レストランひらまつ 博多・中洲川端」開業以来、料理長を含め17年に渡って務めてきた水元康裕シェフ。ついに今年春に円満退社・独立し、この秋10月4日に「レストラン スーリール(Sourire)」を福岡市中央区赤坂に開業した。
「ひらまつ」の印象が強い水元シェフだが、ひらまつ入社前には夫人を伴ってパリで3年半修行している。それは日本での名声を捨ててパリでの星を目指し開店したあの「ステラ・マリス(Stella Maris)」(1997年~2013年)。吉野健シェフとは狭い部屋で一緒に生活しながら研鑽を積んだ。

20161004souriremizumoto2

「休日であってもどこにいても、吉野シェフからすぐに呼び出しを受けてプライベートなどありませんでしたが、今の自分はあの時代があるからです」と水元シェフは語る。新店名の「スーリール」とは笑顔のこと。これからは笑顔で料理を作っていきたいという水元シェフの思いから名付けた。
護国神社と六本松に分かれる少し手前、けやき通り沿いのマンションの1階。こじんまりとしながらも白をベースにし天井高のある清潔感あふれる店内だ。飾られているアートは、水元夫人がフランス時代に購入していた想い出のポストカードを使って作ったもの。

20161004souriremizumoto3

彼女は博物館や美術館のコーディネートも行う額装のプロ。芸術家である彼女が内装のコーディネートも手掛けた。「どうりで水元シェフらしからぬ店内ね!」と妻も妙な感心をしている。開業するにあたり彼女は初めての飲食サービス業に挑戦すると言う訳だ。シェフのリードにグラスや皿を運ぶ姿も初々しく、仲良し夫婦のほのぼのとした風情も良い。
店入口入って左右にテーブルが3卓、そして奥にカウンター、客席は基本10席程度(マックスで15席)だ。客数を絞る一方、キッチンを広めに設置したのもこだわりの水元シェフらしい。早速カウンターの真ん中、いわばシェフズテーブルに陣取って水元シェフ夫妻と歓談する。

20161004souriremizumoto4

ピカピカなキッチンに真新しいカウンター、高さや視界、間隔もちょうど良く座り心地が良い。敷かれているのはこだわって特注したと言う博多織のクロス。「スーリール」ロゴマーク(ウイキョウ)も織られている。博多とパリの融合を象徴する大切な一品。添えられるカラフルなグラスなども、内装に合ったフレンチポップ。「女性に人気が出そうね♪」と妻も太鼓判だ。
さてまずはシャンパーニュをチョイスしていこう。開店したばかりなのでまだワインは少ないだろうと油断していたら、なかなか頑張ったワインリストに驚く。値付けも良心的だ(加えて綺麗で見やすいデザイン)。「信頼できる業者に相談してある程度きっちりと揃えました」との事。カウンター横には大きめのワインセラーも設置し、ワイングラスも多数用意してあるのに感心する。

20161004souriremizumoto5.jpg

チョイスしたシャンパーニュは「ジャック・セロス シュブスタンス ブリュット ブラン・ド・ブラン(Jacques Selosse Brut Substance Blanc de Blancs)」。リューディシリーズも用意してあったが、久しぶりにこちらを開ける事にした。美しく深いゴールドがグラスに揺れる。深いシェリー、トロリとした蜂蜜、カフェオレ。ソレラシステムからくる魅惑的な香りが次々とかなりのスピード感で顔を出す。
まろやかで厚みのある甘さ・・中盤から余韻にかけて圧倒的な果実の凝縮感と熟れ具合が存在感を刻む。それでも余韻にはブラン・ド・ブランらしい清廉さもどこか感じさせる。「セロスをセロスたらしめたやはり代表作だな」と改めて感じ入る味わいであった。

20161004souriremizumoto6.jpg

料理はシェフお任せコースのみ。開店当初はランチも毎日やっていたが、今は来客に迷惑をかけないようディナーを中心に営業している。確かにシェフ一人なので時間と気持ちにゆとりのある大人向けの店、ランチでバタバタと食べる客には似つかわしくないだろう。素材に合わせて1週間でコース内容を変えていると言うのも、水元シェフらしいこだわりだ。
さあ、今宵はそんな水元シェフの特別料理を存分に味わっていこう。ピクルスなどのアミューズに続いて最初の前菜は「セップ風味のコンソメロワイヤル」。保温性優れたグラスに美しい層を見せるコンソメロワイヤル。ムカゴ、大分産の冠地鶏、エゴマの葉なども添えて華やか。

20161004souriremizumoto7

軽やかに効かせたセップが秋を感じさせ、食べ手の食欲を満たし刺激する。「最近は和食的になっています」というシェフの言葉通り、かなり軽やかで素材をピュアに頂く様な前菜だ。続いて「長崎県五島産 車海老のサラダ トリュフの風味」。「シンプルに塩茹でした車海老を楽しんで頂こうと思います」との事。目の前でシェフの手さばきを拝見し、更に解説を聞きながら食べるライブ感。「ひらまつ」ではありえなかった光景だ。
トリュフのヴィネグレットで和えた風味にペリグーソースをまとわせながら「セロス シュブスタンス」と楽しむ。銀杏や安納芋、水菜、マスタードの葉などのサラダと共に。シンプルにと言いながらソース含めて細かな手の入れようはさすがである。ここで焼きたてのパンも運ばれた。

20161004souriremizumoto8

ポワソンは「千葉県銚子産 金目鯛のヴァプール ソースベアルネーズ」。シンプルながら白のプレートに赤・緑・黄が映える。フンワリと柔らかく火の入った金目鯛。そこに添えられたベアルネーズソースのキレの良い酸味が何とも美味だ。白ワイン、スパークリング、エストラゴン、エシャロット、卵黄、バターで作った伝統的ソース。クラシックでいてどこか自然な軽やかさも印象に残す。この爽やかな酸味の対比に甘く味付けした茄子のピューレも添えている。
食感を少し残した野菜にも、最後にサッとシークワーサをかけ全体とのバランスを取っている。この確かな技術に裏付けられた料理が水元シェフの真骨頂だろう。「この魚、水元さんらしくて大好き♪」と妻も大層気に入っていた。魚料理に定評のあった吉野シェフに師事していたからだろう、水元シェフの魚料理はいつもながら安定感がある。

20161004souriremizumoto9

赤ワインは肉に合わせてブルゴーニュをチョイスしよう。「ルイ・ラトゥール シャトー・コルトン・グランセイ(Louis Latour Chateau Corton Grancey Grand Cru) 1988年」。1797年創業・家族経営のルイ・ラトゥール。コルトンに17haの畑を所有し特級畑の最大の所有者だ。「コルトン・グランセイ」は、葡萄が完熟した年にのみ造られる。樹齢40年以上の古樹のみを使用し、5~6畑の葡萄をブレンドして醸造する。軽い造りであるが長命と言われている。
もともと薄い色調の「ルイ・ラトゥール」であるが、熟成によってかなり薄いオレンジ色。ラズベリー・チェリーに続いて仄かな野性味。軽やかだがタバコ・ムスクのような熟成感も心地よく漂う。まだ中心部に果実味が残っており、チャーミングな味わいであった。

20161004souriremizumoto10

さぁメインは「小鳩のロースト バドゥバン風味のソース」。レンズ豆の上に小鳩の胸肉、腿肉のコンフィ、更にはレバー、心臓、砂づりも乗せられる。小鳩一匹を丸々頂くような一皿だ。エスニックなスパイスを効かせた強めのソース。それが鉄分を感じさせる小鳩の肉質を見事に引き上げる。前半の軽やかな前菜のプレートからグッと一段力強くなってきた印象だ。我々がワインを飲み進めているので少し強めにしてくれたと言う事。
その辺りの味の出し入れはさすがベテランの力量だろう。フレンチらしい深く複雑な印象を残す肉料理であった。一息入れてチーズ。数種類の中から、水元シェフが状態を念入りに確認した上で仕入れた「エポワス(Epoisses)」をチョイスする。トロトロに蕩けた熟成状態で香り立ち、濃厚な味わいが赤ワインと良く合った。そして最後のデセールは、「ひらまつ」時代を彷彿とさせる、クラシックな「洋梨の赤ワイン煮 ヴェルヴェーヌとレモングラスのアイスクリーム」。

20161004souriremizumoto11

妻大好物の組み合わせで、当然ながら大喜びの締めくくりとなった。水元シェフと夫人だけの小さいながらも細部にまでこだわった、キュートでオシャレな「レストラン スーリール」。いわば水元家に伺ってご夫婦のおもてなしを受けるような幸せコンセプトと言えるだろう。宣伝は一切行わずにひっそりと開業したが、「ひらまつ」時代の常連や知人、近所の方を中心に来店が続く。中には東京から来店したり、既に複数回通ってくる客もいると言う。
「これからも食材の質は落とさず、お客様一人一人に向き合いながら、ゆっくり焦らず息の長い店にしていきたい」と笑顔のご夫婦。余裕のある大人がひっそりと通い続けたい小さなフレンチレストラン。素敵な大人の店がまた一つ福岡に誕生した。