9月23日から10月9日まで開催されている「ダイナースクラブ フランス レストラン ウィーク 2017」、今年は全国約600軒のレストランで一律のお手頃価格で楽しむ事ができる。これは2010年にフランスで誕生したレストランイベント「トゥス・オ・レストラン(Tous au Restaurant)」の日本版で、正に「皆でレストランへ」と言う趣旨の企画だ。発起人は、
ジョエル・ロブション(Joel Robuchon)など名だたる有名シェフ達で組織する「コレージュ・キュリネール・ド・フランス(College Culinaire de France)」、代表はもちろん巨匠アラン・デュカス(Alain Ducasse)。デュカスは現在名実共にフランス料理界を牽引するシェフの一人と言えるだろう。史上最年少でミシュラン3ツ星を獲得し、今や世界に20店舗以上、うちパリ・モナコ・ロンドンに3ツ星レストランを持つ。後進育成にも尽力する。

去年秋にはあのベルサイユ宮殿の中に新店「オール(Ore)」もオープンさせた。ラテン語で「口」の意味。フランス太陽王ルイ14世が建てたヴェルサイユ宮殿、つまり「王の口を楽しませる」と言うコンセプトだ。宮殿の一角にあるデュフール邸改装の設計は、あのパリの「フランス国立図書館」でも有名なドミニク・ペロー(Dominique Perrault)が手がけた。その他もベルリンの自転車競技場やオリンピック水泳競技場、
ルクセンブルクの「欧州諸共同体司法裁判所(欧州連合司法裁判所)」などでも知られている建築家だ。宮殿前庭とロイヤルコートを見下ろせるレストラン「オール」は、ベージュとゴールドを基調にし、ヴェルサイユの優雅さ加えモダンで上品な内装となっている。輝くシャンデリアは、16・17世紀トレンドの襞襟と「フランス王太子肖像画(Hyacinthe Rigaud)」の指揮棒に着想したデザインとか・・是非行ってみたいものである。

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そう言えば先日フランス食材の輸入商社「アルカン」が、デュカスのチョコレート専門店「ル・ショコラ・アラン・デュカス マニュファクチュール・ア・パリ(Le Chocolat Alain Ducasse Manufacture a Paris)」の国内独占販売契約を締結すると発表した。去年はデュカスのシュークリーム専門店「シュー・ダンフェール パリ(choux d’enfer PARIS)」が新宿NEWoManに登場したが、やはりショコラが本命だろう。
「ル・ショコラ・アラン・デュカス」と言えば2013年、バスティーユに1号店をオープンし、現在はギャラリーラファイエット(Galeries Lafayette)店を含めパリに5店舗を展開。カカオ豆にこだわった「ビーントゥバー(豆の選別からチョコの製造までを自社で行う)」を採用している。日本国内でのオープン見通しはまだだが、急げばバレンタインには間に合うのではないの??と妻は早くも楽しみにしている様だ。さて長くなってしまった、そろそろ本題に入ろう。

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この日雨の中「ルイ・ヴィトン 六本木ヒルズ店」から車を走らせ向かったのは銀座中央通り。ディナーは妻が喜ぶデートに最適の「ベージュ アラン・デュカス 東京(BEIGE ALAIN DUCASSE TOKYO)」だ。シャネル銀座ビルディングの最上階にあるシャネルとアラン・デュカス(Alain Ducasse)とのコラボレストラン。「ブルガリ」「アルマーニ」などラグジュアリー・ブランドのレストラン進出は珍しくないが、
日本ではここ「シャネル(CHANEL)」が先駆けとなる。建築家ピーター・マリーノ(Peter Marino)の設計で、キルトレザーやツイードの様な波打つ黒のファサードが印象的だ。ビル裏側カーテンウォールが交差する所にシャネルマークと言うこだわり。「ベージュ アラン・デュカス 東京」はマロニエ通り側に入り口・受付があり、シャネルロゴボタンのエレベーターで10階に向かう。反対側が開き降りると、左に長くウェイティングスペースが続きダイニングが見えてくる。

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照明でゴールドに輝くメッシュ・スクリーンが印象的で美しい・・デートに相応しいモードで上品な風情。落とし気味の照明の中、夜景を映すガラスが天井まで届き、各テーブルがぼんやりと浮かび上がる。壁やソファー・椅子・クッション、テーブルクロスまでベージュのツイード、仕切りパネルもツイード柄。窓に向かって広がる洗練されたダイニングは心地よい空間。
スタッフの制服はシャネルのデザイナー カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)が手掛ける。シャネルとコラボしたレストランだけあって客層もそれなりに落ち着いている。いつものテーブル席に着くと、ココ・シャネル(Coco Chanel)がお気に入りだった「カエルのオブジェ(レプリカ)」が出迎えてくれる。そうそうこのカエルは口にクリスタルをくわえている?訳だが、その昔ジャック・シャゾ(Jacques Chazot)がココ・シャネルに贈ったカエルのオブジェの口に、

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ユベール・ド・ジバンシィ(Hubert de Givenchy)が落ちていたシャンデリアの装飾を入れたと言う豪華でオシャレな逸話があるが、正にそれなんだろうね。そしていつもの香水付「BEIGE TOKYO」ロゴおしぼりが運ばれる。さぁ今宵も「季節のシェフおまかせメニュー(menu du chef)」を頂くことにしよう。アミューズ・4皿・デザートで24000円と言う小島景シェフお勧めのコースだ。
ただ肉料理だけは「ラカン産仔鳩のア・ラ・ブロッシュ」から「フランス産仔羊」に差し替えてもらうことにした。小島シェフは、デュカス曰く「世界で最も私の哲学を理解し実践する日本人シェフ」。モナコ「ルイ・キャーンズ」で3年副料理長をした後、青山「ブノワ」などを経て2010年「ベージュ東京」に就任した。現在ミシュラン東京2ツ星だ。まず運ばれたアミューズ・ブーシュは、にんじんのピューレとの赤カブのピューレを詰めたプチシュー。人参の葉も乗せている。

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ピューレに微かにマスタードの風味を漂わせたのがポイントだ。グリッシーニはアボガドとほうれん草のピューレを付けながら頂く。小島シェフと言えばやはり「鎌倉野菜」だろう、相変わらず毎朝シェフ自ら電車で、鎌倉から銀座に運んでいるそう。そしてもう一皿別に運ばれたのは、古代米の上にトマトの冷たいピューレを乗せてコシヒカリのチップスを飾ったもの。サクサクの食感が印象的だ。淡いピンクの色合いが店の景色に合う。
そこにほうれん草を練り込んだセモリナ粉のパンや自家製バケットも来る。合わせて添えられるのはブルターニュ産ゴルディエバターだ。では乾杯をしよう、レストランに入る前に「ルイ・ヴィトン」で既に「ヴーヴ・クリコ イエローラベル(Veuve Clicquot Ponsardin Yellow Label)」を飲んでいたので、ここではサラッと甘い果実味が楽しめる物を選ぼう。世界のデュカスグループのワインを統括するジェラール・マルジョン(Gerard Margeon)ソムリエが監修するワインリストは、

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やはりフランス産ワインが充実している。その中から今宵チョイスしたのは「ペリエ・ジュエ ベル・エポック(Perrier JouetCuve Belle Epoque Blanc) 2002年」。1811年エペルネに創業した老舗シャンパニュ・メゾン「ペリエ・ジュエ」、1961年にはイギリスのヴィクトリア女王、その後フランス王室の御用達になっている。そしてプレステージ・キュヴェがこの「ベル・エポック」。
ボトルに描かれた白いアネモネは、1902年に3代目アンリ・ガリス(Henri Gallice)がエミール・ガレ(Émile Gallé)依頼したもので1964年に発見された。やはりアネモネのボトルはテーブルに映える。過去にももう何本も開けているこの「2002年」は、シャルドネ50%(クラマン村・アヴィーズ村・ルメニル村/オジェ村)、ピノ・ノワール46%(マイィ村・アイ村・アンボネイ村・マルイユ/アイ村)、ピノ・ムニエ4%(ティジー村・ヴァントゥイユ村)。

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この夜も穏やかで優しい大塚信秀シェフ・ソムリエがグラスに注ぐ。照明に照らされ美しいゴールドの泡が煌めき妻も嬉しそうだ。2002年は4月に一日だけ気温が-5℃前後まで下がり140haの葡萄が全滅。その後7月までは日照りで8月は大雨も来て土壌の状態は良くなかった。9月になり晴天続きで夜も涼しかった事から果実の成熟が進み高糖度に。結果、アルコール糖度13度程度、1998年以来の低酸度となった。
白い花の蜜・樹液・・ベルエポックらしい透き通るようなミネラル感と甘い余韻が調和する。穏やかな酸が全体の印象を決める。熟成した感じが始まってるがまだまだフレッシュさを残していた。それでは料理に行こう、前菜1皿目は「アオリイカのグリエ、クルジェットのフォンダン、唐津産赤雲丹(AORI IKA grille, courgette fondante et oursin)」。アオリイカに鉄板で火を入れた香りが微かに流れる。プレートにはズッキーニのソースを美しく点描した。

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この南仏特有のクルジェット・ニソワーズ(ズッキーニ)は、小島シェフがニースから種を持ち込み、鎌倉の農園に頼み込んで1997年から育ててきた思い入れのあるものだ。秋口になるともっと大きくカボチャのようになるという。今では鎌倉野菜を代表する一つになっている。そんな「ベージュ東京」ならではのクルジェットをイカやウニとともに瑞々しく仕上げた、シャンパンに寄り添う一皿であった。
続いて2皿目は「オマールブルーと季節野菜、茸のコンフィー(hOmARd BLeu, legumes de saison et peche confite)」、鎌倉温野菜とオマールの盛り付けが華やかな一品。ソースはキノコを使った、フレンチの王道という趣きの味わいだ。野菜の下にはフレッシュのアーモンドとマッシュルームのペーストを敷いた。その周りに風味豊かなキノコのジュのソースを流した。その風味と余韻が長く、秋の到来を感じさせる。

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オマールはもとより温野菜の味わいが印象に残る。密かに潜ませた桃がまたなんとも言えない調和を見せてくれた。次は魚料理「長崎県五島イサキのフュメ、新ジャガイモとオーストラリア産黒トリュフ(ISAKI cuit puis fume, pommes de terre nouvelles,truffe noire d’Australie)」が運ばれてきた。こちらにしては珍しい印象の和皿が使われている。
聞くと日本で作らせてデュカスのバリ本店でも使用していると言う。デュカスは創作系の新店舗も更に展開していく予定だから、日本風アレンジも積極的に取り入れていくのかもしれない。そんな和皿に乗せられた料理は、五島列島産イサキのフュメに赤キャベツのペーストを合わせ、更に新鮮なアスパラガスと岡山産新ジャガイモを添えたもの。黒トリュフと野菜の出汁のソースが骨格をなす。軽く燻製にかけたイサキは迫力があり野菜も食べ応えあって、まさに肉の様に楽しめた。

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続く肉料理は「仔羊」に変えてもらったので、ワインはやはりボルドーから選んで行こう。チョイスしたのはまた妻の好きな「シャトー・ラトゥール(Chateau Latour) 1995年」。言わずもがなボルドー5大シャトーの1つ、ボルドーの北西メドック地区ポイヤックに位置し、1331年からの長い歴史を誇る。ラベルには14世紀中頃に建てられてた円形の要塞「サン・ランベールの塔」が描かれている。
1855年に格付け第1級を獲得。1993年にフランソワ・ピノー(Francois Pinault)がオーナーになり大規模改革を行った。2012年からはプリムール商戦から撤退。自らのセラーで熟成させたヴィンテージのみを適宜リリースするという一大転換を行った。つまりこの夜の1本はピノー改革初期の「1995年」だ。ソムリエが丁寧に抜栓しグラスに注ぐ・・その後デキャンタージュしてもらう。美しく揺れる濃い赤、立ち上がる凝縮した黒い果実の香りに妻の目も輝く。

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薄めのコーヒー・鉛筆の芯・動物的に肉感的なスパイス・・柔らかくも若干舌先に凹凸感を残すタンニンは心地よく、奥深い森の中にいるようなハーブも香ってバランスを奏でる。中程度の長さの余韻には、薄い膜のような苦味が残る。時間と共に黒い果実の凝縮感が押し出してきて、広がりを見せる。まだ開ききらないが、綺麗に熟成したラトゥールらしい品格のある飲み心地に満足する。「取っ付き易い『1996年』に比べて『1995年』は太い酸がいつ解けるか難しいところもあります」
「酸が残るか甘みに変わっていくか楽しみですね」という大塚ソムリエの感想と共に楽しく変化を味わう。彼のコメントは素直で情緒あり、ワインに対する愛情にあふれているので妻はとても気に入っている。「良く気持ちが伝わるわぁ」と頷き嬉しそうに聞き入っていた(笑)2時間経つとその「1995年」はかなり柔らかくなり、熟した果実の甘みが舌先を刺激し、長い余韻に連なっていった。そんな幸せなラトゥールと共に味わったのは輸入再開したフランス産仔羊。

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「フランス産仔羊のア・ラ・ブロッシュ、アーティチョーク(AGneAu de france à la broche, artichauts cuits et crus)」。テーブルで注がれたジュのソースで、ふっくら柔らかな背肉をシンプルに頂く。ミルキーな身質がスライスしたサマートリュフと混じり合って美味だ。前週から入り出したと言うポルチーニのグリルも妖艶な香りが相当強い。デュカスグループが厳選して仕入れているというセップ茸は食べ応え充分であった。
すっかりお腹一杯になった所で一息、ワインに合わせて食べ頃のフランス産チーズ(notre sélection exceptionnelle de fromages de france)を少し頂くとしよう。9種類ある中からシャンパーニュ地方の「ラングル」や熟成の「コンテ36ヶ月」などを楽しむ。静かにじっくり味わえる幸せなディナーもいよいよデザート、妻お待ちかね「CHANEL」の世界だ。最初に出した写真の小さなチョコレート「ブトン・シャネル」が、ミニロールケーキなどの小菓子と運ばれる。

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これはシャネル・ジャケットのボタンを象ったダークとホワイトチョコレートだ。今回はシャネルのアイコン「カメリア」とお馴染みの「ロゴ」に加えて「香水瓶」「マトラッセ」型があった。女性は絶対これに喜ぶ(笑)そう言えば夏秋の間オープンしているシャネルビルの屋上テラス「ル・ジャルダン・ドゥ・ツイード(Le Jardin de Tweed)」では、特別デザート「カメリア」を出していて、
月によってフレーバーが違うとの事。花モチーフのボックスに入って一日限定10個(要予約)と言うから貴重だ。と言う訳でこの夜のメインデセールは、妻お決まりのキラキラ「カレ・シャネル ショコラ-プラリネ、ヘーゼルナッツのアイスクリーム添え(carre chAneL chocolat-praline)」。デュカスの代表作「ショコラ・プラリネ」を「シャネル・マトラッセ」デザインにアレンジした物開店以来の定番だ。サクサクのプラリネ感と濃厚な甘さが調和した味わい。

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私は季節のお勧めふんわり「アプリコットのスフレ(Souffle aux ABRIcOtS)」を選んだ。通常スフレは好まないが、さすがにデュカスブランドでこれは美味しく頂けた。最後はお茶に合わせてハサミでカットしてくれる「マシュマロ」2種で締める。甘く溶ける癒しに妻も満足そうだった。全体的にデュカスらしい、余り複雑でなく素材にきちんと向き合える料理が行儀よく登場した。もちろんフレンチらしい重層な楽しさや、
まろやかな旨味はあるのだが、現代的に軽やかな味わいに収斂している。野菜が多い事もあり、翌日朝もびっくりする位胃が軽かった。銀座という場所柄か料理はテンポ良く我が家好みの早いペースで提供され、量も味付けも満足した。外国人のメートルも含めて付かず離れずの的確なサービスも心地よい。フレンチの王道として安心して楽しめるレストランだろう。帰りにはお馴染み「マカロン(シークワーサー味?!)」のお土産を頂き、ソムリエ達に外まで見送って貰い店を後にした。

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