夫婦で20年以上のワイン歴の中でも、妻が「どんなワインより好き」と公言してはばからないのが、ボルドー5大シャトーの1つ「シャトー・ラトゥール(Château Latour)」。ボルドーの北西メドック地区ポイヤックに位置し、1331年からの長い歴史を誇る。ラベルには14世紀中頃に建てられてた円形の要塞「サン・ランベールの塔」(実は鳩小屋)が描かれている。
パリ万博前1855年に格付け第1級を獲得。1993年に世界的実業家フランソワ・ピノー氏(Francois Pinault)がイギリスから取り戻した。それ以来数年に渡る大規模改革を行い、品質向上には目覚ましいものがある。ピノーが買収したのは、彼自身ワイン愛好家でラトゥール好きだったからという。

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グラン・ヴァンの年間生産量は、1990年代半ばの22万本から13.2万本程度に抑えている(ちなみにシャトー・ラフィットは24万本、シャトー・ムートン・ロートシルトは17万本、シャトー・マルゴーは15万本、シャトー・オー・ブリオンは12~14.4万本)。そう言えば最近フレデリック・アンジェラ(Frederic Engerer)社長が来日してプロ向けの講習会を行ったばかりだが、以前ピノー家一族と共に彼が来日した際の「シャトー・ラトゥール ディナーパーティー」には我が家も参加した。
「80年代のクラシックなラトゥールが大好き」とつい本音を口にした妻に対して「最近のはどうなんだ」と尋ねるアンジェラ社長の真顔は我が家の語り草になっている(笑) と言う訳で秋も深まりつつあるこの休日も、家で開けたのはまた「シャトー・ラトゥール」だった。妻の希望によりいつでも開けられるよう、常に幅広いヴィンテージを集めてセラー室にストックしてある。

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思えば今夏はレストランと家で若目の「ラトゥール 2004年」を続けて開けていたので、古酒で行こうと「1970年」をチョイスする。さすがに「シャトー・ラギオール」で抜栓するも長いコルクは途中で折れてしまった。丁寧に処理をしながら引き出したコルクは良い加減で湿気ていてホッとする。
背の高い大きなグラス「リーデル ソムリエ ブラック・タイ」に注ぐと、思いのほか色が濃く予想よりも若々しい。エキゾチックなスパイス・甘草・雨に濡れた枯葉・・最初香りの立ち上がり方は緩やかであったが、40分もするとかなり発展してくる。旨味成分を感じさせる香りとハーブのニュアンスが良い塩梅で染み出て来た。

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アタックはシルキー、ラトゥールの特徴の土っぽさが見事に溶け込んでいる。果実の凝縮感はなく儚い球体のような味わい。余韻は短いながら美しく纏まっていた。一方先日飲んだ「2004年」は比較的低評価なヴィンテージだが、コストのかかる夏の整枝と選果を行ったドメーヌは成功した。「成功すれば柔らかい、失敗すれば厳しいタンニンになった」と言われる。
柔らかい仕上がりの「ラトゥール 2004」は成功した部類であろう。アルコール度は13%(ちなみにビックヴィンテージの「2005年」は13.5%)にとどまる。土っぽさ・杉・湿っ気た黒コショウ・・・心地よい樽香がまだ強く、焼いた梅のような酸味が立ち上がった。

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柔らかい果実味が中心部分にあり、コーヒーの苦味と乳酸発酵のまろやかさが丸く穏やかに調和する。信頼できるインポーターからの仕入れと言うがその影響もあるのだろう、迫りくるような凝縮感はないが、数年前バレンタインにレストランで開けたそれも良かったが、家で先日開けたそれより直後レストランで開けた「2004年」の方が状態が良く若々しさを感じた。今春にはまた別のレストランで「2001年」を開けていた。
「2001年」についてロバート・パーカー(Robert M.Parker,Jr.)は「輝かしいワインで、超大作な2000年よりかなり早く飲める(飲み頃2007~2025年)」と言っていたので期待もあった。炭焼きコーヒー・涼やかなスパイス・仄かな苦味・赤果実の甘みと樽の香り。エレガントながらも、若さ溢れる濃いタンニンと果実味中心の美味しさも実感した。

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とは言ってもやはり熟成したオールドヴィンテージの方がグッとくる。ちょうど1年前か、「ジョエル・ロブション来日特別ガラディナー」は恒例の白トリュフ祭り。ボルドーの古いヴィンテージのワインを探したあげくに、結局チョイスしたのが「ラトゥール 1966年」だった。実は「ジョエル・ロブション」にはパリのタイユバンの名物オーナーだった故ジャン=クロード・ヴリナ(Jean-Claude Vrinat)氏の「ラトゥール・コレクション」が残されている。
つまり、旧「タイユバン・ロブション」時代から20年近くこちらのセラーで管理されている。仕入れも保存も格別なラトゥールを楽しめるというわけだ。更にその時代からの美しいガラス細工の「シャトー・ラトゥール専用デカンタ」もある。そんな「1966年」はネックは少し下がり気味だったが、全く問題のないコンディション。

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澱もボトルサイドに綺麗なライン状にへばりついていた。1966年は暖冬から早く春が訪れたが、少雨冷夏になり8月の気温は上がりきらなかった。それでも9月から日照が増えて盛り返し、10月初頭に理想的な収穫となった。枯葉・腐葉土・湿った森の奥深くの空気・動物の皮・・飲み干した後に微かな旨味が酸味と共に口元に残り、そこからチャーミングな酸味が余韻を押し広げる。
何とも美しい熟成感だがまだどこか力強さも感じる。十分飲み頃に達しているがまだまだ熟成していきそう。未だにこれを越えるものはなく我が家の「ラトゥール・ベスト1」となっている。ちなみにジャック・ピュイセ(Jacques Puisais)は著書「適切な味覚」の中で、「1966年の素晴らしいラトゥールには、インゲンマメのピューレをそえたガチョウの心臓のグリエを勧める」と記してるが、料理が古すぎてイメージが湧かない(笑)

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別の機会に「ジョエル・ロブション」で開けた「ラトゥール1986年」も素晴らしい状態であった。その3年後に自宅でも同「1986年」を開けたが、明らかに1歩熟成を進めた感じ。動物の毛を感じさせる奥深い香り。次第にハーブや土・熟した黒果実やスパイシーさが出てくる。終盤はいつもの熟成したラトゥールらしさ、土っぽさを伴った上品な酸味が広がった。
まだまだ健全な熟成が進んで行きそう・・なかなかの保存状態だなと裏ラベルの輸入取引者を見ると「株式会社ひらまつ」だったというオチ。ホテル事業を展開する前に、市場にかなりワインストックを売りに出したようだった。ちなみにパーカーはこのヴィンテージについては「世紀の1982年にはやや劣るが偉大であり、一貫して傑出している」と評している。

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思い返すと「ラトゥール 1989年」も良く飲んでいる。例えば「ロブション20周年ガラディナー」でチョイスしたそれは、デカンター「リーデル アマデオ」にゴールドに映える赤が流れていった。胡椒・ドライフラワー・腐葉土・・熟して溶けていくような黒い果実味が穏やかな酸にのって余韻に伸びた。まだまだ強かったが美味しく頂けた。その2ヶ月程前に京都のレストラン「motoi」でも開けていた。
ふんわり立ち上がる熟成した果実香・湿った腐葉土、タンニンも酸も程よく溶け込んだ滑らかな余韻が何とも美かった。この5年程前にも同「1989年」を福岡のホテルレストランで開けているし、マンダリンオリエンタル東京のワインイベントでも飲んでいた。微妙なボトルによる味わいの差、そしてボトル差を越えたワインの本質を感じるヴィンテージとなった。

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一方、六本木のレストランでは「1985年」をチョイスし、アンジェラ社長来日の際に同「1985年のマグナム」も飲んでいた。総じて1985年は、程よい腐葉土・軽く湿った皮・落ち着いたスパイス・・典型的なポイヤックらしい熟成感である。柔らかい香水からスパイシーさの中にアンズやジャムの香り。後半は酸味・タンニンのバランスが取れスマートな余韻だ。
このように振り返れば1980年代のラトゥールは良く開けていた。いつどこで開けてもこれらヴィンテージに外れがなかった事も、妻のラトゥール好きに拍車をかけたようだ。一般的にラトゥールは「頑強・男性的であり熟成に時間がかかる」とされるが、1980年代は少しスタイルが変わり柔らかくなったと言われている。

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その柔らかいスタイルが、30年ほどの熟成を経て、ある意味分かり易いおいしさに到達しているのかもしれない。確かに先程触れた「1966年」や「1970年」「1978年」もまだどこか力強さが残っており、80年代とは異なる熟成ルートをたどっていた。そんな違いはあれど、どれもラトゥールらしい完成度の高い洗練された味わいが、私達夫婦の懐かしい思い出と共に鮮やかに甦る。ワインの究極の楽しさはこういう所にもあるのだと思う。
2012年からプリムール商戦から撤退した「シャトー・ラトゥール」。自らのセラーで熟成させたヴィンテージのみを適宜リリースするという一大転換を行った。飲み頃蔵出しという方針は、保存状態に関してはかなり期待できるかもしれない。とはいえ消費者にとって「値段」と「保存状態」は車の両輪だ。日本では値段に関しては高止まりしてしまう危険もある(既にその兆候が伺える)。

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いずれにしろ今後どのような状態の「ラトゥール」をいくら位で飲めるのか・・消費者にとってもしばらく注視が必要になりそうだ。そんなことを色々語りあいながら「ラトゥール 1970年」を楽しむ今宵。妻は「やっぱりラトゥールが一番好きだわ」と満足そうであった。