ゴールデンウィーク恒例と言えば、今年もやって来た福岡市民の祭り「博多どんたく港まつり」。5月3・4日の2日間は毎年日本一の賑わいになる(2日は前夜祭)。「どんたく」とはオランダ語の「Zondag(ゾンターク)」休日という意味。起源は平安時代で800年以上の歴史があるが、戦後は空襲で荒廃した博多を、以前のようなにぎわいのある町にするため「博多復興祭」とした経緯もある。
これを踏まえ昨年は、九州の一員として「熊本地震」被災地である熊本・大分の復興に向けて「どんたく WITH THE KYUSHU」を掲げた。毎年「博多松囃子」で開幕するのがしきたり。馬に乗った三福神(福神・恵比須・大黒)流れと稚児流れが、まずはコースを練り歩く。午後になると明治通りやはかた駅前通りで、「どんたく隊」がそれぞれオリジナルコスチュームで自由にパレードする。マーチングバンドや花自動車「博多祇園山笠の公式キャラクター」なども加わって華やかだ。

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今年は753団体で約3万6千人が出場、見物客約240万人がパレード道沿いに溢れる。市役所ふれあい広場「お祭り本舞台」や、中洲・水上公園「パレード桟敷席」などを中心に、博多や天神など市内35カ所に演舞台が登場。地元アイドルやタレント、一般団体から「博多にわか」「花笠踊り」などが披露され、フィナーレ「総おどり」まで大騒ぎになる。とは言え昨日は残念な事に、いきなりの豪雨・雷でパレード中止に(まさかの2年連続)。
2日目の今日はすこぶる快晴なので、昨日の分もパレードは盛り上がるだろう。ちなみに博多地区のステージと言えばJR博多駅シティ、キャナルシティ博多、はかた駅前どんたくストリート。今年はよさこい踊りや韓国伝統楽器の演奏もあっている。と言う訳で今回は博多地区メイン会場・JR博多駅シティ内、我が家九州イチオシフレンチ「オーグードゥジュール・メルヴェイユ 博多(Au gout du jour merveille HAKATA)」を挙げておこう。

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シティダイニングくうてん9階、レストラン街の真ん中に位置する、小岸明寛シェフ率いるフレンチレストラン。藤井智之ソムリエが笑顔で出迎えてくれいつもの奥の席へ。テーブルには桜の枝が飾られて春らしい風情。では乾杯といこうか、この夜選んだのは派手なボトルの「テタンジェ アートコレクション(Taittinger Art Collection) 1985年」。
このコレクション・シリーズは良質のヴィンテージのみ造られ、毎回異なるアーティストのボトルアートを施している。1983年にファーストヴィンテージ「1978年」をリリース。ハンガリーのヴィクトル・ヴァザルリ(Victor Vasarely)デザインで、ゴールドのボトルにオプティカル・アートが浮かんだ1本だった。我が家もこのコレクション・シリーズは良く開けており、何本かはボトル自体を保存している。

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例えばフランスのヴィエラ・ダ・シルヴァ(Vieira Da Silva)が描いた夜空の「1983年」やロバート・ラウシェンバーグ(Robert Rauschenberg)のモダンアートな「2000年」。中でも妻のお気に入りは、チリのロベルト・マッタ(Roberto Matta)による華やかな原色使いの「1992年」だ。そして今年初めに開けたのは
「2002年」以来6年ぶり13ヴィンテージ目となる「2008年」。ブラジルの写真家セバスチャン・サルガド(Sebastiao Salgado)の撮った黒ヒョウの写真を特殊加工し、黒いボディにシルバーに光り浮かんで妖艶なボトルだった。今夜の「1985年」は第5作目になる。アメリカのロイ・リキテンスタイン(Roy Lichtenstein)によるポップアート。ロイ・リキテンスタインと言えばアメリカンコミック。

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アンディ・ウォーホルに並ぶポップアートの巨匠で、世界中にファンやコレクターも多い。明るいネイビーをベースに鮮やかな白と黄色、葡萄・蔦・グラス・横顔・・彼らしい平面的で漫画風のドット柄が印象的だ。これはシャンパンの泡のイメージとも重なる。上質なシャルドネ使いの「テタンジェ」だが、この「1985年」はシャルドネ40%、ピノ・ノワール60%、アルコール度数12.5%。
グラスに注がれると、美しいゴールドの中に細やかな泡が静かに立ち上がる。上質のメイプルシロップのような奥深い果実の甘味がアタックからしみじみと広がる。余韻には上品な酸味が残る・・十分に熟成しているがまだどこかフレッシュさも感じる。光や熱を遮断する分厚いボトルラッピングの効果もあるのかもしれない。数日前に自宅で開けた「ドン・ペリニヨン 1985年」よりもかなりフレッシュで違いも面白い。

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妻も「これは当たりね♪」とご機嫌だ。では「シェフお任せコース」を頂いていこう。まずは「日替わりアミューズ」から。個性的な白い器は小岸シェフの特注、肥前吉田焼「224 porcelain」辻愉(与山窯7代目)氏作。石をモチーフにした丸器には綺麗な桜色が沈む。これは糸島市加布里のハマグリの出汁にビーツで色を付けた物だ。ミネラルと塩分が口中で広がるが、元々の塩分を生かしたものという。
雲形の器には緑色が敷かれコロッケが置かれている。これは佐賀産豚の皮、そして豚のタンは赤ワインとプルーンを合わせたもの。小さいながらも「これ美味しいね!」と妻。黒い平皿にはあおさ海苔のチュイル。これには特製XO醤を乗せてありバリッと頂く。各素材の風味も広がり、色調も春らしいアミューズと、柔らかい落ち着いたミネラルの「テタンジェ・コレクション」を楽しめた。

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前菜は白い平皿(カマチ陶舗)に、美しい花々と盛られた大きなグリーンアスパラガス、佐賀県太良町・安東さんの「森のアスパラ」からスタートだ。ブランシールで瑞々しい仕上げになっている。殻ごとグリエしてふっくらと仕上げた有明海のアゲマキ貝も良かった。そのアゲマキの上には長命草を刻んで印象的な苦味も添えた。「美肌効果もあるそうです」という説明に妻が反応する(笑)
周りを彩るのは、オキザリスやノコギリソウなど春の様々な野草。ヘーゼルナッツのドレッシングや柚子の香りと共に美味しく頂いた。名残惜しく余韻に長く残る技ありのプレートであった。続いて「マルク・シャガールをイメージしました」という小岸シェフらしい新作アートプレートが運ばれてくる。「ムートン1970年のラベルを思い出す色合いね」と妻。

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深紅に渦巻く黄緑色・白・オレンジ・・これは紫大根・紅芯大根・ヨーグルトで複雑な色を表現し、周りに柑橘のパウダー・塩・晩白柚のコンフィ等を添えて様々な変化を楽しむ趣向だ。長崎産オマール海老は炭火で軽く炙りミキュイで。更に添えられた嬉野の茶葉の風味と苦さが何とも面白いアクセントであった。さてここで赤ワインもボトルで開けて行こう。
藤井ソムリエが工夫しているワインリスト内のボルドー・メドック第1級「シャトー・ラフィット(Château Lafite-Rothschild) 1990年」に目が止まる。思えば前月京都「MOTOI」で、ネックに赤毛書体「八」とある「ラフィット 2008年」を開けたな。「ラフィット」は我が家でも登場頻度は高く「1966年」「1979年」「1978年」「1985年」「1994年」「1997年」「2002年」など、「1986年」は「ひらまつ博多」と「ガストロノミー ジョエル・ロブション」で開けている。

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この夜の「1990年」はラフィットらしい杉、少し湿気た黒土、濡れた小石のミネラル感。一瞬ブラインドだと「オー・ブリオン」かなと思わせる細かい黒コショウのスパイシーなニュアンスも余韻にアクセントとして残る。動物香とドライフルーツの混じった、何とも言えない熟成のニュアンスに引き込まれていく。一方でまだまだ若々しさもある。時間と共に鉄分的なニュアンスも広がってきた。
このボトルの問題か少し落ち着かない感じもあったが、ラフィットらしい奥深い森と土の熟成感は最後まで感じられた。そこに運ばれてきたのは、カクテル仕立ての「フォワグラ」。鵞鳥のフォワグラを47度で真空調理し2週間熟成させた後にロール状に成型した。グラスの底にはピーチパインのコンポート、ココナッツのババロワも潜ませた。ピニャ・コラーダというロングカクテルからイメージを発展させた一品だ。

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フルーツの甘味と酸味を重ねたなめらかな食感のフォワグラをまさにカクテルのように口直し的に楽しめた。次は特注の肥前吉田焼・泡モチーフの皿(バブル)で登場した「白甘鯛」。ゼラチンの溶け出す44度で虹色の断面に仕上げた。横にはホワイトアスパラガスも鎮座する。シモツケソウ(下野草)の香りを移しつつ、半熟卵で濃度も出した泡のソースに絡めつつ頂く。赤・白・黄と3種類あるアマダイ。
その中でも白甘鯛が一番上質となる。適度な塩でその旨みを引き出した白甘鯛らしいふっくら柔らかい身質を、パリパリの鱗の食感とソースの香りと共に繊細に堪能する。続いてもう一皿魚料理が出て来た。カマチ陶舗の白皿には、3キロを超える「平目のムニエル」。ブールブランソースで仕上げ、上にはアメリカ産キャビアをタップリ乗せ塩気と食感を添えている。ジョエル・ロブション出身らしくロブションの料理を彷彿とさせる。

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一見小岸シェフには珍しいクラシックな仕立てだが、ソースは爽やかな酸味を効かせて軽やかさも感じる。クラシックとモダンをバランスよくアレンジしてさすがの一皿だった。さぁもうお腹もはち切れんばかりの状態だが、さらに運ばれたのは「ハンガリー産アニョー・ド・レ」。腿肉・鞍下肉・ラムチョップ・ヒレ肉と4部位を贅沢に頂く一皿だ。オランダ豆・スナップエンドウなど季節を感じる春の豆類、
更に生ウルイ・土筆に、アオリイカの炭火焼も添えている。ソースは仔羊のジュと行者にんにくのソースと飽きの来ない構成だ。この日16時位に入荷したばかりの仔羊を早速捌いてくれたと言うから楽しみだ。ブラッククミンなどスパイス香がプレートから立ち上る。その香りに包まれながら各部位の差を味わう。乳飲み仔羊らしいミルキーで滋味深い肉質に、食べ手も包まれるような秀逸なプレートであった。

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そう言えば今年からフランス産仔羊の輸入が10数年ぶりに再開された。オーストラリア、ハンガリーにニュージーランド、そして日本と様々な産地の仔羊が食べられる様になっているが、また新たな楽しみが復活する。妻は「さすがにもう食べれない~」と言いながらも登場すると「美味しくて食べちゃう~」となるのがこちらのデセール。今夜は3種類出てくる。
まずは「ブラッドオレンジのソルベ」、デコポンとレモングラスの瞬間コンポートを爽やかに頂いて口直し。2皿目はカマチ陶舗の水墨皿に盛られた「黒トリュフのオペラ」と「白トリュフのアイス」。プラネリのチョコ、チョコレートのビスキュイ、黒トリュフのババロワ、ピスタチオのムース・・トリュフの香りを微かに感じつつ何重にも楽しめる秀逸なプレートに、妻も「文句なしめちゃウマ~♪」と嬉しそう。これには少し冷やしていた「テタンジェ・コレクション」が絶妙に合った。

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3品目は軽いサクサクの「塩キャラメルタルト」がやって来る。上には塩キャラメルのソース、下には桃のソルベとバランス良く配置されている。その軽くも複雑な仕上がりを「嬉野のレモングラスほうじ茶」と共に味わった。最後は小岸シェフとフレンチ談義も尽きなかったが、多皿で随分と時間も経ち妻の体力も限界に達した事から笑、名残惜しい気持ちで店を後にした。
旧「タイユヴァン・ロブション(現ジョエル・ロブション)」「アラン・デュカス オ プラザ・アテネ パリ」「ピエール・ガニェール」「ムガリッツ」「ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン」と言う一流店での豊富な経験からくる引き出しの多さをベースに、九州の上質な素材を中心に毎回新作料理として提供してくる向上心の強い小岸シェフ。パリ・東京と時間差のないフレンチは、なかなか食せない九州で貴重なレストランだ。今宵も色々と満足出来た楽しい春ディナーであった。

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