この日我が家がやって来たのは大阪うめきた、JR大阪駅北側に位置する再開発エリアの「グランフロント大阪(GRAND FRONT OSAKA)」だ。その一角にある「インターコンチネンタル大阪(InterContinental Osaka)」にて開催された来日シェフズイベントが目的。
フランス・ブルゴーニュ地方シャニィ村の「メゾン・ラムロワーズ(Maison Lameloise)」。1921年に創業のフランスを代表するレストランの1つで、宿泊施設も併設しルレ・エ・シャトーのメンバーにも選ばれている。ミシュランは1926年に1ツ星、1931年に2ツ星、そして3代目のジャック・ラムロワーズ(Jacques Lameloise)シェフが1979年に32歳でミシュラン3ツ星を取った(2005年に一旦2ツ星に落ちたが2007年に3ツ星に復活)。

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2009年にジャックが引退してから、4代目シェフのエリック・プラ(Eric Pras)シェフが指揮を取っている。2004年にM.O.F(フランス国家最優秀職人)を獲得したエリックは「トロワグロ」「ベルナール・ロワゾー」「ピエール・ガニェール」「アントワーヌ・ヴェスターマン」などを経て「メゾン・ラムロワーズ」に至る。
そうそのエリックシェフが、2人のスタッフと来日してのフェアなのだ。夕刻、宿泊する「デラックススイート」で一息ついてから会場となるホテルメインダイニングのコンテンポラリーフレンチ「ピエール(Pierre)」へ向かう。ちなみにピエールの料理長はニースに戻ったピエール アルトベリ(Pierre Altobelli)から大久保晋シェフが跡を継ぎ、「ミシュランガイド京都・大阪 2017」でも1ツ星を獲得している。

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エントランスのアプローチは左右には天井までそびえる美しいワインセラー・・妻は綺麗ね~とうっとり見上げる。ダイニング全体も天井が高く大きな窓の外は大阪の街が一望出来て開放感がある(84席)。右側にはメタルとガラスに囲まれた大きなオープンキッチン、シェフズカウンターの備えてある。広がる奥のスペースには窓に向かうカップル向けソファー席など、豪華で洗練モダンな内装デザイン。
明るいオープンキッチンを直ぐ背にカップル向けソファー席に案内され、妻も「ゴージャスね♪気に入ったわ」と機嫌が良い。すぐ後ろでは既にエリックシェフと、ホテルの総料理長であるトビアス・ゲンスハイマー(Tobias Gensheimer)シェフが作業中である。テーブルにはクロスでなく、インテリアに合わせたレザーのマットが敷かれているのも珍しい。

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ではまずはシャンパンで乾杯しよう。早速手にするワインリストの中から目を引いた「セドリック・ブシャール ローズ・ド・ジャンヌ コート・ド・べシャラン(Cedric Bouchard Rose de Jeanne Cote de Bechalin Blanc de Noirs)」をチョイスする。我が家もお気に入りのレコルタン・マニピュランの1つ。日本のレストランのリストで見かける事は少なく「ピエール」のワインへの力の入れ具合を感じさせる(400銘柄2000本程を揃えている)。
シックで黒いラベルも印象的だ。セドリック氏が父から受け継いだ畑コート・ド・べシャラン。樹齢約40年のブドウで造り出すブラン・ド・ノワールになる。天然酵母による発酵、ステンレスタンクによる熟成。グラスに注がれると、やや赤みを帯びたゴールド、クリーミーな泡立ちから滑らかなタッチだ。「泡が好きではない」と言い切るセドリック・ブシャールらしいアタック。

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華やか甘い果実と洗練された酸が一つの味わいを構成する。時間が経つと共に白桃・白い花の蜜・ややシロップ的なニュアンス・・これでノンドサージュだから驚く。非常に完成度の高い余韻だ(妻的には華やかさにかけると今一つの様子)。そこに運ばれて来たのは3種類のカナッペ「鯖のマリネ」「コンテのシュー」などを手で頂く。風味豊かで洗練された味わいを「ローズ・ド・ジャンヌ」と楽しむ。
続くアミューズはほうれん草の上にクリームソースを乗せたもの。中央の鶉の卵を崩しながら色鮮やかなパセリのギモーヴと共に頂く。赤ワインでマリネしたマッシュルームは、酸味を仄かに感じる味わいで良かった。ちなみにパンは通常「ピエール」で提供している「カボチャ」「くるみ」「田舎パン」の3種類。さぁ次にやって来るのがお目当ての一つであるラングスティーヌ。

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2種類の調理法で味わうラムロワーズのスペシャリテ「手長海老のマリネとライスパフのクリスピー 根セロリと青りんご ファロマスタードのクリームとキャビアクリスタル」だ。2プレートが並べられる。まず左側のライスパフを纏わせて香ばしく焼き上げた手長海老を口に含んだ状態で、右側のタルタルを食べて食感の変化を楽しんで欲しいとの事。
クリスピーの上にはキャラメルのビターなソースが敷かれている。生にはガラスの器に入れた青リンゴとグリンピースの二層になったムースもそれぞれ添えられ、最後まで飽きさせない。滑らかなテクスチャーに続く余韻は青リンゴの落ち着いた酸味。更にニンジンのチップスやアキテーヌ産キャヴィアも添え、仕立ても華やかに気分を盛り上げてくる前菜であった。

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続いて運ばれたのは「エスカルゴのフリカッセと蛸のコンフィ オニオンとハーブ ブイヤベース サフラン風味のマヨネーズ ブルゴーニュスタイル」。「ベルナルド エキュム ホワイトプレート」に乗ったエスカルゴのフリカッセに、オレンジ色の甲殻類と魚のプイヤベースソースが注がれて完成する。こちらはいかにもブルゴーニュらしい一皿だ。全てラムロワーズで出している料理を提供し、「ピエール」の要素はないとの事。
サフラン風味のマヨネーズとかなり濃厚なプイヤベースのしっかりした味わいが、凝縮感のある赤ワインにも寄り添う。「ローズ・ド・ジャンヌ」に続けて開けた赤は「DRC リシュブール(Domaine de la Romanee-Conti Richebourg) 2008年」。先日開けた「DRC ラターシュ 1989」が美味しかった事もあり、「今夜はブルゴーニュの3ツ星に相応しいDRCにしてね!」と言う妻の所望でチョイスする。

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メートル・ド・テルでもある高山毅シェフ・ソムリエ曰く、「ホテルが出来てまだ3年ですので、熟成したワインは少ないのですが、やはり身元のはっきりしたワインだけを提供する様にしています」と言う。なるほどこの1本も「ファインズ」の正規品ということで、確かに保存状態がとても良かった。
「リーデル ソムリエ ブラック・タイ ブルゴーニュ・グラン・クリュ」に注がれると、赤い果実と黒い果実のジャムが重なりつつ、洗練されたミネラル感が上品さを醸し出す。開ききらないが、華やかでいて優しいアロマは何とも香しい。1時間半もするといわゆるDRC香が溢れる様に流れ始め、妻も「この香りはやっぱりたまらなく魅惑的ね」とうっとりしていた。

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樽香と果実の凝縮感が前面に出て、まだ複雑さまで発展しないとはいえ、その奥にチラホラと「リシュブール」らしい高貴なニュアンスが感じ取れ、満足度の高い1本であった。さて続いて「鱸のスチーム シャルドネと菩提樹」が白磁美しい「ベルナルド ビュル プレート」で供される。テーブルでアイボリーのソースが注がれて完成だ。スズキを柔らかい火入れと優しい味わいで纏め上げた一皿。若干緩い印象もあるが、ブルゴーニュでは人気の定番との事。
シャルドネを使ったソースも余韻に繊細な酸味を加えてくる。シンプルな鱸の味わいを、エシャロットとリンゴ、ハーブ、スパイス、赤ワインなど様々な付け合わせで食べ手自ら変化を加えながら頂くという趣向だ。先程のエスカルゴのプレートの濃厚さとはトーンを変えてメリハリをつけたことが伝わって来る。更に続いてメインは「ブレス産仔鳩のロースト スライスしたフォワグラ 蕪とビーツ マジュラム風味のジュ」。

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これは銀色に輝く「ベルナルド エキュム プラチナプレート」で登場する。「エキュム ゴールド」と言えばやはり恵比寿「ジョエル・ロブション」が印象的だが、ここ数年は全国のフレンチレストランでもエキュムシリーズを良く見る様になった。しかし「エキュム プラチナ」は数える程で地味な印象になりがちだったが、ここで見るプラチナは何とも美しく煌めいて印象が違った。
妻も「インテリアのスチールや照明との相性が格別に合っているね」と感心。そんなプレートの中央に鎮座する「ブレス産小鳩胸肉」の上にはスライスしたフォワグラ。その食感の付け合わせが面白い。コンフィした骨付き腿肉も添えて。テーブルで注がれるのはマジョラム風味を漂わせた鳩のジュのソース。その濃い色合いがまたプラチナ色と良く合いつつ、最後の確かな食べ応えにつながる。

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前皿の鱸とはまたガラッと趣きが変わり、グッと濃い味わいに纏め上げている。開き始めて甘みと旨みの乗って来た「リシュブール」とも良い塩梅で調和してくれた。アヴァンデセールは「エキュム ホワイト」に乗せられた「ライチとグレープフルーツ」。ライチのエスプーマとピンクグレープフルーツのグラニテが、甘く爽やかで軽妙に混じり合い、心地よい気分転換となる。
そして輝く「エキュム ゴールド プレート」で出て来た「チョコレートとクロスグリ」がまたとても良かった。温度差を細かく計算した上で、目の前でトップのショコラを丁寧に乗せる。ベースにはチョコレートのムースにカシスの冷たいソースが潜んでいる。上に乗せた温かいショコラが溶けてカカオの香り、カシスの冷たい酸味・・ヴァローナ社ダークチョコレート「グラナダ」の濃厚さを十分に楽しめた。

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紅茶と共に頂くプティフールは、パッションフルーツのキャラメル、イチゴのパウダーを纏ったアーモンドクッキー、ショコラのサブレとトンカ豆のクリーム。最後まで味わい細かに美味しく頂けた。「メゾン・ラムロワーズ」で提供しているメニューで構成したという今回のフェア。完璧主義者のエリックシェフは来日は直前だったが、全ての料理をきっちり過ぎる位チェックしていたと言う。
コースの流れにメリハリがあり、食感の変化や食べ手が皿の上で味わいを完成させる事に重きを置いている。昔からの3ツ星なのでクラシック寄りかと思いがちだが、予想以上にエリックシェフの料理はモダンな味わい。軽さと濃厚さ、ピュアさと複雑さが代わる代わる顔を見せ、軽い味わいのモダンフレンチ好みの日本人には、馴染みやすいかもしれない。

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開放感ある洗練された空間で、的確なサービスとワインの提供と相まって、妻も「楽しいデートだったね」と満足な気持ちでレストランを後にし、宿泊する同ホテルの部屋に戻る。夫婦で窓から煌めく夜景を見下ろしながら一日を振り返り、遅くまでワイワイと楽しい大阪の一夜となった。