冬らしい寒さになった日、妻と向かったのは映画館。フランス・ブルゴーニュ地方の老舗ワイナリーを描いたワイン映画「ブルゴーニュで会いましょう(原題:Premier Cru)」を観に来た。人混みを嫌う妻の為に事前に日時を厳選しておいた為、正に貸切状態で自宅の様にリラックスして映画鑑賞ができた。驚くべき環境に妻も上機嫌だった。
主人公シャルリは「イヴ・サンローラン」で監督・脚本を務めたジャリル・レスペール(Jalil Lespert)。頑固な父親役に「そして友よ、静かに死ね」のジェラール・ランバン(Gerard Lanvin)。ヒロインは「シェフと素顔と、おいしい時間」に出ていたアリス・タグリオーニ(Alice Taglioni)。若くして実家の老舗ワイナリーを離れた主人公が、パリで著名なワイン評論家として活躍しているところから話は始まる。

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「ホテル プラザ・アテネ パリ」やシャネルの服などパリの優雅な生活が描かれる。そんな彼がワイナリー倒産の危機に実家へ戻り、父とワイナリー再建を目指すと言う内容。まぁ思ったとおりの軽い流れで色々突っ込みどころもあるが、何より雄大なブルゴーニュの景色を大きなスクリーンで見る価値はあるだろう。
現地に行った事がある人は、その土の匂いや風すらも感じれる様な美しさだ。その他には、現代の業界の流行り、ボルドーとの関係など面白かった。そうそう映画の後半、親子の重要な場面で登場するのは「DRC ロマネ・コンティ 1966年」だった。案の定、妻は「ラムロワーズの料理にはやっぱりDRCでしょ?」と軽く言う。

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この翌週はインターコンチネンタル大阪で、ブルゴーニュの3ツ星「メゾン ラムロワーズ(Maison Lameloise)」エリック・プラ(Eric Pras)シェフを招聘したフェアをやっており、私達はディナーを楽しむ予定だったのだ。ただでさえ信用できるDRCが手に入りにくい現在、レストランでも置いているとは限らない。
フランス・ブルゴーニュ地方ヴォーヌ・ロマネ村ドメーヌ・ド・ラ・ロマネコンティ(Domaine de la Romanee-Conti、DRC) 社」。名前は、ローマ時代からブドウ栽培が行われていた土地との事で「ロマネ」、1760年に所有者となったコンティ公ルイ・フランソワ・ド・ブルボン(ルイ15世の従兄弟)から「コンティ」となったらしい。その当時はコンティ公爵が友人とともに味わうプライベートワインだったのだから驚く。

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2000年以上葡萄だけを育てて来た最も理想的な土地、そこにできた特別な葡萄。歴史に翻弄されながらも頑なに丁寧な伝統的ワイン造りを続けて来た。その結果こそが今の神話的ワイン「ロマネ・コンティ」の存在と言う訳だ。そんなDRC社が所有するグラン・クリュは「ロマネ・コンティ」「ラ・ターシュ」「リシュブール」「ロマネ・サン・ヴィヴァン」「グラン・エシェゾー」「エシェゾー」。
ちなみに中世時は「ロマネ・コンティ」「ロマネ・サンヴィヴァン」がサン・ヴィヴァン修道院所有で、「リシュブール」「ラ・ターシュ」の一部はシトー修道院所有だった。ヴォーヌ・ロマネ村のグラン・クリュは1haあたり収穫3500Lまでと定められているが、ピノ・ノワール種1.8haから生み出される「ロマネ・コンティ」は1L~3Lで平均年産約4000~7000本。その希少性から世界で最も高額なワインになっている。

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この「ロマネ・コンティ」についてワイン評論家のマット・クレイマー(Matt Kramer)は、「『ロマネ=コンティ』の名を高らしめたのは、それが『ラ・ターシュ』や『リシュブール』より断然優れているからでなく、完璧な球体ともいうべきワインだからだ・・そもそもこの両巨頭よりずっといいかというとそう言う事はない。しかし、その完璧さは洗練の極みといってよく、かけがえない。心を打たれるのは、果てしない複雑さを見せながらも決して人をくたびれさせないからだ」(ブルゴーニュワインがわかる 白水社)
また1981年からブルゴーニュに在住する専門家であるジャスパー・モリス(Jasper Morris MW)は「DRCのワインは、ブルゴーニュでもっとも華麗というだけでなく、まちがいなく洗練の極みである・・ワインライター、評論家たちは何世紀にもわたって、ラ・ロマネ・コンティをブルゴーニュで最上の畑だと記してきている」(ブルゴーニュワイン大全 白水社)

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家で開けた「DRC ロマネ・コンティ(Domaine de la Romanee-Conti Romanee-Conti Grand Cru) 2004年」は5663本が作られた(ラベルにナンバリングされている)。ラベルのシンプルさからも「DRC」の自信の程が伺えるようだ。コルクにはお馴染み「ロマネコンティの十字架」の焼印。用意するのはもちろん「バカラ ワイングラス デギュスタシオン・ロマネコンティ(Baccarat Degustation Glass Romanee Conti)」。
高さ23cm・直径15cm・容量1.5L、水槽のように真ん丸大きなそれは、バカラで最も大きいと言うロマネコンティ専用グラスだ。それに注ぐと波打つ茶褐色。バラ・香水・スミレ・じゃ香・・・果実の凝縮した艶めかしい甘さが支配的。最初から「DRC香」といわれる華やかで美しい、そしてピュアな香りが立ち上がる。「DRC香」は醸造所に住み着いた野生酵母のなせる技とも言われている。

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ただこの「2004年」は天候不順な年だったこともあり、2000年・2005年には行った全房発酵ではなく3~4割を除梗した。その為かえって我が家のように、オーガニック的要素が苦手なタイプには親しみやすいかもしれない。また「2004年」はタンニンが強いため、キュヴェゾンは最短の18日だったという。このように、細やかな毎年の微調整を完璧に行い続けるところが、まさに「DRC」たる所以と言えそうだ。30分もすると程よい苦さも余韻に出て来た。
10年で開けた「ロマネ・コンティ」は、生き生きとフレッシュ、早飲みながらも味わいの変化がうかがえて楽しい。ロマネコンティ専用グラスのたっぷり丸い形は十分に空気に触れて香りも開くのだが、なかなかの遅咲きで飲むペースが速い私達にはじれったい。1時間半もするとタンニンも更にこなれ表情を変えてきた。ちなみにマイケル・ブロードベントは、「DRCは注いだばかりと大きなグラスに入れて2時間経ったものは同じワインとは分からないほど違っている。瓶からの即断は誤解を生む」と述べている。

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苦みを伴った上品な酸味が広がり初めて印象を変えてくる。丁寧に作られた繊細な「美術品」で、捕え所のないと言う感じかもしれない。ぐんぐんと若さ故の味わいだ。ところが3時間するとミネラル感がさらに表に出てきて、甘さは奥深いチョコレートのようになって行った。どの時間に飲んでもエレガントさや新鮮さを失わず様々な表情を見せてくれること・・「ロマネ・コンティ」の素晴らしさの一つと言えそうである。
ヴォーヌ・ロマネの伝説の作り手アンリ・ジャイエ(Henri Jayer)曰く「テイスティングとはなによりも楽しみなんだ。論評しようという気持ちが感覚の喜びを押しのけるようなことがあれば、それは本末転倒というものさ。・・本物のブルゴーニュワインには美しい色合いがあり、果実の香りや絹の舌触りがあるんだから」(アンリ・ジャイエのワイン造り ジャッキー・リゴー著 白水社)

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そんな言葉をしみじみ思い出させてくれる奥深さ。ワインという嗜好品は、飲み手の好み、経験、ボトルの個体差で意見が割れるのは当然なものであるが、このワインに関しては語るだけヤボという感じだった。(追記:帝国ホテル東京「レ・セゾン」アラン・パッサール来日ディナーで開けた「ロマネ・コンティ 1998」はこちら) と言う訳で話を戻して、映画を見た翌週のインターコンチネンタル大阪で行われた
「メゾン ラムロワーズ」エリック・プラシェフ来日ディナーにて。「当然DRCだよね?!」という妻を横目にワインリストを拝見する。高山ソムリエ曰く「ホテルが出来てまだ3年ですので、熟成したワインは少ないのですが、DRC含めてやはり身元のはっきりしたワインだけを提供する様にしています」と言う。オンリストされていた「DRC リシュブール(Domaine de la Romanee-Conti Richebourg Grand Cru) 2008年」を開ける事にした。

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若くても信用できるDRCを飲めると言う事は嬉しい(ホッとする 笑) 「リーデル ソムリエ ブラック・タイ ブルゴーニュ・グラン・クリュ」に注がれると、赤い果実と黒い果実のジャムが重なりつつ、洗練されたミネラル感が上品さを醸し出す。開ききらないが、華やかでいて優しいアロマは何とも香しい。1時間半もするといわゆるDRC香が溢れる様に流れ始め、妻も「この香りはやっぱりたまらなく魅惑的ね」とうっとりしていた。
樽香と果実の凝縮感が前面に出て、まだ複雑さまで発展しないとはいえ、その奥にチラホラと「リシュブール」らしい高貴なニュアンスが感じ取れ、満足度の高い1本であった。そう言えば昨年家で開けたのが「DRC リシュブール 2003」。これはDRC香控えめで。スミレ・小梅キャンディ・濃いめの紅茶・葉巻・・それらが時間と共にゆっくりと香る。

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まず舌先に甘美な甘みを感じ、続いて紳士的に落ち着いた酸・・その酸が余韻を広げるが余韻自体は短め。それでもシルキーでスルスルと飲める味わいはどこまでも気品がある。ビオワインは苦手な妻も「上品な華やかさが良いわ♪」と楽しそうだった。数年前に六本木「エディション コウジ シモムラ」で開けた「DRC リシュブール 2000」も、華やかですみれのような香りで、穏やかな甘みに続く長い余韻が印象的だった。
先月は日航福岡で、2ツ星であるアヌシー・ル・ヴュー「ル・クロ・デ・サンス(Le Clos des Sens)」の、ローラン・プティ(Laurent Petit)シェフを招聘したディナーで、「DRC ラ・ターシュ(Domaine de la Romanee-Conti La Tache Grand Cru) 1989年」を開けていた。ソムリエが我が家の為に、ホテル日航福岡のセラー奥から探し出してくれていた秘蔵の1本だった。

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最高峰「ロマネ・コンティ」の南に位置する第二のワインがこの「ラ・ターシュ」。「ロマネ・コンティの腕白な弟」とも呼ばれ、年度による差が余りなく安定した美味しさに定評がある。ピノ・ノワールの6.06ha、年間1800ケースが造られている。この「1989年」はネックのラベルはボロッとはがれて、コルクも危うい状態に少々心配したが状態は良かった。グラスに注ぐと上部はクリアで熟成らしい茶色を帯びた薄めの赤。
カツオ節を彷彿とさせる旨味が柔らかい球体を形作る。時間も経たないうちに複雑に熟した香りが流れ出す。アタックから中盤は熟成により柔らかいが、余韻は力強く「ラ・ターシュ」の本領発揮と言う感じだ。じっくり味わって行くとむしろ若々しさが顔を出して来た。RDC香と湿っ気たスパイシー・・若い時の力強い果実の凝縮感がほどけていき、数段上のステージに達した感じ。

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熟したブルゴーニュの旨味・複雑さとまだ残ってる若々しさがせめぎ合いつつも、優しさと力強さが見事に調和した味わい。2時間近くするとミネラリティーでローズウォーター的な雰囲気も醸し出しエレガントさも纏ってくる・・時間と共に次々と表情を変える深遠でいて、ある意味分かりやすいラ・ターシュらしい1本であった。(追記:「ラ・ターシュ 1999」はこちら)
今年の正月には「ラ・ターシュ 2009」を開けた。動物の毛・淡いインク・薔薇の花束・・DRC香を確かに感じるが、どこか落ち着いている。アタックは存在感がない程スムーズながら、凝縮感のあるタンニン、力強い赤い果実味が広がった。まだまだ強いタンニンも、このロマネ・コンティ専用グラスだと柔らかさが表に顔を出す。口中全体から液体が入って来るので、舌両側の酸味部分も刺激するためバランス良く感じやすいのかもしれない。

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振り返れば、以前家で開けた「DRC ラ・ターシュ 1998」は、レモンティー・ダージリン・上品な毛皮・・奥に感じる獣っぽさが複雑な熟成感を醸し出す。時間とともにドライフラワーも広がる。アタックはしなやかでかなり美しい。そこから余韻にかけてチャーミングな甘味と好ましい酸味が続き、凝縮したエキスのような旨みが残る。しばらくすると透き通ったミネラル感が押し出してくる。シルキーでいながら酸・タンニンも十分にある。まだまだ力強さを秘めているが1時間すると香りがいきなり開き始めた。
DRCらしいフローラルな香りが可憐に香る・・そこにベジタブルな要素や熟成のキノコの要素も複雑な様相を見せつつ絡み合ってくる。最後まで力強さと可憐さがせめぎ合う素晴らしい「ラ・ターシュ」であった。今年の夏には、恵比寿「ジョエル・ロブション」で「DRC エシェゾー(Domaine de la Romanee Conti Echezeaux Grand Cru) 1989年」を開けている。エシェゾーは畑4.67ha、平均樹齢32年、年間生産約1300ケース。

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この「1989年」は「豊潤で果実味に溢れている」「温度管理を行い、収量制限を怠らなかった作り手が素晴らしい成功例に仕立て上げた」と言われてる。グラスに注がれると美しくクリアな赤茶色。カツオ出汁・ドライフルーツ・火のついた葉巻・濃紅茶・獣の毛・・・穏やかで上品ながらも複雑な香りが流れ出す。信国ソムリエも「きっちりと開いてますね・・かなり良いです!」と太鼓判だ。何ともチャーミングで若さもどこか感じられる。
ロブションもDRCを信頼できる1社からしか仕入れない(昔は数社から仕入れていたがやめたということだ)。それでも「ロマネ・コンティ」は開けてみるまで分からないと言う。液面が良くても今1つだったり、キャップシールから少し漏れていても抜群だったり・・ワインに正解がないことを思い知る。昨年のジョエル・ロブション来日ガラでは、信国ソムリエが「DRC エシェゾー 2000」をグラスで出してくれた。

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まさにDRC香・・赤い果実のジャム、仄かなスパイスなど穏やかながら複雑なかぐわしい香り・・心地よい余韻も長い。この「2000年」はロブションセラーにある最後の一本と言う事だった。そう言えばピエール・ガニェール来日時には「DRC エシェゾー(Echezeaux) 2006年」を開けた。フローラルでスモーキー、ドライフルーツの香りがグラスから立ち上がる。存在感のあるタンニンはどこか上品でしなやか・・
凝縮感が程よい感じでほぐれつつあり、既に飲みやすい。どんどん開いてスパイシーさも広がり、楽しく飲み干したのを思い出す。その年には「オーグードゥジュール メルヴェイユ博多」でも「DRC エシェゾー 2008」を開けている。60000円というほぼ市価に等しい値段に驚いた。さすがに微炭酸を感じる程の若さで、エスプレッソのような樽香が強いものの、さほど凝縮感はなくタンニンも滑らかで意外とさらりとした飲み口。

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デカンタージュして2時間もすると酸味も広がりバランスが取れ、スパイシーさが弱々しくも感じられようになった。その前には西麻布「レフェルヴェソンス」で「DRC エシェゾー 2007」も開けた。ここでも5万円という良心的な値付けに思わずチョイスした記憶がある。ついでにエンリコ・デルフリンガー来日の銀座「アルマーニ / リストランテ」でディナー満喫後、上階のワインラウンジでグラスで飲んだのは「DRC エシェゾー 2004」だった。
2年前のクリスマス時期には芝公園「レストラン クレッセント」にて「DRC ロマネ・サン・ヴィヴァン(Domaine de la Romanee Conti Romanee St Vivant Grand Cru) 1995年」を開けた。洋館の地下ワインセラーには約8000本のワインが絶好の環境で眠っている。その中から畑山シェフソムリエがリストに載せてない1本を出してくれたのだ。なめし皮・動物の毛・キノコ、その奥に果実の凝縮感が潜んでいる。時間とともに紅茶、葉巻も。タンニンは溶け込んでいるがまだまだ若々しさも感じさせる。

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綺麗な酸が余韻に漂うのはさすがと言った感じ。保存状態がすこぶる良くとても満足した。そう言えばジョエル・ロブション来日ガラで開けたのも同「DRC ロマネ・サン・ヴィヴァン 1995」だった。その時は信国ソムリエが「複雑な香り、オレンジ、そして紅茶をたいたような香り・・キノコのような香りも少しですが出始めています」とコメントしていたのも思い出す。
そして福岡「レストラン花の木」で開けたのは「DRC ロマネ・サン・ヴィヴァン 2000」。ブルゴーニュでは雲が多く難しい年だった2000年でもさすがDRCは無難にまとめていた。凝縮感はないが果実のパワーが迫ってくる。どこまでもすべらかなタンニン。オリエンタルスパイスにシナモン、野薔薇や香水、さらに赤い果実を煮詰めたような華やかな香り。奥に感じる枯葉や紅茶のニュアンスが熟成の始まりを感じさせた。

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同「花の木」で以前飲んだ「DRC ロマネ・サンヴィヴァン 1994」よりも若々しいがまた別の楽しさがあった。・・とそんな感じでレストランでの美食とともに様々なDRCを想い出しながら、セラー室にこもり年末年始に開けるワインを選んでいくのも楽しい時間だ。そうだな、並ぶDRCの中から静かに取り出すは、DRC十字架が浮き上がる木箱に入った「DRC ロマネ・コンティ」・・これは次の結婚記念日にでも開けるとしようか(妻の悲鳴 笑)