宿泊先の「アマン東京」から車を走らせたのは、我が家お馴染み恵比寿のシャトーレストラン「ガストロノミー ジョエル・ロブション(Joel Robuchon)」だ。城の1階「ラ ターブル ドゥ ジョエル・ロブション(LA TABLE de Joel Robuchon)」のテラス(シャトーガーデン)にはオレンジ色のパラソルがいくつも見えて来た・・ハウスシャンパーニュ「ヴーヴ・クリコ」イベント中との事。
1階エントランスでは松澤剛レセプションマネージャーがいつもの優しい笑顔で出迎えてくれ、エレベーターで2階まで案内してくれる。平日の夜と言う事もあり満席ながらも落ち着いた風情、ガラディナーの高揚した特別な夜は当然良いが、こういった普通のデートな夜もやはりここは楽しい。

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いつものテーブル席に座り、ベテラン原田聡メートル・ド・テルや神田敬市メートル・ド・テルと挨拶。サービス担当は妻のお気に入り村林篤メートル・ド・テルだ。さて、まずはシャンパンで乾杯といこう。いつもの事だが「ヴーヴ・クリコ以外で何かグラスはないかな~?」と妻のワガママなリクエスト(笑)
矢代愛美ソムリエールがさっと出してくれたのは「G.H.マム ブラン・ド・ブラン マム・ド・クラマン グラン・クリュ(G.H.MUMM Blanc de Blancs Mumm de Cramant Grand Cru)」。ラベルの赤いリボンはフランス勲章「レジオン・ドヌール」モチーフで、かつてはF1の公式シャンパンだった事でも知られている。

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「G.H.マム」を自分でチョイスする事はないので、ある意味新鮮だ。しかもこれはメゾン誕生130周年を記念ボトル。1882年最初買った白葡萄畑、そして最初に買ったグラン・クリュ白葡萄が「クラマン」と言う事で、特別な思いを込めてエチケットにその名を刻んだとの事。
「G.H.マム」は現在畑218haを所有(主として8グラン・クリュ、アイ/ブジー/アンボネイ/ヴェルジー/ヴェルズネイ/アヴィーズ/クラマン/マイイ・シャンパーニュ)し、所有畑の葡萄25%と外部葡萄栽培農家の葡萄75%から造られる。当然ながらこの「マム・ド・クラマン」はクラマンのシャルドネのみで造られている。

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短い熟成期間のため酸化熟成のニュアンスは感じられないが、4.5気圧に抑えることでクリーミーさを表現した。オレンジ、レモンの皮、爽やかながら苦味が残る。こじんまりと薄めであるがチャーミングな味わいにほっとする。そんな1杯を楽しんでいる所に信国武洋ソムリエが登場する。
現在ロブション全店のワインを統括する立場上、最近は他店舗へ出ている事も多いとの事だが、この日は我が家の為にわざわざこちらへ出てくれていた。ワインリストを眺めながら、ワインの他にも近況など色々語らう。ところで料理だが、しばらく前からコースの仕立てが変更した。

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「メニュー・デギュスタシオン」や最近ロブションシェフが提唱する野菜コース「メニュー・ベジタリアン」に加え、前菜・メインの数でコースをチョイスできる「メニュー・プリフィックス」が出来た。好みのプレートをチョイス出来るので、自分の味覚・好みの傾向が分かっていれば外す確率が減るだろう。
と言う訳で「メニュー・プリフィックス」Aコースを頂こう。我が家の過去データを知り尽くしている村林メートル・ド・テルと話しながら選んでいく。そこへ運ばれたのはアミューズ2種。まずは「ラングスティーヌ 軽くて香ばしいゴーフレットに」。手でカジュアルに頂く手長海老のワッフル。華やかな盛り付けだ。

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熱々のワッフルの中にはホワイトソースとチーズが絡み合い、トロリ溶け出てくる。香りの余韻が長いいかにもフレンチらしいアミューズに早くもテンションが上がる。ここでパンワゴン(ボルディエバター)も運ばれる。2つめのアミューズは、前月ロブションが来日していた時の新作と言う「キャビア アンペリアル ミモザ風味」だ。
玉子を中心に可愛らしい仕立てで妻も「乙女チックね♪」と嬉しそうだ。パセリソースの上に鎮座する玉子は、黄身ををくり抜きマヨネーズソースとキャビアを潜ませた。上にも同じソースを重ねた。フレンチらしい濃さだが、酸味でバランスを取りさっぱりと仕上ている。

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と言う訳で前菜一皿目としてお願いしたのは「グリオットチェリー ガスパチョ仕立てにし、リコッタチーズのグラスとピスタチオを浮かべて」。深いピンクレッドに白いリコッタが美しく点在する。艶かしい甘さと酸味が季節にぴったり、リッチな舌触りでクセになる旨さだ。見た目多いかと思ったが(ワイン以外の水分は食事中余り摂取しないので)スルスルと収まっていき驚く。
グランメゾンらしく上品に昇華させたガスパチョの一つの完成型だろう。では信国ソムリエに白ウィンをグラスでお願いしよう。ここはワインの塔、「ガストロノミー ジョエル・ロブション」ではグラスワインも十分に楽しめるのが特徴だ。

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プレートに合わせたワインペアリングも、やはりワインの品質がなかなか満足できるレストランが少ない。年齢を重ねるにつれ量ではなく質を求めるようになる。そんなワインラバーにとっては、ここ「ガストロノミー ジョエル・ロブション」は随一だと言える。信国ソムリエが出してくれたのは爽やかミントグリーンのラベル、ボルドー「シャトー・コス・デストゥルネル ブラン(Chateau Cos d’Estournel Blanc) 2012年」。
初リリースは2005年、サンテステフの畑2.3haから年に4000本という「幻の白」だ。ソーヴィニヨン・ブラン77%、セミヨン23%。中でもこの「2012年」はパーカーポイント最高点とか。グラスに揺れる美しいレモンイエロー、厚みありつつもサッパリとした飲み口はこの蒸し暑い時期にピッタリ。

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爽やかながら飲みごたえある1杯だった。さて次の前菜に選んだのは何度となく食べた定番「ラングスティーヌ ラヴィオリにし、ちりめんキャベツを添え、黒トリュフをあしらって」。原田メートル・ドテルも「個人的に外せない一皿です」と言っていた。プリッとした食感から甲殻類の身がむっちりと弾ける。
トリュフのリッチなソースは濃厚でいかにもロブションフレンチに戻ってきたな~と感慨深くもなる味わい。ここで選んだパンが焼かれて運ばれる。マイナーチェンジした「イカスミのミルクパン」や「アンチョビのクロワッサン」などを楽しむ。更に続く魚は「スズキ 葱のエチュベとシトロネルの香りのクレーム」。

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しっとりとしたスズキの身の上に添えたトマト、絹さや、ポワロネギ。爽やかなレモングラスの香り立つソースを絡めつつ頂く。ロブションらしいクラシックでいてモダンな適度に軽やかな味わい。さあここで赤ワインをボトルで頂こう。こちらでは妻の好きなボルドーをチョイスする事が多いが、今宵は肉に合わせてブルゴーニュを所望する。
信国ソムリエに幾つかピックアップしてもらった中から「D.R.C. エシェゾー(Domaine de la Romanee Conti Echezeaux) 1989年」に決める。言わずもがなブルゴーニュ地方ヴォーヌ・ロマネ村、2000年以上頑なに丁寧な伝統的ワイン造りを続けて来たDRC社。年明けに「D.R.C. ラ・ターシュ 2009」を開けた以来だ。

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「エシェゾー」は4.67haの畑で、平均樹齢32年、年間生産約1300ケース。1989年ヴィンテージは、「豊潤で果実味に溢れている」「温度管理を行い、収量制限を怠らなかった作り手がこのヴィンテージを素晴らしい成功例に仕立て上げた」と言われてるから楽しみだ。グラスに注がれると美しくクリアな赤茶色。
カツオ出汁・ドライフルーツ・火のついた葉巻・濃紅茶・獣の毛・・・穏やかで上品ながらも複雑な香りが流れ出す。信国ソムリエも「きっちりと開いてますね・・これはかなり良いです!」と太鼓判だ。口に含むと何ともチャーミング、それでいて若さもどこか感じられ、ロブションの料理をきっちりと受け止める。美しく熟成したブルゴーニュを時間をかけて味わう幸せ。

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妻も「こう言う綺麗なブルゴーニュならいくらでも飲めるわ♪」と楽しげだ。ロブションは「D.R.C.」を信頼できる1社からしか仕入れない。それでも「ロマネ・コンティ」は開けてみるまで分からないと言う。液面が良くても今1つだったり、キャップシールから少し漏れていても抜群だったりとワインに正解がないことを思い知る・・
そんな奥深いワイン談義と共に味わう。そこに登場したのは「仔鴨 菩提樹の香りをまとわせながらスパイシーに焼き上げ フォワグラと大根のキャラメリゼを添えて」。コリアンダーのタネや山椒を表面にまぶして、キャラメリゼしたひな鴨が丸々1羽トレイに乗せてある!艶やかな色合いが見事。

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これを、昨年「FFCC第16回メートル・ド・セルヴィス杯」準決勝まで進んだ村林メートル・ド・テルが、目の前でデクパージュしてくれる。弾力があり締まった身に美しくナイフがササッと入っていく・・何とも器用に腿肉を外していく。「見事な手さばきね~、素敵ね~」と妻も見とれて感嘆の溜息だ。途中から原田メートル・ド・テルもサポートに入り、今度はデクパージュ談義で盛り上がる。
20周年ガラ」でデクパージュしたパンタード(ホロホロ鳥)は骨が固くてやりやすいが、赤身の肉、特にキャネットは背骨が柔らかいので気を使うとの事。そんなワイワイ楽しいデモンストレーションとなった。大皿には厚く食べ応えある胸肉、付け合わせは大根を乗せたフォワグラ。腿肉は更に別皿でサラダと共に供された。

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すこぶるジューシーで豪華ボリューミーな鴨肉に、状態良く最後まで美しい味わいのブルゴーニュと楽しむ。ここまででお腹の許容量を超えてしまい、コースに付いてるチーズはパスして私は軽く夏らしいデセールを軽く頂く事にした。妻はメニューにない「ショコラのアイスが少しだけ食べたいのよ~」とワガママを言うので、特別に用意してくれた。
そう言えば去年までエグゼクティブ・シェフだった渡辺雄一郎氏が、独立して浅草の隅田川沿いに「レストラン ナベノイズム(Nabeno-Ism)」を7日にグランドオープンさせる。一軒家でなかなか面白い建物だそうだ。もちろんここジョエル・ロブションは全体の総料理長でもあるアラン・ヴェルゼロリ(Alain Verzeroli)氏が引き続き指揮している。

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今宵も美味しい上にかなりの量で大満足。クラシックでいてモダンでもあるロブションは最先端の王道フレンチと言えるだろう。プリフィックスは特にどの素材を食べたか明白に記憶に残る。この記事を書きながらも、味わいや香りが鮮明に浮かび上がってくるからさすがだ。
モダンで軽やかなフレンチも好きだし、驚きの多い新しい料理もそれなりに楽しいが、歴史の上に進化し続ける巨匠の料理は、それらとの対比で逆に懐の深さや奥行き、そして安心感を感じることができる。そんなロブションのレベルを改めて実感したディナーであった。帰りは信国ソムリエと村林メートル・ド・テルが見送ってくれる中、車で城を後にする。次は実りの秋が楽しみだろう。

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