フランスのアヌシー・ル・ヴュー(Annecy-le-Vieux)にあるホテル&レストラン「ル・クロ・デ・サンス(Le Clos des Sens)」。アヌシーはパリ・リヨン駅から直通のTGBで3時間半強程。スイス国境に近いジュネーブの南方、アヌシー湖北端にある風光明媚な地域で「サヴォワの宝石」とも言われる。アヌシー湖の近くに建つ人気のオーヴェルジュ、レストランはフランスミシュラン2ツ星だ。
我が家お馴染みホテル日航福岡「レ・セレブリテ」では、その「クロ・デ・サンス」オーナーシェフのローラン・プティ(Laurent Petit)氏を招聘し3日間に渡りフェアが行われた。ローラン氏の右腕フランク(Franck Derouet)シェフと、現在「クロ・デ・サンス」で働いている秋田(Kenya Akita)シェフと3人で来日した。ちなみに秋田シェフは「レ・セレブリテ」出身、

20161114celebrites2

以前スイス国境近くの「オー・フラブール(O Flaveurs)」で働いてた時にジェローム・マメ(Jerome Mamet)シェフと来日、こちらでフェアを行っている。1963年生まれのローラン氏は、世界最優秀ソムリエフィリップ・フォール=ブラック(Philippe Faure-Brac)氏の経営するパリのレストランでシェフを勤めた後、1992年アヌシー湖畔にレストランをオープン。2008年にはミシュラン2ツ星を獲得している(一度1ツ星に落としたが2013年に返り咲いた)。
アヌシーといえば3ツ星だったマーク・ヴェラ(Marc Veyrat)を思い浮かべるが、ローラン氏は今や3ツ星に近いシェフと呼ばれるようになっている。今年9月には「ルレ・エ・シャトー(Relais & Châteaux)」加入が発表されたばかりとあって、ローラン氏は嬉しそうに「今月末はその授賞式でまた東京に来るよ♪」と話していた。ルレ・エ・シャトー世界大会は今年は日本で行われるのだ。

20161114celebrites1

今回加入が認められたのは世界22軒のホテルやレストラン。日本からは銀座「ドミニク・ブシェ トーキョー」や鹿児島「天空の森」、金沢「銭屋」など。さて日航福岡「ル・クロ・デ・サンス シェフ招聘フェア」の話に行こう。年末が近づき華やかに煌めくホテルロビーの中心にある階段から、2階奥の「レ・セレブリテ(Les Celebrites)」に向かう。最近は海外から有名シェフを招致したイベントなどにも力を入れている事から、話題もありこの夜も満席状態だ(8月にはパリ1ツ星「レストラン ナカタニ」中谷慎祐シェフを招致していた)。
明るいリゾート風ながらもアイボリーとベージュで統一されたインテリアが重厚シックで落ち着くダイニング。いつものスタッフ達が笑顔で出迎え席に案内してくれる。持光誠一郎支配人をはじめ、同ホテル内「鉄板焼 銀杏」原部暢俊支配人も挨拶に来てくれた。まずは乾杯しよう、フェア用の特別ワインリストの中からボトルで「クリュッグ ヴィンテージ(KRUG VINTAGE) 2002年」を選ぶ。

20161114celebrites4

赤がポイントになった銅色のラベルデザインが印象的だ。グラスに注がれると美しい黄金色、クリーミーなテクスチャー・とろりとした蜂蜜・・こくのある余韻がゴージャスでいて上品な印象を残す作りだ。テーブルには丸のまま置かれた「パン・ド・カンパーニュ」。焼きたて香ばしい大きなそれは、帰りにお土産で丸ごとノーカットを頂く程妻は気に入っていた。そして運ばれたアペリティフは「ビーツ ボーフォール トリュフ 糸島・久保田農園のハーブ」。
ホカッチャ生地で作った小さく薄いタルトにハーブを盛ったもの。一口で口に運ぶとボーフォールのコクにハーブがふんわり絡んで爽やかな旨味。そうそうローランシェフは数日前に来日し、糸島の農園などを回って食材探しもしたそうだ。「トリュフ ビーツ コンテ」のミルフィーユは、口に入れた瞬間3素材が絶妙に重なり、小さいながらも十分に濃く味わい深い。

20161114closdessens1

熟成した「クリュッグ ヴィンテージ」にぴったりだ。続いて運ばれたのは「”Wakasagi” 柑橘 塩 ハーブ」。アミューズはワカサギの三変幻、まるで日本の天ぷら?な風情。フリットには柑橘の皮を混ぜてミキサーにかけた塩を添えている。骨せんべいには、振りかけたレモンのジュレがポイントだ。手前の黒い石に乗せられたミニチュアのようなそれは、ワカサギを三枚におろした身に塩をして一晩寝かせたもの。
皮をはいで紫蘇と巻き、上にも紫蘇を乗せている。「意外とさっぱりで和っぽい??」と妻は目をパチパチさせている(笑) ソムリエ達とワインリストを見ながら歓談している所へ運ばれたのは、キューブ型に成形された「真鯛 ルッコラ トビッコ シトロンキャヴィア」。

20161114closdessens2

ほとんど生の真鯛ですと言う説明だったが、キチンと脱水されており刺身とは違う旨味を感じる。面白い食感なので聞けば、60度のグレープシードオイルで皮が剥がれる程度に軽く火を入れたとの事。底にはフュメ・ド・ポワソンのジュレを敷いて、そこにプチプチしたオレンジキャビア(マスの卵)やシトロンキャビア、そして鯛鱗のパリパリとした食感を加えた。
1番上にはルッコラのペーストを塗っている。ほのかに燻製香も感じるのは、フュメドポワソンを作る際、鯛の骨にその燻香を付けたものと言う。細かいスキルがきちりと客側に伝わり、また味わいに活きている。これだけ細かい造りになっていると手間も時間もかかるはずだ。一緒に作っている「レ・セレブリテ」森田安彦シェフも大変だ~と頑張っているとの事であった(笑)

20161114closdessens3

そして次のプレートは「ジロール茸 セープ茸 トランペット茸・・・etc」。この秋らしい香り豊かな茸づくしのタルトを妻は大層気に入って、久々に「これおかわりしたい~」と食後言っていた。サクサクなキノコのサブレの上にキノコのジュレを乗せ、更にジロール・トランペット・マッシュルーム・ピエブルーなど様々なキノコの、ソテーや生をふんだんに乗せている。
加えて運ばれて来たお猪口サイズの「キノコのスープ」が何とも濃厚で美味!皆がビックリしたくらい大量のキノコを、生・乾燥と両方使っていると言う事であった。いかにもフレンチらしい濃縮されたキノコの滋味深さを堪能できた茸尽くし。この辺りからグッと2ツ星フレンチらしくハイレベルになって来て「フレンチならではの美味しさね♪」と妻も喜んでる。

20161114closdessens4

さて一息付いたところで「”Amadai” カラスミ コンソメ サフラン」がやって来た。パリパリな甘鯛の鱗焼きに、黄色く華やかなスープ・ド・ポワソンが注がれて完成する。濃厚な旨味がありつつ澄み切ってクリアーな味わい。イメージより少し軽い感じだったため、シェフがラングスティーヌも加えて深みを出したとの事。複雑で立体的な旨味とキレのせめぎ合う味わいが何とも美味だ。
付け合せのメークインの上にはトビコを、甘鯛の上にはカラスミ・シトロン・柚子などを振って、味わいと風味に変化と楽しさを加えた。品数も多く時間も緩やかなので今からやっと後半に入ると思うと驚く。妻は結構お腹一杯だよ?と言っている(笑) そこへ「ウイキョウ パスティス」がやって来た。

20161114closdessens5.jpg

最近有田焼を使うレストランもかなり増えたが、この黒い平皿は福岡・浮羽の物。パスティスが効いた濃度と酸味、旨味と塩気を感じる滑らかで深みのあるスープに、ピューレが混じり合っていかにもフランスらしい味わい。そこにソテーしたウイキョウを絡めながらまさにお肉のように味わう一皿でとても美味。本店でも作っているメニューだが、あちらではアスパラソバージュを使ったりもすると言う。
なるほどそれも食してみたいものだ。さぁここで赤ワインもボトルで選ぼう、フェア用の特別リストの中に目を惹く「ドメーヌ・ド・ラ ロマネ・コンティ」の一本があった。ソムリエ達が我が家の為に探し出してくれていた秘蔵の1本と言う「DRC ラ・ターシュ(Domaine de la Romanee-Conti La Tache Grand Cru) 1989年」。

20161114closdessens6

もちろんチョイスする。思えば今年の正月には同「DRC ラ・ターシュ 2009年」を開けた。ブルゴーニュ地方ヴォーヌ・ロマネ村で2000年以上頑なに丁寧な伝統的ワイン造りを続けて来たDRC社。最高峰「ロマネ・コンティ」の南に位置する第二のワインがこの「ラ・ターシュ」だ。「ロマネ・コンティの腕白な弟」とも呼ばれ、年度による差が余りなく安定した美味しさに定評がある。ピノ・ノワールの6.06ha、年間1800ケースが造られている。
今回は「1989年」と言う事でネックのラベルはボロッとはがれて、コルクも危うい状態で少々心配されたが状態は良く皆ほっとする(笑) グラスに注ぐと上部はクリアで熟成らしい茶色を帯びた薄めの赤。カツオ節を彷彿とさせる旨味が柔らかい球体を形作る。時間も経たないうちに複雑に熟した香りが流れ出す。アタックから中盤は熟成により柔らかいが、余韻は力強く「ラ・ターシュ」の本領発揮と言う感じだ。

20161114celebrites3c

更にじっくり味わって行くと、むしろ若々しさが顔を出して来た。いわゆるRDC香と湿っ気たスパイシー・・若い時の力強い果実の凝縮感がほどけていき、数段上のステージに達した感じだろうか。熟したブルゴーニュの旨味・複雑さとまだ残ってる若々しさがせめぎ合いつつも、優しさと力強さが見事に調和した味わい。2時間近くするとミネラリティーでローズウォーター的な雰囲気も醸し出しエレガントさも纏ってくる・・
時間と共に次々と表情を変える深遠でいて、ある意味分かりやすいラターシュらしい1本であった。さてそんな「ラ・ターシュ」を味わっているところに運ばれてくるのは「”Poisson” スペルト小麦 焦がしバター 燻香」。「クロ・デ・サンス」は当然アヌシーやジュネーブ湖畔の魚・野菜を食材として使っている。

20161114celebrites3

特にルマン湖の淡水魚を利用したものに定評がある。今宵はどの鮮魚を持ってくるかなと期待していたところ変化球、何と「河豚」だった!なるほど料理は地元の素材を使うべきというローランシェフらしい選択だろう。そんな博多ならではのフグには、しっとりと火を入れて軽く炭火を当てた。炭にはネズの実を入れてジンの香りを纏わせることを狙った。何と言っても焦がしバターの卵黄のエスプーマが美味だ。
フグの炭火焼きに負けないように、焦がしバターとしてフレンチらしさを重ねた味わい。フグの滋味深い甘さと旨味が引き立てられたさすがの組み合わせに、妻は「これこそフランス!」とエスプーマを山盛りに掛けて貰っていた(笑)そこにスペルト小麦の食感と、フグのすり身のクネル、ナスタチウムの辛味が全体をまとめあげてくれた。

20161114closdessens7

フグの繊細さをフレンチで活かすのは難しい。前菜の真鯛のような方向性はありえるだろうが、コース的に被ってしまうしフレンチらしい楽しさには欠ける。それを焦がしバターと卵黄を持ってくることで、見事にフレンチに引き上げている。逆に焦がしバターがないと、なんちゃって洋食になりかねない。ソムリエも「魚ではありますが、これは古いラ・ターシュに合うでしょう」と言う様に、スペルト小麦の穏やかな香ばしさや焦がしバターの濃厚な味わいに確かに合った。
気が付けばダイニングはざわめき満席になっている。スタッフ達は皆忙しいながらも優雅にワインをサーヴし行き来する。料理を待つ間どのテーブルも大人たちはグラスを片手に楽しそうに過ごしている。そして登場したのはメインの「”Pigeon” シェーブル 牛蒡」。肉は仔鳩と佐賀牛フィレからチョイスできる。我が家は当然仔鳩をお願いする。

20161114closdessens8

実は「クロ・デ・サンス」では肉料理を提供してない。すぐ近くで新鮮な魚が獲れる事がアヌシーのウリであるからだろう。ローランシェフは「肉料理は久しぶりだ♪」とワクワクしていたと言う(笑)と言う訳で今回の肉は、日本で好まれる焼き具合を聞きながら完成させたものだ。フランス産仔鳩の腿肉・胸肉・ササミがしっとりとした火入れで仕上げられてとても美味。綺麗で上品な味わいに妻は「食べやすいわ」とパクパク。
付け合わせの牛蒡が長くて印象的なプレゼンテーション、煮牛蒡の香りが立ち上がっている。そしてかなり柔らかい。実はこれ、たっぷりのバターで煮たと言う事で納得の濃厚さだ。更にたっぷり振られたコンテチーズとトリュフ、それらが口の中でソースのように完成し鳩肉を飽きさせないのは素晴らしい。

20161114closdessens9

シェーブルチーズをブイヨンで伸ばした白いソースも爽やかで、また違う印象を与えてくれる。火を入れたトウモロコシを振ったほうれん草のソースも面白い。仔鳩の鉄分に根野菜の風味、それがバターとチーズのまろやかな香りと一体になり、ほうれん草の苦みをアクセントにして見事に仕上がった一皿であった。まさに妻好みの「これぞ現代のフランス!」な味わいで、案の定「これはワイン進むでしょ!」と満足気だった。
美酒と美食にかなり満足満腹なところに、加えて工夫されたデセールが3種も運ばれてくると言うから驚く。まずはロマンティックに煌めく「初雪 ショコラブラン カフェ パッション」が登場して、もう食べれないかもと言っていた妻の目が輝く。白雪をかぶった輝く球体は、ショコラブランと飴を飴細工用マシンで丸く膨らませたものだ。妻はキャーキャー言いながら固めの球体をスプーンで叩く・・

20161114closdessens9b.jpg

割れた中に潜んでいたのはパッションフルーツのソルベ、そしてコーヒーのムース。飴の粘性で甘くまろやかなホワイトチョコの風味が長く口中にとどまる。そこにパッションフルーツの甘酸っぱさとコーヒーの風味が混じり合い、甘く爽やかな口直しになった。ここで冷やして置いた「クリュッグ ヴィンテージ 2002」を丸みを帯びたグラスで頂く。そして2皿目の「ショコラ 洋梨」が運ばれた、美しいミルフィーユスタイルだ。
チョコレートのガナッシュに洋梨のクリームを重ねている。ガレットやチョコレートが混じり合い、深くも爽やかな味わいでとてもバランス良い。満足感を最後まで隙なく高めてくるようだった。そして最後は「くろ 黒 “clos”」。その名の通りプレートまでも黒で統一した印象的なプレゼンテーションのデセールだ。

20161114closdessens9c

竹炭のクリームの上に花山椒を効かせたミルクアイスを乗せ、その上から竹炭のパウダーを振った。周りには黒胡麻のチュイルも散りばめている。花山椒が微かに香るアイスクリームが余韻をまとめてくれ、和っぽくもあり美味しい。妻は「美味しいし面白いね~」と言いながら私を見て笑う・・そう口が真っ黒になっているのだ、歯と唇が若干黒くなるのでデート時は要注意か(笑)
その後、ハーブティーと共に頂くプティ・フールもやって来る。ワインのコルクで模ったショコラの筒にベルベーヌのクレームシャンティが詰められたものと、ラム酒香るくるくる巻かれたアッパルパイ風焼き菓子。一口でも十分味わい深いフレンチならではの品々だった。改めて振り返っても非常にレベルの高い来日シェフ招聘イベントだったと実感する。

20161114laurentpetit2

フェア・イベントには色々参加しているが、企画顔出しだけで実際に来日したシェフ達が全て真剣に作っている訳ではない。その点今回は本場通り、フランクシェフ・秋田シェフがしっかり厨房に入り、丁寧に作業を行っていたと言う事だった。「キノコ」「ウイキョウ」「フグ」のプレートは特に素晴らしかった。
ホテル側が特別に用意してくれていたワインにも満足し、楽しく美味しい一夜になった。帰りにはとても気さくなローランシェフと歓談する。かなり早目に福岡入りして食材探しの他、屋台や焼鳥などを満喫して楽しかったと言う。通訳もしてくれる秋田シェフはいつかフランスで店を持ちたいとの事で、前途有望将来が楽しみだ。

20161114laurentpetit3

お土産には「パン・ド・カンパーニュ」や「クグロフ」2種など沢山頂いた。アヌシーから持って来た美しい写真集「Le Clos des Sens」などの書籍類も購入できた。妻もローランシェフとハグをして「また会いましょう」と、名残惜しい気分で手を振りまだまだ賑わうダイニングを後にした。
海外有名シェフの様々なフェア・イベントが楽しめる日本。しかしレベルは上がり続け、単に星付きシェフというだけでは客の欲求はもはや満たされない。ローランシェフや同行したスタッフのフェアにかける本気度、そして受け入れる「ホテル日航福岡」側の思いが結実した良いフェアだった。