多忙につきいくつものレストランレポートが延び延びになっている。お茶濁し的に最近自宅で飲んだワインをザッと挙げておこう。梅雨も明けいよいよ夏も本番、やっぱり毎日開けてしまうのはシャンパーニュになる。我が家は夫婦で20年以上ワインを飲んできたのでお互いの趣味が分かる。日常基本は妻の好みのワインを選び、妻が飲まない時は妻の苦手系のワインを開ける様にしている。
とある休日のアフタヌーンシャンパンに妻が付き合わないと言うので、チャンスだとばかりにセラー室のRM棚からチョイスする(笑)「ダヴィッド レクラパール ラルティスト(David Leclapart L’Artiste)」だ。モンターニュ・ド・ランスのトレパイユ村の3haから作り出すブラン・ド・ブラン。畑半分はネゴシアンに売却して、厳選した半分は醸造からビン詰めまで自ら行う(ビオディナミ農法)。

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この「ラルティスト(芸術家)」は所有畑22区画中2区画のみ、シャルドネ100%・樹齢30~40年。明示していないが単一年から生産している。裏ラベルに「L.V09」とあるのは、2009年の葡萄で作られたと言う事だ。2004年からはステンレスタンクに加えて古樽でも1次発酵、その後11~12ヶ月間熟成。2次発酵と熟成に36~42ヶ月。年間生産5000本。グラスに注ぐとややグレーかかったイエローが煌めく。色だけ見ると黒葡萄もそれなりに入っていそうだがブラン・ド・ブランである。持続性のあるやや大きな泡がグラスの周りに残る。泡が酒質に綺麗に溶け込んでない様もRMらしくて面白い。香りの立ち上り方は控えめ。洋梨・青林檎・短時間コンポートした果実・キノコ・火打石・・時間と共に薄い甘露なニュアンスも奥に出てきた。

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ノンドサージュらしいシャープでいて、しかしまろやかな口あたり(マロラティック発酵あり)。心地よいミネラルの苦みも残る。この「ラルティスト」はホーロー樽とオーク樽(ルフレーブから購入)が50%ずつだが、樽のニュアンスはほとんど感じられない。最初は薄いかなと思うが、なめらかな口当たりから染み出る滋味深い旨味がクセになる。
享楽的ではないがじっくり向き合うと何か語り掛けてくるようだ。ただビオディナミが苦手な妻にテイスティングさせるとやはり今1つの印象。この他にも「アマトゥール(信奉者)」「アポートル(使徒)」と名付けた物もあり(新ラベルもそれぞれモダン)、その詩的な作り手の思想が味わいにも反映されているシャンパーニュと言える。

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2010年から作られた「ラストル ブラン・ド・ノワール」もリリースするなど、小規模生産者ながら目が離せない作り手の一人であることは間違いない。チェリ~がゲットして来た「エシレ・メゾン デュプール」の、エシレバターがたっぷり染み込んだ「マドレーヌ&フィナンシェ」と共に楽しめた週末の午後であった。
そう言えば前週平日に開けたのは「ジェローム・プレヴォー ラ・クロズリー レ・ベギン エクストラ・ブリュット(Jerome Prevost La Closerie les Beguines Extra Brut)」。ランス南西、プティ・モンターニュのグー村。立地的には恵まれないが、世界的に引く手あまたのRMが「ジェローム・プレヴォー」だ。

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昨年の「ノーマ・ジャパン(noma tokyo)」のディナーで、ワインペアリングの1杯目で供されたのも記憶に新しい。1987年21歳の時に2.2haの畑を相続し、アンセルム・セロスの愛弟子となり1998年からワインづくりをはじめ、1960年代に植えたピノ・ムニエの古樹からこの1種類「ラ・クロズリー レ・ペギン」だけを作り出す(2001年リリース)。「ラ・クロズリー」とは小さい農地と言う意味。
ジョローム・プレヴォーは自ら小さな畑を耕す。農民が一生懸命働いているという自分のイメージをワインの名前に託した。手作り感あふれるシャンパンは、薄いレモンイエローの中、極小のクリーミーな泡が盛り上がる。草・レモンの皮・熟した白い果実・スパイス・トースト・・分析すると外れて行くような独特なまとまりを持った香りに魅了される。なめらかな口辺りから果実の旨味が広がる。

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ドサージュは少な目だが(4g/l以下)、熟した果実の甘みと風味がふくよか。ピノ・ムニエ100%らしい味わい。ただこの1本は飲み進める内に前回よりも薄く感じ飽きてきた。ノンヴィンテージだが単一年の葡萄のみで作り、そして熟成期間も短い。それらが今の味わいに影響しているのだろう。一緒に購入したボトルはセラー室でゆっくり寝かせて、数年後に楽しみたい。
この日のスイーツはチェリ~がゲットして来た「ロッキーマウンテンチョコレートファクトリー」の丸ごと林檎「ロッキーロードアップル」!こちらは迫力の食べ応えだった。さて~、その翌日に開けたのは「ボランジェ R.D.(Bollinger R.D.) 2002年」。早い時間から夕暮れに差し込む光を感じながらゆっくりと開ける。

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1829年創業、1884年から英国王室御用達である「ボランジェ」。プレステージの「ラ・グランダネ」通常良く開けているが、この長期熟成の「R.D.」は久しぶりだ。映画「007スペクター」にはこの「R.D. 2002」が登場していた。誕生50周年と言う「R・D(レサマン・デゴルジェ)」つまり最近の澱抜き、出荷直前に澱抜きされたものだ。
今回はシャルドネが良くピノ・ノワールは60%と少なめと言う。薄めのゴールド、泡はほとんど立たない。熟したシードル・蜜を垂らしたフレッシュな林檎・黄桃・ナッツ・シナモン・・香りの立ち上がり方は予想より穏やかで、あれっ?と言う感じ。樽香は溶け込みスムーズな酸味の大人な飲み口。ミネラルの塩気や苦みが余韻に交差する。全体的に閉じ気味・・

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ただいつもの様にグラスを変えていき、2時間半後の白ワイングラスで味わう頃には、洋梨・クレームブリュレ・中間的なオイリーさも出て来た。「ボンドじゃないけど無理やりね~、これならジローやセロスの方が良いわ」と、今ではすっかり酸化したシャンパーニュも好きな妻には今一つだったようだ。昔は「R.D.」でも濃い!と言ってステンレス派であった妻。
お互いの好みの変遷やワインの思い出についてあれこれ語り合う楽しい夜となった。と言う事で妻の希望により翌日開けたのは「ジャック・セロス V.O.ヴァージョン・オリジナル エクストラ・ブリュット(Jacques Selosse Extra Brut Blanc de Blancs Grand Cru V.O)」。生産平均わずか3600本。RMの代表と言えるセロス、これは醸造所のあるアヴィズ、クラマン、そしてオジェから収穫されるシャルドネ100%のブラン・ド・ブラン。

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デゴルジュマンは2014年4月。細かな泡はスーッと溶けていく。洋梨とリンゴのコンポート・黄桃・・ノンドサージュらしい緊張感ある味わい。ブラン・ド・ブランの清廉さとミネラル感が引き締まった骨格を形作る。ノンドセでも熟した甘さを感じるのは葡萄を完熟させているからだろう。2年経っている事もあり、味わいはかなり落ち着いている。
時間と共に黒トリュフのように妖艶な香りが白ワイングラスから立ち上る。いつもながら飲み飽きせず、いつまでも飲み続けていたいと思わせるシャンパンであった。合わせて楽しんだのは、パルマ産生ハムで巻いた完熟の「宮崎産マンゴー」。甘さを補う感じで太陽輝く夏を味わった。そうだ、セロスの少し前にこれも妻の希望で開けた「アンリ・ジロー アルゴンヌ(Henri Giraud Argonne) 2004年」を挙げておこう。

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1625年からアイ村のグラン・クリュでシャンパーニュ造りを続け、イギリスやモナコ王室ご用達でも知られる老舗シャンパーニュ・メゾン。その3日前の「フュ・ド・シェーヌ アイ・グラン・クリュ マルチビンテージ(Henri Giraud Ay Grand Cru Fut de Chene Multi Vintage)」と飲み比べだ。独特の飲み口に好みが分かれるが、
「シャルドネ」「ブラン・ド・ブラン」派だった我が家も飲み続けるうちに、今や定番の一つの地位を占めるようになった。ドサージュも少なくないし、オークの利かせかたもある意味トゥーマッチ。そんな飲み口も魅力の一つになっている。ルイ13世統治下で創始者フランソワ・エマールが、アイ村の8haの葡萄畑を手に入れ栽培を開始。1990年に作り出されたプレステージ「フュ・ド・シェーヌ アイ・グラン・クリュ」は2000年までで、

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その後は複数年のブレンドによる「マルチヴィンテージ」に変更。ちなみにその「フュ・ド・シェーヌ アイ・グラン・クリュ マルチビンテージ」は、クレーのウレタンボックスに入って、世界ソムリエ大会でソムリエも躊躇させた「金属コルクストッパー」が飾りになったオシャレなデザインだ。ピノ・ノワール70~75%、シャルドネ25~30%。
オーク樽で一次発酵12ヶ月熟成、6年瓶内熟成。今年は「ニューオータニ東京」でも飲んだ。少し前には「ガストロノミー ジョエル・ロブション」でも2度飲んでいる。グラスに注ぐと、シュワシュワと小気味良い音を立てながら細かい泡が立ち上る。やや濃い美しいゴールドが夕日に煌めく。シェリー・ナッティでふくよかな果実、複雑なアロマが香しい。時間と共に洋梨のコンポート・オレンジの皮・熟したメロン・蜜を垂らした木の皮・・

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滑らかでリッチな舌触りから、蕩けるような旨味が広がり口中を満たす。やがて複雑で長い余韻へスムーズに続く。最後には心地よくも主張のある苦みと、塩気を感じさせるミネラルが微かに残った。そして、2002年からは「アルゴンヌ」が新プレステージ・シャンパーニュとなった。シックな黒ボトルでネックにはナンバリング(刻印)。コルク留めもお馴染みだ。なおデゴルジュマンの日にちなど、MVになってからはラベルでの情報開示は余りない。ピノ・ノワール75%、シャルドネ25%。「アルゴンヌ 2002」よりピノ・ノワールの比率を5%上げた。
アルゴンヌ森のオーク樽で一次発酵後12ヶ月熟成、さらに瓶内で8年熟成。グラスに注ぐとやや薄いオレンジかかったゴールドが、ピノ・ノワールが支配的であることを物語る。今年開けた「2002年」がかなり濃いオレンジかかったゴールドだった事と比べると、色調の差もはっきりしている。

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洋梨のコンポート・白いキノコ・カスタードクリーム・樽香・・心地よい酸味から余韻にかけてさらに樽のリッチな旨味が出てくるが、クリアなミネラル感もあるので、重くなりすぎない。余韻には微かにピノ・ノワールの赤い果実の雰囲気も感じ取れる。ただ妻的には期待値まで行かず「2002年」の方が良かったかなと言う印象。
思えば「2004年」はシャンパーニュでは良い評判のヴィンテージであるが、「ドン・ペリニヨン」「ドン・ペリニヨン ロゼ」、そしてこの「アルゴンヌ」と我が家的には果実味が足りず、繊細すぎる印象で一致している(実は「アンリ・ジロー アイ・グラン・クリュ ブラン・ド・ブラン 2004」は気に入ったのだが)。もちろん熟成途中であるので、今後どう変化していくか機会を見ては楽しもうと思う。

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この時合わせて楽しんだのは、常備のパルマ産生ハムとチーズで、熟成食べ頃の「ブリートリュフ」「コンテ」「ゴルゴンゾーラ」。と言う事で「2004年」繋がりで開けたのは「シャトー・ラトゥール(Château Latour) 2004年」。その前に「アンリオ・キュヴェ・デ・アンシャンテルール 2000」「ルイ・ロデレール クリスタル 2006」と続けて開けていたので、
シャンパンに飽きた妻から「美味しいボルドーも開けてよ~」と言う苦情が出たのだ。ボルドー5大シャトー「シャトー・ラトゥール」格付け1級。ポイヤックに位置し1331年からの長い歴史を誇る。ラベルには17世紀に建てられてた円形の塔(実は鳩小屋)が描かれている。1993年に世界的実業家のフランソワ・ピノー氏がイギリスから取り戻した。それ以来数年に渡る大規模改革を行い、品質向上には目覚ましいものがある。

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ピノーが買収したのは、彼自身ワイン愛好家でラトゥール好きだったからとの事。グラン・ヴァンの年間生産量は、1990年代半ばの22万本から13.2万本に抑えている(ちなみにラフィットは24万本、ムートン17万本、マルゴー15万本、オー・ブリオン12~14.4万本)。この「2004年」の収穫は9月23日から10月19日、生産量の約51%(カベルネ・ソーヴィニヨン89%、メルロー10%、カベルネ・フラン1%、プティ・ヴェルド1%)。
グラスに揺れる少しオレンジかかった濃い赤、ブラックチェリー・ラズベリー・甘草・砕いた角砂糖・挽黒コショウ・微かに火のついたタバコ・杉の木や土・・更に薄めたインク・乳酸発酵の雰囲気も感じられるなど若々しい。タンニンはもうかなりすべらかだが、飲み干した後には心地よい収斂性のある苦みが口の中に残る。「若くてもやっぱりラトゥールはエレガントで美味しいわ!」と妻も楽めたようだ。

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ボルドーの2004年であるせいか迫りくるような凝縮感はないが、優雅な強さが季節にも早飲みにも堪えてくれまずまず満足。春に「レストラン花の木」で開けた「2001年」はまだタンニンが溶け込んでいなかったが、この「2004年」はより早く熟成が進んでそうだった。う~んやっぱり今日も暑い・・さぁどのシャンパンを開けようか。