夏真っ盛り!今年は沖縄より暑い博多、記録的な猛暑が続いている。ただでさえ夏は極力外に出たがらない妻を促して向かったのは、帰省の人達でごったがえすJR博多シティ。「シティダイニング くうてん」9階に位置するは、今九州で最も注目のシェフ 小岸明寛氏率いる「オーグードゥジュール・メルヴェイユ 博多(Au gout du jour merveille HAKATA)」。
旬の食材をふんだんに使ったモダンなフレンチで夏バテ解消だ。店舗前で出迎えてくれるのは笑顔の藤井智之メートル・ド・テル。駅ビルのレストラン街、しかもど真ん中にあり狭い空間なのだが、一歩店中に入ると雑踏が嘘の様な風情・・いつものテーブルへ案内して貰う。最近はコースにも変化を加え、「シェフお任せコース 2万円」を設定した。早速そのコースをお願いする事にする。

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今宵は夏らしく「地中海リゾート」をテーマにしたコース構成だそうで楽しみだ。さてまずは乾杯といこう。「メルヴェイユ博多」のワインリストは決して種類は多くないが、極めて良心的な値段設定だ。ワイン好きはグラスでなくボトルの方が満足度が高いだろう。選んだのは「ジャック・セロス リュー・ディ マレイユ・シュール・アイ スー・ル・モン(Jacques Selosse Lieux-Dits Mareuil-sur Ay Sous le Mont )」。
リューディ(単一畑)シリーズのブラン・ド・ノワールだ。これも現在の市価程度で提供されている。メニル・シュール・アイにある単一畑「スー・ル・モン(0.4ha)」で収穫されたピノ・ノワール100%(2005年初の収穫)。グラスに注がれると深く艶やかな黄金色、細やかな泡が間断なく立ち上る様も美しい。クレームブリュレ・洋梨のコンポート・・・

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複雑な香りが立ち上る。果実が口の中に滲み出るような上品さからピュアな苦味と旨味が残る。デゴルジュマンは2015年4月。まだまとまりきってないが、その感じがかえって料理との接点にもなりそうだ。30分もするとオイリーなタッチも微かに出てきた。そこに夏らしくカラフル賑やかなプレートが運ばれて来た。お馴染み有田焼「カマチ陶舗」の白皿に広がる美しく鮮やかなドット柄、
何と赤パプリカ・黄パプリカ・アボガド・人参・ブロッコリーなど、九州産夏野菜のピューレで描かれている?!芸術家らしい小岸シェフ手作業によるアートなのだ。その上で目に付くのは「トマトのミルフィーユ」。中にはワタリガニとほうれん草が潜み、タップリとキャビアも盛られる。そう、言わずもがな「ジョエル・ロブション(旧タイユヴァン・ロブション)」出身の彼ならではの物。

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 ロブションのスペシャリテ「トマト 毛ガニと共にミルフィーユ仕立て」の小岸風の再構成と言う訳だ。かなり大きなトマト(4L)から作り出すと言う、完熟トマトの甘みに溢れるそれ。周りに散りばめられたハーブや花など香り豊かな野菜も効いており、お得意の「小岸ガルグイユ」的な食後感もあるから二重に楽しい。
別に添えられた「トマトのソース(ガスバチョ)」は電球型ガラスポットに入って、更にスペインの名画家「サルバドール・ダリ」の写真と共に卵の紙ケースに入っていると言う面白さ。それを自ら好みでプレートに流すという趣向だ。これは「福岡市美術館(サルバドール・ダリ) × メルヴェイユ博多」のコラボ企画からとの事。続いて運ばれてきたのは白大理石風球体の器に乗せられた「山クラゲ?」。

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これもまたカマチ陶舗の有田焼だ。食感を残した中国野菜の「チシャトウ」を山クラゲに見立てているとの事。下には香ばしく焼いた「福岡産ヤリイカ」が覗いている。グリエと塩気がヤリイカの自然な甘みを存分に引き出して美味い。更に底には自家製湯葉を敷き、上にはアーモンド風味を漂わせた牛乳の泡が覆う。泡が全体の味わいを柔らかくもきっちりとまとめている。
スペインの定番ドリンク「オルチャータ」をイメージした、これまた完成度の高い一品だ。次は、九州の郷土料理「ゴマ鯖」からヒントを得た一品がやって来た。銀箔を張りキラキラと輝くカマチ陶舗のプレートに、「シルバーが素敵♪何?何?」と興味深々な妻。これも野菜の前菜同様、妻と私で大きさやデザインが違って面白い。>鯖皮の輝くイメージに合わせてこのシルバーの皿を使ったと言う訳だ。

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金紫蘇の爽やかな苦味、柑橘を仄かに感じるレンコン、振られた胡麻塩もピタリと焦点が合っている。「進化系モードなゴマサバね!このキラキラ皿も好き(欲しい)」とご機嫌な妻であった。さて赤ワインもお勧めの中からチョイスしていこう。メインは「鴨肉」なのでブルゴーニュかなと思いきや、次の前菜含めてカベルネ・ソーヴィニヨンの方が良いと藤井メートル・ド・テル。
勧めてくれたのは「ラス・カーズ 1997」「モンローズ 2005」「ラトゥール 2004」。いずれも好きな左岸ドメーヌなのでヴィンテージで絞り込もうか・・「1997年」は20年経って飲み頃が予想される一方、ヴィンテージ的には少し凝縮感に欠けて料理に合わないか、「2005年」は良いヴィンテージなだけにまだタンニンが強そうだし、「2004年」と言えばちょうど「ラトゥール」を先月飲んだばかりだし・・・

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と考えを巡らすところへ真っ直ぐな声で「ラトゥールでしょ?!私にラトゥール見せたら他にないでしょ?」と有無を言わさぬ妻。う~む確かに「2004年」はもうほどけて来てたな~?と言う事にして「シャトー・ラトゥール(Chateau Latour) 2004年」に決めた。これも現在の市価並みの値付け。言わずもがなボルドー5大シャトー格付け1級。ポイヤックに位置し1331年からの長い歴史を誇る。
ラベルには17世紀に建てられてた円形の塔(実は鳩小屋)が描かれている。この「2004年」の収穫は9月23日から10月19日、生産量の約51%(カベルネ・ソーヴィニヨン89%、メルロー10%、カベルネ・フラン1%、プティ・ヴェルド1%)。グラスに注がれる間も既に機嫌よい妻。揺れる濃い赤、「ラトゥール」らしい土っぽさ・杉と共に、湿っ気た黒コショウ、焼いた梅のような酸味が立ち上がる。

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コーヒーの苦味と乳酸発酵のまろやかさが丸く穏やかに調和する。先月飲んだ同「ラトゥール 2004」より状態が良く、若々しさを感じて2人驚く。信頼できるインポーターからの仕入れと言うがその影響もあるのだろう。口元に苦味がまだ残るも、品よく広がる酸味を伴う余韻。心地よい樽香がまだ強く、シルキーながらしっかりしたタンニンを感じる。「2004年」と言うヴィンテージらしい柔らかい果実味が中心部分にある。
アルコール度は13%(ちなみにビックヴィンテージの「2005年」は13.5%)にとどまる。凝縮感もさほどないため、はまった時の「ラトゥール」らしいあの押し出しの強さはない。総合的な印象は同じ方向ながらも、ボトル差が確かに感じられて面白く楽しめた。さぁそんな中運ばれて来たのは、2週間も特製スパイスと共に漬け込んだ「鴨フォアグラ」。これもモダンなカマチ陶舗の有田焼で。

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 正に溶かした肉の様?な衝撃。熟成発酵して味噌漬けのよう雰囲気も醸し出す。「最近マイブームなんです」と言う小岸シェフの自信作だ。かなり濃厚なため単体では最後に飽きが来かねないところ。そこで燻香を漂わせたヨーグルトソースを流し、その爽やかさが味わいを中和する。更に上に飾られたオレンジの可憐な花「タゼット」の、際立つ柑橘のニュアンスがやはり緩和剤でありアクセントにもなっていた。
黄金率を考え、左上に配置されビジュアル的なバランスも取る「天草産ウニ」は、濃い旨味を余韻に複雑に重ねる。このプレートは「ラトゥール」のまだ残る樽香、そして出始めたハーブのニュアンスなど様々な接点があり上手く合った。次の魚は「オコゼ」。ふっくらときめ細やかに仕上げ、その上にサマートリュフをたっぷり削った夏香る一皿だ。

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これもカマチ陶舗で深い海の様な「水墨(Sui-boku)」シリーズ。エスカルゴバターに生ハムの風味とヨーグルトの酸味を加えたソースが、脂が少なく淡白ながら滋味深いオコゼの身にピタリとはまる。軽やかながらもどこかクラシックさも感じるところが、フレンチ好きとしては嬉しい。エスカルゴバターの中には細かく刻んだ「サザエ」。殻ごと火を入れてソースで湯搔く様に仕上げたものだ。
下には枝豆の緑加え、更にフュメ・ド・ポワソンにジャガイモのピューレで濃度を加えたソースを敷いた。竹炭で色をつけたメレンゲ、そして一旦「イカ炭のパエリア」をわざわざ作ってから揚げたと言う再構築のチップが、芳ばしくガリッと小気味好い音をたてるのも良い。福岡市美術館所蔵の絵画「ポルト・リガトの聖母(The Madonna of Port Lligat)」をテーマに作り上げた一皿。

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マリアの切り抜かれた長方形部分にキリストが描かれたダリの代表作である。この再構築のチップは、そんなダリの長方形をモチーフに創作したとの事。フレンチらしく味わいを重層的に重ねて食べ応えあるこの料理には、温度を上げた「ジャック・セロス リュー・ディ スー・ル・モン」を合わせ、白ワイングラスで楽しんだ。次はいよいよメインの「鴨肉」だ。
「世界料理学会 in ARITA ~器と料理のマリアージュ~」で発表した、有明海をイメージした新作特注プレートで出てきた。涼し気に輝く白の中に、佐賀の山・稲穂・有明海の干潟・渦などが描かれている。52度で火を入れた鴨肉の一部をくりぬき、人肌で熱を入れた「五島列島の本マグロ」を詰めたのだ。海の餌を食べた青森の鴨肉に海のマグロを合わせるという発想。

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 鴨肉とマグロのそれぞれの鉄分の調和も合わせて狙っている。更には鴨が食べたであろう「大麦」も添えて完成させた。鴨肉はグリエした香りが食欲をそそる。シンプルなジュのソースが鴨肉の野趣っぽさを自然に活かし、塩加減が旨味を引き出してくる。添えられた甘草のパウダーと、ピカソも愛したリキュール(薬草酒)「スーズ」が「ラトゥール」ともつないでくれる。
ナイフを入れるとややハラリと固まりが崩れるマグロは、正に鴨のお腹から出て来たような美味いアクセントになった。何とも贅沢な食べ応えのある一品に満足した。素晴らしい料理のラインナップでお腹一杯な所へ、アバンデセールはスッキリ一息の「バジルのソルベにアロエベラを添えて」が運ばれる。バーブの爽やかさに加えて独特の辛味が残るのが何とも面白い、夏らしい余韻を印象付ける。

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実はスペイン風に唐辛子を加えたとの事・・絶妙な使い方に感心する。デセールは「クレームブリュレ」の起源とも言われるスペインの伝統菓子「クレマカタラーナ」を再構成したものだ。スパイシーな味わいのイチジクに、トンカ豆のブリュレを加えエキゾチックに仕上げている。端にはチョコレート2種類、口溶け滑らかなキャラメルもアクセント。
妻は「久しぶりにレストランのデザートで満足したかも??」と最後まで美味しそうに食べていた。3種の中から選ぶこだわりのお茶(八女紅茶/ハーブティー/あだち珈琲)に加え、プティフールでは熱々の「ミニチュロス」「チュッパチャプスな葡萄」などが運ばれて、珍しく妻が全部食べていた。思えば伺う度に完成度が高まり満足度も増えてる。

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そして一度としてプレートが重ならない、そんな小岸シェフのその引き出しの多さも魅力の一つだ。小岸シェフは「いつもどんな時でも、料理の組み立てばかり考えてます」と言うだけあって、組み合わせの妙だったり、素材の引き立て方がとても上手い。着任当初は繊細で技巧的なイメージが強かったが、伺う度に、変わらぬ繊細さ・クリエイティブさの中にも、程よい力強さや食べ応えも出てきてる。
スタッフも若いが小岸シェフを中心に一枚岩なチームワークが好ましい(博多駅という場所柄、客層も幅があり苦労する事も多いだろう)。九州では数少ない、季節ごとに訪問したくなるフレンチレストランの一つ。帰りは小岸シェフと藤井メートル・ド・テルに見送られながら、まだまだま賑わう博多駅を後にする。「秋の小岸フレンチも楽しみね~♪」と2人話しながら、暑い博多の夏夜を帰途についた。