この夜は我が家お馴染み薬院にある「鮨割烹 やま中 本店」に向かう。打ちっぱなしコンクリートにガラス張りの外観・・巨匠・磯崎新氏設計の天井高で広くモダンな店舗が相変わらず美しい。ここ数年は海外からの観光客も多いが、御主人・山中啄生氏が韓国で有名だそうで、最近は特に韓国から来る人が増えているとの事。スタッフも韓国人を起用して言葉も大丈夫なようだ。
朱塗りの壁前、雲型和照明が浮かぶ樹齢800年美州檜一枚板カウンター席にはこの日も外国語が飛び交っている。以前は特注の白い「モンローチェア」が並ぶ背後のテーブル席に、タイからの観光客団体が座っていて写真など撮り合い楽しそうに大賑わいだった。と言う訳で我が家は久しぶりに2階の「カウンター付き個室」を予約していた。10帖以上あって最大14名が使える広い部屋、専用の厨房もある。

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そうそう以前、恵比寿「ガストロノミー ジョエル・ロブション(Château Restaurant Joël Robuchon)」の信国武洋ソムリエ御一家と訪れた部屋だ。十数年前にジョエル・ロブション氏が来福した際にもこの個室を利用したとの事。同2階には他にもいくつか座敷があり、京都「中村外二工務店」による茶室もあったりする。大津塗りの壁やイサム・ノグチの照明、
磯崎新氏の妻・宮脇愛子氏の軸や、磯崎氏所有の「ガウディ作の把手」など、様々な美術品も拝見できる。今回の個室は通常2人での利用は不可だが、この夜は特別に御主人が使わせてくれた。真っ赤な寿司カウンターはいつもの様に市山氏が担当してくれる。さぁまずは乾杯といこうか、我が家の和食に合わせる定番シャンパンと言えば「サロン ブラン・ド・ブラン ル・メニル ブリュット(Salon Blanc de Blancs Le Mesnil Brut)」。

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1914年ウジェーヌ・エメ・サロン氏によりル・メニル・シュル・オジェ村に設立されたシャンパーニュメゾン。そしてコート・デ・ブランのグラン・クリュ畑(19の契約農家)で、良年にのみ最上質のシャルドネ一番絞りだけを使用し10年以上熟成して造られるのが、このブラン・ド・ブラン「サロン」だ。初ヴィンテージ「1911年」から現在までわずか39ヴィンテージのみリリース。
この夜「やま中」で開けたのは「1990年」だが、実はつい数日前に家で、同「1988年」を開けた。非常に良い年で十分な酸があるとされる88年。サロンとしては31番目のヴィンテージを飾る。グラスに注ぐと深いゴールドの中を溶け込んだ微細な泡は微かに伺える程度。ノワゼット様の豊潤な香りが支配している。そこからねっとりした質感を感じる蜂蜜、クレームプリュレやエクレア、白トリュフなど複雑でいてエレガントなブーケがしっかりと香る。

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若いサロンに特徴的なあの硬質なミネラルはすっかり柔らかくなり、別の顔を見せている。ソフトな飲み口。上品で豊富な酸もまろやかに溶け込んでいるが、絹のような骨格を構成する。余韻に滲むかすかな旨味と苦みが、キリッとした印象とともに味わいを完結させる。食前や食中ではなく、上質なレストランの食後の優雅な時間を一緒に過ごしたい1本であった。
我が家のワインの好みは果実味と熟成感がせめぎ合う、大体25年前後経ったもの。それからするとやや好みではないが、エレガントな酒質が週末の家族の時間を豊かに彩ってくれた。と言う訳でこの夜は比較してみようとやま中で「1990年」を開けたと言う訳だ。90年は言うまでもなく例外的とも言われるビックヴィンテージ。コルクは少し開けにくかったので慎重に作業していると、妻が「はやく~早く乾杯しよ~よ~」と焦らせる(笑)

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グラスに注ぐとグレーかかった落ち着いたイエロー。泡は溶け込んでいるが「1988年」よりも立ち上り、煌めく様子もまだ見て取れる。ミネラルは丸くなっているが確かに感じられる。先日開けた「ドン・ペリニヨン(Dom Perignon) 1990年」よりもミネラルが周りを覆っていてやはりサロンらしさは健在。違いが確かにあって面白い。それでも「やはり1990年が好みね~♪」と妻もご満悦だ。
時間と共にヘーゼルナッツの雰囲気が強く出てくるがそれでも一線を超えない。最後まで乱れずにサロンらしい上品さを楽しめた。思えばバレンタインデーに京都「俵屋旅館」で開けたのは「1999年」だった。きめ細やかな泡立ちが美しく、深緑に金文字のラベルも和の風情に合う。そう言えば「京都吉兆 嵐山本店」や「博多 い津み」でも同「1999年」を開けている。例年より気温は高めで降雨量も多かった。

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バランス良いがやや小ぶりという評価から始まった年だったが、年々評価は上がっている。白い花・洋梨・パンデピス・・チャーミングな酸味がアタックからミネラル感と共に広がる。柔らかな果実感と程よい酸味が上品な飲み心地。各要素が全体的に統合し、細身ながらまろやかで長い余韻へとつながった。そう言えば昨年は「レストランひらまつ」で、仏モンペリエ「ル・ジャルダン・デ・サンス」の
ローラン・プルセルシェフ来日ガラディナーにて開けたのが「1996年」だった。「1997年」は家で数本開けたが、「1955年」以来の歴史的最高ヴィンテージで長期熟成向きと言われる「1996年」は市場で見つけるのはなかなか難しい。「レストランひらまつ」は「ドゥラモット」をハウスワインにしている関係だろう、「サロン」もメゾン蔵出しで持っている。

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「ひらまつオンライン」から限定数で「サロン」がリリースされた時に「1996年」「1999年」をまとめて購入したので、我が家のセラーには今だ眠っている。思い返すと「ホテルニューオータニ東京」で行われた、日本人初のフランスミシュラン2ツ星「レストラン パッサージュ53(Passage 53)」佐藤伸一シェフ来日ガラディナーでも同「1996年」を開けた。グラスに注がれると夕暮れに煌めく泡も美しかった。蜜林檎・黄桃・・
ミネラルはややほどけて穏やかなアタック。そこから際立った酸味と調和した旨味を伴った長い余韻へと連なる。まさに飲み頃を迎えつつある美味しさ。オータニのエグゼクティブ・シェフ・ソムリエ谷宣英氏曰く「このサロン96は当時ホテル側と掛け合って120本ほど仕入れた思い入れのある物なんです。60本ほど残ってますが、2年前位からようやく開き始めたようです」と言う事だった。確かに今まで数本開けていた「1996年」の中で一番良かった。

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オータニが直接仕入れて「トゥールダルジャン東京」のセラーで眠っているのだから状態もかなり良かったのだろう。現在「2004年」まで出ているので、今のところ今後予定されているリリースは「2006年」「2007年」「2008年」か、澱とともにメゾンで熟成中だがかなり生産量は減るよう。特に「2008年」は過去最高の出来らしいから楽しみだ。
ではこの夜の「やま中」の話。言わずもがな「豪華寝台列車 ななつ星」が出発して最初の食として出されるのがこちらの鮨だ。「JR九州の唐池社長(当時)にどうしてもと頼まれたから 笑」と毎週「ななつ星」車内で御主人・山中啄生氏と市山氏が寿司を握っている。揺れる車内で3時間余り立ちっぱなしだと言うからなかなか過酷だ。男気ある御主人ながら接客はいつも優しくて穏やか、「うちはもう既に7ツ星ですから~」と笑う大人の余裕が粋だ。

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妻は毎回、市山氏から写メを見せて貰うのが恒例。「ななつ星」車両連結部分の水戸岡鋭治氏のイラストや車窓の景色に、御主人の休憩風景など(笑)まずはお勧めの刺身からスタート。「ひらめの縁側」はコリッとした食感の後に柔らかな脂。妻大好物の「アラ(クエ)」は長崎の5キロもの、これは皮目を少し炙って頂く。「鯛」は毎朝市場に自ら顔を出す御主人がこの日仕入れたもの。
博多で食す鯛はやはりレベルが高い。「アジ」は葱生姜であっさりと楽しむ。沖縄の「マグロ」は220キロのうち21キロを買い取ったものだそうだ。溶けていく大ぶりな脂が心地よく満足。豊前の「赤貝」は柑橘と爽やかに。そうそう唐津の「赤ウニ」には、贅沢にキャビアを乗せて一口で頂く。これは最近の御主人の流行りなのだそうだ(笑) 先にキャビアの塩気を感じて、後に雲丹のまろやかな甘さが絶妙だ。「サロン」と共に楽しむ。

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鹿児島の鰹は6キロ、これは「カツオのタタキ」にしてニンニク醤油で味わう。次から次に提供される「やま中」らしいツマミに、気が付けばお酒の進むペースも速い。「サロン」も早々に終わり「オコゼの刺身」辺りから日本酒に移行する。こちらは日本酒が充実してる。チョイスしたのはお馴染み「寒北斗」、福岡・飯塚の純米酒だ。キレがある、そうそう当時の麻生太郎総理が出身地の物と言う事でサミットで使用した。
続くは「大分の稚鮎とソラマメ」、日本酒と共に季節を味わう。そして「筑後川の天然うなぎ」はわざわざ炭火で焼いてくれる。ふんわりとした身にタレをつけてワサビと共に頂く、妻は「これ美味しいね!」と満足そう。その後も「八女の筍」、更に「ほうれん草の白和え」は白味噌のほのかな甘みに木の芽が効いている。器はお馴染み有田焼で「柿右衛門」や「源右衛門」と当然こだわっている。

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さてもうお腹がいっぱいだっだが、ここから握りに入って行こう。まずは「ヤリイカ」、博多寿司らしく繊細に包丁を入れて美しい出で立ち。続いて「白甘鯛」は、木の芽と白板昆布を乗せて。美しい「コハダ」はカボスをアクセントに。なかなか美味で追加で注文した。柔らかく仕上げた大ぶりの「鮑」も良かった。締めの巻物は沖縄の「マグロ」、最後はふんわり甘い「玉」で締めくくった。
相変わらず地元らしい楽しさと美味しさで飲み過ぎてしまった。帰りは御主人や市山氏らに見送られて、手を振る妻を即して車に乗り込む。「博多どんたく港まつり」が終わると博多は夏到来と言われている、その通り今日は29.5度と言う気温だった。季節の変わり目、バテない様に気を付けよう・・我が家のイベントは今からが本番だ。

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