師走に入ったこの日、クリスマスプレゼントなどの買い物を妻と軽く楽しんだ後は、この時期ならではのフレンチを楽しもうとJR博多シティへ向かう。車を降りた博多駅前広場では「スカイピラーゲート」「光のティアラ」など70万球のイルミネーションが輝き、大屋根下には「クリスマスマーケット」も催されすっかり師走の風情。アジア各国からの旅行客なども加わってとにかく人が溢れ返っている。
その中をかき分けて到着した「シティダイニング くうてん」9階・・レストラン街の真ん中に位置するのが我が家お馴染み「オーグードゥジュール・メルヴェイユ 博多(Au gout du jour merveille HAKATA)」だ。小岸明寛シェフが率いる九州で最も注目の、モダンキュイジーヌなレストラン。狭いながら一歩店中に入ると雑踏をほとんど感じない落ち着いた空間だ。今宵もいつものテーブルへ案内して貰う。

20161220merveille4

いつも爽やかに迎えてくれる藤井智之ソムリエの胸ポケットにはノエル・ブーツのタックピン、テーブルの上には彼手作りのキャンドルホルダーも置かれている。妻は「まぁ素敵、ロマンティックね♪」と楽しそう。ではまずはシャンパーニュで乾杯といこう。「メルヴェイユ博多」のワインリストはさほど種類は多くないが、藤井ソムリエが工夫して揃えているので、いつもチョイスが楽しみだ。
現在1社との取引中心だが最近は他社からの売り込みも増えてるとの事。東京のグラン・メゾンで買われないワインやオフヴォンテージものを地方レストランに高く売り込む所もあるので、足元見られないようハードネゴシエーションで頑張ってね!とエールを送る(笑) さてシャンパンは、リストで目に付いた「ドン・ペリニヨン ヴィンテージ(Dom Perignon Vintage) 1990年」をチョイスする。ドン・ペリニヨン好きの妻は「お~90年~♪」と喜ぶ。

20161220domperig

グラスに注がれると濃く美しい熟成のゴールドが揺れる。カフェオレ・ココア・砕いた黒糖・・若いドンペリニヨンの還元的要素はすっかり消えて上品なシェリーの酸化的なニュアンスも心地よい。湿気た木片のニュアンス・シロップ漬けのマスカット・熟した白桃・・グッと蕩けるような余韻はエレガントで長い。時間と共に白トリュフのニュアンスも立ち上がる。素晴らしい状態に妻も「これはかなり美味しい!」とクイクイ大満足の様子である。
そこに小岸シェフが自ら運んできたアミューズは4種類が登場する。まず目を引くのは黒い平皿の「アワビのタルト」だ。唐津産黒鮑500gを真空パックで5時間火にかけ、提供直前に仕上げた。アミューズとしては何とも贅沢な肉厚のアワビは、パイの風味と共に頂くパーフェクトな味わい。余韻には海の苦味と旨味がが追いかけてくる。更に白いカップに入った「あおさのりのチュイル」は、口に含むとパッと磯の風味が広がり、添えられたクレソンの苦みペーストもポイントだ。

20161220merveille3

切り株に乗っているのは「リードヴォー」。上には北海道・昆布森の雲丹をこんもりと盛ってこれまた何とも贅沢だ。そして小さなガラスボールには透明な「アコウの生ハム」、塩と砂糖をまぶして3日間かけて水分を抜いたものと言う。燻製のような風味がまさに生ハム的なニュアンスで面白い。その中に潜むのは「熊本産あか牛のサラミボール」。乾かして赤ワイン煮したもので、独特の風味が面白い。
それぞれの食材の特徴がぐんと口の中で伸びてくる。その凝縮した味わいはフレンチのスタートとしてぴったり、アミューズとは思えない満足度高い品々であった。ちなみに白器は「肥前吉田焼」、有田焼と同様400年の歴史がある佐賀の磁器。小岸シェフの友人である若手作家とのコラボ皿で、今後も色々企画していると言うから楽しみだ。

20161220merveille2

前菜の一品目は「マグロのグリエ」。壱岐の本マグロをグリエした表面は敢えてそぎ落とし、ゆっくり熱の入った中心部分をメインに提供したもの。何とも小岸シェフらしい丁寧な仕事ぶり。レッドペッパーをベースにゴマや山椒などを調合した、シェフオリジナルスパイス(九味唐辛子)を付けて頂く。添えられた3種の茄子は「高知産小ナスの真空調理」、敢えて炭の部分を残した「焼き茄子のピューレ」、そして皮を外した「茄子と生姜を合わせたピューレ」。
繊細な変化に富んだ小岸シェフらしい一品に感心する。ちなみに月面クレーターの様な黒い平皿は、アミューズ「アワビのタルト」で出された平皿と同じ有田焼(カマチ陶舗)のサイズ違い。さぁ続いて「ミシェル・ブラス(Michel Bras)」出身の小岸シェフならではのスペシャリテ「ガルグイユ」がやってきた。毎回何らかの小岸シェフならではの工夫が潜んでいて楽しみな「小岸流ガルグイユ」だ。

20161220merveille1

「ベルナルド エキュム ホワイトプレート」に浮かび上がる蕪・大根・紅芯大根・ハーブ・人参・ブロッコリー・・と今回も100種類を超える根野菜・香草類を、それぞれ細かく火入れして彩り豊かに美しく皿にデザインしている。そしてそれらを覆う様に何と!フランス産黒トリュフとアルバ産白トリュフ(妻の悲鳴 笑) 肉厚にた~っぷりと削ってあるではないか!「この時期だけの黒トリュフと白トリュフの出会いです」と小岸シェフ。
とにかくテーブルが贅沢な妖艶な香りに包まれる。白トリュフのニュアンスが出た熟成の「ドン・ペリニヨン 1990」とも実に見事なハーモーニを演じてくれる。美しく重なる温・冷野菜の底に隠れた「ヘーゼルナッツのドレッシング」「黒トリュフのピューレ」が何とも旨味美味であり、最後まで飽きずにパクパク一気に頂いた。この短期間だけ重なる白と黒の贅沢さと言う事で妻は「正にタキシード・トリュフね!」と勝手に名付けて楽しむ(笑)

20161220merveille6

芳醇な香りに包まれ興奮冷めやらぬ中更に運ばれたのは、深海の様な青さの有田焼(カマチ陶舗)に浮かぶ赤く美しい「車海老」。「美しく香しい山から今度は海に潜るわ~♪」とまだ夢心地的な妻。福岡県産天然車海老をさっと1分程度火を入れて芯温44度で仕上げた。「一番甘みの出る温度を狙ってます」と小岸シェフ。ソースは、ツガニ(モクズガニ)を皮ごと潰してトマトや水と共に煮出したもの。トマトの自然な甘さと蟹の風味が調和してる。更に添えられた自家製XO醤もアクセントだ。
甘く旨味を感じる車海老を、繊細かつモダンなフレンチらしく楽しめる一皿であった。この時点で妻はもうお腹いっぱいになって来たと言っていたがまだまだ続く。次は白大理石風球体の有田焼(カマチ陶舗)で出て来た「フォアグラ」。47度で火を入れ2週間熟成させたもの。今回のフォワグラは焼き菓子のフロランタンをヒントに仕立てたということだ。

20161220merveille5.jpg

滑らかな食感のフォアグラに寄り添わせるため、キャラメルは口溶け滑らかな仕上げに留めている。そこにバニラ香、レモンの酸味も加えたジャガイモのソースやバルサミコソースも添えている。付け合わせのあんぽ柿も面白い。「本当だ、お菓子みたいね♪」と気に入った様子の妻。続いて運ばれたのはファブリックの織り模様モチーフの白皿「ベルナルド オルガンザ」。中には長崎産ノドグロが、最近小岸シェフが凝っている干し野菜と共に鎮座する。
ノドクロは皮目をパリッと焼き上げた後に、オーブンの余熱でゆっくりと火を入れたものだ。テーブルでソースが注がれて完成する。海老をベースにしたソースは、ベトナムコリアンダーにレモングラスや生姜も纏わせてトムヤムクン風に仕上げた。このプレートには数日間かけて水分を抜いた金時草が添えられてあった。パリッとしつつ独特の風味が余韻を彩ってくれた。さて赤ワインは藤井ソムリエのお勧めの中から選ぼう。

20161220merveille7

ブルゴーニュ「ロベール・グロフィエ ボンヌ・マール グラン・クリュ(Robert Groffier Bonnes Mares Grand Cru) 2004年」だ。他ドメーヌの90年代も勧めてくれたのだが、久しぶりに「グロフィエ」をチョイスする。1933年創業、シャンボール・ミュジニー村の代表的なドメーヌ「ロベール・グロフィエ」。1級畑レ・ザムルーズの最大の所有者になる(所在地はモレ・サン・ドニ)。上品でエレガントな飲み口で好きな作り手の1つだ。
ボンヌマールは0.97ha、平均樹齢40年。グラスに注がれると辺縁は薄く熟成を感じさせる・・しかし味わいはまだまだフレッシュでパワフル。特にローストした甘い樽香が支配的だが、黒い果実の厚みを感じる、好ましいスパイシーな香りもグラスの周りに漂う。グロフィエで感じる背筋の通った上質なミネラル感は解けている。上質なタンニンは溶け込みつつあるもまだ若干の苦味を残す。重心の低いどっしりとした余韻は長い。予想よりも若く最後まで開ききらずフレッシュ。

20161220domperig2

2004年というオフヴィンテージのせいか果実の凝縮感が弱くて樽香に負けている気もする。妻は残念ながら1杯も飲まなかったが(次回デートの赤ワインのハードルが上がってしまった・・)、それでもボンヌ・マールらしい果実のふくよかさとグロフィエの上品さは伺い知れた。さてそこに登場するはメインの「スコットランド産ベキャス」、これもカマチ陶舗の重厚な平皿だ。
ベキャスを何と!?鯖と焦がしたホワイトチョコレートで香り付けしたソースで頂くのだから驚く。一週間ほど熟成させたスコットランド産ベキャスの胸肉は、ハーブ等と漬け込んだ後にゆっくりとローストした。「ベキャスは熟成させるとアンチョビ的な雰囲気が出るので、そのイメージにソースを寄せていきました」と言う事だ。なるほど・・確かに血の風味が強い独特なベキャスをきちんと受け止めつつ、更に味わいを共鳴させ増幅させていた。

20161220merveille8

「ベキャスが鯖になってる!もう鯖食べてる気分?!」と妻は目を白黒させながら楽しんでいた。黒トリュフをイメージして竹墨で包んだリゾットや揚げたエシャロット、イカと共に最後まで飽きずに楽しめる。ベキャスの頭にかぶりつきながら、この時期ならではのジビエの醍醐味を最後まで堪能した。残ったグロフェエで一息付いてアバンデセールがやって来る。大きなカクテルグラスには「北海道産ホオズキのソルベ」と「カワラマツバをオイル漬けしてソルベ」が並んでいる。
カワラマツバには「変わらぬ愛」と言う花言葉があるそうで、妻は「この時期らしいLOVEな演出ね♪」と納得している。福岡名産苺おまおうのクランブルなど共に、さっばりしつつしっとりとして落ち着きのあるデセールであった。そしてデセールがまた驚くボリュームで登場する、テーブルにはまた艶めかしいトリュフの香りが充満。「カマチ陶舗 水墨(Sui-boku)」にはヴァローナ社のチョコレート、そして何と白トリュフと黒トリュフのアイスクリームがドーンと盛り付けてあると言う贅沢さ。

20161220merveille10

チョコレートは米粉を使って少し軽さを加えた。白トリュフのアイスには金箔、黒トリュフのアイスにはチョコクランブル。お腹一杯っだったはずの妻もフレンチらしい濃厚なデセールに大興奮、最後まで食べつくしていた。ディナーの満足感を更に一段引き上げてくれる迫力リッチなプレートであった。最後は藤井ソムリエお勧めの「八女産ほうじ茶」と、各県細部までパズルの様に模られた「九州型クッキー」が運ばれた。
「意外と地元佐賀が小さくなっちゃいました~」と相変わらず細かい作業が得意の小岸シェフ。凝ったプチフールを頂きながら色々近況など歓談する。この日テーブルに飾られてた彼の未完の絵画や、フランス・ラギオール村を描いた他の作品も見せて貰い、ワイワイ楽しい時間を過ごした。そうそう、先月末は来日していた恩師ミシェル・ブラス氏がちょうど70歳の誕生日だったと言う事で、身内だけのパーティーに呼ばれてわざわざ北海道まで駆けつけたとの話もあった。

20161220merveille9

気が付けば色々話も尽きずすっかり長居してしまった、名残惜しい気持ちで皆に手を振り店をバタバタと後にする。博多駅前広場に出ると、まだまだ沢山の人でごった返している。皆イルミネーションをカメラに収めて大賑わい、タクシーも行列待ちだ。これから年末年始、九州で一番混雑するここJR博多駅。
年明け静かになったら小岸シェフの美味しい料理をまた食べに来よう・・そんな話をしながら夫婦2人機嫌よく帰路に就く。さぁいよいよ今週はクリスマス、イベント目白押しだ。体調管理を怠らずしっかり楽しむとしよう。

20161220merveille