先日ボルドー「シャトー・ラトゥール」を特集したのに続き、今回は「シャトー・ムートン・ロートシルト(Chateau Mouton Rothschild)」を特集してみよう。いよいよクリスマスシーズン到来、街にイルミネーションが輝くこの時期にぴったりなのが、毎年著名画家が描かくラベルが華やかな「ムートン」。アート好きの妻は20年程ずっとラベルを集めていて、お気に入りを額に入れていた時期もあった。言わずもがな5大シャトーの1つ。1855年格付けから118年経った1973年、メドック地格付け1級に昇格した。
その時ラベルに記されたフィリップ・ド・ロチルド男爵(Philippe de Rothschild)の言葉が「我第1級なり、かつて第2級なりき、されどムートンは不変なり」に変更された事は余りにも有名だ(ちなみにその前は「第1級にはなれぬが、第2級の名には甘んじられぬ、我ムートンなり」)。思えば私が拝見した最も古いムートンは、イタリア・フィレンツェの「エノテーカ・ピンキオーリ本店(Ristorante Enoteca Pinchiorri)」地下セラーに鎮座していた「1889年」だ。

20161120mouton3

アートなラベルになる「1946年」よりずっと以前の物なので随分とシンプルなラベルだったが、とても綺麗に保存されていて驚いたものだった。ちなみに「1945年」は第二次世界大戦勝利記念と言う事でYear of Victoryの「V」がデザインされたラベルは有名だろう。そんな「ムートン」は20数年前は1万円を切る値のワインだったが、今では5万~8万円程度で推移する。正直同じ値段を出すなら「ラトゥール」「オー・ブリオン」の方が満足感が高い。
我が家的には5大シャトーの中では一番外れが多いのであるが、良く開けている(笑) と言う訳でこの週末に開けたのも「ムートン 1993年」だ。実はこのラベル、「20世紀最後の巨匠」と言われるフランスの画家バルテュス(Balthasar Michel Klossowski de Rola)作。まぁバルテュスと言えば「裸の少女」なので採用した時点で予想はされたはずだが、案の定アメリカ(ATF)では認可が降りずに一時輸入中止。

20161120mouton93b.jpg

よって改めてアメリカ用白紙ラベルを作って輸出し直したと言う事だ。つまり曰く付きのヴィンテージ。この日自宅のセラー室の整理をしている際、棚の奥に「1993年」のハーフボトルも見つけた。フルボトルではもう何本か飲んでいるが1993年のハーフは開けた事はない。よって飲み比べと言う事でフルとハーフを一緒に開けてみる事にした。カベルネ・ソーヴィニヨン84%、その他はメルロー、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルド。
1993年のボルドー地方は雨が多く、造り手の努力で差が付いたと言われている。グラスに注ぐと濃いルビー色。ベリー系果実・草のようなハーブ香・コーヒー的苦み・・ボルドーらしい複雑さだ。思えば今年の正月には「バロン・ド・ロスチャイルド ブラン・ド・ブラン・ブリュット 2006年」と共に「ムートン 1966年」を開けた。

20161120mouton66

ラベルを描いたのはベルギーを代表する画家、画家詩人集団「コブラ」創設メンバーでも知られるピエール・アレシンスキー(Pierre Alechinsky)。グラス片手に楽し気な「酒呑み雄羊」はアレシンスキー自身だ。グラスに注ぐと古酒らしい熟成した赤茶色。まさに枯葉・ドライフラワー・煮詰めたバルサミコ酢・・タンニンはすっかり溶け込んでいる。時間と共にしっとりと甘美なニュアンスを余韻に醸し出す。しかし妻は「やっぱりラトゥール1966には敵わなかったね」とつぶやいた。
う~ん・・それは否定しない。その少し前に福岡「レストラン花の木」で開けたのは「ムートン 1985年」。ポイヤックの当たり年の1つだ。長く暑い夏の後、収穫は理想的な条件下で行われた。「華麗な80年代の10年間におけるお気に入りのヴィンテージ。絶頂期のクラレットがどのようなものかを教えてくれる」とはマイケル・ブロードベント(Michael Broadbent)の評。

20161120mouton85

ラベルはベルギーの画家ポール・デルヴォー(Paul Delvaux)作のノスタルジックな「2人の女の子と葡萄」。その夜は妻が赤の華やかなドレスを着ていたので、ラベルに描かれた赤い服を合わせてみたのだった。樹齢45年以上、カベルネ・ソーヴィニヨン77%、メルロー11%、カベルネ・フラン10%、プティ・ヴェルド2%。枯葉のニュアンス、ムートンの獣っぽさは控え目、軽い飲み口に優しい余韻が広がる。
同「1985年」を2年前と8年前にも飲んでいたが、記録を見る限り緩やかに下っている感じであった。「ボルドーの1985年はいつも優しく柔らかい印象です」と黒木ソムリエが言ったが、なるほど穏やかな丸い感覚はビンテージらしさなのだろう。この年はやたらとムートンを開けていて「1989年」「2003年」「1970年」「1983年」と飲み比べていた。

20161120mouton89

簡単に振り返ると、「ムートン 1989」のラベルは旧東ドイツの出身の画家ゲオルグ・バゼリッツ(Georg Baselitz)作の「Die Mauer(壁)」。1989年はベルリンの壁が崩壊した年なのだ。バゼリッツと言えばやはり斬新な「逆さ」の絵。このラベルでも鮮やかにオレンジと緑で「逆さの羊」が描かれている。そしてメッセージ「druben sein jetzt hier」はかなり意味深いだろう。枯葉・燻った赤身肉・・アタックから中盤にかけては凝縮した果実の甘味が控えている。
余韻には熟したカベルネ・ソーヴィニヨンらしい涼やかなスパイシーさと、熟成方向の酸味が上品にとどまる。時間が経つにつれ力強さがにじみ出てくる感じは、その4年前に飲んだ同「1989年」と同じだったが、より落ち着きのあるしっとりとしたニュアンスは古酒に差し掛かったことを示すようであった。「ムートン 2003年」は「ムートン150周年記念」ラベル。購入契約書を背景にナタニエル・ロートシルト(Nathaniel de Rothschild)男爵の肖像画になっている。

20161120mouton03

妻はこのデザインに不満げではあったが、その3年前のクリスマスにも開けていた(笑) 40度にも達する異常な熱波が襲った「2003年」のボルドー。一部では偉大なワインが造られたとされる。パーカーは「まぎれもなくこのヴィンテージで最も偉大な作品の1つである。私の直観が正しければ、1982年以降で最も熟した、最も華々しいムートン・ロートシルトである」と述べている。3年前はまだかなり硬かった記憶だがどう変化しているだろうか。
土・枯葉に杉の香り・・スパイシーな余韻に続いて苦みが強く残る。ややバランスが気難しかったが、時間と共に湿った胡椒・茸・・絡み合ったような複雑な香りも。アタックはよりしなやかに変化していて何とも魅惑的。口の中でスムーズに広がり、スパイシーでいて洗練された余韻が長く残る。3年前より随分良くなっていた。

20161120mouton70

そして「ムートン 1970年」は、もう何本も開けているお気に入りのヴィンテージの1つだ。この夜は恵比寿「ガストロミー ジョエル・ロブション(Joel Robuchon)」での信国ソムリエお勧めの1本と言う事でチョイスした。ラベルは御存じ巨匠マルク・シャガール(Marc Chagall)。母が子に葡萄を与える様子が幻想的な色彩で描かれている。ロブションのセラーで長い間、静かに登場を待っていた「1970年」に期待も高まる。
ちなみにロブション価格はなんと10万円。当時市価でも7~8万円前後したから良心的な値付けはさすがと驚いたものだ。落ち着いた熟成香、上品ななめし皮、程よい湿った土のニュアンス・・上質な深まりを感じさせるブーケが流れ出す。タンニンはすっかり溶け込み、繊細で透き通ったような酸味が余韻に残る。抜群の保存状態に妻も上機嫌だった。そう言えば「ロブション来日ガラディナー」では「ムートン 1986年」も開けていた。

20161120mouton86

パーカーは「86年ヴィンテージの最も大柄なメドックの1つである」として100点を付けている。マイケル・ブロードベントも「抜群ピカイチの86年物という前評判。86年は全体に優れた食事向きワイン」とする。「1986年」のラベルは、ハイチ出身の画家ベルナール・セジュルネ(Bernard Sejourne)が描く「白色のネグリチュード」。闇に白く浮かぶい黒人の3仮面だ。コルクの状態が難しいようだったが蝋燭を使って慎重に抜栓された。
溶け始めたチョコレートにコーヒーの香り。綺麗な熟成感もあるのだがまだまだ若々しさも感じられる。熟成感と力強さが噛合った、こちらも抜群のコンディションだった。そしてホテルレストランで開けた「ムートン 1983年」は、ラベルがルーマニア生まれの近代美術家サウル・スタインバーグ(Saul Steinberg)作。クレヨンを用いた水彩画で、浜辺と空が広がる中に人が小さく佇んでいる。

20161120mouton98

寂しい風情そのままのタイトルで「孤独」。グラスに注がれると薄いレンガ色、腐葉土・干した果実の香りがうっすらと立ち上る。大きくはないが年相応のボルドーらしい熟成感を楽しめた。そして昨年家で開けた「ムートン 1998年」。ラベルはメキシコ人のの画家ルフィーノ・タマヨ(Rufino Tamayo)作「乾杯の音頭をとる男性」。
実は彼は「1990年」のラベルを描くことになっていたが、翌年亡くなったイギリスの画家フランシス・ベーコン(Francis Bacon)の遺作に差し替えられてしまう。その後タマヨの遺族が作品をムートンに寄贈したため、その意思に応える形で「1998年」のラベルに採用したと言う訳だ。グラスに注ぐと黒系と赤系が程よく混じった果実が流れ出す・・凝縮感は軽いが好ましい味わい。薄いコーヒー・落ち着いたアジアンハーブや細かく曳いた黒コショウ・時間の経ったインク・濡れた皮製品・・

0910relais2b

時間と共に刻々と変化するが、まだ若さがあり開ききらない。それでも隅々に上品さと透明感を感じる1本であった。ちなみに田崎真也ソムリエは「ムートンの酒質は他の1級よりも少し柔らかいために樽香が目立つが、98年には余り感じられない。このヴィンテージの1級では一番クラシックなボルドーのスタイル」と評している。そうそう印象的な1本と言えば、ルイ13世が王位継承した修道院がレストランになっている、パリミシュラン2ツ星「ルレ・ルイ・トレーズ(Relais Louis XIII)」で開けた「ムートン 1988年」。
数年前日本円にして4万円と、ほぼ市場価格そのもので驚いたものだった。赤紫枠の中に可愛い羊デザインが印象的なラベルはキース・へリング(Keith Haring)作。この頃は「1988年」「1989年」がちょうど飲み頃を迎え、日本でもあちこちのレストランで立て続けに開けて楽しんでいた。果実のエキスを凝縮したような柔らかく上品な香り、ムートン特徴の樽香は熟成により溶け込んでいる。

20161120mouton87

時間が経ってもまだまだスパイシーでタンニンも健在。むしろどんどん若返ってくる感じすらする。「やはりフランスを出ていないワインは活き活きとしているね」と話したのを思い出す。その年には比較のために「ムートン 1987年」も開けてみた。スイス・ルツェルン出身のハンス・エルニ(HANS ERNI)の描いたゴム水彩画のラベルは、当時の当主バロン・フィリップ・ロートシルトのデスマスクだ。
「1988年」「1989年」に比べて評価の低い年である。「オフヴィンテージほど良いドメーヌを」とも言うがどうだろうか。腐葉土・動物の毛・黒コショウ・チーズ・ドラーフラワー・・香りの立ち上がり方は控えめだ。スワリングしてじっくり我慢すると、それなりに複雑なブーケが感じ取れる。予想よりは悪くない・・タンニンは溶け込み、透き通るような黒系果実のエキスは、甘みと旨味をそれなりに含んででいる。

20161120mouton2

ストレートに言えばこじんまり、良く言えば程よく熟成したポイヤックらしい味わいを何とか楽しんだ1本ではあった(笑) そこで思い出すのが一昨年のクリスマスに開けた「ムートン 1997年」。ラベルはモデルとしてファッション誌「VOGUE」などの表紙も飾ったパリ生まれの画家ニッキ・ド・サン・ファル(Niki de Saint Phalle)作。アダムとイブの寓話で「ワインを楽しむ人々の喜び」を表現したものだが、蛇はイブに「禁断果実」ではなく「ワイン」を渡している。
「1997年」は発売当初すぐに開けて以来3本目。グラスに注ぐと華やかだが控えめなブーケ、スワリングするとハーブ・動物の皮・乳酸発酵のような若々しさも。アタックに果実のピュアな旨味に少し野菜っぽさも残る。タンニンは綺麗に溶け込み豊かな酸が穏やかで上品。しかし凝縮感には欠けるためかなり軽い印象。「飲みやすいけどムートンぽっくないね」と妻。

20161120mouton78

2時間もすると動物香も出てきたが、複雑さまでには至らず印象の枠は最初を越えなかった。やはり「1997年」と言う難しいビンテージ通りなのだろう。そのリベンジをしようと、直後昨年の正月には「ムートン 1978年」を開けた。「1978年」のラベルは、カナダの画家ジャン=ポール・リオペル(Jean Paul Riopelle)作で2種類ある。唐辛子・乾燥したピーマン・ドライフラワー・・やがて鉄さびや乾いたジビエの血のようなニュアンス。
それらがギクシャクと自己主張する為まとまりがない・・・アタックは甘くしなやかで、タンニンも溶け込み味わいは悪くないのだが、バランスの悪い香りがなかなか変化しきれず飲む意欲を削いでしまう。デキャンタージュして3時間以上待ったものの最後まで印象は変わらなかった。何ともムートンにツキがない年末年始になってしまった(笑)

我が家の家飲みワイン

気を取り直して味と言うよりも、ラベルコレクターの妻がお気に入りの作品を言うなら、クリスマスに開けた「2001年」。文字までカワイイ4カラーのラベルはアメリカのロバート・ウィルソン(Robert Wilson)作で、前当主フィリピーヌ・ド・ロートシルト男爵夫人(Philippine de Rothschild)の顔が対になる形で並んでいる。9・11の同時テロをモチーフに平和への願いをこめて描かれた。
緑は葡萄の新芽、黄色は恵みを与える太陽、赤と紫はワインの色を表わしている。カベルネ・ソーヴィニヨン86%、メルロー12%、カベルネフラン2%。黒い果実のスパイス・ミント・ドライフラワーのスミレ・・ほのかな甘味・控え目な酸・滑らかなタンニン。こじんまりとしているが、まとまりのあるどこか優雅な飲み口。ビックヴィンテージではないので10年強で開けてみたが、森の朝露のような湿めり気のニュアンスがその後の熟成を期待させた。

20161120mouton02

そして翌ヴィンテージの「ムートン 2002年」、ラベルはウクライナ出身のイリヤ・カバコフ(Ilya Kabakov)作の「OKHO(窓)」。旧ソ連体制の政治的抑圧の中絵本画家として活動していた彼は冷戦終結後NYに拠点を移し、今やインスタレーション・アートで高く評価されている。真ん中の穴に向かってたくさんの翼がつらなっているラベルの絵は、いかにも彼らしいインスタレーション的奥行きある構成。
飲み手がワインの世界に入っていく窓を表していると言う。グラスに注ぐと黒っぽい紫色で10年以上経っているとは思えない。黒砂糖・樽・エスプレッソ・ブラックチェリー・・実際かなり若々しかった。心地よいスパイシーさで、カヴェルネ・ソーヴィニヨンの美味しさが表現された「ムートン」らしい1本だ。こちらもまた近い内に開けてみたい。

20161120mouton95

続いて赤のハートやリップが可愛いラベルの「1995年」。スペイン・バルセロナ出身の画家アントニー・タビエス(Antoni Tapies)作で、鼻・口・目(笑顔)・2つのハートが表現されている。妻は「LOVEがいっぱいでしょ♪」と赤いArti&Mestieriの額に入れて飾っていた。熟していながら涼やかな黒い果実・・ムートンらしい樽香は落ち着いている。タンニンはまだ少しざらつくが、溶け込みつつあってスムーズなタッチ。
繊細ながら厚みがありその余韻は長く楽しめた。その他は規定外の大きさ、ムートンの為に作られていないラベルの、ワシリー・カンディンスキー(Wassily Kandinsky 1944年没)作「1971年」やパブロ・ピカソ(Pablo Picasso)作「1973年」も貴重。その1959年に描かれたピカソの「酒の神バッカスの信者」は、ラベルに起用する為に予め「ムートン美術館」収蔵してあった。

20161120mouton73

更に貴重なラベルで言うとジョアン・ミロ(Joan Miro i Ferra)作「1969年」や、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)作の「1975年」だろう。アンディらしい手法で、フィリップ男爵のユーモアと厳格さの異なる表情が表現されている。ミロやピカソ同様これもなかなか見掛けなヴィンテージだ。一方「これはどうかな~」と妻が首をかしげるラベルは「2004年」。
醸造長がパトリック・レオン(Patrick Leon)からフィリップ・ダルアン(Philippe Dhalluin)に代わった初ビンテージだ。早い時期に楽しめると言うので以前にもホテルレストランで開けていた。ラベルは英国チャールズ皇太子が描いた水彩画。「英仏友好協定の締結100周年」を記念してフィリピーヌ男爵夫人が選んだ。南仏アンティーブで「松の木々が青空に映える様子」を描いたそうで、ムートンの為に描かれた訳ではない。ラベル採用に対するチャールズ皇太子への謝礼は、ムートンのボトル1本のみだったとか。

20161120mouton75

そんな「2004年」は粘着性が強くまだ黒味を帯びている感じ。エスプレッソ・煙草・墨汁・・ムートンらしい上品な樽香を十分な酸が押し広げる。余韻にはまだまだ強い苦み。時間とともにコンフィチュールの様な果実味も顔をのぞかせた。まだ早いもののそれなりに楽しめる、と言う事でまだストックがセラーにあるが妻は喜ばない(笑) 更に思いめぐらすと「ムートン 1999年」も数本飲んでいる。
2010年に飲んだ時は、フィリップ・ダリュアンが「今ムートンを飲むなら1999年がすごく美味しい」とコメントしていた事から、ホテルの中華料理で選んだのだった。多少ざらつくタンニンがあるとは言え、凝縮した果実感に旨味が乗って余韻も長く、実際とても満足したのを覚えている。ワインの飲み頃は同じヴィンテージを複数開ける上質なレストランの信頼できるソムリエのコメントを羅針盤にするとまず間違いないが、作り手のコメントはなおのこと間違いがない。

20161120mouton99

ラベルはフランスのポスター作家レイモンド・サヴァニャック(Raymond Savignac)のユーモアな作品。「999」を蹴り上げる羊がキュートで、春らしい爽やかな色合いだ。というわけで数年前の春には自宅で開けた。妻がニュージーランド産仔羊(フレンチラック)を楽しそうに料理していた。カベルネ・ソーヴィニョン78%、メルロ18%、カベルネ・フラン4%。
15年経って穏やかになったとは言えまだまだ感じる「ムートン」らしい樽香。コーヒー・カシス・チョコレート・・ねっとりした中庸の厚みを感じさせる存在感。上品な酸味・樽を伴った甘味・ほどけつつあるタンニン、バランスが非常に高いレベルで取れていた。更にこの翌月に開けたのは「ムートン 1981年」。カラベルは廃棄物を芸術作品に作り上げる(アキュミレイション)フランスの彫刻・画家アルマン・フェルナンデス(Armand Pierre Fernandez)。

20111216mouton

チェロ奏者であった父の影響もあり、楽器を使った作品も多い彼だが、このラベルもまさに「爆発したヴァイオリン」。ゴム水彩のゴールドがブルーに映える。ベルネ・ソーヴィニヨン77%、メルロー11%、カベルネ・フラン10%、プティ・ヴェルド2%。熟成した黒い果実の深い濃い色。ドライフラワーに熟した果実が混ざったような香り、腐葉土・枯葉と鉄分・上品な葉巻・奥には獣ぽいニュアンスも。
タンニンと熟成感とが入り混じったような味わいで、予想よりもまだまだいけた。涼やかなハーブの香りが若々しさを感じさせたからだろう。更に「ムートン 1979年」も。ラベルは京都の日本画名家生まれの洋画家・堂本尚郎(堂本印象の甥)作。この時既にパリで活躍していた稀有人だけあって日本人初の起用となる。残念な事に熟成を考慮しても凝縮感に欠け、余韻もかなり短い。「1979年」というヴィンテージの問題だろう。

20161120mouton09

同じようなガッカリ感と言えば「ムートン 1992年」もあった。ハワイのホテルで開けた時は、まさにふいたような印象だった。その後シャトー蔵出しで購入した1本もさして変わらなかった。やはり「1992年」というヴィンテージの問題だろう(マイケル・ブロードベントは「この10年間で最悪のヴィンテージ、避けること」とする)。
ちなみにラベルはデンマーク生まれの画家・彫刻家ペール・キルケビー(Per Kirkeby)。太陽と葡萄の中心に、巨大なグラスからワインが流れ出している様子を表す。味はイマイチでも絵は気に入った。こうしてザッと振り返ると「シャトー・ムートン・ロートシルト」はビシッと決まって満足いった回数は限られてくる。

20161120christmas1

「オフヴィンテージこそ上質な作り手のワインを」という定説はムートンに関しては当てはまらず、ビックヴィンテージこそ飲みたいワイン。それでもレストランで開ける機会が多いのは、樽由来の香りや甘さを伴った黒い果実の華やかさが使い勝手の良さにつながっているのかもしれない(フィリップ・ダリュアンの2004年以降は樽香も抑え気味とは言え)。
それにワインは家族の思い出に通じる。ラベルデザインが毎年違いレベルも高い事から「ムートン」は飲み手の記憶に残り易い。それも皆に愛される所以の1つだろう。妻は「もう飽きたからしばらく開けないで良いよ~」と最近は言っているが、我が家のセラー室奥で眠っている「ムートン」達を開ける日は遠くないだろう。そう、そろそろ輝くホリデーシーズンなのだから。