「ルイ・ヴィトン 銀座並木通り店」で買い物をした後は、いつもの様にすぐ近くにあるフレンチ「レストラン エスキス(Restaurant ESqUISSE)」へ向かう。我が家ではすっかりお馴染みのコースだ。そう言えば先月31日に銀座5丁目に開業した「東急プラザ銀座」4階に、その「エスキス」の姉妹店「エスキス サンク(ESqUISSE CINQ)」がオープンしている。女性向けフロアで唯一のグルメショップだ。
ライブ感あるオープンキッチンなカウンター席に、テーブルに半個室もあり、レストランでしか味わえなかったアシェット・デセールが楽しめる事から既に人気。多い時には70食も出るそう。テイクアウト商品もある。

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そして「レストラン エスキス」のある「ロイヤルクリスタル銀座」の7階には、何と近々ビストロ形式の「エスキス」がオープン予定。リオネル・ベカ(Lionel Beccat)シェフの監修の元、若い人向けにバー利用も出来るカジュアルな店にするとの事。既に地下1階にはワインバー「サロン ドゥ エスキス(SALON de ESqUISSE)」があるし、
銀座和光・アネックス1階では「パン ド エスキス フォー ワコウ(Pain d’ ESQUISSE for WAKO)」としてパンの販売もしている。クリエイティブで繊細な「エスキス」ブランドは、今や「最先端な銀座フレンチ」を象徴する存在と言えるだろう。と言う訳で、ロイヤルクリスタル銀座の9階へ到着、エレベーター扉が空くと木の温もりに包まれたエントランスが広がる。

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今やトレンドと言える北欧風だが、その走りが「エスキス」の空間と言えるかもしれない。あまりにカジュアル・質素にすぎると我が家がレストランに求める空間とずれてしまうのだが、「エスキス」はそのバランスが絶妙だ。奥に広がるダイニングは都会的で柔らかな空間。世界を見据えたエコ時代の環境建築的にも見える。
寄木張りフローリング、天井梁の添木、木製チェスト、設備を覆う木枠、漆喰の壁・・ナチェラルさが近代建築の中に温かみをもって融合する。ふっくら大きめの椅子、合わせた重厚な大型間仕切り、見渡せば今日もヨーロッパからの客がちらほら見える。今宵も支配人の若林英司シェフソムリエが笑顔で出迎えくれ、いつものダイニング窓側角、銀座晴海通りが良く見えるテーブル席へ案内してくれる。

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テーブルにはリオネルシェフのアートメッセージが置かれ、揺れるキャンドルの横にはシンボル「立体リンゴ」も輝く。まずはシャンパーニュで乾杯、ここ「エスキス」ではコースにグラス・シャンパーニュが付いているので、迷わずさっと喉を潤すことができて嬉しい。この日は「テタンジェ ブリュット・レゼルヴ(Taittinger Brut Reserve NV)」、爽やかな柑橘の香りとミネラル感から来る軽やかな飲み口が、蒸し暑い夜に合った。
そこへグラスに入った美しいアミューズが運ばれてくる。グリンピースのムースに、アボガドのムースやフローズンのサワークリームを合わせた、爽やかでいて「エスキス」らしい重層的な一品だ。底にはシャルトリューズ、ハーブのリキュールを使ったゼリーも潜んでいる。「テタンジェ」ともピッタリとくる・・いつもながらこのスタートから隙がない。さて前菜一品目、「ホワイトアスパラガス」がデザートの様な仕立てでやってきた。

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南イタリアのフレッシュチーズであるブラータを、ホワイトアスパラガスの表面にソースのようにかけ、マッシュルームやカリフラワーを細かく削いで菊の花と共に振っている。周りには春らしく軽やに、白い柚子のパウダーも添えて香りを立たせた。かなり食感を残した「ホワイトアスパラガス」を噛みしめると、パッションフルーツやキノコの風味が複雑に、そして仄かに漂う。
ホワイトアスパラガスが柔らかいと緩い印象になりかねないところを、固めの食感できっちりと引き締めていた。そこに若林ソムリエがサッと、ドイツ「ヴァイングート・ファン・フォルクセン シャルツホフベルガー・リースリング・アウスレーゼ(Weingut Van Volxem Scharzhofberger Riesling Auslese)」を合わせてくれる。

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イエズス会修道院の醸造施設だった「ファン・フォルクセン醸造所」。プロイセン王国時代(1865年)の格付けで「グラン・クリュ/グローセ・ラーゲVDP」を獲得している。このプレートには厚みのあるシャルドネよりもこれ位軽い方が合うと思います」との事。青リンゴ・ライラック・白い花の花びら・・仄かな甘さと酸味が飲み疲れない。
癒されるマリアージュに、妻は「さすが今夜も若林マジックだわ~♪」と早くも満足な様子だ(笑) そこにお馴染みのパンが運ばれる。「パン ド エスキス」「エスキス サンク」でも活躍中のブーランジェ・成田一世氏による、素材と食感にこだわった「食事に合うエアリーなパン」だ。「E」を模ったゲランド塩やフワッとしたバターも安定の美味しさ。バターナイフは京都の竹で作られた物。

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次のプレートは、ミルガイ・ツブ貝・赤貝など「貝類のソテー」を、ブロッコリーのピューレでまとめた一皿。上にラビオリで蓋をしていて食べ応えもある。なめらかなピューレにも感じる、野菜の風味も爽やかでバランスが際立つ。ナスタチウムなどハーブや生のスナップえんどうの青さに「リースリング」がピタリと寄り添う。
続く赤ワインはいつものように、若林ソムリエのお薦めをボトルで頂こう。今宵は「アラン・ユドロ・ノエラ ロマネ・サン・ヴィヴァン グラン・クリュ(Alain Hudelot Noellat Romanee Saint Vivant Grand Cru) 2001年」。ウージョに1964年設立のドメーヌだが、「シャルル・ノエラ」を受け継いだ関係で「ルロワ」と隣接するなど、ヴォーヌ・ロマネに素晴らしいクリマをいくつも持っている。

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 若い時は今ひとつだか熟成すると本領を発揮する。特に2008年にシャルル・ヴァン・カネットに代替わりする前、祖父の時代の方が緻密なタンニンと構造と言う(完全除梗)。「2001年」のブルゴーニュ赤はなかなかのヴィンテージ、その意味でも熟成具合が楽しみだ。なるほど花畑、可憐な奥にスパイス・薔薇のドライフラワー・・暖かさ・湿気を感じる熟成香が華やかに香る。
余韻はどこまでも長い。エレガントさと力強さを兼ね備えた飲み口に、思わず目を合わせる。「こういうワインがお似合いですよ」と言う若林ソムリエの言葉に、妻は「ありがとうございます!正に殺し文句だわ♪」とご機嫌だ(笑) ちなみにワインホルダーは、小野里奈氏デザインの「KAGO-ハニカム」、これは我が家も真似をして使っている。

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続いての前菜は「アンディーブ」、まさに花びらが開いたかの様な盛り付けで登場する。ホウレンソウのソース、さらにジュ・ド・トリュフのエマルションの上に立つアンディーブ。中にはフキノトウのピューレや黒トリュフを詰めている。アンディーブの甘み・酸味を感じる苦味と、フキノトウの春の大地を思わせる苦味が呼応し合い、更に黒トリュフの妖艶な香りと融合して一つの味わいを構成する。
何とも複雑ながら完成度の高い一品。「フキノトウとピノ・ノワールは抜群に合うんです」と若林ソムリエ。何でも3ツ星の日本料理「かんだ」で神田裕行氏と話していて、フキノトウと桜海老にピノが抜群に合う事を知ったとの事。それをリオネルシェフに伝え、試行錯誤して作り上げた一皿なのだ。なるほど「ロマネ・サン・ヴィヴァン」が抜群に合う。

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ワインフェアなどイベントを除き、普通は先に料理人が目指す料理が完成し、それから合わせるワインを探るのが通例だろう。逆にワインに合う食材の組み合わせから料理を作り上げると言う、「エスキス」ならではの手法が見事に生きた作品であった。今宵の魚料理は「ノドグロ」。トマトとウイキョウと魚の出汁を煮詰めたソースで頂く。周りにはトマトとフェンネル、余韻には微かな酸味が流れて克明に印象に残る。
更にアニスの香りを纏ったジャガイモ、ウイキョウとパプリカ、アプリコットと空豆も配置され、最後まで食べ飽きない一皿だ。一番最初にプレートに引く「ベルガモットのピューレ」が、食べ進めるうちにトマトの酸味と相まって、微かに香りを立ち上げる(妻はかなり気に入っていた)。色々な味と風味を使っているのだが、食べ進めるうちに一つの大きな味わいと印象を残す。

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 更に続いて、赤茶色のプレートに美しく鎮座した「車海老」が登場した。ブドウの葉に包んでマリネした大きな車海老を、殻付きのままグリルした後に殻を外した。ラディッシュの下には細かく刻んだウイキョウを潜ませ、横にはヤマブドウのソースも添えている。カリカリに揚げた海老の頭には、スパイシーなパウダーを振って。
口に運んだ後に立体的に浮かび上がる香りが好もしく、またピノ・ノワールとも見事に合う。「刺身にはシャンパンや白になりますが、『江戸前握り』のうち、マグロ・雲丹・海老などにはピノは抜群に合いますよ」と若林ソムリエ。鮨に合わせるワイン談義で楽しく盛り上がれる一皿だ。さて今宵のメインは「フランス産小鳩のロティ」。

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運ばれてくると、シナモンのような甘い香りがテーブルに漂い食欲をそそる。ロングペッパーの香りだ。プレートにはマルサラ酒でマリネしてからポシェした「ラカン産小鳩」が、美しい赤の断面を見せる。かなり赤く見えるがじっくりとポシェしており、しなやかに、そして十分に熱が入っている。ナッツオイルでマリネしたウルイや、味噌でマリネしたノビル。
付け合せにも繊細な手が加えられ食べ飽きない美味しさ。鳩のレバーも添えて、カリカリに仕上げた小鳩頭は手にとってかぶりつく。小鳩の中でも繊細なラカン産ピジョンの上品な鉄分を感じる肉質や纏わせたスパイス香が、刻々と変化し開く「ロマネ・サン・ヴィヴァン」にぴったりと合った。リオネルシェフの肉料理と言うと「仔鳩」のイメージがあるが、一度として同じプレートはなくいつも驚きや発見がある。

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優しく上品ながら食べ応えある鳩に「何とも完璧な美味しさね!」と妻も感嘆の声であった。続く「チーズ」は、お馴染みのスペシャリテと言える「3層のチーズ」。3種(ブリー・ド・モー/マスカルポーネ/グリエール)の間に、昆布と刻んだ黒トリュフが練りこまれている。表面には「日本酒を使ったソース」を塗ったネットリした食感から、複雑に重ねた旨味と風味が湧き上がる。
いつもながらとても美味な一口だ。プレデセールはお得意のシャーレで、切り株に乗って出て来た。甘く爽やかに香る「パッションフルーツのクリーム」の下にはグアバのピューレを潜ませている。上にはザクロのジュレ。コースの締めに向かい、夏らしい目の覚めるような味わいを楽しんだ。デセールを待つ間、若林ソムリエがサッと食後酒を出してくれた。

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厚みあるも爽やかナチュラルな飲み口の「シェ・デュ・ヴュー・ブール ル・ミクマクヴァン マクヴァン・デュ・ジュラ(Le mic-mac-vin Macvin du Jura Les Chais du Vieux Bourg) 2010年」。ジュラ地方のブランデーを割ってアルコール度数を弱めたもの。香りはブランデーだが、梅酒黒蜜の様な甘さの食後酒だ。そこへメインのデセール「チョコレートのスフレ」が運ばれる。
目の前でチョコレートのソースを真ん中に注いで完成だ。スフレの中にはバナナのピューレが潜んでいる。周りには、ラム酒で炊いた粟・麦・黒豆などの雑穀、ミルクのアイスクリームが添えられる。色鮮やかな「カボチャのピューレ」やラム酒のゼリーも味わいの変化。和の素材を使いつつラムで炊いて、チョコレートと添える事でフレンチのデザートとしての存在感を発揮してくれた。

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なるほどここで黒蜜の様な食後酒が更に生きてくる・・さすが抜かりないチョイスと言ったところだった。お腹一杯に満足したことから、最後の小菓子(カヌレ/マドレーヌ/パート・ド・フリュイなど)はお土産にして貰う。いつもながら食べ手の味覚が覚醒されて行く様な、時代を先取りした創造力と確実な技術・味覚。リオネルシェフの発想とセンスが生み出すメニューの数々に、いつもながら感心させられる。
加えて若林ソムリエ(支配人)のマネージメント力や、ワインの完璧なチョイスと的確なコメント・・それら全てが融合したハイレベルの美食の世界を存分に楽しめる。際立つ総合力の高さがここ「エスキス」の本領だなと改めて実感するディナーであった。

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