梅が香る美しき京都、この日向かったのは我が家お気に入りのフレンチ「レストラン モトイ(Restaurant MOTOI)」。市街中央の南北を走る富小路通沿い、ディナーだけでなくランチでもレベル高い食事が楽しめる秀逸なレストランがそこにある。元々は呉服屋だった180坪もある日本家屋前に車を止めると、白い暖簾がはためいている。
ブルゴーニュ「ラ・マドレーヌ(La Madeleine)」やボーヌ「ル・ジャルダン・デ・ランパール(Le Jardin des Remparts)」、国内は大阪「ハジメ」などで修行した前田元シェフの名前を冠する。門をくぐり緑に包まれる石のアプローチを進むと玄関。ガラス戸を開けると歴史深い日本家屋を上手くモダンに再生した、日本らしい趣きとレストランらしい落ち着きを併せ持つ空間が広がる。

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我が家的には正にこうであって欲しい理想的「京都のフレンチ」の風情だ。段差上がりダークブラウンで年季の入った木造りのメインダイニングは、潔い天井高で真ん中には大きなフラワーアレンジメントが華やか。奥にはガラス越しに中庭、手入れされた木々に青苔、灯篭や手水鉢も京都らしい景色。奥にあるという蔵は個室として使われているそうだ。
白いクロスが美しく浮かぶテーブルは余裕ある配置・・私達はいつもの様にワインセラー前の、落ち着いた半個室に案内される。セッティングされているのはシックな「伊賀焼(土楽窯)」の皿。グラスは神戸「森山硝子」の物(銀座「エスキス」や日航福岡「レ・セレブリテ」などでも皿が使われている)。

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コースはお任せ「旬のコレクション(Collection de saison)のみ。ディナーは13皿だがランチも10皿から構成されている。まずはシャンパーニュで乾杯といこう。「モトイ」のスタッフは毎年、研修で海外ドメーヌを訪問するなどワインラヴァーが多く、ワインリスト(300種500本)は毎回進化し、工夫したラインナップを拝見するのも楽しみだ。
今回は、中村尚一郎ソムリエが「ようやく仕入れる事が出来ました」と言うかなり珍しいロゼを開けることにする。それは「セドリック・ブシャール ローズ・ド・ジャンヌ ロゼ・ド・セニエ クリュ・ダンフェール ロゼ(Cedric Bouchard Roses de Jeanne Rose de Saignee ‘Creux d’Enfer’)」。「ローズ・ド・ジャンヌ」は我が家もお気に入りのレコルタン・マニピュランの1つ。

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レストランでも見かける事は少なく、去年末「インターコンチネンタル大阪(ピエール)」で「コート・ド・べシャラン」見つけた時は迷わずチョイスした。これは年間生産300~500本、単一区画0.32haのピノノワール100%ロゼ・ド・セニエとあって入手困難品。グラスに注がれると何とも深く美しい薔薇色。
ラズベリー・香水・柔らかなスパイス・・口にふくむと活き活きとして細かく弾けていくよう。しかし確かなミネラルの骨格があり、余韻にはかなりの苦み。チャーミングな甘さを感じさせる香りとは一致しない、余韻のその好ましい苦みがまた印象に残る。予想以上の秀逸な出来に思わず中村ソムリエと顔を見合わせた。ちなみにグラスは木村硝子の田崎真也ソムリエデザイン「TASAKI SHINYA WINEGLASS COLLECTION」。

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全て手作りと言うそのシリーズは、香りを捉えやすくシャンパンらしい泡も残す、バランスを狙ったグラスと言える。実は以前こちらで知って我が家でも購入した。さぁそんな中運ばれたのはお馴染みのマドラス風味の「ヘーゼルナッツのカラメリゼ」。10年近くホテルで中華料理の経験あるという前田元シェフらしい定番だ。
この日のアミューズは節分にちなんで「イワシのマリネ」を乗せたもの。「白玉団子」は、はすの餡を包み込み上には生ハムを乗せた白玉だ。程よい甘さと塩気と温かさが、コースの始まりを告げてくれる。続いて「スガハラ(Sghr)」人気の3種の泡シリーズ「神秘的に立ち昇る泡」で登場する「海のパフェ」は、小さいながらグッと期待を高めてくれる。

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根セロリのムースの上にコンソメのジュレを乗せた。下からすくって食べるとつぶ貝、ほたて、キャビアなどが渾然一体と昇華した味わいになる。フレンチらしい、そして前田シェフらしい的確な美味しさ。いつもの大山崎「サンク・パン」2種(バゲット/チャバタ)には、フレッシュ感の強いポルトガルのエキストラバージンオリーブオイル「カーザ・アナディア プライベートコレクション」や、
フランス産バターの表面に粉末状にした「新潟の岩海苔」など添えられる。次の料理は「フォワグラと干柿、チーズと炭と」。フォワグラの下には干し柿を添え、上からはミモレットを刻んだ。赤いソースはユスラウメ(桜桃)。更に炭の香りをつけたオイルが何とも言えない香ばしいアクセントだ。続いて運ばれた「軽く火を通した活黒鮑」は、アワビの肝と山椒を合わせたソースで頂く。

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適度な山椒のニュアンスがいかにも京都、そして「モトイ」らしい一皿。バターも効かせてフレンチらしい味わいの鮑は、吸い付くような柔らかさの食感が見事な仕上がりだった。さてここで赤ワインもボトルで、メインの肉に合わせてボルドーからチョイスしていこうか。中村ソムリエがボルドー右岸のヴァランドローほかいくつか飲み頃を勧めくれる。
華やかでアートなラベルのスペイン「レイラーナ・アルバリーニョ」や「クアトロ・モノス」も面白そうだったが、最後はやはり妻の「久しぶりにラフィット飲みたいな~」という一言で王道「シャトー・ラフィット・ロートシルト(Chateau Lafite Rothschild) 2008年」を選んだ。見ればボトルネックは赤い毛書体で「八」とある!もしかして縁起担ぎの「八」、これは中国向けデザインだろうか?!

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そう実はラフィット、2008年ヴィンテージ全てのボトルに漢数字で「八」のを入れると当時発表していた。中国でのワイン生産開始を記念してとの事で、「八」は葡萄畑の傾斜も表現しているらしい。ラフィットの中国での異常人気を垣間見た様で、何とも複雑な気持ちになりながらも、デカンタージュしてゆっくり味わって行くとする。
グラスに注がれると優雅な濃い赤の波・・涼やかなハーブを纏った黒い果実が香ってくる。羽毛のようなアタックが際立つ。洗練された緻密なタンニン。美しさにあふれた酸が全体をまとめ上げ、瑞々しくもふくよかな果実味を楽しめる。優雅な土と深淵な森の香り・・明らかに「シャトー・ラトゥール」とはまた異なる完成度に魅了される。若いながらも優雅な飲み口の一本であった。

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次に運ばれるのは「ハマダイのポワレ ブルグルとクリアなフュメ」。テーブルで魚と貝の出汁が注がれると香ばしさが流れ出す。かなりレアに感じる仕上りだが、皮目にはしっかり火が入っている。その仄かに焦げた香りが料理に輪郭を与えつつ食欲をそそってくる。そしてトマトの酸味は後味を爽やかにまとめる。下に敷いた小麦のプチプチした食感のアクセントとともに最後まで飽きずに楽しんだ。
続くメインの肉の前に、お馴染み肉用ナイフがトレイに並べられやってくる。カラフルな「フォルジュ・ドゥ・ライヨール ラギュオール・ナイフ」数種から好きな色を選ぶ。わざわざ砥ぎ屋に出すとあってすごい切れ味。そうだ、妻が好きな手袋でのサービスと言えばいつも礼儀正しい今田剛之支配人、同会社内の別店舗に移動になると言う事で寂しいお別れの挨拶となった。

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どこに居てもあの今田スマイルで頑張って欲しいものだ。さてそんなメインの肉は「ロゼに焼き上げた尾崎牛」、40種類を超える野菜を敷いて登場する。ガルグイユを肉料理に発展させたような楽しさを感じるプレートだ。中華で使われる豆豉ソースがピタリとハマっていて何ともいえない美味。もうお腹一杯の妻も満足しきりの様子だ。
一息ついてデセール3種類へと流れて行く。まず「蕗の薹の香りのアナナ」は、パイナップルのソルベに乾燥した蕗の薹を砕いて振ったもの。小さいながらも上品な甘さに続いて、春らしい苦みが長く余韻に続く。これ見よがしでなく、とても洗練された味わいがさすが。2つ目はショットグラスに入った「アマゾンショコラのシャーフロワ」。温かいショコラと冷たいショコラのコンビネーションで、チョコレート好きの妻も嬉しそうだ。

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3つ目は「ミルクのリボンと苺」。リボンに見立てて帯状に固めたミルクが、ふわふわ重なって立体的なデザイン。そこにピンクの苺ジャムがとろり掛けられて完成する。白いリボンの下にはピスタチオのムースとレモンのソルベも潜んでいる。食べ進めるうちに酸味と甘みとまろやかさが絶妙一体となり、食後の満足感を高めてくれた。
締めはいつもの京都らしい良くできたミニャルディーズ。「カヌレ」「大徳寺納豆入り紅茶のマカロン」「バラ風味 パート・ド・フリュイ」「シャンパンのメレンゲ」を、紅茶(アールグレイ)とコーヒー(元町ブレンド)と共にじっくり味わった。満席のダイニングはデートや家族、女子会など思い思いに楽しんでいる・・レストランらしい華やかさと京都らしい雅な独特の雰囲気。

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そこへ挨拶に顔を出した前田シェフとしばし歓談する。「いつもながら感嘆の腕前ね♪」とご機嫌の妻に「いつでもどこでも料理のことばかり考えています」と笑顔で返す前田シェフ。主素材を中心に起きつつ、京都の季節感・中華の手法、そしてシェフのセンスを盛り込んだ料理達はコースの流れも良く、いつも確かな満足感に包まれる。
加えて中村ソムリエの工夫した品揃えのワインとともに、京都に来たらディナーでもランチでも一回は頂かないと納得できない様になってしまった(笑) 前田シェフ・中村ソムリエが見送ってくれる中、車に乗り込みつつ手を振り、今回も満足の気持ちで京都駅に向かった。次に来るのがまた楽しみだ。

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