2月に入り我が家もバレンタインイベントに賑やかな時期ですが、その前に先日の節分の日のお話をしておかなくてはいけまい。今年の節分は静かに大人京都、我が家お馴染み「俵屋旅館」で厳粛な祀り事に参加させて頂いたよ。江戸時代から300年以上の歴史を誇る日本最古の旅館だけあって、季節毎のこういった仕来り行事もさすが。
中でもこの2月の節分「追儺」と6月の晦日「夏越の祓」は、宿泊客も参加してきっちりと行われるの。実はそれをすっかり忘れていての宿泊予約、いつもの様に「京都伏見稲荷大社」にお参りしてからチェックインだったので行事開始直前にそれを知る。もう数十回も宿泊しているが、行事日は敢えて避けていたのでびっくりしてしまった(笑)

20170211tawaraya3

しかも我が家がいつも決まってお願いするスイートルーム「暁翠庵」はその神事の要。俵屋旅館の鬼門に位置する場所(祠)が庭にある為、夕刻明るい内にまずはそちらで白山神社・山倉盛典宮司と11代目佐藤年女将で儀式が行われると言う訳。つまり居間の軒先で行われるそれをまさに特等席で拝見出来るの。
ちなみに一階奥突き当たりにあるこの部屋は、吉村順三氏設計をリフォームしてベッドルームを造った第1号の部屋。フィン・ユール「NV55」のヴィンテージや、エリック・マグヌッセンなどの北欧家具がセットしてある。奥の畳の居間は竹の濡れ縁と大ガラスで、美しい中庭が見渡せる。故スティーブ・ジョブズ(Steven Paul Jobs)氏も使っていた部屋と言う事でも知られているわ。

20170211tawaraya1

ところでこの日の館内設えは、梅の他に「節分」にちなんだ福・鬼・豆・柊鰯がモチーフ。フロント入口に「初午」今尾影樹筆、玄関メインには江戸時代の「梅図屏風」はとっても豪華金屏風に見事な枝ぶりの紅白梅よ。ロビーには加藤静允氏の「板絵 鬼と服」。新館入口には大豆が沢山入った「古一升枡」と小人形「福」が佇む。
そして「暁翠庵」居間の掛け軸は江戸末期・富岡鐵斎氏の「鬼の念佛」、それに重なるように「結び柳」と「枝垂柳で何とも縁起が良い風情。新しい季節の始まり「立春(2月4日)」でその前夜が「節分」、立春はいわば新年なので節分は大晦日。旧年の厄(鬼)を祓って新年を迎えるわ。ウェルカムアメニティの「俵屋特製わらびもち」を頂きながらドキドキして庭を眺める・・いつ神事は始まるのだろう。

20170211tawaraya4

しばし待っていると、庭に入って来られたのは宮司さんと女将さん・大番頭さん。正にガラス向こう目の前で厄払いの神事が始まったわ。緊張しつつ参加(拝見)させて頂く。そしてその数十分後に玄関前坪庭「梅と椿」の前で、客人とスタッフ皆が集まって改めて儀式が行われると言う事でそちらも参加させて頂いた。
2代続けて俵屋の儀式を執り行っている宮司さんのお話によると、俵屋の町内にある白山神社は加賀国・白山神社第八社。平安末期に乱暴狼藉の平家武将に対抗した僧達が、京まで担いできた加賀一の宮の神輿三基のうち、逃げる際放置された一基を祭った事から始まった神社、との事。その他には「歯痛平癒」の御利益があるらしい。細かな儀式の作法などを教わりつつ、皆順番に祈祷させて頂く・・

20170211tawaraya2b

隣で女将が「願いが叶うそうですよ♪」と教えて下さったが、いざとなると緊張してお願い事などする余裕はなかった(笑) 後半はお祓いと宮司さんの豆まき、13代目当主候補のお孫さんが鬼コスプレで登場。京都では当たり前と言う掛け声の「ごもっとも~、ごもっとも!」も一緒に言って、最後は記念写真など皆でワイワイ楽しい有難い厄払い儀式「追儺」でありました~♪
そんな改めて正月を迎えるような清々しい気持ちでしばし過ごしていたら、お待ちかねの夕食の時間。「如月の献立」でも節分満載。最初に運ばれたお膳には、目出度い紅白の和紙に包まれた木箱が乗っている。和紙には「追儺招福」、紅白水引きには「柊」が添えてある。柊は鰯と共に、節分に魔除けとして門口に飾られる物なの。

20170211tawaraya1b

いつもお世話になっている担当お部屋係さんに食前酒を注いで頂く・・爽やかな甘さの自家製キンカン酒よ。木箱を開けると美しく並ぶ色とりどりの品々。「大豆含め煮」「梅人参」、「海老黄身鮨」は柔らかい風味が美味。「湯葉の木の芽焼き」は、春の訪れを感じさせるタラの芽に黒胡麻の風味をまとわせて柔らかくに揚げたもの。その他「蛤時雨煮(笹巻)」「小巻寿司」などなど。
豆は「魔滅(まめ)」に通じ、「鬼(疫病や災害)を封じ込める」と言う意味もある、そして鰯が嫌いな鬼にちなんだ「鰯土佐煮」もあった。そんな先附と一緒に運ばれてきた小茶碗は「火取り此の子」、針生姜や結び三つ葉が効いて温まるよ。さて、やっぱりハウスシャンパンの「ドゥラモット ブリュット NV(Delamotte Brut NV)」で乾杯しよう(これ1種類のみ取り扱い)。

20170211tawaraya3b

グラスに注ぐと大きめの泡がふんわり立ち上がる。グレープフルーツ・白いキノコ・・・フレッシュな酸と柔らかいアタック。味わいのバランスは穏やかに取れている。繊細でいて近寄りやすいミネラル感が、黒川修功料理長の繊細な味わいに寄り添ってくれるわ。ここで向付が運ばれてくる。柔らかい「文銭蛸」、軽く昆布締めした「唐草赤貝」は上品な酢味噌で頂くよ。
「鮃へぎ造り」「針魚」といつもながら細かい包丁捌き。次の煮物は「穴子鳴門煮」。椀蓋には金に梅の絵柄が華やか美しい漆塗り。ふんわり立ち上がる湯気・・穴子の味の後にささがき牛蒡の土の風味が香る美味しさ。花山葵も効いている。黒川料理長らしい滋味深い味わいで身体も心もホッと温まった。続く焼物は「ぐじ羽二重焼」、これは豆乳を使っているとの事。「蕗の薹芋煮や」添えられた大きな「大黒しめじ」も存在感ね。

20170211tawaraya4b

ここで一旦シャンパンは残して置いて赤ワインもお願いしよう。ワインリストは、相変わらず「ほどほどが良い」と言う女将のポリシーに沿って種類も値段も控えめのチョイスになっている。選んだのはボルドーからゴールドのラベルが印象的な「シャトー・ディッサン(Chateau D’issan) 2007年」。マルゴー・カントナック村に位置する「シャトー・ディッサン」メドック格付3級。
そう言えば4年前現当主エマニュエル・クルーズ(Emmanuel Cruse)氏と夫人が来日した際お逢いしたわね。ハプスブルク帝国・皇帝フランツ・ヨーゼフが最もボルドーで好んだと言われる「シャトー・ディッサン」。ラベルに描かれているのは「百年戦争の終戦調印のされた」というシャトー。グラスに注ぐと土の香りにほどけつつある樽のニュアンス・・凝縮感や複雑さはないけど柔らかい酸とチャーミングな果実味の後を引かない繊細な飲み口が和食には寄り添うかな。

20170211tawaraya5b

「雲子木の芽焼」「海老芋花山椒味噌掛け」はぐっと強くなりワインにも合った。さて温物は黒川料理長の新作と言う「鯛巻繊海老餡掛け」。俵屋オリジナルの小鍋には聖護院大根・蓮根・人参・菜の花・針柚子と、京都の冬を目一杯に味わえる熱々の一品。細かく刻んだ海老の餡とふんわり餅麩、野菜の旨味でほっこり気分になったわ。
そこへ部屋の扉をノックする音「節分の豆まきにやってまいりました~!」と豆まき隊(男衆達)が一升枡に入った豆持って入って来たよ(各部屋を回っている)。お部屋係さんが縁側のガラスを開けて「鬼は~外、福は~打ち」合間に「ごもっとも~、ごもっとも!」と再び掛け声♪ すご~いほんとにザラザラと豆を巻くの。更に歳の数だけ豆を拾ったと言う呈で豆を取り、身体や頭などを擦って紙に包み預ける。

20170211tawaraya6

その後各部屋のそれを一括してわざわざお祓いまでして頂けるのだから完璧な「追儺(節分祭)」ね♪ さぁ興奮冷めやらぬ中、次の強肴が運ばれる。「魴鰹揚げ酢浸しし」は甘くて上品な酸味。葱・酢取り蕪・つぼみ菜・稲荷などをさっぱり上品に味わう。その後は白飯・合せ味噌となる。そして最後の「八朔ゼリー」にはいつもの様に残して置いた「ドゥラモット」を注いで楽しむ。
苦味と甘みが優しい甘さの「八朔ゼリー」と絶妙なの。俵屋に来ると和食の美味しさを、日本の食材の素晴らしさを実感する。細かい技術で丁寧に上品に美しく食文化を顕す・・他ではなかなか感じられないわ。特に今夜はいつもと違って、鬼やらい行事で賑やかな館内。厄災を除いて新年を迎えるまるで大晦日夜の様な気持ちで夫婦二人遅くまで語り合い、幸せな夜が更けていくのであった。

20170211tawaraya5