四季がはっきりしている日本では季節に合わせて飲むワインも変わって来る。蒸し暑い時期にシャンパーニュが続いていた我が家。秋を迎えてめっきりブルゴーニュ・ルージュ(赤)が増えて来た。ちなみに冬本番を迎えてgibierやtruffeの時期になるとボルドー古酒が多くなる。と言う事で最近我が家で開けたワインの中からザッと「Bourgogne」をピックアップしてみよう。
先日紹介した、水元康裕シェフがオープンしたばかりのレストラン「スーリール(Sourire)」では、小鳩のローストに合わせて「ルイ・ラトゥール シャトー・コルトン・グランセイ(Louis Latour Chateau Corton Grancey Grand Cru) 1988年」をチョイスした。1797年創業、家族経営の「ルイ・ラトゥール」は所有特級畑17ha。大手ネゴシアン・大量生産の印象も強いがCorton-Charlemagne以外にもGevrey-Chambertinなどからそれなりに良いワインを造る。

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「コルトン・グランセイ」は樹齢40年以上の古樹のみを使用し、葡萄が完熟した年にだけ造られる。以前家で「1998年」を開けている。グラスに注ぐとオレンジがかったかなり落ち着いた色。ラズベリー・チェリーに続いて仄かな野性味・・中心部にはまだ微かに果実味が残ってチャーミングだ。とは言えかなり軽いの味わいだったので、もう少し若くて果実味の凝縮したものを飲もうかと、
翌日家で開けたのは「アンヌ・グロ クロ・ヴージョ グラン・クリュ ル・グラン・モーペルテュイ(Anne Gros Clos-Vougeot Grand Cru Le Grand Maupertui) 2005年」。ヴォーヌ・ロマネ「グロ家」の女性醸造家が作り出す人気のワインだ。ラベルは珍しいネイビーでシンプルモダンなデザインとなっている。1804年に生まれたアルフォンス・グロが1830年に設立したグロ家。4代目のルイが1951年に亡くなった後、4人の兄弟によって畑は3つに分割された。

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「ドメーヌ・ジャン・グロ(Jean Gros)」「ドメーヌ・グロ・フレール・エ・セール(Gros Frère et Soeur)」「ドメーヌ・フランソワ・グロ(Francoise Gros)」。1988年フランソワ・グロの娘アンヌが参加して「アンヌ・エ・フランソワ・グロ(Anne-Francoise Gros)」となったが、その後フランソワの引退によって現在の「アンヌ・グロ」になったと言う訳だ。揺れる濃い赤から染み出てくる透き通ったアロマが印象的。
薔薇・角砂糖・ややこもった動物の毛・オリエンタルなハーブ・・まだ控えめながら複雑な香りだ。しっかりした骨格の中に摩り下ろした葡萄のエキスがぎゅっと詰まっている。重低音のどっしりとした味わい。タンニンはまだやや粗目で舌上に残る。余韻は伸びると言うよりも、タンニンが口蓋にゆっくりと長時間とどまる感じ。全体の味わいは統合されておらず、各要素が活き活きと自己主張する。閉じ気味ながら魅惑的な香りと相まって5年後以降が楽しみなワインであった。

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長年ワインを飲んでくると、あれほど飲んでいたのにパタリと飲まなくなるワインも出てくる。そんな1つがヴォーヌ・ロマネの「モンジャール・ミュニュレ(Mongeard Mugneret)」だ。18世紀末から続く30haの畑を所有する大手ドメーヌ。キラキラな手と葡萄の絵柄のラベルが印象的である。20年程前に家で良く開けていたテーブルワインの1つ。
当時は妻も「ラベルが可愛いし飲みやすい」とかなり気に入っていた。やがて飲むワインが増え、色々味わいの幅や奥深さを知るに連れ自然に遠のいた。先日某店でふと見つけて手に取ったのが「モンジャール・ミュニュレ クロ・ド・ヴージョ(Mongeard Mugneret Clos de Vougeot) 2004年」だ。妻も懐かしそうだったので早速開けてみることに。

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萎れたスミレ・薔薇、押しつぶした後に熟成した赤い果実・サクランボ・ぶどうの皮・動物の毛・・余り複雑さはないが、好ましい香りがそれぞれ嗅ぎ取れる。時間とともにこなれた樽香の奥に、やや青い茎のようなニュアンスも出て来た。アタックにはジューシーな果実の甘みがどんと舌先に乗り、ふわりとした柔らかな酸味とともに余韻へ続く。樽とミネラルの薄い膜の中にみっしりと果実が詰まっている。
カジュアルでいて親しみやすい味わい・・ただすぐに飽きがくるので上質なレストランで開けるのにはやや物足りない。それでもビストロなどに置いてあれば十分美味しいだろう。もちろん平日の家飲みには十分チャーミングであった。ワインの楽しさは家族の想い出を積み重ねていく事、そしてその想い出を一口飲むだけで即座に思い返せる事・・と改めて思える懐かしい1本であった。

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せっかくだから「クロ・ド・ヴージョ」をもう少し続けて飲んでみるか、と翌日にセラー室からチョイスしたのは「メオ・カミュゼ クロ・ド・ヴージョ グラン・クリュ(Meo-Camuzet Clos de Vougeot Grand Cru) 2011年」。「メオ・カミュゼ」としてはエティエンヌ・カミュゼによって1900年代初頭スタートした。その後現当主ジャン=ニコラ・メオの代に、かのアンリ・ジャイエ(Henri Jayer)のコンサルトによって急速に品質が向上した。
そして今も低温浸漬といったアンリ・ジャイエのスタイル(醸造法)を継承している。我が家も好きなブルゴーニュの一つ。この「クロ・ド・ヴージョ」も銀座「エスキス(ESqUISSE)」で「1999年」を、「レストランひらまつ博多」で「1988年」を楽しんだ。ちなみに「クロ・ド・ヴージョ」は、50.6haと面積が広いためグラン・クリュとは言えドメーヌによる差が大きい。

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シトー派の修道会からナポレオン・ボナパルトが没収した後もしばらく単独所有が続いたが、1889年以降細かく分割されていった。そのため昔から品質面は、畑の場所で3つの品質に区分されるとされてきた。つまり斜面上段は極上のワインを生み出し、中段はやや落ち、さらに下段は水はけが悪く品質が落ちる。この点、メオカミュゼの所有する「クロ・ド・ヴージョ」は斜面上段。そのためこの畑の代表的な作り手の一人とされているわけだ。
紫がかった赤。赤い果実と黒い果実がせめぎ合うジャーミーな香り。スミレ・動物の毛・・アタックは柔らかくシルキーですべらかなタンニン。中盤から余韻にかけてふくらみは少なく、折り目正しいミネラルが周りを覆っている。当然ながらまだ閉じ気味である。それを差し引いても、本来的な果実の凝縮感にやや欠けるように感じるのは「2011年」と言うヴィンテージのせいかもしれない。

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そこで更に続いて「クロ・ド・ヴージョ」以外のグラン・クリュを飲もうと、その週末家で開けたのが「モメサン クロ・ド・タール(Mommessin Clos de Tart Grand Cru monopole) 2007年」 。1932年以来モメサンのモノポール(単独所有)であるグラン・クリュだ(それまではタール修道院の単独所有だった)。コート・ド・ニュイでは地味な印象のモレ・サン・ドニ村だが5つのグラン・クリュがある。
中でも一番南に位置する7.53haがこの「クロ・ド・タール」。ブルゴーニュを訪問したことがある人なら、あの街中を通る道路沿いに現れる、壁がひと際印象に残っているだろう。シルヴァン・ピティオを招いた1995年以降は評価が上がっている(2014年で引退)。ちなみに横のグラン・クリュ「クロ・デ・ランブレ(Clos des Lambrays)」はLVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)グループが1億100万ユーロで買収したことでも話題になった。

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スミレ・濃いめの紅茶・革製品・干しぶどう・・軽やかながらも複雑な香りの奥に好ましいスパイシーさ。アタックから柔らかい甘みとほどよいきれのある酸味がバランスよく広がる。凝縮感の中にほどけつつあるタンニンとミネラルのニュアンス。赤い果実のチャーミングさと野性味を伴った深さが印象に残る。以前も同様に家で「1998年」を、カジュアルなレストランで「1995年」を開けた。我が家的には上質なレストランで敢えてチョイスするかと言うと微妙である。
エレガントさも兼ね備えているが、パワフルで肉感的な印象の強いワインと言えるだろう。さて、こうなったらブルゴーニュのグラン・クリュを続けて行こう。やはり大好きなシャンベルタンだな・・と選んだのは「ジャック・プリウール シャンベルタングラン・クリュ(Jacques Prieur Chambertin Grand Cru) 2008年」。18世紀末にムルソーに設立された「ジャック・プリウール」。醸造家ナディーヌ・ギュブラン(Nadine Gublin)が1990年参加してから評価が上昇した。

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「Revue du Vin de France 1997」で女性初のBest Winemaker of The Yearに輝いている。我が家もマンダリンオリエンタル東京「シグネチャー(Signature)」でのワインイベントで彼女と歓談したが、ワインへの熱量が高く印象に残っている。「シャンベルタン」は0.84ha、樽熟成17か月。「シャンベルタン 2000年」はその前に銀座「ベージュ東京(Beige Alain Ducasse Tokyo)」でも飲んでいた。
樽香は溶け込んでいるが微かに甘いニュアンスとして残る。カシス・ブラックベリー・・花束の奥に野菜のような特徴的なニュアンス。香りの立ち上がり方は単調。タンニンがすべらかに溶け込んだシルキーなアタックからの中盤にかけてのバランスは良い。凝縮感には欠け「本当にシャンベルタン?」という感じで余韻も短い。

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「2008年」とまだ若く閉じ気味であるため断定は早計だが、タンニンのニュアンスや凝縮感からすると熟成によっても余り発展しないかもしれない。ただ女性醸造家らしい柔らかなニュアンスは、飲みなれていないゲストもいる気軽なパーティでの1本には良いだろう。
こうやって思い返すと我が家は日頃、楽しんだワインから受けた印象、広がったイメージ、そして触発された感覚から次に開けるワインを決めて行くパターンが多い。夫婦2人でわいわいと、またじっくりと1本に向き合うことで見えて来るものがある。そうだな秋も深まって来た事だし、次はお気に入りのレストランで、妻の好きな珠玉のブルゴーニュの古酒でも開けようか。