしい味わいに満足。そう言えばその昔、ロブションが「フレンチジャポネにならないように」と言っていた時期があった。その後ミシュランが日本にも入り料理はボーダレス化して行く。

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「世界のベストレストラン」などが認知されるにつれ、味そのものと言うよりストーリーや料理のエッジ、シェフのキャラクター、社交性(業界の横繋がり)で評価されるようになる。その過程で日本的なフレンチも再評価され、世界的に個性として認められるようになった。ただ最近は繊細なだけで和食かイタリアンか分からないようなフレンチも散見する。昔で言う所のフレンチジャポネなレストランも、
日本だからこそあって良いとは思うがそればかりではつまらない。シェフは自分の舌を信じて「自分が美味しいと思う料理」を作って欲しいものだ。そしてそれが消費者にとっても選択肢の多様性に繋がる。例えば有田焼の洋皿が流行ると同じ様な皿を様々なレストランでも見掛けるようになったが、10年後も残っているだろうか? 流行りの北欧的な味わいや店構えのレストランのうち10年後も経営しているのはどれだけあるだろうか? 軽いナチュラルなワインがもてはやされるが10年後もそうだと言い切れるだろうか?

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その意味で「ジョエル・ロブション」は時代におもねらない、むしろ時代が変わっても時代を引っ張る、現代的な王道のフレンチなのだと改めて考えさせられた。ではもとい、話をディナーに戻そう。メインの「和牛 グリエにし、旬の野菜と香り高い“ジュ”を添えて」が運ばれてきた。お馴染みゴールドに煌めく皿「ベルナルド エキュム」。この皿を最初に見たのはロブションだったが、
今では地方の小さなビストロレベルまでこのシリーズで出て来たりする。セップ茸・秋トリュフなど、ふんわり香りが立ち上がり食欲をそそる。和牛フィレのグリエはセニョン。牛のジュとパセリオイルも流し濃厚な味わい。牛肉は脂自体にしっかり火を入れて、肉質の旨味やふくよかさを引き立てた。間に挟んだ小玉ねぎのコンフィ繊細な甘みも、何とも良い塩梅であった。もう少し若いボルドーでも十分楽しめたであろうフレンチらしい一品だった。

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いつもはこの後にチーズを頂いて追加のワインと楽しむのだが、料理中心に満足したので珍しくパス、直ぐにデセールをお願いする。そこへ矢代ソムリエールが出してくれたのは「シャトー・ディケム(Château d’Yquem Sauternes Grand Premiers Cru)」。ロブションでは定番で「2003年」「1995年」「2002年」「1998年」などを飲んでいる。今回は前回同様「2011年」だ。
12世紀からの歴史を誇るソーテルヌ村「シャトー・ディケム」は、1999年からLVMHグループが所有。2004年に前オーナーのアレクサンドル・ド・リュル・ サリュース伯爵が引退した後は、「シャトー・シュヴァル・ブラン(Château Cheval Blanc)」ピエルール・リュルトン総支配人が「シャトー・ディケム」を兼務する。畑は125haで平均樹齢30年、年間生産量11万本。セミヨン80%、ソーヴィニョン・ブラン20%。この「2011年」からラベルデザインが新しくなった。

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ちなみに「2012年」はリリースされていない。相変わらず美しい黄金色・・複雑なスパイスを練り込んだトロリとした蜂蜜のよう。そんな甘さと混ざり合う酸味がまた素晴らしい。そこへつい数日前に完成したばかりという新作デセール「とちおとめのグラニテ」が運ばれた。メレンゲの上にはヨーグルトのピューレと苺のグラニテ。それに柚子のコンフィチュールが掛けられてロマンティックに仕上がる。
その甘酸っぱい味わいがディケムにもぴったり、食べ応えある「ミカエルシェフのお任せコース」の最後を完璧に彩ってくれた。締めはカフェとミニャルディーズ。ツヤツヤのサンタクロースが乗ったスイーツワゴンがやって来て「可愛い♪」と喜ぶ妻。小菓子をサーブしてくれた近藤シェフ・ド・ランの友人パティシエが、その飴細工のサンタクロースを作ったとの事。ケーキワゴンにも惹かれたがお腹いっぱいだったので、サハビィメートル・ド・テルお勧めのソルベを頂いた。

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この夜我が家の料理は「全てをミカエルシェフが作っていました」と言う事で光栄であったが、確かに日本人ではないリアルなフランスの味わいがぐっと迫って来た。着任してまだ10日程と言う時期に伺った事もあり、まだ日本での影響を受けていないミカエルシェフ等身大の料理を存分に味わう事が出来た。今後、客の反応や好みを探りながら微調整して行くのだろうが、エキゾチックで複雑でありながら、
素材の旨味や特徴に収斂する着地点は変わらないと思われる。最近はワインが中心になっていた我が家のロブションディナーであったが、久しぶりにテーブルでも料理の話題で持ちきりになった。ワインと共に楽しみたい王道でありつつ現代的なフレンチ、次回も楽しみだ。帰りはいつもの様にお土産の「オレンジ・ブリオッシュ」を頂き、寒い中車まで陽気なサハビィメートル・ド・テルが見送ってくれた。さぁいよいよフェスティブシーズン、さぞロブション城は一層華やかに賑やかに輝く事だろう。