ワインを長年飲んで来ると、あれほど飲んでいたのに手に取らなくなるワインと飲み続けるワインに分かれる。我が家の好みである「エレガントなワイン」と言う傾向は同じでも、飲み続けているのは「温かさや信念」「何かしら作り手自身から滲み出る要素」が強い。フランスはブルゴーニュ、ヴォーヌ・ロマネを代表する名門「アンヌ・グロ(Anne Gros)」も我が家が飲み続けてるワインの一つである。
台風も過ぎ去り秋が深まった先週10月末から11月にかけて、ヴォーヌ・ロマネからアンヌ・グロ女史が来日した。東京・福岡・大阪・名古屋でプロ向けのテイスティングセミナーを開催するためだ。合間に各地で密かに?メーカーズディナーも行われる。福岡では我が家お馴染み「オーグードゥジュール・メルヴェイユ 博多」で、大阪では「ミシュラン京都大阪2018」で1ツ星を取った「アニエルドール(agnel d’or)」、東京では昔からアンヌ女史の知人である菊地美升シェフの「ル・ブルギニオン(Le Bourguignon)」で行われた。

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アンヌ女史の初来日は2004年だが、福岡には初めての訪問との事だ。我が家も当然ながらその貴重なメーカーズディナーにお邪魔する事にした。彼女は1966年生まれでフランソワ・グロ(François Gros)の一人娘。リセ・ヴィティコールで学んだ後、オーストラリアのペンフォールズで働いた。そして1988年から5年ほど父と一緒にワインを作り、1993年からは6代目当主として、
規模や設備も拡大してきた(Domaine François Gros → Domaine Anne et François Gros → Domaine Anne Gros)。100%除梗してピュアな果実味を引き出し、どこか温かさも感じるワインだ。ハロウィンに賑わうJR博多駅シティ、ワクワクしながらシティダイニングくうてん9階に向かう。真ん中に位置する「オーグードゥジュール・メルヴェイユ 博多(Au gout du jour merveille HAKATA)」に入ると、既に本人がいてスタッフ達と談笑中・・

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私達に気付き笑顔で迎えてくれる。わずか18人限定と言う一夜限りの特別ディナーがスタートする。さてスペシャルメニュー「秋の彩り」は、小岸明寛シェフがこの日のために一か月近くかけて練り上げてきたものだ。「色と香りをモチーフに流れを考えました」との事。ちなみにちょうどこの日は小岸シェフとアンヌ女史の夫ジャン=ポールの誕生日だったので、お祝いムードも加わってアットホームな雰囲気だった。
まずはアンヌ女史が挨拶と乾杯の音頭をとる。各テーブルに注がれたのは「ピエール・パイヤール レ・パルセル ブジー・グラン・クリュ エクストラ・ブリュット(Pierre Paillard Les Parcelles Bouzy Grand Cru Extra Brut)」。彼女の「これは私の作ったものではありませんよ」と言うジョークに場が更に和む。「ピエール・パイヤール」は1768年から葡萄栽培をし、1946年からシャンパーニュを製造するレコルタン・マニピュラン。

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この「レ・パルセル」はピノ・ノワール60%・シャルドネ40%。42ヶ月熟成でドサージュは7g/l。梨に蜜、軽いネクターのようなニュアンス。フルーティだがミネラルの清廉さもありバランスが取れてる。微細な泡の刺激の後に軽いスモーキーなニュアンスがアクセント。合わせたアミューズは「Jaune et Brown 黄色と茶色(かぼちゃ きのこ アピオス)」が登場する。ハロウィンも意識した賑やかな懐石風盛付け。
800gもある千葉県石見市のサザエは、7時間かけて火を入れたそう。南瓜の中にはチーズフォンデュ、バターナッツのピューレをベースに熟成した北海道のラクレットチーズ(特別なルートで手に入れた貴重な物)を使った。木のスプーンに乗せられたキャビアライムはかなり酸っぱかった(笑)黒くて丸いイカライスはトリュフ仕立て。そしてアオサチップの上にはフェンネルのピクルスに、長崎産石垣鯛のカルパッチョを乗せた。

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紅葉の脇に置かれるのは風味豊かなブラウンマッシュルームのタルトで、小さい円盤はポルチーニのサブレ。小岸シェフお得意の、味覚を様々な角度から刺激する細かく楽しい秋アミューズ達であった。次のプレートから「アンヌ・グロ」のワインが提供されていく。お馴染みネイビーと白のシンプルモダンなラベル、キャップシールはアンモナイトの化石だ。まず魚に合わせて出されたのは
「アンヌ・グロ オート・コート・ド・ニュイ ブラン キュベ・マリーヌ(Anne Gros Bourgogne Hautes Cotes de Nuits Blanc Cuvee Marine) 2015年」。グラスに揺れるクリアで薄い黄色、白い花・・思ったより樽を効かせた香りだ。オート・コート・ド・ニュイらしく軽くて親しみ易いカジュアルな味わい。豊かな酸と心地よいミネラルが魚料理にはピッタリだろう。ちなみにボトルネック辺りに大きく黒字で「Anne Gros」のサインが浮き上がってる。

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2015ヴィンテージから全てのワインに導入したそうだ。偽造防止という意味もあるのかもしれない。この「キュベ・マリーヌ」についてアンヌ曰く、「マリーヌの名は、まずは海の物と言う意味があります。昔海だった畑からはたくさんのアンモナイトの化石が発掘されています。塩気・塩辛いニュアンスが感じられるでしょう」「そしてもう1つの意味は3番目の娘マリーヌの名前なのです」
「しかし残念ながら、そのマリーヌだけがワインが好きでなく家業に関わっていません(笑)」と。コート・ド・ニュイから西に上がった小高い丘がオート・コート・ド・ニュイ。標高が高いため熟するのが遅くなる。「キュベ・マリーヌ」はステンレスタンクで発酵し、500Lの樽で熟成させる。樽の中で良く熟成するので良いレベルの酸があると言う。更に彼女曰く「2015年はグレートヴィンテージです。昨日2014年を飲んだが少しタイトだった」

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「それに比べて肉付きが良いと思う。2015年は若くても美味しいが、長熟も可能なワインです」との事。ここで合わせて頂く魚プレートは「Blanc 白色(アラ カリフラワー アカシア)」、まさに皿からソースに魚、最後に振りられる花にいたるまで白。加えてマメ科バタフライピーの色素マリンブルーを少しだけ白に浮かばせる演出は、まるでプレートが砂浜の風情になって正にマリーヌだ。
長崎であがった大きなアラは2週間熟成させたもの。塊のまま44度で焼き上げた。カリッと焼いた皮の部分の旨味と柔らかい身質のコントラストが鮮やかに着地してる。カリフラワーの泡立てたソースの中にはアッシュにしたほっき貝を潜ませ、塩味と旨味を補った。その食感もとても楽しい。「料理にはあえて酸味を加えず白ワインで補ってもらう組み立てにしました」と小岸シェフ。更に仕上に振ったアカシアの爽やかな蜜の様なニュアンスが白ワインに見事に寄り添った。

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料理のふくよかさが少し余韻の短いワインを補い、逆にワインの豊かな酸が料理を補い、相乗効果でより美味しく頂けた。さてさて次はアンヌ女史の今回のプロモーション来日の要な2本のワインが運ばれて来た。ビビットなオレンジのラベルが華やか。ヴォーヌ・ロマネの6代目の当主でありながらラングドック地方ミネルヴォワのカゼルにて、夫のジャン=ポール・トロ(ショレ・レ・ボーヌ「ドメーヌ トロ・ボー」出身)共に、
2008年からスタートしている「ドメーヌ アンヌ・グロ エ ジャン=ポール・トロ(Domaine Anne Gros et Jean-Paul Tollot 」。10年目を迎えると言う事でその話も楽しかった。彼女曰く「果実のピュアさを追い求めるという哲学はブルゴーニュでも南仏でも一貫しています」「南仏ラングドックは家族のプロジェクトとしてまだまだ発展途上。子孫に引き継いで完成させていきたい。既に長女ジュリと長男ティボーがそれぞれヴォーヌ・ロマネとミネルヴォワに関わっています」との事。

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アンヌ女史の話はさらに両方の畑の共通点に及んで行く。「実はブルゴーニュとミネルヴォワにはいくつも共通点があります。まず土壌に石灰岩が含まれてると言う事。ミネルヴォワにもたくさん石灰岩があるんです。次に私達は同じ醸造法でワインを作ってます。つまり茎は入れません。ピュアな果実味を引き出すため除梗100%で一貫しています。そしてラングドックでもカリニャンとシラーは、ブルゴーニュと同じ小樽で熟成させてます。
除草剤や化学肥料は使わずに果実のナチュラルなピュアさを引き出す努力をしています」と。しっかりと解説を聞いた上で、まず手書きデザインが可愛い「アンヌ・グロ エ ジャン=ポール・トロ ラ・サンコント・サンコント(Anne Gros et Jean-Paul Tollot La 50/50 Cote du Brian) 2015年」を味わってみよう。カリニャン・サンソー・グルナッシュのブレンドだ。高比率グルナッシュに、ドメーヌ所有の中では樹齢の若いカリニャン(それでも35~50年)を使用。

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畑17haで赤ワイン5種類を区画を分けて作ってるが、これはテロワールをブレンドした一本だ。彼女曰く「ラインナップの中でも、始まり・入門の一本という位置づけです。オーク樽は一切使わずにステンレスだけで熟成させます。それにより葡萄本来の果実味とフレッシュ感を引き出しています。名前の由来である夫婦二人のパートナーシップと言う意味に加えて、仲間でシェアして欲しいと言う意味もあります」
続いて2本目「アンヌ・グロ エ ジャン=ポール・トロ ラ・シオード(Anne Gros et Jean-Paul Tollot La Ciaude Minervois) 2015年」も艶やかなオレンジのラベル。「少し若いが良いヴィンテージなのでぜひ味わってしい」と言う事だった。特徴的なのは1904年に植栽された樹齢110年を越えるカリニャンを使ってる事。加えて樹齢30年のシラー、樹齢17年のグルナッシュをブレンドする。「シラーとカリニャンは少し還元的なので、樽熟成によって酸素を取り込んでいます」

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「アロマとオーク由来の香りが混じって複雑になってると思います」とアンヌ女史。12ヶ月樽熟成、ちなみにブルゴーニュは14ヶ月樽熟成させる。続けて彼女曰く「一番大きい石灰岩がゴロゴロしてるような真っ白な畑です。真南を向いてるので普通はあったかい畑になって過熟しますが、そう感じさせません。高樹齢のカリニャンと石灰岩のミネラルが相まって上手くバランスが取れているます」
なお「カゼル(CAZELLES)」という名前が刻印されてるのは、ミネルヴォワというアペラシオンを超えることをINAO(全国原産地名称協会)に認められたからだ。正にワインを語り始めると止まらないと言った感じのアンヌ女史。「また喋りすぎたわ。料理とゆっくり味わって」と会場の笑いを誘う。ここで合わせられた料理は「Vert 緑色(システロン産の仔羊 ウニ ハーブ)」、小岸シェフらしく花やハーブ類で美しくデザインされたプレートだ。

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贅沢にも「システロン産仔羊」と「ロゼール産仔羊」のカレダニョーが一緒に提供されたのだから嬉しい。ロゼール産は柔らかくミルキーながらも凝縮感と脂が実にうまい。一方でシステロンの仔羊は、やや大型と言うだけあり噛みごたえある筋肉質の味わいであった。仔羊肉だけでいうとボルドーワインを合わせたくなるが、小岸シェフは黄柚子のコンポート、ハーブのクルート、オゼイユ・オキザリス・エストラゴン・ベトナムのミントなど、
様々なハーブや生姜風味の赤茄子のピューレ、ジロールなども添える事によって南仏のワインとも接点を引き出しとても上手く合わせていた。そんな中、次に提供されたワインはブルゴーニュに戻って「アンヌ・グロ シャンボール=ミュジニー コンプ・ドルヴォー(Anne Gros Chambolle-Musigny La Combe D’orveau) 2015年」。グラスに注がれるとかなり明るいクリアなルビー色。ラズベリー・チェリー・シソ・・丸い親しみやすい果実味が中盤から余韻にかけて残る。

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かなり親しみやすい味わいだ。アンヌ女史は次のように解説する。「ビラージュクラスだが特徴的な畑です。1.1haで東向き、渓谷のような地形で普通は寒いコンディションですが、石が多い土壌のため保温効果で比較的暖かく保たれています。まだ少し若いと思うが、自宅で飲んだ時よりも開いています。フローラルさがこの料理と親和性が取れてると思う。是非香りのマリアージュを楽しんで欲しい」
「樹齢23年のピノ・ノワールで新樽は30~40%程度。残りは1~2年経過の樽を使います。程よい酸のレベル保ってる。それほど熟成するワインではないから、ビンテージから3、4年~15年くらいが良い。このワインからは液体の持ってるエネルギー感を感じて頂けると思います」と言う事だった。そんな香りのマリアージュの料理は「Rouge 赤色(鴨 グリヨット バラ)」。赤のグラデーションが華やかで、薔薇の香り立ち上がる美しいプレートだ。

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北海道産スノーホワイトチェリバレー鴨は、熟成させてハーブでマリネしてローストした。下にはグリオットチェリーと赤紫蘇を煮詰めたソースを敷いている。更に車海老のマリネ、ムカゴ・銀杏・ユリ根などのほっこり感を合わせた。紫蘇やバラなどフローラルなニュアンスが「シャンボール・ミュジニィ」に見事に寄り添う。さて今回のフェアは料理と合わせたワインのコースだが、我が家的には当然ながら
「アンヌ・グロ御本人とグラン・クリュを是非一緒に味わいたい!」と言う訳で、藤井智之ソムリエに無理を言って「アンヌ・グロ リシュブール グラン・クリュ(Anne Gros Richebourg Grand Cru) 2011年」を1本仕入れてもらっていた。グラスに注がれるとスミレ・ドライフラワーなど澄み切ったピュアなアロマが流れ出す。アタックから赤果実・黒果実のナチュラルな甘みと酸がチャーミングに膨らむ。まだ固くて開ききれないが、

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シルキーなタンニンと透き通るようなミネラルが美しく調和して、エレガントな飲み口にいざなう。柔らかくもスパイシーな余韻が長く続く。リシュブールらしい高貴でいて、果実のピュアさが前面に出る。いわば「リシュブール」のテロワールとドメーヌ・アンヌ・グロの特徴が相乗効果で導き出したような味わいだ。妻も「やっぱりすごく綺麗!と~っても美味しい♪」とはばからず嬉しそうだ。
そこへテーブルにやってきた笑顔のアンヌ女史、妻とキャーキャー女子会トーク張りに大騒ぎ。早速その特別な「アンヌ・グロ リシュブール」を、造った御本人にテイスティングして貰いコメントを頂こう。彼女は「リシュブールは私の一番お気に入りのワインです。リシュブールはヴィンテージの差が少なく、いつも満足いく出来になります。2011年は自宅セラーにも数本残してます。最後にテイスティングしたのは2年前でしたから、今日は一緒に飲めてとても嬉しいですね♪」

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と喜んでグラスを傾けてくれる。「まだ若さがあるが、テクスチャーが進化して滑らかになってますね。リシュブールの魅力の1つは、決してタンニンがパワフルなワインでないにも関わらず、香り・味わいの余韻が長いところです。2年前よりも開いています」と言う事。妻は相変わらずキャーキャーとアンヌ女史とハグしたり手を繋いだりして楽しそう。予想以上に賑やかで楽しい特別なテイスティングタイムになった。
そんな中運ばれたデセールは「Noir 黒色(チョコレート 栗 カシス)」。ヴァローナチョコレートのムースをたっぷりと艶やかに使用した妻のお気に入りだ。秋らしくマロンクリームで包み、さらにカシスで酸を添えているのも良い。コーヒーのアイスの上にはオレンジのほおずきも飾った。そこへ更に小岸シェフが企みの笑みでやって来た。手には大きな辞書を持っている。蓋をあけると中にはアルバ産白トリュフを使った「鯛焼き」?!包み紙まで凝っている。

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白トリュフのパンケーキと言った贅沢さだ。最後アンヌ女史と、以前コート・ドールに行った時の話で盛り上がった事から「楽しい思い出で良かった、今度は私に逢いに来て♪ ブルゴーニュでもミネルヴォワでもどちらでも構わないわ!」と素敵なリップサービスと、手書きの長いメッセージを頂いた。妻は「うんうん行く行く♪」と2人で手を繋いでぶんぶんしていた(笑)
アンヌ女史は明るくチャーミングで穏やか、正にその作り出すワインのような素敵な女性であった。最後まで力の入った小岸シェフの料理に、アンヌ女史の人柄、そしてもちろん魅力的なワインと、とても楽しい満足したメーカーズディナーであった。