前回の「男一人鮨」に続き、もう一店挙げておこう。この日も東京日帰り出張。時間に限りあるからこそ外さない美味しい物をサクッと頂きたい。そこで向かうのは六本木ヒルズにある「すきやばし次郎」。空いていればラッキーだ。天気は良いが春風まだ冷たいこの日、六本木ヒルズ・レジデンスB棟にあるこちらを再訪する。
日本最高峰の寿司職人「すきやばし次郎」小野二郎氏の、次男・隆士氏がご主人だ。綺麗に磨き上げられた店内は本店に劣らず稟とした佇まい。ショーケースには目を見張る立派な著名作家の器がずらっと並ぶ中、テーブル側ショーケースは萩焼人間国宝11代三輪休雪の三男・和彦氏の、力強い大きな「休雪白」の花器が飾られている。

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相変わらずキリッと凛々しい御主人の登場、いつものようにお任せで握ってもらう。「ひらめ」はかすかな甘味が程よく酸味のきいたシャリと混じり合う。白く輝く「スミイカ」は柔らかい中にもほんの少しの歯ごたえ。「さより」はふんわりと繊細な春の味わいが口の中に広がる。日本海の鮪は穏やかな酸を感じる「赤身」、美しい。
そして程良い脂身の「中トロ」と続く。端正な「コハダ」は噛み締めると、肉厚のある身から旨味のある酢と脂がにじみ出てくる。「すきやばし次郎」ならではの美味しさだ。「タイラガイ」は歯をたてると微かな食感とともにはかなく消えていく感じが何とも言えない。「アジ」は相変わらず綺麗な味わい。アジのピュアな旨みだけが余韻に残り、しばらくアジの存在を周りに感じる気さえする。

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ドンと「すきやばし次郎」スペシャリテ、恒例の人肌の「車海老」が登場する頃には、こちらのテンションもかなり上がる。車海老の濃密な甘さと旨味を口一杯にほうばる感じだ。美しい光沢を放つ御主人自慢の「イクラの軍艦」。「このイクラを噛みしめていくと卵かけご飯のようでしょう」と言われるように、海苔・シャリと混じり合うと卵のような、ナチュラルな風味が豊かに広がる。
続いてこんもりと、これでもかと言わんばかりに大量に盛られた「ウニ軍艦」、こんなにたっぷりのウニは他にない。一気に頬張ると、海の恵みとでもいうべき旨みが余韻長く広がり続ける。更に「すきやばし次郎のタコ」、これはなかなか出会えないが、他店とは別格の味わいがある。一時間みっちりもんでいるというのだから、繊維質がほぐれて何とも言えない食感だ。

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ゆっくりと噛みしめるうちに甲殻類の味わいが染み出てくる。続いて「サバ」の爽やかでいて落ち着いた酸味が口元を洗う。トロリとソースのように深い甘味で味わう「アナゴ」、「玉子」で一通りとなる。今回も計算された流れにガリに手を出すことも忘れて一連の「コース」を堪能した。追加で「平目縁側」、そして「大トロ」はにじみ出てくる脂がしっとりとシャリと混じり合う。
トロリと煮詰めがかけられた「ハマグリ」は噛み締めるうちに、ほのかな苦みと旨味が一体となる。追加の「シソの巻物」で締めくくった。ご主人は背筋を伸ばし美しい所作で軽やかに握っていく。握りの形は綺麗に整っていて美しく、その上にバランスよくネタが切りつけられている。ネタと自然に混じり合うシャリのバランスが良い。食後にはそのネタの印象がきっちりと食べ手に烙印される。

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「自分の中では、生涯、小野二郎を超えることはできませんし、努力を続けるだけです」と鮨に真摯に向き合う情熱が客側にもヒシヒシと伝わる。それでいて慣れるとどこか居心地の良い空気も流れているのが、ここ「すきやばし次郎 六本木」の特徴でもあろう。心地よい春風を感じながら店を後にした。
と言う訳でせっかくだから、別シーズンの訪問時もいくつか挙げておこう。まずは冬。いつもは一人で仕事の合間に伺う事が多いが、この日は妻と共に早い時間に伺った。相変わらずキリッと勇ましい御主人の登場に妻は上機嫌だ。まずは冷酒・広島「賀茂鶴」をお願いする。磨き上げられた美しい店内の中、若手職人もテキパキと流れるような所作が気持ち良い。

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いつものように練られた、完成度の高い「コース」の流れにただ身をゆだねていこう。「ヒラメ」「スミイカ」と白のネタから始まる。心地よいバランスの煮キリが肉厚の「ヒラメ」の旨みを過不足なく引き出す。鮮やかに美しい光沢を放つ「スミイカ」は芸術品のよう。柔らかい中にも繊細な歯ごたえで、ネットリとした旨みが時間をかけて広がる。
ふと見れば相変わらずこちらは外国からのお客が多い。熱心に魚の名前を聞き取り、辞書を広げながら説明に聞き入っている。英語でもきちんと説明するのも、海外からの客も多い次郎らしい工夫だ。香港から何度もリピートしている常連客もいれば、映画に出演していた隆士氏に会いに来たと言う客も少なくないそうだ。そうそう、サッカークラブワールドカップの際はブラジル人サポーターで貸切状態になったという。

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やはりあの映画の影響は数年経った今も色濃く残っている。その映画とはアメリカ人デビッド・ゲルブ(David Gelb)監督による父・小野二郎氏を追ったドキュメンタリー「Jiro Dreams Of Sushi(二郎は鮨の夢を見る)」。世界中で公開されドキュメンタリー映画としては記録的大ヒットとなり、今やJIROと言えば世界に通じる。オバマ大統領は言わずもがな、来日の度に銀座店に訪れる世界的有名人と言えば、
ジョエル・ロブションやヒュー・ジャックマンが挙げられるが、そのヒュー氏はアン・ハサウェイやアマンダ・セイフ ライドなどハリウッドスターも沢山連れて来る。デビッド・ゲルブ監督は約3か月にわたり東京・静岡と密着取材をし、寿司に対する思いや人生観、師弟でもある二人の息子(禎一・隆士)との関係などを描いている。ちなみにはデビッド氏はピーター・ゲルブ氏(メトロポリタン・オペラ総裁)の息子だ。

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おっと話を戻して握りの話。続いて出されたはしっとりした噛み心地の「サヨリ」。何とも爽やか、澄み渡った春到来を予感させる味とでもいうべきか。淡泊でいてほのかな甘さが、ほのかな温かさを感じさせるシャリと一体になる。独特の世界に一気に引き込まれていく。続いて妻待望のマグロ「赤身」「中トロ」、ここで前半の山場を迎える。
「赤身」は深みがありつつ、切れ上がるような存在感ある酸味が口中に広がる。「中トロ」はしなやかにとろける美味しさで妻も嬉しそう。更に美しい「コハダ」は、肉厚の身からジュワッと染み出す酢と脂がシャリと混じり合う。相変わらず素晴らしいコハダである。ここまで一気に楽しんですっかり満足。銀座店と同じく淡い白身から入り、鮪で盛り上げコハダで口元をしめる。

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続いて「タイラガイ」、コリッとした食感と共にクリーミーな風味が良い。そして程よく脂ののった生の「アジ」。「すきやばし次郎」の鯵を知ると他の鮨屋のそれが物足りなく感じる。温度設定・処理・・その全てがピタっと決まっている。ここで登場するのがスペシャリテの「車海老」。若い職人が2人がかりで下準備する。人肌で甲殻類の香りを豊かにたたえた大きな車海老。
シャリも少し多めに握られ見た目にもゴージャスだ。それは半分に切って出されるが、女性に対する心遣いも怠らないご主人は、女性客には車海老の尻尾は先に取っていてくれる。妻の目はハートだ(笑)ふわふわの車海老の、濃密な甘さと旨味を口一杯に頬張る、まさにスペシャルな美味さ。続いて美しい光沢を放つ「イクラの軍艦」。イクラが海苔・シャリと混じり合うと、まるで卵が溢れださんばかりの芳醇さだ。

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そして宝石のように艶やかな「赤貝」。そして北海道産「雲丹」、板からたっぷりと取られ豪勢に軍艦巻きに仕上がる。「雲丹リゾットのようでしょう」と御主人が言うように、最後までシャリと一体になりつつ濃厚な海の旨みが広がり、余韻を奏でる。たっぷりのウニを妻も頑張って口に入れる。この大盛こそがシャリと最後まで絡み合う塩梅との事、なるほどの迫力だ。
外国からの客人もこの「ウニ」が目的だと追加で頼んでいたが、納得だ。御主人は背筋を伸ばし美しい所作で軽やかに握っていく・・まるで舞台上の役者のようだ。握りの形は綺麗に整って美しい。その上にバランスよくネタが収まっている。自然に混じり合うネタとシャリのバランスが良い。ネタごとにシャリの量を替え、またネタによって温度を変えている。そしてジョエル・ロブション氏も絶賛する次郎の「タコ」。

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塩が乗せられている。とても柔らかく仕上げてあり、相変わらず他店とは別格の味わい。ゆっくりと噛みしめるうちに甲殻類の香りが立ち昇る。ここで追加を挟む。トロリと煮ツメがかけられた絶品の「ハマグリ」。噛み締めるうちにほのかな苦みと旨味が一体となる。日本が高度経済成長を遂げていた時期、湾の埋め立て等とともに国産ハマグリが入らなくなった。
そのため一部の世代の職人には「煮ハマ」を作れない人も少なくないという。更に上品で高貴な海の香りを放つ「ミルガイ」にやはり外せない「コハダ」。毅然とした職人の店であるが、どこか穏やかで居心地の良い空気も流れている。聞けば色々と説明してくれるから「握鮨」派には楽しいだろう。追加終わってコースに戻り、ソースのように深い甘味で味わう「アナゴ」、スイーツのような「玉子」で〆られる。

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温度差・食感差・味わいにバリエーションを感じさせる流れ、「定番」と「季節」の上質なネタを飽きることなく最後まで堪能した。今日も妻共々「小野隆士の舞台」をたっぷり満喫し、幸せな時間を過ごせた。さてさて、更に遡って「秋」に行こうか。この日は仕事の合間にお茶を頂きながら「お任せ」コースに身を委ねた。
スタートは「平目」、柔らかでいてふっくらした噛み心地の美しい身が、人肌のシャリと混じり合いながら実に自然にほどけて行く。最初の一貫から次郎の世界に引き込まれる・・いつもながらこの瞬間がある意味快感である。「真子鰈」は平目とは少し異なるほどけ具合。その比較も何とも贅沢だ。微かな食感の後の清廉な味わいの「墨烏賊」、続いて「平貝」の旨味。

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4貫の流れを、繊細な味わいと共に食感の差を楽しむ。続いて前半戦の山場は鮪。「赤身」に「中トロ」の登場だ。「中トロ」は口に含むと、あっという間に溶けていき、程よい強さのシャリと混然一体となり、余韻に上品な脂が残る。う~ん、妻が羨むだろうなぁなどど思いつつ一人味わう(笑)そしていつもの様に、美しい存在感に溢れた「コハダ」でキュッと口元をしめて後半戦に向かっていく。
今回良かったのが「トリガイ」、かなり大きく存在感のある一品だ。殻付きのまま仕入れて店で捌く事でこの味わいが実現する。何とも言えないほのかな食感と海の香りが素晴らしかった。次はいつものとろける「イクラの軍艦」、そして「鰺」、「鯖」は幽玄な脂が美しく美味。やっぱりスペシャリテと言えば次郎の「車海老」、しかし茹で上がったそれの大きさが納得いかないとご主人が言うからびっくり!?

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何とわざわざ茹で直してくれる事になり、立派な「車海老」が改めて登場した。このこだわりも素晴らしいが、怒られるお弟子さんには気の毒な気も(笑) ミソの風味に甲殻類の旨味・・口いっぱいに頬張るだけで至福になれる。でもやっぱりこだわるからこその、この「車海老」なのだろう。さぁこれも豪華な定番「ウニの軍艦」。
いつもの様に口に入れきれないほど大きな軍艦だ。磯の香りがクリーミーに広がる。一人噛みしめる贅沢な瞬間だ。そうそう、スモーキーな「鰹」を今回も味わえた。映画でも出てくるからだろう、海外のゲストには「藁で燻す写真」をわざわざ見せて説明していた。カツオの時期で脂の量が違うため、炙る時間も微調整していると言う・・なるほど。いつもはここで、一旦コースを中断して追加注文を受け付けるのであるが、

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「鰹の燻った香りの後は、まずは穴子でリフレッシュして下さい」と、トロトロの「穴子」が供せられる。そして追加は、箱に入ったネタからチョイスしていく。この日は、「子持ちシャコ」「煮鮑」を頂く。「シャコ」は少し硬めの食感の後に卵のボソボソした独特の歯触り。飴色にツヤツヤとした光沢の「アワビ」はいつもながら口元に吸い付いてくるような食感と、まさに海のミルクといった滋味深い味わいだ。
名残惜しいがそろそろ時間だ(この後仕事があるのをすっかり忘れていた)。深く落ち着いた甘さの「かんぴょう巻き」を頂いて締めにしよう。四つ切りのそれを口に運ぶと、酢飯と抜群のバランスを見せ、海苔の風味と三位一体のしみじみした美味しさ。そしてこれまた程よい甘さの「玉子」をつまみで頂いて締めくくった。この日は昼の2回転目に伺ったが満席。

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外国人客には御主人や二番手職人さんは流暢に英語で説明したり、捌く前の魚も見せたりしていた。御主人は相変わらず職人肌で、お弟子さんを厳しく指導もする事もあるので、初めて訪れた客はその空気に押されるかもしれない。しかし打ち解ければ色々と教えてくれるし、楽しい話も聞ける(妻はいつも大喜びだ)。
続いては9月初旬、夏の名残を感じつつ、秋から冬にかけての「走り」が顔を見せる「初秋」の某日も挙げよう。ネタ的には楽しい季節だ、是非堪能しようとまた一人で再訪した。「マコガレイ」からスタート。噛みしめる度にほのかな旨みが広がり、そこに煮キリ・シャリが混じり合い、一気に引き込まれていく。続く「コイカ」、この時期だけの「お楽しみのネタ」に遭遇できた。一杯で一貫握られる。

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ふんわりかすかではかない可憐さが何とも言えない。「常連さんも食べ損ねることがあって・・そんな時はたいそう悔しがられています」と言う事で得した気分。鮪は「赤身」「中トロ」「大トロ」、日本海のものと言う。鮪はこれから冬にかけてが楽しみ。そして2枚付けの長崎の「シンコ」、鹿児島の「コハダ」と続く。「シンコもそろそろ終わりですね」とご主人。
「シンコ」「コハダ」と味わいの差を感じられ、これまた得した気分になる。ここまでの7貫は概ね「すきやばし次郎 銀座」と同じく、淡い白身から入り鮪3貫で盛り上げ、そしてコハダで口元をしめるという流れ。この後の流れが「すきやばし次郎 本店」と異なり、また別の良さがある。後半は「アカガイ」からスタート。少し大きく切りつけた冷やし目の温度の「アジ」は、アジらしくないアジらしさ・・という一見矛盾した美味しさ。

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全く魚臭くなくキリッと噛み砕けていくのだが、残る余韻はまさにアジのピュアな旨みだけだ。そして軍艦巻の「イクラ」。銀座店では軍艦は、穴子前の最後の3連発でしめるのだが、ここ六本木店では、軍艦巻3貫を後半の流れの中に散りばめて変化をつけており、この流れがまた良い。イクラを噛もうとするとあっという間に溶けていき、海苔・シャリと混じり合うと卵のような風味が豊かに広がる。
そして人肌で大きな「車海老」は、甲殻類の香りを豊かにたたえている。上品で高貴な海の香りをはなつ「ミルガイ」と続く。そして「ウニ」の軍艦から後半の山場がやってくる。これでもかとたっぷり盛られた北海道の雲丹に気分が盛り上がる。「先日もお酒を飲んでいるお客さんから、上の雲丹だけつまんでいいですかと言われたんですが(笑)ただサービスで盛ってるんじゃなくて、最後までシャリと絡み合う塩梅を計算してるんです」と言う事。

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確かに最後のシャリ一粒まで雲丹といい加減で絡み合った。続いて有名な藁を使った次郎の「カツオ」。燻した藁の薫香がこれみよがしにではなく、ほんのかすかに香る・・その加減が良い。この季節の1つの楽しみの戻りガツオを堪能できた。そして、中秋の名月からひな祭りにかけて旬の「ハマグリ」。季節の走りの時期だが大振りで端正だ。
トロリとした煮ツメとまさに渾然一体となる。久しぶりに「美形」な味わいのハマグリを頂いた。ご主人がにっこりと笑いながら、「今ハマグリの後、はじめてガリに手を出されましたよね。ちょうど次は口元をさっぱりして頂こうと〆サバをご用意していたんですよ」と言われる。なるほど、ガリはかなり食べる方であるにも関わらず珍しくここまで手が伸びなかった。

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「もちろんガリも自由に食べて頂いて良いんですが、うちのはガリがなくても美味しく頂けるように流れを考えているんです」との事。「鮨の流れ・順番は、鮨のうまさの1つ」という考えがある意味定着しているが、流れにポリシーを感じ、それが客側にもダイレクトに伝わってくる「お任せ」。「雲丹軍艦」から「カツオ」「ハマグリ」でどんどんと盛り上げ、
走りの時期の「サバ」でキュッとしめ、最後の軍艦「コバシラ」で爽やかな海の香りをさっぱりと堪能する。そしてとろけるような「アナゴ」に、デザートのような「タマゴ」で一通りとなった。コースの余韻を感じつつ「アワビ」を追加、夏が旬の鮑も名残りの時期を迎えつつある。「ハマグリ」と「煮アワビ」を両方楽しめるのはこの時期ならではの贅沢さ。

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口の粘膜に吸い付くような海の恵みとでも言うべき旨みをシャリと共に楽しんだ。「コハダ」をもう1つ頂き、締めの巻物は「アナキュウ」を所望する。とろりとクリーミーな穴子が、爽やかな胡瓜を引き立て、主客逆転した味わいの妙が何とも良かった。握りの形は綺麗に整っていて、口の中でほのかな温かさを醸し出しながら、ゴクゴク自然にほどけていく。
ネタのきれ具合・旨みとシャリのバランスがとても良い。なるべく同じものがかぶらないよう、そして温度差、食感差、味わいにバリエーションを感じさせる流れ。「定番」と「季節」の上質なネタを飽きることなく最後まで堪能し、「うまい鮨」を心ゆくまで楽しめた。さて、秋まで来たのでついでに「夏」のも挙げておこう。あいにくの雨空で風も強く肌寒い夏日、時間より少し早目に到着したが入店できた。

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いつものように磨き上げられた店内は清々としている。しばし準備が整うまでテーブル席で、お茶を頂きつつ待たせて頂く。お弟子さん達のテキパキとした立ち居振る舞い・・ふと見上げればガラスの飾り棚には、今日は美しい緑の有田焼や香炉が飾られている。聞けばかの倉島泰山氏作との事。艶やかで繊細な磁器、沢山ある有田焼窯元の中でも一際美しい色絵と言えば「倉島泰山窯」だろう。
さぁいよいよ小野隆士劇場の始まりだ。もちろん「お任せ」で握って貰い、日本酒「賀茂鶴」も頂こう。まずは「平目」。この1貫目の白身を頂くとシャリと渾然一体となるバランス感に「すきやばし次郎に来たんだな」と言う気持ちになる。「スミイカ」は真っ白の身に煮キリが艶やかに美しい。続く大きな「貝柱」は存在感を見せつつ、みずみずしい味わい。

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凛とした御主人の握り姿に、店にいる者全てが静かに魅入っている。そしてここからは、いつものように「鮪」がスタートする、前半戦の山場だ。美しい輝きについ見とれてしまう「赤身」は、涼やかな酸味が心地よい。続く「中トロ」は繊細な脂が広がる。キラキラと美しい流線形の「コハダ」で、くっと口の中を締めて一息ついた後は、怒涛の後半戦が始まる。
「赤貝」は淡い海の香りをしみじみと楽しむ。そして「アジ」が握られた。美しく澄んだ身質に「旨い!」と感嘆の声が思わず出てしまう。続いていつものように「イクラ」の軍艦、「車海老」が登場してくる。シャリと完璧な塩梅の「しめ鯖」で、サッパリと口元を整えた後は豪華な「ウニ」。一気に口に入れると、何とも自然にシャリに馴染んでサーと消えていく。そしてほろ苦い甘さが口中に膨らみ余韻が続く。

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ちなみに海外ではなかなか上質の海苔がないため「軍艦」は余り人気がないとの事。だからこそ「海苔が美味しいこちらではイクラやウニなどの軍艦、そして巻物も楽しみ」と言う外国人客の話も印象的だ。そして藁で燻して香りをつけた「鰹」が奥から運ばれる。皮目だけ炙られたブロックは実に豪華。包丁がスッと入れられていく・・
美しい艶やかな切り口に皆が声を漏らす。血合いに藁の濃い燻香が絡み合う。長く続く独特の旨味の余韻。何とも言えない絶妙な味わいを堪能する。この後の「穴子」「玉子」で一通りの「お任せ」ではあるが、「その前に追加がありましたらどうぞ」と箱を見せてくれる。中には追加注文できるネタが美しく並ぶ。ここはやはり「大トロ」で行こうか、しかしその前にまずは「煮アワビ」も頂こう。

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美しい艶肌は見るからに柔らかそうだ。口に含むと、やがて柔らかな甘味を伴った旨みが濃厚に立ち上がり、シャリと渾然一体となる。そして「大トロ」は、穏やかでいて滋味深い脂が印象的。先に頂いていた「赤身」「中トロ」とそれぞれ違いがハッキリしている。寿司屋によっては鮪の各差がなくてガッカリすることも少なくないが、きっちりと各特徴が際立っていた。
さて「お任せ」コースに戻り「穴子」。御主人が鮨屋の腕の差が出ると言うだけあって、あっという間に溶けて行くような食感、ソースとも言うべき煮ツメとのバランス、余韻に残る穴子の風味と三位一体の美味しさであった。「玉子」は握りで頂く。デザートのような甘さがコースの終わりを告げてくれる。そしてやっぱり締めは「巻物」をお願いしよう、中でも夏はこれこそ外せない「梅紫蘇・キュウリ」だ。

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外がしっとり梅雨である事はすっかり忘れてしまうように、爽やかな味わいであった。「握り」の形はいつもながら美しい。圧倒的な存在感を見せるネタを、シャリがキッチリと受け止め、気がつくとバランス良く口の中から消えて行く。一貫一貫が完成している上に、コースの流れが更に印象を引き上げる。前半の白身系から「鮪」「コハダ」という流れは銀座店に近いが、
その後の流れは六本木店の方が、メリハリを効かせ飽きさせない様に感じる。毅然とした職人の店であるが、どこか穏やかで居心地の良い空気も感じ取れる。笑顔も交えながら色々と説明してくれるから、「つまみと酒」派ではない「握り鮨」派は楽しいだろう。30分~40分程度の濃厚な時間を堪能できる。我が家的には握り最上の店、それが小野隆士氏の「すきやばし次郎 六本木」なのである。

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