かつては仏ミシュランの3ツ星を獲得したこともあるモンペリエの「ル・ジャルダン・デ・サンス(Le Jardin des Sens)」。そのシェフと言えば双子のジャック&ローラン・プルセル(Jacques & Laurent Pourcel)両氏。先月プルセル氏が来日し、福岡でもガラディナーが開催された。今回は福岡県と「レストランひらまつ博多」の共催。
福岡県では県産農林水産物の認知度向上を図るため、ホテルや飲食店と連携し県産食材の料理を提供する取組を進めている。思えば最近全国的にも行政とレストランが連携するケースも増えてきた。例えば「ピエール・ガニェール」と山口県や岩手県。効果のほどはさておき県食材のPRということだろう。ひらまつグループと提携するプルセルシェフだが来福は約10年ぶり。我が家もプルセルシェフのプロデュースする東京「サンス・エ・サヴール」の長谷川幸太郎シェフ時代に伺った以来だ。

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ジャック&ローランの双子シェフは、1988年23歳の時に「ル・ジャルダン・デ・サンス」をオープン。1998年にミシュラン3ツ星を獲得した。その後星を落とし、2019年に移転開業のため現在一時閉店で無星となっている。新店舗はモンペリエのカヌルグ広場にある17世紀の建造物「ロテル・リシェ・ドゥ・ベルヴァル(l’Hôtel Richer de Belleval)」内と言う事で話題だ。
さてこの日の博多でのガラディナー「POURCEL GALA EXCEPTIONNEL par Laurent Pourcel」、丸の内「サンス・エ・サヴール」でも酸味の使い方が特徴的だったが、さてどんな塩梅か味わっていこう。まずは乾杯、実は本日のコースにワインは付いていたのだが、シャンパーニュはワインリストの中からボトルで別途注文する。チョイスしたのは「サロン ブラン・ド・ブラン ル・メニル ブリュット(Salon Blanc de Blancs Le Mesnil Brut) 1996年」。

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グットヴィンテージと言われながら最近疑問を呈する声も出てきているので、この「1996年」がどのような表情を見せてくれるか楽しみだ。優しくも深い香り、以前飲んだ時よりも深みが出てるが、どこまでもサロンらしく気品がある。滑らかながら存在感のあるミネラルともに上品な酸味が丸く広がる。年代ものの蜂蜜・パンデピス・飲後には洋梨のニュアンス・クレームブリュレ・・
「これはあたりね♪」と妻も満足気だ。ミニフィナンシェと、フォワグラの入ったミニコロッケと共に楽しむ。プルセルシェフの挨拶に続いて早速コースがスタート。そういえばこういうイベントにはこれまで必ず平松宏之シェフ(本名:平松博利)が同席していたが今宵は不在。今年6月に代表取締役社長から代表権のない会長に退き(功労金5億円)、世代交代を進めているその一環であろう。

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アミューズは「白いんげん豆のスープ 戻り鰹のグラブラックスとヘーゼルナッツ アイユチップス」、そして「蜂蜜でマリネした鰯のクルスティヤン ラールコロナータのアクセント 有機栽培で育ったミディトマトと福岡県産とよみつひめと共に」。とよみつひめは福岡県オリジナルの、糖度が高くなめらかないちじく。
美しいアミューズの味わいは南仏らしく軽やかでシンプル。フレッシュトマトなど酸味を活かしたローランの料理の特徴と言われる瑞々しさと食感をアピールする。続いて「ル・ジャルダン・デ・サンス」のスペシャリテが登場だ。「ひらまつ博多」のスタッフから「是非このプレートは入れて欲しい」とリクエストした一皿だそう。

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それが「フレッシュオマール海老と鹿児島県産薩摩鴨の燻製 さおり丸農園から届いた沖縄県産キーツマンゴーのプレッセ バニラ風味のビネグレットソース」だ。根セロリとズッキーニ、マンゴーを素晴らしい配置で包み込んだ。食感の何とも言えない一体感。カリカリにしたバニラの余韻もアクセントだ。
バニラのビネグレット・甲殻類のビネグレット、そして鴨スモーキーさがフレッシュなオマール海老の豊かさとも見事に調和した、なるほどスペシャリテにふさわしい一品であった。ちなみにこのプレートに用意されていたワインは、南仏ラングドック・ルーション地方の「ドメーヌ・ゴビー コート・カタラン(Vin de Pays des Cotes Catalanes Blanc Coume Gineste Domaine Gauby) 2009年」。グルナッシュ・ブラン50%、グルナッシュ・グリ50%のビオワインだ。

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複雑なスモーキーなスパイス・柑橘類・樽・ゴム・・ピリッととした酸味が印象的。スモーキーな鴨肉とピタリと調和した。さて次のプレートは「くり将軍のロワイヤル セップ茸と雪嶺茸のブルーテ 黒トリュフのクロックムッシュー」。栗の柔らかい甘さと香りが、クロックムッシュの塩気と調和している。クラシックでいて食べ心地良いフレンらしい一品、妻はこれが一番気に入ったようだ。
聞けばフォワグラも入る予定だったそうだが、プルセルシェフが福岡入り後、バランスを考え外したとの事。確かにこれにフォワグラが入るとトゥーマッチでクドかったかもしれない。これに合わせられたワインは、ロワール(ソミュール)の「ドメーヌ・デ・ロッシュ・ヌーヴ ランソリット(Domaine des Roches Neuves L’insolite) 2011年」。

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ボルドー出身の若き醸造家ティエリ・ジェルマン氏は良く知られている。「普通でない」という名のそのワインはシュナン・ブラン100%。
樽香をまとったジャスミン・柑橘ジュース・・シレックス土壌由来の心地よい酸味が印象的な軽快な飲み口。シュナン・ブランと言うとカリンのアロマを感じる深い味わいのものをイメージするが、これはサッパリと南仏の料理に合いそうな爽やかさが特徴的であった。
続いては「鹿児島県産阿久根直送 スジアラのグリエ アーティチョークとチョリソーのソテー 一本槍のベニエ ウイキョウのジュとレモンのエムルッション」。一本槍とは福岡の漁業者が釣り上げる胴長15cm以上のヤリイカ(ケンサキイカ)。南仏らしい魚の仕上がりで、ややこってりしつつアニスを効かせたソースがこれまた好み。

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アーティチョークの柔らかい苦味、ヤリイカのフリットの優しい甘みが、それぞれバランスを取りつつ、柔らかくも的確な火入れの魚と一体となる。メインは「博多和牛のロティ ジャガイモとコンテチーズのプレッセ 博多長茄子とトマトのピュレ オニオンコンフィーとそのジュ」だ。肉の脂の甘みと玉ねぎの甘みを絡ませながら頂く。
博多和牛とは福岡県産の稲わらを与え、県内で1年以上肥育された3等級以上の和牛になり、最近売り出し中だ。グリオットチェリーとジュのソースと2種類が流される。合わせられた赤ワインは「ヴァン・ド・ペイドック スカリ F(Skalli F. rouge – Vin de Pays d’Oc avec Le Figaro Vin) 2006年」。メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラー・・

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紫を帯びた濃い色調でアロマが強い。タンニンはそれなりに溶け込みつつあるがヒリヒリした触感も残す。まぁイタリアっぽい赤ワインと言える。余韻は長くタンニンが口内に膜を作る。実はこの「F」は廃盤になってるが、特別に「ひらまつ」が作って貰ったテーブルワインと言う事だ。デセールは「福岡県産旬の果実と蜜柑のジュレの透明なラビオリ 軽やかなペパーミントのソルベ スパイスワインのコンソメと共に」。
エピスを効かせた温かい赤ワイン(ヴァン・ショー)をプルセルシェフ自らが各テーブル注いで回る(我が家にはASO天神の窪津朋生シェフが来てくれた)。ラビオリ、形が変わっていく姿の流れも楽しみながら頂いた。福岡県オリジナルのイチジクとよみつひめ、柿、豊水、ピオーネなどの果実を活かしたデセールであった。

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デセール時に提供されるのは「シャトー・ド・マル ソーテルヌ(Chateau de Malle Sauterne) 2009年」。フランス政府が歴史的記念物に指定していることでも知られる美しいシャトー、格付け2級。28haの畑に植えられたブドウは平均樹齢30~40年。 ソーテルヌらしい奥深いトロミと中心にある酸味のバランスがなかなか良かった。プルセルシェフの料理は、軽やかに甘みと酸味を活かした特徴が良く出ていた。
今ではよく見かける味わいではあるとは言え「スペシャリテ」の一皿、そして「栗のロワイヤル」「スジアラのグリエ」、この3プレートは完成度が高くなかなか満足できた。ワインは料理に合わせてそれなりに工夫されていたと思うが、ワイン単体としてはやはり今一つのレベル。我が家は「サロン」をチョイスしていなかったら辛かっただろう(笑)

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また平松シェフのいない珍しいガラであったが、「ひらまつ博多」春田英幸支配や松隈祐一郎副支配人をはじめとし、若手スタッフ達が意気揚々と頑張っていて好印象。相変わらずそつがなく安心して食事できると実感した一夜であった。
「レストランひらまつ」グループの強みでもあり弱みでもあった平松シェフの大きな存在感。これから次世代のスターシェフ(接待・株主・結婚式以外の美食の客を呼び込め、ミシュランの星を取り戻せるだけの)の登場にも是非期待したいものである。