黒田官兵衛(如水)の息子・黒田長政が1600年代に築城した「福岡城」。当時は隣の大濠公園まで達するほどの巨城だった。明治35年に床下にあった火薬が爆発して消失。今では城壁等の一部が残されるだけ。その福岡城跡「舞鶴公園」「鴻臚館跡」は福岡市の中心部ながら、緑豊かな市民の憩いの場になっている。
枝垂れ桜・八重桜・染井吉野・山桜など約千本が咲き誇る3月末から4月頭には、毎年「福岡城さくらまつり」が開催され大賑わい。夜はライトアップされて石垣に桜が浮かぶ景色は幻想的だ。今年は桜満開がまだ続いている為、ライトアップは期間が延長され明日まで行われる。そんな桜の期間中に伺う事の多いのが福岡城・下ノ橋御門にほど近い「アンティカ・オステリア・トト(Antica Osteria Toto)」、今年も花見がてら訪れた。

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シチリアで修行した本田剛シェフの料理を、カジュアルに楽しめる人気のイタリアンだ。店の前をずっと上がっていくと「西公園」で、1400本の桜を誇る福岡県唯一の「さくら名所100選の地」がある。この日は入り口付近のテーブルを広めに使わせて頂く。まずは乾杯、いつものスプマンテ「コンタディ・カスタルディ フランチャコルタ(Contadi Castaldi Franciacorta)」のデミボトルを開ける。ベスト・ボトルデザイン賞を受賞したモダンな黒ラベルだ。グラスに注がれると緑がかった薄いゴールドに、細かな泡が穏やかに立ち上る。蜜の風味が良い塩梅に滲み出てなかなか飲み頃。微かな苦味も心地良く爽やか。悦子マダムと歓談しながらメニューに目を通す。いつものように「前菜の盛り合わせ」からお願いしよう。

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そうではあるが、その前にシックな黒皿で「コウイカと春野菜の煮込み インツィミーノ」が運ばれた。甲イカと春を感じるグリンピースを煮込んだインツィミーノには、グリーンアスパラガスや肉厚のアワビも潜み、春の香り豊かでボリュームがある。つぼみ菜は、生のスライスとフリットをそれぞれ乗せている。敷かれた白ポレンタ、これがまた良い。柔らかく面白い風味が立ち上る。
本田シェフらしい外さない美味しさに、妻が「一皿目で既に満足しちゃった~♪」と嬉しそうだ。続いて白プレートに様々な前菜が乗って登場した。目に着いたのは、今日出来たばかりだと言う「コテキーノ」。鴨肉と豚肉のミミを合わせたソーセージだ。シェフのオリジナルは季節のビーツを入れてるところ。表面のパリパリの食感も楽しい。定番のレンズ豆にムラサキキャベツも添えている。

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「佐賀産ホワイトアスパラガス」には、マルケのトリュフにダイダイの果汁を使ったサバイヨーネソース。上には白菜の花も飾った。定番の「地蛸のマリネ」。更に「天然鯛のマリネ」には、玉ねぎのソースを淡く合わせて。ふわふわな水牛のモッツアレラに生ハム、糸島「持田農園」のトマトを合わせた「夢のカプレーゼ」、黄金律で素材の美味しさを楽しむ。
「あれ~?もうお腹一杯なんだけど 笑」と妻はかなり満足そう。ここで赤ワインもボトルでお願いしよう。いつものようにマダムお勧め数本の中から、「モッカガッタ バルバレスコ・コーレ(Moccagatta Barbaresco Cole) 2008年」をチョイスする。カンティーナに1952年創立の「モッカガッタ」。所有畑は12ha、1年間の樽熟成で年間4500本程度を作り出す。ネッビオーロ100%。

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ガンベロ・ロッソでもトレ・ビキエーリ(3グラス)の評価を得ている。この「コーレ(コッレ)」は0.46.haで年産1000本。マダムが「少し前に開けましたがとても柔らかくて・・」と言う通り、ふんわり柔らかなバルバレスコだ。控えめながら、なめし革・ドライフラワー・湿気た黒胡椒が品良く香る・・この後出てくる「猪」には、赤身肉やコーヒーのニュアンスが、程よい調和を見せてくれた。
と言う訳で続くは「アンティカ・オステリア・トト」お楽しみの一つ、多種のパスタから選んだ「いのししのラグーソース トスカーナ風ドルチェフォルテ」だ。糸島の桜井で獲れた取れた今季最後のジビエ。たっぷりの赤ワインで骨付きで煮込んだそれは、ココアパウダーやフェンネルシードが効いている。まろやかでいて噛みしめると、赤ワインがパッ広がるように凝縮した力強さは食べ応えがある。

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余韻に残るいかにもジビエらしい風味が、手打ちパッパルデッレの幅広でスルリとした食感と実に良く合う。パスタ好きの妻は「これ大好き♪来て良かった」と上機嫌。濃厚ながら穏やかで尖ってない、バランス良くきっちりと着地した美味しさだった。この猪肉が十分にメインっぽい迫力だったが、次がメインの肉の登場となる。
この日本田シェフ一押しという「イタリア産馬肉のランプステーキ」が、ワイルドな出で立ちで運ばれた。ベネト州ヴェローナ産の馬肉のランプ肉の特に柔らかい部分を使用した薄切りのステーキ。上には削られたトリュフ、そして旬のラディッキオ(生とグリル)がたっぷりとプレートを覆っている。このイタリア野菜はお馴染み福岡在住のイタリア人シルビオが作ったもの。生と火入れによる苦味の差も心地よい変化になる。

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底にはアーティチョークとオレンジの皮も敷かれている。表面にキノコを塗った馬肉は、時間をかけて噛みしめるうちに独特の香りであふれる。どれも迫力満点、食べ応えあって間違いなく満腹なのだが、ドルチェが食べたくなるのもここ「アンティカ・オステリア・トト」の特徴だ。それには当然食後酒グラッパは欠かせない。選んだのは「チョコレートとエスプレッソヌガーのテリーヌ」。
添えられているのは、爽やかに甘い愛媛の「ブラッドオレンジ」と、珍しい「ホワイトアスパラガスとグリーンアスパラガスのジェラート」だ。素朴で食べ応えあるイタリアらしいデザート、気付けばあっという間に完食している。これに合わせたグラッパは、定番の「シボーナ グラッパ・ディ・バローロ(Sibona La Grappa di Barolo)」。数百年の歴史をj誇るイタリア最古の蒸留所が、バローロ用のネッビオーロから作り出すグラッパ。

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樽が効いているが、甘くまろやかで上品な味わい。満足の気持ちでディナーを締めた。いつもながら、シチリアでの修行歴が生きた本田シェフの勢いのある味わい。前回もそうだったが、最近は落ち着いて上品な安定した大人の美味しさも感じる。マダム曰く「最近シェフはテニスが楽しいようです」と仕事もプライベートも充実している様だ。
春には夫婦二人でテニス観戦を含めたヨーロッパ旅行に行くと言う。妻は「まぁそれは素敵ね~♪」と一緒に喜んでいた(笑) そんな仲睦まじい本田夫妻に見送られながら、まだまだ忙しい店を後にする。いつもならすぐ車に乗り込むところだが、この夜はライトアップされた福岡城の桜を観るために少し歩いた。そして今日も見渡せば桜はまだ楽しめそうだ、今夜はロゼでも開けようか。

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