この夜訪れたのは博多・中洲川端にある大型商業施設「博多リバレインモール by TAKASHIMAYA」。かつての高級志向を排除したこの博多リバレインは、今や「福岡アンパンマンこどもミュージアム in モール」を中心としたファミリー向け。お隣には「博多座」「福岡アジア美術館」「ホテルオークラ福岡」など大人の文化・芸術施設があるので、いわゆる子供を中心に、祖父母まで含めた3世代が一日中楽しめる施設と言う位置付けのよう。
さて目的は2階は「レストランひらまつ 博多・中洲川端(Restaurant Hiramatsu Hakata)」、同フロアには高島屋がプロデュースする「タカシマヤ キッズパティオ」が広がって賑やかか。出迎えてくれるのはひらまつグループ福岡統括・長坂滋郎氏、彼とももう長い付き合いだ。若手がどんどん入れ替わる大きなレストランで、ずっと馴染みのスタッフがいてくれるのは嬉しい。

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ひらまつグループは現在国内3カ所(箱根・熱海・伊勢志摩)に、高級ホテル「ザ・ひらまつ」を展開している。来年には沖縄・宜野座にもオープン予定だ。ホテルの客室数はいずれも10室前後で宿泊料金は1人当たり5万~6万円と言うスモールラグジュアリー、ターゲットは外国の富裕層との事。当然どのホテルでもひらまつのフランス料理を提供する。
奈良のオーベルジュを含めると5つのホテルと言うわけだ。そう言えば同グループは先月、東京ミッドタウンに「六本木テラス フィリップ・ミル」もオープンした(旧ボタニカ)。フランス・シャンパーニュ地方のミシュラン2ツ星シェフであるフィリップ・ミル氏の日本初出店だ。コンセプトは「優雅なシャンパーニュサロン」、大手メゾン他常時80銘柄以上を揃えると言うので、今後グループ内のシャンパーニュに関しては期待出来そうだ。

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そして先週は「オーベルジュ・ド・リル」マルク・エーベルラン氏が来日して、名古屋店・東京店で「仏ミシュラン3ツ星50周年ガラパーティ」が開催された。思えばエーベルランシェフが福岡まで来て、ガラディナーを開催したのはもう4年前の事なのか。さて話を戻してこの夜の「ひらまつ博多」にて。春の祝いシーズンと言う事で女性の団体で賑わっている各部屋。
私達は今宵も一番奥の個室でゆっくり早春フレンチ楽しむ事にした。この日は来る前にルイ・ヴィトン福岡店で「ドン・ペリニヨン」を既に楽しんでいたので、赤ワインからお願いする。ちなみに前回ローラン・プルセル氏来日時こちらで開けたのは「サロン ブラン・ド・ブラン ル・メニル ブリュット 1996年」、その前は「シャトー・アンジェリス 2001年」だった。見開き1枚のワインリストを眺めつつ、松隈祐一郎副支配人に料理内容を伺ってチョイスしたのは

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「シャトー・シュヴァル・ブラン(Chateau Cheval Blanc) 2004年」。これも「ドン・ペリニヨン」同様LVMH(モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン)グループだ。その他LVMH所有のワインを挙げてみると「クリュッグ」「ルイナール」「ヴーヴ・クリコ」「シャンドン」「シャトー・サンセール」「シャトー・ディケム」など錚々たるラインナップ。ファッション系イベントでお馴染みなラインナップだ。
「2004年」は少し若いかと思うが、他に古いヴィンテージのボルドー右岸は「コンセイヤント 1982」と飛んでしまうため、リスクを避けてこちらをチョイスした。それに「シュヴァル・ブラン」は若い時期から美味しく飲め、長期熟成もできると言う飲み頃期間が長いのが特徴の1つ。我が家でも「ラトゥール」ほどではないが、「2009年」「1995年」などをストックしてる。

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ボルドーの右岸、サン=テミリオン地区は現在「プルミエ・グラン・クリュ・クラッセA」が4シャトー、「プルミエ・グラン・クリュ・クラッセB」が14シャトー、「グラン・クリュ・クラッセ」が64シャトーに格付けされている。中でもこの「シャトー・シュヴァル・ブラン」は「シャトー・オーゾンヌ」と共に「プルミエ・グラン・クリュ・クラッセA」に位置し言わばツートップの地位を占める。
1998年にはLVMHグループに加わり積極的に資本投下され、近年シャトーでは巨大で近代的なセメントタンクが壮観に並ぶ。発酵を終えると真下に設置された熟成樽へと自然に移動する仕組みだ。以前に「1969年」「1983年」「1997年」を飲んでいるが、伝統的なセメントタンクによって優雅な「シュヴァル・ブラン」の特徴が更にどう変化しているのか楽しみだ。カベルネフラン60%、メルロ40%。

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グラスに注がれると美しい濃いルビー色・・カベルネフランらしい涼しげな果実味が立ち上がり、生き生きとまだ元気だ。妻もニッコリしている。甘い樽香も溶け込み初め、その周りに上質なミネラルが薄く覆っている。シルキーなタンニンは滑らか。柔らかな苦味は何ともふんわりと余韻を彩る。カベルネフランの軽やかな果実味に彩られた骨格が、エレガントにエキゾティックに表現された一本であった。
では料理の話に行こう。長年「ひらまつ博多」を支えて来た水元康裕シェフが独立し、30歳と若い土生将之シェフが料理長として頑張っている。土生シェフは「ラ・フェットひらまつ」や「ひらまつパリ」を経て博多店にやってきた。目をキラキラさせて「九州から世界に発信していきたいんです!」と熱心に語る向上心溢れる姿に「眩しい!可愛い♪」と妻。

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思えば「ひらまつパリ」のオープニングスタッフとして2002年開業以来支えてきた伊藤良明シェフが独立し、パリ16区に「ラルケスト」をオープンした。わずか半年弱でパリミシュラン2017の星を取った事は話題にもなった。伊藤シェフの元、本場フレンチを学んだ若手シェフが多数いる事も、ひらまつグループの貴重な財産だろう。
ただ現在パリ店は、いわば同世代の吉野建シェフと同じく閉店の方針と聞く。最近リニューアルした「ひらまつ広尾」が、グループのラボのような役割を担っていくという。フランスでそのまま独立する日本人料理人も増える一方、世界的に料理の多様性が深化する中、「ひらまつの料理」もどこに根を置くのか、ある意味転換点を迎えているのかもしれない。さてさて料理の話に戻ろうか。

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まず3種のアペリティフは「サーモンのムース」「アンチョビ風味のフィナンシェ」、そしてグラスの中のレンズ豆に刺されたスティックの先にはベルガモットの泡で覆った「フォワグラのテリーヌ」。季節のアミューズ・ブーシユは「ソラマメのムース」。ボイルしたソラマメも添えつつ、長崎島原産のイチゴの甘味と酸味を重ねた。ソラマメの濃厚な風味と食感が食欲を軽く刺激する。
続くプレートは「阿久根産甘海老とブルゴーニュ産エスカルゴのフリカッセ エディプルフラワーの香りを移した宮崎産完熟金柑たまたま パセリのムースリーヌと共に」。ブルゴーニュ産エスカルゴのフリカッセは、スプーンで底からすくうと、鹿児島産甘エビ・キノコ・ブルゴーニュ産リードヴォーが顔を見せる。パセリの風味を纏わせ、いかにもフレンチらしい味わいだ。リードヴォーは塩を強めに使っているが、金柑のコンポートの余韻が爽やかに残る。

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次の魚料理は「阿久根産平鱸のロースト 春野菜のヴァローヴァン ソース・マトロート」。平鱸の表面は仄かにこんがりと火を入れ、見るからにジャストのキュイソン。目の前でザクザクとフランス・カオール産黒トリュフがスライスされ完成だ(いくつもの黒トリュフがガラスの器に入って真ん中に置かれる)。
付け合わせはパイ包みに入れた春野菜。軽いパイ生地の中に芽キャベツ・小蕪・ムクロジ大根を潜ませたものだ。まだ少し冬の名残を感じつつ、そこまで迫った早春をイメージしたとの事。香る黒トリュフ、そしてフュメに赤ワインを合わせたソース・マトロートが、開いてきた「シュヴル・ブラン」とも繋いでくれた。そして今宵のメインの肉は「熊本県産仔牛・阿蘇王子と鴨フォワグラのエスカロップ 黒トリュフ香るペリゴールソース、じゃが芋のフォンダン」。

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仔牛の名前が「阿蘇王子」と言うので妻はキラキラネームだとウケている(笑) 軽く火を入れた後、藁の燻製にかけ、さらに仕上げの火入れしたものだ。仔牛のミルキーな甘味・旨味が過不足なく引き出されていた。ジャガイモのフォンダンは、まさにフォンダンショコラのような食感が何とも面白い。フォワグラや野菜の塩もやや強く、シェフの若々しさ・勢いがぐいと前に出た味わいであった。
プレデセールはさっぱりソルベ、そしてデセールは「ヴァローナ社のホワイトチョコレートを使ったエクラン 島原から届いたさちのかを詰めて ピスタチオのアイスクリームと共に」。とそれに加えて運ばれたのは、毎年この月に特別に作ってくれるアニバーサリーなホールケーキが登場した。苺がたっぷり乗ったふわふわのホワイトクリームケーキだ。

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メッセージも地元ならではの嬉しい心遣いで妻も上機嫌。どちらも苺の甘い香りがふんわり立ち上がり、甘く可愛い春らしいデザートで、お腹一杯幸せな気分で締めくくった。料理全般で敢えて言うなら、塩気だけに頼らない味わい全体のまろやかさ、その奥にあって欲しいフレンチらしい複雑さ、プレートの中の各素材の調和などが出てくると、さらに食べ手の満足が高まりそう。
夢と希望溢れる若き土生シェフの今後に心から期待したい。そして毎年何らかのオープンラッシュを続けるひらまつグループ。一部上場企業としてどこまで進み続けるのか、我が家もその展開を楽しみにしている。帰りはいつもの様に、長坂統括・土生シェフ・春田英幸支配人・松隈副支配人に見送られ、彼らにエールを送りつつ地元らしく賑やかに「博多リバレイン」を後にした。

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