向かったのは正に梅雨に入らんとする京都。この季節も日本らしい風情が楽しめるので好きなの。今回も京都駅からまず車を走らせたのは「伏見稲荷大社」、日本各所にある稲荷神社の総本社。今や「外国人に人気の日本の観光スポット」1位を2年連続で獲得、きっと今年もそうであろう。いつもの様に艶やかな朱鳥居をくぐり楼門両脇の大きなお狐様を臨む・・
日差しが強いなぁ。楼門から階段を上がって本殿へ・・やっぱり外国人が多い、加えて修学旅行生もいたから混雑もいつも以上よ。本殿でお参りを済ますと裏手にある「千本鳥居」へ。今回も主人単独で中腹までお参り、私はその間「白狐グッズ」や「お守り」などを購入する。見上げれば軒には提灯が並んでいる・・あ~そうだ来月は全国のお稲荷さんを祀っている神社や崇敬者が集まる「本宮祭」が行われるのか。

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前夜「宵宮」には、敷地内の石灯篭や献納提灯が点灯して、そこらじゅ真っ赤に輝くの。もう受付が始まっていたのね。その後は車も待たせていたので、足早に賑わう「伏見稲荷大社」を後にした。さぁそのまま宿泊先の、我が家お馴染み「俵屋旅館」へ。歴史深い数寄屋造りの建物に車を付けると、すぐに男性スタッフが荷物を運び出して、いつもの女性スタッフが笑顔で出迎えてくれ、ひんやり打ち水の玄関に入る。
一歩踏み込むと別世界になるこの空気が良い。水無月と言う事で入口のコンセルジュには「唐傘画賛」、玄関には江戸中期の金屏風で華やかな「牡丹図屏風」が置かれていて、その前には古代中国「青銅製蛙」が佇んでいる。上がって目を引く坪庭は、燦々と日差しを浴びて輝く笹の葉、その脇にある茶室前の廊下には大きな「茅の輪」が備えられている?!

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いわゆる「夏越しの茅の輪」、陰暦6月末に行われる「夏越の祓え」の必需品ね。それは北野天満宮や城南宮、7月半末だと八坂神社などで行われる「年分のけがれを落とす」行事。茅を輪に作ってそれをくぐる事により、今年半後の厄除けを祈願すると言う訳(つまり年末にもある)。なるほど日本文化らしい季節の感じ方よね。
坪庭横には俵屋お馴染みの加藤静允による「蛙筆洗」、そして「水鳥俑」。ロビーには夏の定番、古墳時代の「水鳥埴輪(大谷坪出土)」と「萬古焼蛙」が涼し気に飾られている。奥の図書室「高麗堂」には、相変わらず貴重な画集や美術書が並び、朝鮮時代の文机、は冨田潤による「二重織のラグ」が敷かれている。

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 ロビー向こうの廊下には風俗画「扇売り」。旧階段上には種田山頭火の「わけいってもわけいっても青い山」。2階に上がると談話室「アーネスト・スタディ」がある。さぁ宿泊する部屋へ向かおう、いつもの一階奥にある吉村順三設計の「暁翠の間(暁翠庵)」ね。道すがらにあるのは「井戸の小道」や「庭座」・・どこからの視線でも美しい手入れされた中庭。
この季節は一層緑や花々が美しい。新館入り口に飾られているのは鈴木治による「はつ夏」。迷路の様に進んで突き当たりが、硝子扉で仕切られている離れ風のその部屋よ。緑揺れる露地の蹲もありとっても静か、入口には冨田潤によるアートワークが掛かっている。ここはあのスティーブ・ジョブズが泊まっていた事でも知られている。

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あ~思い出したが、今年亡くなったデヴィッド・ボウイも来日の際は必ずここ「俵屋旅館」に滞在していたのは有名ね(新婚旅行から)。入ってすぐ正面は書斎エリアで中庭も見える。そこにはフィン・ユールのヴィンテージ「NV55」や、エリック・マグヌッセンのチェアなどの北欧家具が置いてある。左手前が寒竹や太鼓襖で仕切りった寝室。
土壁の上に韓紙が貼られた(袋張り)空間にツインベッドが並び、カルティエの時計やバング&オルフセンの電話が備えてある。壁には宮脇愛子の版画。奥の居間に上がる壁には、縄文時代の「遮光式土偶」や室町時代の置物が飾られている。中庭に角が突き出た居間は、大ガラスと竹の濡れ縁の向こうに美しい中庭を見渡せる。部屋の中心にある掘りごたつ式の卓は電動で上下するの漆一枚板、それには俵屋オリジナルの改良型「ベンツ椅子」がセットされている(書斎にもある)。

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床の間のしつらえは水無月のと言う事で、江戸初期の森川重良による山水図が掛けられている。手入れされた庭には茂木々に伸びる青竹・・日が注ぎ鳥もさえずる。ここは奥まった場所にあるので不思議な程静かよ。そこへいつもの様にウェルカムアメニティーの「俵屋特製わらび餅」とオリジナル緑茶が運ばれて来た。冷んやりとろける美味しさに癒されるわ。
一息ついたら主人はお風呂へ入る。ガラス越しに専用の露地をのぞむバスルームには、磨き上げられた「高野檜の風呂」。既に適温のお湯が満たされているわ。バスアメニティは御存じ「サヴォン・ド・タワラヤ」など、加えて俵屋オリジナルの「ガーゼパジャマ」や「ガーゼボディタオル」「靴下(足袋)」なども相変わらず個性的。

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私はその間、居間でのんびり読書をする、最近はまっている「超長編時代物」は移動中など暇を見つけては読んでいるが、余りの長さにいくらも進んでないように感じる(笑) そうして気が付けば日も落ちてきて、お待ちかね黒川修功料理長の「水無月の献立」が運ばれる時間となっていた。いつものお部屋係さんと再会の挨拶を交わしつつ、盃に仄かなピンクの「プラム酒」を注いで頂く。
甘いのすももの香りに季節を思う。そしてお願いしたのは、去年から「俵屋旅館のハウスシャンパーニュ」になっている「ドゥラモット ブリュット NV(Delamotte Brut NV)」(これ1種類のみ取り扱い)。1760年創業のシャンパーニュ・メゾン「ドゥラモット社」、1988年に「サロン ブラン・ド・ブラン」と供に「ローラン・ペリエ」の傘下に入った。

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葡萄の良年にしか「サロン」は造られず、その他の年はサロン醸造チームがその葡萄で「ドゥラモット ブラン・ド・ブラン」を作る。そしてこれが「ドゥラモット ブリュット NV」ね。コート・デ・ブランのシャルドネが50%、ブズィとアンボネのピノ・ノワールが30%、ヴァレ・ド・ラ・マルヌのピノ・ムニエ20%。ドサージュは1L当たり9gと控えめ。瓶内熟成期間は30~36ヶ月。
繊細な葡萄の甘さと旨味、切れのある酸味、適度で心地よいミネラル感が、上質な和食にぴったり寄り添うわ。さてまずは先附、嬉しい「鱧湯引き 吉野酢掛け」は今年初よ♪ ズイキの柔らかい味わいに、小さな焼き椎茸の染み出る旨味。美しいコントラストの「海老 枝豆白酢掛け」には炒り胡麻が香る。姫栄螺柔らか煮は万願寺唐辛子と共に。

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どれも「ドゥラモット」のキレの良い酸味がピタリと合う。小吸い物は糸鮑に梅香仕立てでホッとする優しい味わい。黒川料理長らしい細やかな仕事にもてなしの心を感じるわ。続く向附は美しく3種が並ぶ。繊細なオコゼはポン酢醤油で、微かな焼き目のスズキは夏らしい爽やかな脂を煎り酒で。そして真ん中は「湯波半老舗」のであろう柔らか蕩ける刺身湯葉は胡麻醤油で。
煮物は漆塗りのお椀で「ぐじ(甘鯛)蓮蒸し」が出てくる。蓋の裏には金色の紫陽花が描かれているわ。揚げ豆腐の上に乗ったぷりんぷりんのぐじ、人参葉とオクラ。笹掻き牛蒡の土らしい香りと、振られた柚子皮もの爽やかな香りが心地よい。いつもながら優しく美しいお出汁にほっと癒されるわ。適度な量で穏やかに気分に寄り添ってくれた。

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 続く焼物は、京の夏お楽しみの「鮎笹焼」の登場よ。モクモクと焼いた笹の香りが部屋に充満する。この時期ならではの稚鮎がやはり良いのよね♪ 繊細でく仄かな苦みの柔らかい身を、とろりとした蓼酢でまろやかに頂く。適度な振り塩が引き立てる自然な甘みも感じられる。これに加えて、これまた京都らしい「鱧の山椒焼き」も運ばれる。
添えられた伏見唐辛子と打胡瓜の青さも爽やかに、鱧のパリパリ皮目からふんわり身質を楽しむわ。と言う訳でこれにははやり日本酒でしょ? お願いしたのは俵屋特製の「吟醸 俵屋」。京都北山で創業110年を超える「羽田酒造」の作り出す地酒よ。お馴染み俵屋オリジナルのガラス徳利(このスカイブルーは非売品)とお猪口で頂くわ。

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そうそう続く冷やし鉢のお皿、深い海の様なブルーのガラス皿も俵屋オリジナルで、これは館内ショップまたは近所の「ギャラリー遊形」で購入できるの。その下にはアンティークの銀皿も敷かれて一層涼し気よ。柚子の香りの立ち上がる。ひんやりガラス皿の中には、繊細に仄かな甘みの玉子豆腐と魚素麺。針長芋・椎茸・三度豆も添えられる。
喰い出し絡む縮れ素麺と、柚子の爽やかな香りと共にスルスルと頂いた。冷えたところで次は温物、運ばれたのはふわふわの「穴子含め煮」。あ、この器は我が家にもあるよ(笑) 添えられるはたっぷりの温野菜、しみじみとした甘みの南瓜、ホクホク赤芋に面取り美しい小芋、甘い小さな玉蜀黍にシャキシャキ水菜、そして蕩けるようにみずみずしい賀茂茄子。

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 身体も心も温かくしてくれる後半の山、気が付けば日本酒も追加してた。一息つく強肴は「太刀魚トマト酢掛け」。これはまたトマト酢のピュアな酸味が爽やか♪ 太刀魚もさっぱり美味しい。添えられたシメジ、そして歯触り気持ちよいグリーンアスパラガスもスッキリ感。お腹一杯だと思ったのに次の御飯もちゃんと頂ける気分になるわ。
とそこへ運ばれて来た土鍋、蓋が開けられると、ふんわり初夏らしい青く良い香りが立ち上がって思わず声を上げたよ。覗き込んでびっくり色鮮やかな「豆御飯」だ~♪ 子供の頃祖母が炊いてくれるそれが大好きだった。まさにその懐かしい香り・・土鍋ならではね。プチプチ弾ける甘く香り豊かなグリンピース、そのみずみずしさと相まって理想的な米の炊き具合、山椒の新芽を乗せて貰って頂く。

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主人は珍しくお代わりしてた。加えて合わせの味噌汁、漬物は水茄子と胡瓜、これも浅漬けのみずみずしさが好き。続く水物は甘い「マンゴージュレ」、これの為にとっておいた「ドゥラモット」を注いで楽しむよ。乗せられたミントが爽やか♪ 満足の夕食が終わったら、しばらくして運ばれるナイトキャップのお茶と和三盆「福俵」。残ったお酒でじんわり味わいつつ夜は更けていくのであった~(笑)
ラブラブにディナーを楽しむにはやはり個室が理想的。その意味でここ俵屋旅館での食事は「究極の個室」。最高の京料理をリラックスして頂けるのは至極幸せな事よ。さて~翌朝は、目覚めの「生乳ヨーグルト」と「コーヒー(京喫茶カフェ・リドル復刻)」を頂く。本来なら「湯豆腐(平野屋豆腐・湯波半)」や「若狭焼」など豪華和定食や、玉子料理とパンなどの洋定食もあるが、「夜並のランチ」予定がある場合は、残念ながら量的に我慢せざるを得ない。

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 帰りはいつもの様に黒川料理長やスタッフの方々にお別れの挨拶をする。恐縮な事にいつも車が見えなくなるまで皆さん手を振り見送って下さる。そうだ午後には雨も降りそうなので、フレンチランチの前に苔の参道が美しい「高桐院」にお参りに行こうか・・そう話しながら大徳寺に車を走らせるのだった。続く・・