気が付くとそろそろ日も落ちんとする夏の夕刻、慌てて宿泊先の「アマン東京」から恵比寿ガーデンプレイスへ車を走らせる。目指すは我が家お馴染み、シャトーレストラン「ガストロノミー ジョエル・ロブション(Joel Robuchon)」だ。運転手に行き先を告げると「時々お客様の送迎に呼ばれるんですよ!美味しいんでしょう!?」とテンションを上げられる(笑)
遠目からも美しくライトアップされた「城」に到着するとさっと出迎えられ、1階エントランスからエレベーターで2階まで案内してくれる。豪華バカラ・シャンデリアが輝く黄金のダイニングに入ると我が家の担当、妻の大のお気に入りである村林篤メートル・ド・テルが笑顔で迎え、いつもの席に案内してくれる。一見落ち着いた風情に見えるが、実は他階には30名近い団体が入っているほか、ワイン会などもあり厨房はフル稼働と言う事。

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よって2階は敢えて余裕の空間で、妻は「こんな贅沢な使い方もそうそうないわね」とご機嫌だ。壁ミラーやテーブルにはクリスタル、各々のバカラのキャンドルスタンドが煌めく。さてまずはシャンパーニュで乾杯といこう。いつもの事だが、ロブションのハウスシャンパン「ヴーヴ・クリコ」以外からグラスで、「最初は爽やかなもの、2杯目は少し熟成感があるもの」と高丸智天シェフ・ソムリエに所望する。
彼は今やこちらワインの城のスターソムリエ。さすがに「ロブションのシェフ・ソムリエ」に昇格してからの忙しさは半端ない様だ。いよいよ貫禄が出た高丸ソムリエの雰囲気に、妻がすかさず「男っぷりをあげたわね~♪」と嬉しそう。真面目で謙虚な彼は学生時代を福岡で過ごし、大学卒業後に上京してキャリアを地道に積んできた。2005年「第5回ロワールワインソムリエコンクール」のファイナリストを経て、信国武洋エグゼクティブ・ソムリエの下でロブションのワインを長年支えて来た。

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そんな高丸ソムリエが1杯目サーヴしてくれたのは、キラキラと揺れるゴールドが華やかで美しい「テタンジェ・コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン(Taittinger Comtes de Champagne Blanc de Blancs) 2005年」。こんな猛暑の夜には嬉しいプレステージ・シャンパーニュだ。ブラン・ド・ブランらしい清廉な白い花のイメージ、甘いシトラス・溶け込んだタル香が絡み合う。
厚みがありながらも切れのある酸味が爽やかな印象を残す。柔らかくなり始めたミネラル感が心地よく喉を潤し長い余韻へと続く。そこへ、ロブション来日ガラディナーでも食べたアミューズ、華やかな盛り付けの「香ばしく仕立てた手長海老のゴーフルとともに」がやって来た。手でカジュアルに頂く手長海老の温かいワッフルで、ホワイトソースとチーズが絶妙に香り立つ。そして続く2杯目のシャンパンは、

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「アンリオ・キュヴェ・デ・アンシャンテルール(Henriot Cuvée des Enchanteleurs Brut) 1998年」。「アンシャンテルール」も「コント・ド・シャンパーニュ」同様に我が家のセラーにも必ず数本は確保している定番。グラスに注がれると、アンリオらしい深い黄金色。摩り下ろした洋梨・ブリオッシュ・白い花のドライフラワー・白桃のコンポート・・
口に含むとナッティな、いかにも熟成した香りが鼻先に迫ってくる。一般市場で飲む「アンシャンテルール」とは異なる深みに妻も大満足だ。発売当時に60本ほど仕入れて、ロブションの地下セラーで熟成させてきたもの。いつもながらロブションのワインの保存状態に感心する。舌の上に残るネットリした質感も印象的。余韻はすっきりしていながら複雑という相反する旨みで締めくくられる。完成度が高いため「繊細ながら存在感のある前菜・魚料理を出せる極上のレストラン」に合うシャンパーニュとも言える。

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と言う訳で今宵の料理は、多種多様な「MENU DEGUSTATION」をお願いしよう。妻には多量だとは思ったが、我が家の過去データを知り尽くしている村林メートル・ド・テルと話しながら色々調整して貰う。彼は、今年5月で退職した宮崎辰プルミエ・メートル・ド・テルの跡を引き継いで今やサービスの主力として頑張っている。それに伴う忙しさは言うに及ばずだろうが、
これも私達とっては感慨深い事である。京都出身である彼の真面目で優しく、そして穏やかで美しいサービスに加え、常に新メニューの細かな勉強も怠らず、素材・調理法から調味料などかなり丁寧で解り易い解説も素晴らしい。前回「FFCC第16回メートル・ド・セルヴィス杯」準決勝まで進んだ彼は、重責に忙しい中また更なる結果を求めてコンクールの準備を勧めている。そんな中、色とりどりの「パンワゴン」が登場してきた。「バタータワー」も今はこれに組み込まれている。

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日頃ほとんどパンには手を付けない私達だがロブションのは小振りで多種、ワインにも合って格別に美味しいので楽しみにいくつか頂く。ロブション氏が来日した際も、まずはスペシャリテのミニバゲットから味のチェックを開始するとの事。この夜はいつもの「イカスミのミルクパン」などに加え、新作のグルテンフリー2種類(米粉・アオサノリ/そば粉・山椒・トマト)などをチョイスする。
グルテンフリーと言うと味気ない味わいを予想しがちだが、風味豊かでかつしっとりした食感もあり美味である。ちなみにこの夜のパン担当は水野敬介シェフ・ド・ラン。その後村林メートル・ド・テルと並んで料理のサーヴに来たので仲良し2ショットを撮影、皆大人になったな・・なんだか懐かしい気分すらしてくる(笑) そんな訳で最初の一皿はロブション定番の「キャビア アンペリアル ロブションスタイル」が登場する。

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赤トレーに乗せたロブション缶は正に基本の盛り付け、これを見ると反射的にロブション戦闘態勢に入る。妻は「やっぱりこれからでしょ!」と大食コースやる気満々の様子。さぁいよいよ数皿ずつがセットになってその都度提供される驚きの多皿「ムニュ・デギュスタシオン」がスタートだ。1er Serviceは3皿。夏らしい彩の「ホタテ貝 紅芯大根と根菜のカルパッチョ、さわやかなレモンの香りで」。
そして「鰻とフォアグラ ミルフィーユ仕立てにし、リンゴと大根のサラダを添えて」は、土用の丑の日にちなんで?一口サイズの蒲焼き風の鰻に山椒を添えて夏らしく。これはバスク地方の「穴子とフォワグラのミルフィーユ」を日本風に変化させた一品だ。左上の「トマト 爽やかな酸味のボンボンと透明なジュレのハーモニー」は、ロブション氏が来日してのベジタリアンコース「Food & Life ガラディナー」時に頂いたもの。

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透明なトマトのジュレの上に可愛くトマトが鎮座する。トマトの中には注射器でジュレを注入しており、口に含むとそれがパッと弾ける仕組みで何とも爽やかだ。この 1er Serviceはアミューズ的に、しかし複合的に楽しめるプレート達。ホタテ・トマト・鰻の印象を食べ手に確かに残しつつも、様々なテクニックが施されており、フレンチの楽しさに溢れていた。続く2eme Serviceは2皿。
左には「蝦夷あわび ソテーし、小蕪とフォアのクーリを添えて」、右には「カリフラワー 様々な調理法で変化させ、キャビア見立てのチアシードと共に」。ふっくら蒸してソテーした大ぶりのアワビは肝ソースで。カリフラワーはブロッコリーやムラサキカリフラワーの穂先も添えている。戻したチアシードには何とあのロブション氏の監修による「ヤマサ鮮度の一滴 グルメしょうゆ」も使っているとの事(笑) 同シリーズでバーベキューソースの「グルメだれ」も発売されてるそう?!

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何だか不思議な気分で食す。ここで高丸ソムリエに、白ワインもグラスでお願いしよう。巷ではとにかくワインペアリングが流行りである。レストラン側は余り出ないワイン(アルコール)を提供できロスも少ない。少しずつワインを嗜みたい客側のニーズにも合致する。そもそも軽い料理が主流になりつつある現代、ワイン1・2本をコース全体に通して合わせるというのはほぼ不可能だからだ。
ただ我が家は何よりワインの質にこだわる。それにもう余計なアルコールを身体に入れたくない為、余程特別な理由がない限りワインペアリングを頼む事はない。その意味でここ「ガストロノミー ジョエル・ロブション」は、普通のレストランのワインペアリングではありえない上質のワインを、料理に合わせてどんどん出してくれる。

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ある意味「究極のオーダーメイド・ペアリング」と言えるかもしれない(値段と好みもあるから、ある程度通って方向性を把握して貰わないといけないが)。そんなわけで高丸ソムリエが出してくれたのは、ブルゴーニュはコート・ド・ボーヌの珍しい「トマ・モレ バタール・モンラッシェ グラン・クリュ(Thomas Morey Batard-Montrachet Grand Cru) 2013年」。
DRCオベール・ド・ヴィレーヌに見いだされ、2009年まで「DRC モンラッシェ」の栽培責任者も務めたトマ・モレ。「人気があって割当制のため、ロブションにも十数本しか入りません」との事。樹齢は50年を越える(2/3が1950年で、残りは1964年)。グラスに揺れる美しい黄色、マーマレード・黄桃・バター・・凝縮した果実感があるも、高い酸味と上品なミネラルが軽快な味わいも印象づける。

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白ワインは余り飲まなくなってきた我が家だか、これはかなり素晴らしい味わい。新たに好みの作り手を見つけた?!と久しぶりに白に興味が湧いた1杯となった。では戻って3eme Service、これは再び3皿構成だ。運ばれてくるとターメリックなど様々なスパイス香がテーブルに流れ出す・・アジアンなマットも敷かれていて「夏エスヌックな雰囲気ね♪」と妻。
手前の「ケール ブロッコリー、ロマネスコと共に様々に調理し、なめらかなロブション風ポテトのピュレに乗せて」は、ロブションスペシャリテ「ポテトのピュレ」を、様々な味わいのブロッコリーロマネスコの食感をアクセントに楽しめる一皿。右の「ラングスティーヌと帆立貝 ポアレにし、グリーンアスパラガスと共に マカロニのタンバルに詰め、ホタテのカプチーノとスパイシーなソースコラリーヌ」は、ホタテヒモの出汁の泡状のソースが覆っている。

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立てたマカロニの中には帆立やラングスティーヌが贅沢に詰めてある。見た目より食べ応えある一皿だ。左の「アーティーチョーク なめらかなピュレとローストにターメリックの香るヒヨコ豆のカプチーノソース」はこれも「Food & Life ガラディナー」で食したもの。ベジタリアンコースではメインであった。ヒヨコマメのパウダーを纏わせてフリットしたアーティチョーク下にはアーティチョークのピューレ。
パプリカ・卵黄・オリーブオイルで乳化させたネットリした口当たりのソースはターメリックや塩気も効かせている。点々とするソースはパプリカ。3皿それぞれ細かい調理を重ねながらも、合わせて食べるときちんと調和が取れているから不思議だ。まだまだ続く料理達を前に、妻が「もう満足してるしお腹一杯じゃない?」と言い出す。コース18皿ある「MENU DEGUSTATION」を舐めてはいけない(笑) 次は4eme Service魚介類。

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「ブラック・コッド 香り良くキャラメリゼし、ワサビ風味のチンゲン菜とオリエンタル・シヴェソース」は、タラをキャラメリゼしながら甘く火を入れ、ココナッツのニュアンスや赤ワインソースで頂く。いわば煮付けのような濃厚な味わいながら、漂うオリエンタルな雰囲気が良い。下の「アオリイカ アロマオイルでコンフィにし、茶豆と松の実を添え、セロリの香りで」は、
唐辛子・ハーブ・スパイスのオイルでゆっくりとコンフィしたアオリイカを、バジルや松の実といったアクセントと共に頂く一皿。右上ガラスの球体は「ボタン海老のアンフュージョン ターメリックとフレッシュコリアンダー風味」、ロブション定番のアジアンなスープ仕立てだ。キラキラゴールドの蓋を取るとコンソメゼリーが浮かんだブイヨンが入っていて、ジンジャーやコリアンダーの香りも立ち上がり食欲をそそる。

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そんな温かいスープに「これいつも癒されるよね~♪」と、お腹一杯のはずの妻も全てペロリと美味しそうに食べていた(笑) ではいよいよお待ちかねの赤ワインだ、もちろん高丸ソムリエに相談しながらフルボトルでお願いする。と言う訳で思ったより長くなってしまったので、ここからは次回にしよう。ロブションならではのスペシャルなワインに嫌でも期待が高まるのであった。「後編」に続く・・