気付けば慌ただしい師走。煌めくホリデーシーズンの前に、取り急ぎ今秋楽しんだ「我が家の日常ワイン」をザッと挙げておかなくては・・。言うまでもなくフランスワインラバーの我が家だが、新世界のワインが日本産を含め広がり続けており、味わえるワインのバリエーションが増える事はワイン消費者にとっては嬉しいと言える。20・30年前と比べると情報量も雲泥の差だ。
しかし一方で、本当に美味しいワインと言うとまだまだ限られるのが実態。プロも面と向かって話さない限り、心の奥底の感想(本音)は言わないもの(笑) ワイン業界としては世界のワイン生産量を増やして、愛好家を増やさないといけない宿命を抱える。特に最近は世界の新しい産地がトレンド。その為どうしても若干甘めの評点になるのは避けられない。ワイン消費者は自分の好みをまずは知った上で、数あまた溢れる情報の中から好みに近いワインを選びだす眼力が求められる。

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逆にいうと情報や流行りに流される消費者は「美味なワイン」にたどり着けなくなった。その意味では、逆に難しい時代になったと言えるかもしれない。我が家も平日の食卓では色々と世界のワインを楽しんでいる。それでも本当に満足できる1本と言うとまだまだ限られるなぁと言うのが率直な感想だろうか。まずは近年話題の中では、1999年創業のニュージーランド「プロフェッツ・ロック(PROPHET’S ROCK)」が出色であった。
周知のとおり「コント・ジョルジュ・ド・ヴォギュエ(Comte Georges de Vogue)」醸造責任者フランソワ・ミレ(François Millet)氏がブルゴーニュ以外初、ニュージランドのセントラル・オタゴでコンサルタントしたドメーヌだ。プロフェッツ・ロック醸造責任者ポール・プジョル(Paul Pujol)氏は2009年に「コント・ジョルジュ・ド・ヴォギュエ」で修業した。この日開けたのは「プロフェッツ・ロック ホーム・ヴィンヤード(Prophet’s Rock Cuvee aux Antipodes Home Vineyard Pinot Noir) 2013年」と

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「プロフェッツ・ロック キュヴェ・オー・アンティボード(Prophet’s Rock Cuvee aux Antipodes Pinot Noir) 2015年」。黒ラベルの「キュヴェ・オー・アンティボード 2015」は293ケースのみの生産だ。ラベルにはフランソワ・ミレとポール・プジョルのサインもデザインされている。グラスに注ぐとスミレ・ラズベリー・麝香・動物の毛・・香りの量は豊か。甘い赤い果実を連想させる香りだ。
アタックはシルキーなタンニンが印象的。高いレベルの酸が豊かな赤い果実味と調和する。余韻に残る苦みも柔らかくチャーミングだ。バランスが取れて程よい凝縮感もあり、ピノノワールのチャーミングさと旨味にずばっと切り込んでくるようなワインである。後ろのラベルには「店では10度から15度で保存し、サービスは16度から18度で」と指定まであるのも面白い。記載の通り「ピノ・ノワールとテロワールへの共通の情熱」がこのワインを生み出したと言えるだろう。

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そして次に良かったワインは、1971年創業のオーストラリア・ヤラヴァレー「マウント・メアリー(Mount Mary)」。年間3500ケース前後と限られた数量が生み出される。75%がフレンチバリック、残りは1500?以上の大樽にて熟成させる。この日開けたのは「マウント・メアリー ヴィンヤード ヤラ・ヴァレー ピノ・ノワール(Mount Mary Vineyard Yarra Valley Pinot Noir) 2005年」。
創設者で医師でもあったジョン・ミドルトン(John Middleton)氏は2006年に亡くなったため、この「2005年」は最後に手掛けたワインと言えるかもしれない。グラスに注ぐと熟成を感じさせるレンガを帯びたルビー。バラのドライフラワー・複雑なオリエンタルスパイス・麝香・・芳香性はかなり高い。更に時間と共に、燻製にかけたジビエ肉・スーボワ・・タンニンの溶け込んだシルキーなアタックから、出汁を彷彿とさせる旨味が広がる。

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高いレベルの豊富な酸が好みであるが、妻は「香りは良いけど甘みが足りずバランスが悪い」とやや苦手な様だった。それでも冷涼感と気品を感じさせるピノ・ノワール。アルコール度も13%、樽香も抑制気味でありスルスルと飲め、平日の食卓には良かった。さてさてこの日は大相撲九州場所観戦、溜席では飲食禁止なので桝席の日は今年もシャンパンを持ち込み妻と楽しむ。
ビール・日本酒の方ばかりなのでさすがの我が家も大人しく頂く(笑) 最近アウトドアでシャンパーニュを楽しもうと言うプロの意見を聞くが大いに賛成だ。と言う訳で開けた「クリュッグ」デミボトルだった。その後帰宅して、改めて開けたのがカリフォルニア「イングルヌック カベルネ・ソーヴィニヨン ラザフォード ナパ・ヴァレー (Inglenook Cabernet Sauvignon Napa Valley) 2013年」(旧ルビコン・カスク)。

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スコットランドで「憩いの場」を意味する「イングルヌック(INGLENOOK)」は、1879年にフィンランド人グスタフ・ニーバム氏により設立(ウィリアム・モーザー設計ワイナリー)。ラベルに収穫年号・生産地を初めて表示した「全米初のボルドー・スタイル生産者」となる。そして1975年にかの映画監督フランシス・フォード・コッポラ(Francis Ford Coppola)氏が妻エレノア(Eleanor)と買収。
2011年に「イングルヌック」商標取得。醸造責任者に元「シャトー・マルゴー」フィリップ・バスキュール(Philippe Bascaules)氏。この「2013年」からは名称からカスクが取れ、シンプルに「カベルネ・ソーヴィニヨン」の表記にした。グラスに注ぐと深いガーネット、オーク由来の甘い香りが漂う。黒い果実・オリーブ・黒胡椒・・・火のついた葉巻のような焦げたニュアンスが複雑さを加える。心地よい凝縮感とともにカベルネ由来の杉のニュアンスが微かに残る。

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若々しくもすべらかなタンニンが口中に存在感を残す。14.2%もあるアルコール感と樽香はいかにもナパっぽく、開けたはなは思い切り引いたが笑、やがて高い酸がエレガントな飲み心地も醸し出す。いわばポイヤックとサンジュリアンの混ざり合った感じか。これが熟成するとボルドーとどのような違いになるんだろうか?と知的好奇心が刺激された1本であった。ちなみにこの夜のデザートは
日常定番「ジャン=ポール・エヴァン(JEAN-PAUL HÉVIN)」から、芸術の秋らしく「ジョアン・ミロ(Joan Miró)」などの絵画をモチーフにした手描きのマカロン「ドロップ」や、メレンゲとチョコムースをアーモンドビターチョコでコーティングした「ロンシャン ショコラ ノワール」を。ではもう少し前に遡ってみよう、ここからは好きなフランスワインをピックアップ。まだ暖かささえ感じた11月頭の平日に開けたのは「ダヴィッド・レクラパール ラ・ポートル(David Leclapart L’Apotre) 2008年」。

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モンターニュ・ド・ランスのトレパイユ村の3haから作り出す「ダヴィッド・レクラパール」。畑半分はネゴシアンに売却し、厳選した半分は醸造からビン詰めまで自ら行う(ビオディナミ農法)。この「アポートル(使徒)」と名付けられたブラン・ド・ブランは、ダヴィッドの祖父が1946年に植えた単一畑(0.32ha)のシャルドネだけを使用。「ルフレーブ」から使用した小樽で発酵する。熟成期間は42~48ヶ月。
アルコール度数12.5%。裏ラベルに「L.V08」とあり2008年収穫であることが分かる。グラスに注ぐと中程度の輝きのあるイエロー。穏やかな甘露・アカシア・時間の経った八朔、青いニュアンスがある。時間と共に洋梨・黄桃・・樽発酵の微かな酸化熟成のニュアンスがまさにアクセント。細かな泡が生き生きとした酸と相乗効果で口内を刺激しつつ、柔らかい余韻に繋がる。凝縮感はないが、シャルドネのピュアなニュアンスが柔らかなミネラルと共に活きる。

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1時間もすると香りがまとまり、更に艶のある風情になっていく。ドサージュ0とは思えない自然なシャルドネの甘みが飲み口を彩ってくれた。以前「ラルティスト(芸術家)」「アマトゥール(信奉者)」も開けたが、その詩的な作り手の思想が味わいに反映されている様に思える。2010年から作られた「ラストル ブラン・ド・ノワール」もリリースするなど、小規模生産者ながら目が離せない作り手の一人である事は間違いないだろう。
そして秋らしい月夜、博多寿司「鮨 木島」で開けた「ヴィルマール・エ・シエ プルミエ・クリュ リリー・ラ・モンターニュ グラン・セリエ・ドール 2011年(Vilmart & Cie 1er Cru Rilly La Montagne Grand Cellier d’Or 2011)」も挙げておこう。ランス南東のリリーラ・モンターニュ村で1890年の創業以来家族経営を貫く。「ヴィルマール(Vilmart et Cie)」はレコルタン・マニピュランの「クリュッグ」とも言われ、

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ビオロジック栽培と収量制限で知られる(畑11haから7000ケースのみ)。樽発酵による独特の味わいで我が家でも登場頻度も高く「クール・ド・キュヴェ(Coeur de Cuvee) 1999」は日常飲みでもう何本も開けているし、「クール・ド・キュヴェ 2003」「グラン・セリエ・ルビー(Grand Celier Rubis) 2006」なども面白かった。「クール・ド・キュヴェ 1997」は
東京・芝公園「クレッセント」でも開けている。神父の絵のキャップシュールなども個性的、5代目当主ローラン・シャンの父ルネ・シャン作のステンドグラスを模したものだろう。この日の「グラン・セリエ・ドール 2011」はシャルドネ80%、ピノ・ノワール20%、樹齢45年。デコルジュマンは2015年9月。グラスに注ぐと繊細な泡が盛り上がる。薄めのクリーンなイエロー。白い花・フレッシュな果実味と切れのある酸が混じる。

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マロラクティック発酵してない造りを活かした味わいだろう。ミネラルも強くすっきりしている一方、残糖の甘さが余韻に残る。1時間もすると微かにオイリーなニュアンスも出てきた。ふくよかさは足りないがこじんまりとした調和は見せてくれる。寿司に合うかどうかは別に単体として美味しく味わった。そう言えばこの寿司屋には以前、来日した「シャトー・タルボ」当主も訪れ、鮨を楽しんだと言う事だった。
ついでに先日「オーグードゥジュール・メルヴェイユ 博多」で開けた「エグリ・ウーリエ ブリュット・グラン・クリュ ミレジム(Egly Ouriet Brut Millesime) 1996年」も挙げよう。今ではレコンルタン・マニピュランを代表する作り手の「エグリ・ウーリエ(Egly-Ouriet)」。1990年に4代目フランシス・エグリ(Francis Egly)氏が後を継いでから評価が上がる。1996年からドミニク・ローラン(Dominique Laurent)氏から学んで新樽発酵を開始、樽使いが特徴的だ。

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ちょうど前週に家で開けた「ブラン・ド・ノワール(Egly Ouriet Blanc de Noirs)」もそうだったが、「ロゼ」「エキストラ・ブリュット V.P」なども確かな技術とセンスを感じられ、シンプルでいて間違いのない美味しさがある。以前同「ブリュット・グラン・クリュ ミレジム 1999」も開けたが美味しかった。この「1996年」のデコルジュマンは2005年7月。
泡はすっかりと溶け込み深い輝きのあるゴールドが煌めく。ナッツ・キノコ・蜂蜜・・香りは穏やかながらしっかりとした複雑さを見せる。アタックから酸が膨らみ、柔らかな余韻に続く。こじんまりとした味わいであったがそれなりに楽しめた。それに続けて開けたブルゴーニュの赤は同ヴィンテージの「コント・ジョルジュ・ド・ヴォギュエ ボンヌ・マール(Comte Georges de Vogue Bonnes Mares Grand Cru) 1996年」。すっかり失念していたが、今年頭にも

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福岡・大濠公園「レストラン花の木」で全く同じ物を開けていた。ヴォギュエは「ミュジニー」の7割である7.2haを所有し、「ボンヌ・マール」は2.7haと最大になる。硬質なミネラル感から飲み頃が難しいヴォギュエのミュジニィであるが、ボンヌ・マールはそのふくよかさから比較的飲み頃を捉えやすい。思い返せば「レストラン花の木」では同「2001年」を、六本木「ピエール・ガニェール」では
同「1988年」を、日航福岡「レ・セレブリテ」では同「1999年」開けている。家では同「1994年」同「2006年」を、そしてつい前月に開けた同「2011年」の状態も良かった。グラスに注がれた「1996年」はややレンガ色を帯びて熟成を感じさせる。動物香・枯葉・腐葉土・黒トリュフ・黒胡椒・・複雑なブーケが交差しつつゆっくりと立ち上る。赤い果実の凝縮感に野性味が重なる味わいだ。ミネラルはほぐれて柔らかく、

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酸味と苦味が絡み合いながら心地よく広がる。余韻には漢方薬のような苦みが長く残る。一般的にグッドヴィンテージと言われる1996年のブルゴーニュであるが、酸味が強いので難しいところもある。果実の厚み・熟度に比べて酸の多さがややぎこちなさを出している。それでも最後には、透明感に溢れた黒い果実を絞り出したエキスのような旨味を感じることができた。小岸明寛シェフの「タルトトリュフ」や
藤井智之ソムリエがデクパージュしてくれた「鳩のファルシとオーストラリア産黒トリュフ」に良く合った。その他お馴染み「ルイ・ロデレール クリスタル ブリュット(Louis Roederer Cristal Brut) 」の「1988年」や「2009年」も良かった。ワインが美味しい季節が到来したなと実感する毎日。年末にかけてお気に入りのレストランで珠玉のワインを開ける機会も増えてきた。その話はまた別の機会に改めて、続く・・

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