まだまだ肌寒さの残るこの夜、夫婦二人地元フレンチでほっこりディナーを楽しもうと車に乗り込む。JR博多シティのすぐ近くにあるスモールラグジュアリーな地元密着型ホテル「日航ホテル福岡」。2階のフレンチ「レ・セレブリテ(Les Celebrites)」は我が家定番レストランのひとつだ。ベージュ色の大理石が美しいロビー中央階段を上って行くと、支配人の持光誠一郎氏が出迎えてくれる。
ロビーを見下ろす様に位置する「レ・セレブリテ」も、ベージュ色に統一されたシックな風情のメインダイニングが印象的。少し落とした照明で豪華リゾート風でありながら、上品で落ち着いた大人の空間となっている。大人デートに相応しい雰囲気だと妻も気に入っている・・がいつもの席に案内されて気付いた、この日は見渡せば私達以外のゲストは全て女性?!何とも賑やかな女子会の様な風情である。

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春はどこのレストランも、華やかに着飾った女性たちの団体を多く見掛ける。特に「レ・セレブリテ」は重厚でありながら明るく柔らかなインテリアの中、ボキューズ・ドール日本3位の森田安彦シェフの美しく洗練された料理、加えて信頼できるワイン、丁寧なホテルらしいサービスで、安心して利用できるレストランとして大人の女性に人気が高い。
正に春の祝いのシーズンにうってつけであろう。さて、テーブルを回る中橋義幸ホテル総料理長と挨拶を交わし、持光支配人と歓談しつつまずは乾杯のシャンパーニュをチョイスしていこう。思えば前回訪問時はフランス・アヌシーのミシュラン2ツ星「ル・クロ・デ・サンス(Le Clos des Sens)」ローラン・プティ(Laurent Petit)シェフの招聘フェアで、「クリュッグ ヴィンテージ(KRUG VINTAGE) 2002年」を開けたし、

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その前の訪問時、パリ1ツ星「レストラン ナカタニ」中谷慎祐シェフの招致フェアでは「アンリ・ジロー アイ・グラン・クリュ ブラン・ド・ブラン(HENRI GIRAUD Grand Cru d’Ay Blanc de Blancs) 2004年」を開けた。と言う訳で今夜はどのシャンパンを開けようかとリストを眺める・・
そうだ、久しぶりに「キュヴェ・ウィリアム・ドゥーツ ブリュット ミレジム(Deutz Cuvee William Deutz Brut Millesime)1999年」にしよう。1837年アイ村に創立したドゥーツは、我が家のお気に入りのメゾンの一つ。自宅でもよく登場する天使のキラキラ「アムール・ド・ドゥーツ」はもとより、ドゥーツ創設者ウィリアム・ドゥーツの名前を冠したこの「ウィリアム・ドゥーツ」も完成度が高い。

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ピノ・ノワール55%、シャルドネ35%、ピノ・ムニエ10%。グラスに注がれると、ゴールドの中に微細な泡が溶け込んでいる。柑橘の皮のコンポート・蜜・パンデピス・ナツメグ・・香りの立ち上がり方は緩やかながらも複雑。フレッシュで酸もたっぷりあるが熟成したニュアンスも追いかけてくる。アタックは若さを感じるが、余韻にかけて熟したニュアンスが上品に長く残る。
「ドゥーツ」らしい力強さとエレガントさが精妙にバランスを取っていた。かなり状態が良かったが、聞くと数年以上セラーにて保存していた1本と言う。長年通っているが、こちらでワインの状態に不満を感じた事が一度もない。仕入れ後すぐに提供してしまうのではなく、きちんとセラーで落ち着かせていることも理由の一つだろう。それに加え気温・湿度、飲む時の環境も上手く作用しているのかもしれない。

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では料理に行こう。アミューズは「黒トリュフと自家製ベーコンのケークサレ」。フランス・ペリゴール産黒トリュフと自家製ベーコンの練りこまれたケークサレの上に、黒トリュフと金粉が泳ぐ。小さいながら黒トリュフがふんわり香り食欲をそそる。レモンのサワークリームの酸味、能古島のオレンジを煮詰めた一滴のソースの凝縮した甘みが調和し「ドゥーツ」にぴったりだ。
続く黒ベースに鮮やかなオレンジ色が美しいプレートは「ブルターニュ産オマール海老と芥屋産フルーツトマト マジョラムが香る金柑コンフィをアクセントに」。ブルターニュ産オマール海老の甲殻類を様々な甘味と酸味のアクセントと楽しむ一皿だ。くり抜かれた紅芯大根・黄蕪・青首大根・パルミジャーノ・レッジャーノ、黒トリュフも合わせて大小大きさを変えながら美しくデザインされている。

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マジョラムや八角と真空パックにかけた金柑の甘さ。ギュッと実が締まって濃厚な甘さの「芥屋産フルーツトマト」は、フレッシュとセミドライで。その甘さのコントラストが絶妙だ。レモンのピューレと共に爽やかな春を思わせる森田シェフらしい一皿に、妻も嬉しそうに食している。前菜のスタートであるがオマール海老もたっぷりと、食べ応えある満足の冷前菜だった。
続いて「佐賀産ホワイトアスパラガスのヴルーテ 天草産緋扇貝と能古島柑橘とともに」が運ばれる。春と言えばやはりこれであろう「佐賀産ホワイトアスパラガス」、我が家でもこの時期直接仕入れるお楽しみの素材の1つ。細くパスタのように削がれたそれに、濃厚なホワイトアスパラガスのブルーテが注がれて完成する。火を入れて風味と甘さを引き出した「緋扇貝の貝柱」のポワレに、ブルーテを絡めながら頂く。

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濃厚な口当たりながら軽やかな仕上がりだ。煮詰めた柑橘のジャムの仄かな酸味が、これから旬のホワイトアスパラの風味をより引き立てていた。次は土にまるで春が芽吹く様なプレートの「玄海産アワビと春の味覚のフリカッセ 新生姜と新玉葱のピュレ」がやって来た。そら豆・グリーンピース・スナップえんどう・ロマネスコ・・緑鮮やかな様々な季節の豆類には玄海産アワビのソテーが鎮座する。
ペリグーソースをかけて、底には新生姜と新玉ねぎのややねっとりしたピュレで挟み込む。そうそう、この夜は「レ・セレブリテ」では見慣れない和風の黒皿が使われていた。聞けば福岡・浮羽の陶芸家・大村剛氏の特注品と言う事。森田シェフがイメージを伝え、半年かけて三種類作ってもらったそうだ。大村釜・大村剛氏の皿と言えばやはり「ノーマ東京」を想い出す。

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コース内でいくつも使われていたので、「noma」を食しながら福岡人として嬉しかった記憶がある。どこか土の温かさも感じる皿の上の春食材と鮑。その食感と香りを存分に楽しめた。もうお腹も一杯になって来たが続いて「玄海産甘鯛と九州産筍のロースト ほろ苦いアンチョビが香る加布里産蛤のソース」。鱗をカリッと好みに仕上げられた甘鯛は、銀座「エスキス」や六本木「リューズ」でもお馴染みの森山硝子の皿で運ばれた。
前半に比べると、意識的にグッと塩気を強くしてメリハリをつけたようだ。ほうれん草のピューレを敷いて、福岡八女産筍のローストも添えた。たらの芽のフリットと共にいかにも春の味わいと言った風情だ。注がれた「ハマグリのソース」には、蕗のピューレやアンチョビ、グリーンオリーブで風味と濃度をつけた。これも彩り美しく春らしい食べ応えのある魚料理であった。

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さてメインの肉は、今夜は小鳩と言う事だったのでブルゴーニュから赤ワインをチョイスして行こうとリストを眺める。ちなみに前回訪問時は「DRC ラ・ターシュ(Domaine de la Romanee-Conti La Tache Grand Cru) 1989年」、前々回訪問時は「ドーヴネ マジ・シャンベルタン(Domaine d`Auvenay Mazis Chambertin)1995年」だったし、昨夜は家で「ドニ・モルテ ジュヴレ=シャンベルタン・プルミエ・クリュ ラヴォー・サン・ジャック(Denis Mortet Gevrey Chambertin 1er Cru Lavaux St. Jacques) 2006年」を開けていたので、色々考えた末「ベルナール・デュガ・ピィ シャルム・シャンベルタン グラン・クリュ(Bernard Dugat-Py Charmes Chambertin Grand Cru) 1995年」に決めた。

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ブルゴーニュのトップ・ドメーヌのひとつ「ベルナール・デュガ・ピィ」。ベルナール・デュガがドメーヌ元詰めをスタートしたのは1989年、歴史は浅いが今やロマネ・コンティ(DRC)やルロワと並び称せられる評判だ(その前から葡萄栽培は行っていた)。古樹の畑7.26haで年平均生産量はわずか25000本(近年のコート・ド・ボーヌも含めると総所有畑10ha)。
2003年からは完全ビオディナミ。セラーは元教会地下祭室だったそう。以前開けた同「ジュヴレ・シャンベルタン クール・ド・ロワ トレ V.V. 2005年」「ジュヴレ・シャンベルタン V.V. 2005年/2008年」もそうだったが、畑仕事を重視する職人肌の「デュガ・ピィ」のワインは濃厚な果実のエキスに溢れている。熟成でより本領を発揮する「デュガ・ピィ」が、20数年の熟成でどのような表情を見せてくれるか楽しみだ。

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グラスに注がれると、透き通ったようにクリーンな酒質の奥に微かな野性味のニュアンスも香しい。そこから細やかなスパイシーさも流れ出す。タンニンは溶け込みシルキーだが、余韻には口蓋に微かな苦味を残す。バランス良く熟成した程よい美しさを感じる飲み口にグラスが進む。柔らかい果実味で親しみやすいシャルム・シャンベルタンらしい特徴が、「デュガ・ピィ」の手で綺麗に表現された一本だった。
ただ一時間半もするとやや閉じてしまい、それ以上は開かずまだ熟成の途上であると感じた。そんな中、口直しのグラニテに続いて「ヴァンデ産小鳩と糸島野菜のサンゲット 黒トリュフの香り」が運ばれてきた。テーブルでサルミソースが注がれた後、更に加えてこれでもか!と、ペリゴール産黒トリュフがサラサラと削られていく・・妻の悲鳴と共に小鳩の姿は鰹節状態(刻み海苔の様でもある)の黒トリュフに隠れて見えなくなる。

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たっぷりの黒トリュフに包まれた肉身を、トリュフの香りに包まれながら贅沢に堪能する一皿だ。ヴァンデ産小鳩自体はまろやかに食べやすい仕上げ。サルミソースにもたっぷりと黒トリュフが入っている。「これは熟成したボルドーでも良かったかもね~」とボルドー好きの妻が残念がるも、キノコのニュアンもやや出てきた「デュガ・ピィ」との調和を2人じっくり楽しんだ。
さぁすっかり満腹満足して仕上げのデザートに入る。ダイニングは相変わらず女性たちの笑い声やざわめきが明るい春らしい雰囲気だ。運ばれたプレデセールは「ブリアサヴァランの能古島純粋蜂蜜」。3種類を特別にブレンドした「レ・セレブリテ」特製の蜂蜜は優しい甘みが香る。飢えからレモンの皮を削って爽やかに味わう。続くメインのデザートは「高原農園あまおうとコアントローのグラス」で、

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オレンジ風味を加えた「あまおう」のスープ仕立てとなっていた。苺のふんわり濃い甘さにコアントローの苦みがバランスよく美味しい。加えてワゴンデザートもあったがさすがに満腹でパス。そして最後には小菓子とハーブティでコースを締めくくった。「森田シェフのお任せコース」は主食材の良さに春の季節感をふんだんに加えつつ、フレンチらしい複雑さや深みに溢れていた。
いつ来ても何かしらの工夫や取り組みが客側に伝わる森田シェフの食べ応えあるフレンチ。状態の良いワイン達と共にこの夜も、博多モダンフレンチを堪能したディナーとなった。帰りには森田シェフから前菜で使われた「糸島・芥屋産フルーツトマト」を沢山頂いて大喜びの妻。お祝い帰りの人々で賑わうホテルロビーまで見送って貰い、また次を約束して車に乗り込んだ。いよいよ桜も開花した福岡、今週末は花見客でどこも大いに賑わうことだろう。

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