どんたく港まつりで賑やかだった博多、やっと静かになったと思った休日。繁華街から少し離れた薬院にある、我が家お馴染みの博多寿司「すし割烹 やま中 本店」に向かう。建築家・磯崎新氏の設計による、打ちっぱなしのコンクリートにガラス張りの建物。天井が高いためかなり広いレストラン並みの空間で寿司をつまみと共に楽しめる。広いエントランスを抜け明るいダイニングに入る。
艶やかな朱塗りの壁に浮かぶ「雲型の和照明」のコントラストがいつもながら美しい。見渡せば予想に反して満席?!一時期は熊本地震の影響でキャンセルも出たようだが、この日は地元客でいっぱいだった。いつもの様に「樹齢800年の木曽檜一枚板(20人掛け)」のカウンターに案内される。今宵は端の静かな席にて頂こう、担当職人はお馴染み副島氏だ。まずはシャンパンから楽しむ。

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今宵は「ブルーノ・パイヤール N.P.U(Bruno Paillard Nec-Plus-Ultra) 1999年」。「N.P.U(ネック・プリュ・ウルトラ)」は極上という意味のブルーノ・パイヤールのプレステージ・シャンパンだ。グラン・クリュの葡萄のみ使用し瓶熟成は10年以上かける。ドサージュは1Lあたり4g。グラスに注ぐと泡はすっかり溶け込んでいる。
ふんわりミツとシェリーの調和した上品な熟成香。デゴルジュマン2012年1月なので、かなり落ち着きを見せた丸い味わい。「今までのN.P.Uのイメージよりかなり薄くない??」と妻。余韻は長いが構造はやや緩い。昨夜「アンリ・ジロー フュ・ド・シェーヌ」を飲んでいたからか、より繊細なタッチが際立つ。シャルドネ50%、ピノ・ノワール50%だが、この1本はシャルドネの印象が勝った。

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さて、いつものように「お任せ」でツマミから楽しんで行こう。スタートは「鯛の焼締」、強火の炭火で火を入れて綺麗な皮目、これには柚子を絞って。次は早々に妻お気に入りの「アラの湯引き」が出され「うれし~、シャンパンに合う♪」と機嫌も良く幸先良い(笑)炭でサッと皮を炙ってから湯引きしたものに、だいだい(紅葉おろし)と葱を乗せている。
仄かに暖かい身からは、アラの脂と旨味がほんのりと広がる。続く大分・豊後の「大トロ」は炭火の火を一瞬入れたもの。こちらは柚子ごしょうと醤油を合わせて頂く。更に「玄海産オコゼの刺身」は今朝さばいたものだ。福岡・八女の渓流・矢部川で取れた「稚鮎」は、カプリと頭からかぶりつく。「今年初の稚鮎ね~♪ そうだ、京都行こう」と妻(行こうか 笑)

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そこへいつも担当してくれる市山氏が、恒例のスマホ写真を見せに来てくれた。熊本地震の影響で一時休業していた、九州豪華列車「ななつ星in九州」のものだ。「ななつ星」最初の食として出されるのが、ここ「やま中」の博多寿司。市山氏は御主人・山中啄生氏と共に乗り込んで車内で握っている。その客車と機関車の連結時の貴重な写真で、妻は嬉しそうに見せてもらっている。
さぁこのあたりで日本酒もお願いしよう、副島氏が勧めてくれたのは佐賀・富久千代酒造の「裏鍋島」だ。「鍋島 大吟醸」が2011年インターナショナル・ワイン・チャレンジの日本酒部門にて、最優秀賞(チャンピオン・サケ)を受賞して注目を浴びた。この「裏鍋島」は、紫ラベルの文字が反転されている事による通称で、正式名には「鍋島 吟醸造り純米酒 隠し酒」だ。

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もろみを搾る際に出る「あらばしり」と「せめ」の部分を特別に瓶詰めしている。コクのある米の風味にフルーティーな甘みがキレよく広がる。そこへ筑後の「鰻の蒲焼と白焼」。適度な脂の蒲焼と、山椒を振った白焼きのコントラストが実に楽しい。添えられた「肝」も日本酒には嬉しいアテだ。更に山中の御主人がサッと、妻の好物「唐墨と餅」を横から出してくれた。
「わ~い♪」と上機嫌の妻、地元ならではの心地よさだ。次は、独特のこぼれゆく食感に続き微かな甘みを感じる「シャコ」、そして備前風の唐津焼き皿で氷と共に乗せられて登場したのは、冷え冷えの「ヤリイカのミミと雲丹」。出汁と合わせてイカソーメンのようにスルスルと頂く趣向だ。ここで追加の日本酒をお願いしよう、福井・黒龍酒造の「黒龍 大吟醸」。

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落ち着いたフルーティーな香りから、口にふくむと上品な甘みが広がり、切れのある酸味と旨味と調和した上質な余韻に連なる。つまみを十分に堪能したところで、いよいよ握りを頂こう。今宵の皿は有田焼きの中でも個性的なRIC工房の物。そこへ運ばれて来た鮪のブロック、妻は「スッゴ~イ!」と声を上げて立ち上がり身を乗り出して見ている。
目の前で副島氏が丁寧に身を切っていく。そしてそれを直ぐに握りに。まずは「大トロ」、ねっとりとした脂がシャリと混じって妻は「うっま~い♪」と楽しそう。続いて「唐津産雲丹」は、軍艦でなくシャリの上にこんもりと盛ってくれる。この時期の雲丹らしい磯の香りと旨味が口の中に溢れて美味だ。そして「アンコウの昆布締め」は美しい・・2日ほど締めたアンコウ上には、白板昆布の中心部分を乗せている。

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口に含むと軽い昆布の風味に山椒と木の芽の香りがかぶりつつ、シャリと一体となる。副島氏の握りは形にも気を配り美しく握る。更に凝った「地ダコの小豆煮」、大根を潰して出汁と共に煮込んだ蛸と言う。柔らかさとと噛みごたえ、そこに小豆が重なり絶妙に風味豊かな美味しさだ。続く「天草のコハダ」は強目の締め具合、輝いて美しい姿だ。地震から復興中の熊本からも既に魚は入り始めたそう。
軽くボイルした「車海老」も天草産。カボスを絞って甲殻類の風味を爽やかに頂く。添えられた車海老の頭は、焼いてカリカリと芳ばしく酒のアテにピッタリ。続くイカはいつも様に美しい細工で、ねっとり甘い所に胡麻の風味が上手い。有明の「アナゴ」はふっくらと、江戸前を彷彿とさせるとろける食感で。最後の巻物は、シャキシャキの広島菜とトロを巻いてトロタクのイメージで。

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そのために敷かれた唐津焼きの皿には大根の絵柄で、大根葉の緑の鮮やかさと巻物がコーディネートされて綺麗だった。職人が総出と言う忙しい日に皆色々と気遣いしてくれ、何より副島氏が試行錯誤してくれたであろう品々を沢山出してくた。地元ならではの思いやりを感じる満足度の高い一夜であった。いつ来ても楽しい「やま中 本店」、また静かな平日にでも狙って来よう。