猛暑が続いた博多であったが、盆過ぎから徐々に朝晩の暑さは和らぎつつある。ビール代わりのシャンパンもスッキリ若めをきゅっと飲むというより、少し熟成したものにゆっくりと向き合いたくなってくる。我が家のワインペースも上がってくる秋を前に、簡単にこの晩夏に楽しんだワイン達をザッと挙げておこう。ちなみに最近アップしたワイン特集は
アルマン・ルソー」「サロン ブラン・ド・ブラン」「イタリアワイン」「ドン・ペリニヨン」「ロゼシャンパン」「2016-17年末年始ワイン」「ドメーヌ・ド・ラ・ロマネコンティ」「フェスティブシーズン・シャンパン」「シャトー・ムートン・ロートシルト」「シャトー・ラトゥール」「ブルゴーニュワイン」「真夏のシャンパン」「2015-16年末年始ワイン」「オールドビンテージワイン」など。

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この週末アフタヌーン・シャンパンとして開けたは、「パレ ド オール」に合わせた「ルイ・ロデレール クリスタル ブリュット(Louis Roederer Cristal Brut) 1993年」。1776年創業の「ルイ・ロデレール」、優良年にのみ造られるプレステージ・キュヴェの「クリスタル」は、個体差があって当たりはずれはあるが我が家での登場頻度は高い。クリスタル専用畑は約60ha強で生産量は30万本程度、
6年熟成させデゴルマンジュ後も8ヶ月安置させる。クリアボトルには熟成期間を伺わせる深いゴールドが美しく揺れる・・コルクを抜く時に微かなガス音もしてしっかりと生きている。超微細な泡が立ち上り期待が高まる。ナッツ・ミツの上質かつ滑らかに統合したクリーミーな香り。そこに熟成した上質なシャンパンに出てくるジンジャーのニュアンスも。それが行き過ぎていないため上品なアクセントになる。口にふくむと泡が柔らかく口中を刺激しエレガントだ。

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余韻には濃密なタッチとスパイシーさが程よく残る。熟成感を漂わせつつもどこかフレッシュ、そのバランスがとれており飲みやすかった。シャンパーニュも余り熟成しすぎると出身が分からなくなる。「クリスタル」の高貴なミネラルと高い酸のニュアンスが穏やかに熟成しており、若いクリスタルとの連続性がある。若い時との連続性がないとただの古酒になってしまい、我が家の好みではない。
「クリスタル」には日頃手厳しい妻も「熟成はこの程度が好きだな~」と楽しんでいた。同じ位の熟成感を試してみようかと翌日チョイスしたのは「クリュッグ・ヴィンテージ(Krug Vintage) 1990年」。10年以上の熟成を要して市場に出された1本だ。1843年創業のクリュッグ社、そう言えばこの「1990年」は「クリュッグ・ヴィンテージ」に訪れた第二の福音「クリュッグ・コレクション」として、昨年末改めて発売されている。

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1990年は良好な気象に恵まれ日差しの強い夏となり、豊かさとバランスが取れた特別なワインが誕生したとクリュッグ社は言う。先日博多「スーリール」で「クリュッグ・ビンテージ 1998年」を開けたし、数日前に「クリュッグ グラン・キュヴェ」を日航福岡「鉄板焼 銀杏」で開けたので、それらとの比較も楽しみだ。この「1990年」も抜栓するときに微かにガス音がまだする。コルクも良い具合に収縮している・・
状態が良く期待できそう。泡は「クリスタル 1993」よりもすっかりと溶け込んでいる。カフェオレ・摩って時間の経った梨・白トリュフ・カラメリゼ・・複雑で厚みのある、しかし穏やかなブーケに引き込まれていく。熟した白ワインのような趣きだが微かにはじく泡が心地よく、熟成したシャンパンの楽しさが滲みでる。2時間かけて飲んだが、最後の1杯はとくにまろやかに上品になっていた。妻の好みは越えていたが保存状態も良くなかなか面白い1本だった。

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これも「なるほどクリュッグらしいね」と連続性のある熟成感を楽しんだ。そうだ、前週には同じヴィンテージの「ボランジェ・グランダネ(Bollinger La Grande Annee Brut) 1990年」を開けていた。1829年創業の「ボランジェ」、1884年から英国王室御用達だ。160ha畑の約7割がグラン・クリュとプルミエ・クリュ。中でも「ラ・グランダネ」は優れた葡萄が出来た年にのみ造られる。
グラスに注ぐと輝きのあるゴールド、泡もまだ残っている。ところが口にふくむと予想より進んでおりナッティでオイリーなアタック。前述の「クリュッグ 1990」よりも、今年開けた「ドン・ペリニヨン 1990」よりも明らかに進んでいて、「ドン・ペリニヨン 1985」的な食後酒のニュアンスが出ていた。熟成したシャンパンとしてはまずまずだが、余韻には果実味を越えてしまった邪魔な苦みも残る。我が家の好みは越えていたため余り杯は進まなかった。

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と、少し熟成したシャンパーニュが続いたため妻は「もう飽きたよ、フレッシュなシャンパンが飲みたい!」と苦情がでたので、昨夜開けたのは「アムール・ド・ドゥーツ(Amour de Deutz Blanc de Blancs) 1999年」。パールホワイトのボックスでクリスタルなクリアボトル、ペンダントになる天使のキャプシュール付きで妻のお気に入りだ。もうこの「1999年」は何本も開けている。
1837年創設の「ドゥーツ」。1992年以降はルイ・ロデレールの傘下となっている。先月はアフタヌーン・シャンパンで「キュヴェ・ウィリアム・ドゥーツ 2002年」を開けた。グラスに注ぐと輝きのある深いイエローにクリーミーな泡立ち。白桃・カリン・洋梨・・フレッシュだが時間と共にややオイリーなニュアンスも微かに感じられる。口にふくむと甘い甘露と心地よい酸化熟成のニュアンスの精緻なバランス。

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そして長い余韻はどこまでもエレガント。「アムール・ド・ドゥーツ」らしい気品あるミネラルと優しい酸に包まれながら、上品で色気ある味わいを気軽に楽しめた。そうそう先程触れたが、夏の終わりの体力回復に思い立って訪れたのは日航福岡「鉄板焼 銀杏」。最高級佐賀牛やこだわりの九州産野菜が頂ける。日航福岡同階フレンチレストラン「レ・セレブリテ」時代から我が家お馴染み、
原部暢俊ソムリエに再会して妻も嬉しそうだ。選んだのは「フォアグラ」「車海老と帆立」「鮑」「焼野菜」「佐賀牛フィレ」などが盛り込まれたコース。車海老と帆立は「活オマール海老」に差し替えてもらった。「クリュッグ」で乾杯しつつ、ワインリストからお願いしたのはメドック格付け1級、5大シャトーの1つ「シャトー・オー・ブリオン(Chateau Haut-Brion) 1996年」だ。ちょうど1年前「レ・セレブリテ」で「1988年」を開けてとても良かった記憶がある。

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1550年設立、ボルドー最古の歴史を有するグラーブ地区ペサック・レオニャンの名門シャトー。1814年ウィーン会議・晩餐会で出され、ナポレオン戦争で敗れたフランスを救った「救世主のワイン」と言われた。現在は「シャトー・ラ・ミッション・オー・ブリオン」と共に「ドメーヌ・クラレンス・ディロン」が所有する。畑面積48ha、平均樹齢36年、年間生産量約14000ケース。
ヴィンテージによってかなり違うが基本比率は、カベルネ・ソーヴィニョン45%、メルロー37%、カベルネ・フラン18%。土っぽさやスパイシーさがあるため料理との接点もあり、レストランでチョイスすることも多い。思い出すところでは、恵比寿「ガストロノミー ジョエル・ロブション」で開けた「1982年」2本が素晴らしかった。自宅では「1994年」「1995年」「2005年」も開けている。ブルガリア産フォアグラの香ばしさの立ち上がるカウンター席で

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注がれた「1996年」は、黒胡椒の香りがカウンターの香りに負けずにぐっと漂い、いかにも「オー・ブリオン」らしい力強さ。凝縮感のある黒い果実がぐっと口中で広がる。思えば数日前に開けた「シャトー・ラトゥール(Chateau Latour) 1994年」よりも全然固く閉じている。「ラトゥール 1994」は最初からハーブを感じ、仄かに腐葉土的なニュアンスも出ていた。この夜の「オー・ブリオン 1996」は
少しごつごつしたタンニンがかえってアクセントで心地よい。フレンチに合わせるには早すぎるが、たっぷりとした肉厚の佐賀フィレ肉にはこれ位タンニンがあった方が負けずに寄り添ってくれた。鉄板焼きはシンプルな料理なだけに、素材の質や焼き手によって全然食後感が変わって来る。担当してくれた料理人は13年の経験がある田中秀典氏。素材に余り火を入れ過ぎず、しかし的確に熱を入れて素材の良さをストレートに引き出している。

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壱岐の鮑、アサリバターソースで仕上げたカナダ産オマール海老などなかなか美味であった。肉と言えば以前、某肉専門店で開けた「アンリ・ジロー アイ・グラン・クリュ ブラン・ド・ブラン(HENRI GIRAUD Grand Cru d’Ay Blanc de Blancs) 2002年」と「ハーラン・エステート(Harlan Estate Red Napa Valley) 2003年」。同「アンリ・ジロー アイ・グラン・クリュ ブラン・ド・ブラン」は
博多「レストラン花の木」で「2004年」を、そして東京・芝公園「レストラン クレッセント」で同じ「2002年」を開けてとても良かった。イギリスやモナコ王室ご用達、1625年から続く老舗シャンパーニュメゾン「アンリ・ジロー」、現在12代目当主クロード・ジローが仕切る。アルゴンヌの森の2種の土壌の樫樽にて12ヶ月熟成後、8年の瓶内熟成。しかも「1990年」以来12年ぶりのリリースとなった「2002年」。これを見つけて頼まない訳がなかった。

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クリアボトルに揺れるオレンジかかった美しい色・・しかもこれは生産者の直筆サイン入りと言う貴重な1本。正直アメリカっぽい大味な料理達に合わせるには勿体なかったかな。そしてカリフォルニア「ハーラン・エステート」。フランスの2003年と言うと猛暑ヴィンテージであるが、アメリカの2003年もなかなかの良ヴィンテージとされる。予想通りエスプレッソ・樽香・凝縮した果実感がまだまだ強かった。
カリフォルニアワインの立役者、不動産王ビル・ハーラン氏が、かのミッシェル・ロラン氏と共に1984年オークヴィルでワイン造りを開始した。「偉大なワインが生まれるのは斜面」と畑は西の丘陵、海抜68~374mの北・北東向き斜面に広がるとの事。グラスに注ぐと、黒い果実の凝縮した香りはまだ閉じ気味・・タンニンもまだ口中を刺激するが、高い酸もあるためスムーズでエレガントな印象も奏でてくる。上品な余韻は長く続く・・これは当然ながら脂したたる肉料理にまずまず合った。

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実はその後またこちらの店で、フランスワイン好きの我が家は若いボルドー「シャトー・マルゴー」を試してみたが料理と合わず勿体ない感じだった。やはり大好きなフランスワインはエレガントなフレンチと味わうのが一番楽しいことを実感。さぁこんな感じで秋の風を感じ始めると我が家の赤ワイン消費率もぐんぐんと上がって行く。この日も妻希望で開けたのは「シャトー・ラトゥール(Chateau Latour) 2001年」。
昨年春に博多「レストラン花の木」で同「2001年」を開けた時はかなり固かったが、1年経ってどうだろうか。「シャトー・ラトゥール」はボルドー5大シャトー格付け1級。ポイヤックに位置し1331年からの長い歴史を誇る。ラベルには14世紀中頃に建てられてた要塞「サン・ランベールの塔」が描かれている。1993年にフランソワ・ピノー氏が所有権を獲得し数年に渡る大規模改革を行った。「2001年」についてパーカー曰く

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「偉大な2000年よりかなり早く飲める(2007~2025年)」との事。グラスに注ぐと甘草・スパイス・木・・閉じ気味だがパワフルで森林を感じさせるニュアンスも心地よい。アタックはしなやか・・中盤にコーヒーの苦みを伴った黒い果実の凝縮した甘みが広がる。余韻には旨味と軽やかながらしっとりとした苦みが残る。1時間経つと鰹節的な旨味が強くなり全体を支配しややバランスが崩れ出すが、
90分すると左岸らしいハーブのニュアンスが開き始め、また次の次元のバランスを見せてくる。これ以上は開かなったが「ラトゥール」らしい発展を感じられた。そして「ラトゥール 1994」。「2001年」が不満足だった妻が「もう少し熟成したラトゥールで本領発揮して欲しいな」と言うので1週間後に開けた。グラスに注ぐとハーブ・仄かな腐葉土・凝縮した黒果実のニュアンスが全体を構成する。口に含むと黒い果実の重みをドシンと感じ余韻は長く太い。

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「2001年」よりも開いているがそれでもまだ発展途中。我が家の好きな飲み頃(25年から30年)がようやく見えてきた・・という感じなので数年後にまた飲んでみたい。ボルドーが続いたのでブルゴーニュでも開けようかと、この日セラー室からチョイスしたのは「マーク・ハイスマ サン・ロマン コンブ・バザン(Mark Haisma Saint Romain Combe Bazin) 2014年」と
「マーク・ハイスマ モレ・サン・ドニ レ・シャフォ(Mark Haisma Morey-Saint-Denis 1er Les Chaffots) 2014年」の2本だ。ブルゴーニュの新星マーク・ハイスマ氏はオーストラリア出身。パリでの料理人を経てワイン造りに足を踏み入れ、2009年に「マーク・ハイスマ」を創設する。畑を持たない小規模生産、いわゆるマイクロ・ネゴシアンだ。造り始めて10年にも満たないが既に英国を中心に人気が出ている。生産量が少ないのでなかなか手に入らない。

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「サン・ロマン」はやや濁った淡いレモン・イエロー、目にも見える微炭酸が舌先を刺激する。パイナップル・黄桃のコンポート・・押しつけがましくはない樽によるゴムのニュアンスも。変な甘さがなくしっかりとした高い酸が輪郭を形作る。余韻の苦みが印象を引き締める。色調から伺える印象よりもしっかりした造り。「サン・ロマン」の冷涼感を素直に表現した飲み口だろう。ランチにグラスで提供されれば文句がないような味わいであった。
一方「モレ・サン・ドニ レ・シャフォ」はやや濁った明るいルビー。赤い果実のジャム・薔薇のドライフラワー・麝香・梅干し・・時間と共に控えめながら複雑な香りに発展してチャーミング。質感は軽いがその軽やかなアタックから、しみじみとした旨味が豊かな酸と共に広がる。ややざらつきはあるがスムーズなタンニンもアクセント。余韻も上品なミネラリーさを感じる。モレ・サン・ドニらしい土っぽいテロワールを軽やかに表現していた。

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飲みごたえと軽やかなチャーミングが調和しており飲み飽きない。「サン・ロマン」と一緒に開けたことによって、作り手の思想がダイレクトに伝わって来た。我が家の好みの真ん中ではないものの(妻は一口で止めた)、今流行りのモダンかつ自然な造りのブルゴーニュとして面白かった。と、この翌日は妻の機嫌を伺って好きな「シャトー・シュヴァル・ブラン(Chateau Cheval Blanc) 1995年」を開けた。
春に「レストランひらまつ博多」で「2004年」を、以前には「1969年」「1983年」「1997年」も開けている。ボルドー右岸、サン=テミリオン地区のトップドメーヌ(プルミエ・グラン・クリュ・クラッセA)。1998年にはLVMHグループに加わり積極的に資本投下され、近年シャトーでは巨大で近代的なセメントタンクが壮観に並ぶ。発酵を終えると真下に設置された熟成樽へと自然に移動する仕組みだ。

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右岸は敢えて選ばない妻も「シュヴァル・ブラン」だけは別だ。その上品でエレガントな飲み口は我が家の定番の1本でもある。「1995年」はメルロー50%、カベルネ・フラン50%。香りはまだ閉じているが、いつものように羽毛のような軽さのアタック。奥深い花の蜜のような甘さがあるが、樽のニュアンスは感じられるない。シルキーなタンニンがアタックからあっという間に余韻に続く。
若くから飲めるワインであるが、熟成にはもう少し時間が掛かりそう。それでもいつもながらエレガントで深遠な味わい、優しく包まれるような飲み心地が晩夏にぴったり合った。